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株式会社見谷組

見谷組の提案が国土交通省のBIMを活用したモデル事業として採択される

福井県福井市に本社を置く株式会社見谷組は、大正12年(1923年)にこの地で創業以来、99年にわたり実績を積み重ねてきた総合建設会社である。教育文化施設から各種公共施設、医療施設、集合住宅等々幅広い建築物を手がけ、その高い施工技術と顧客から寄せられる厚い信頼は、傑出したリピート率の高さからも伺うことができる。創立100周年を目前に控え、「オンリーワンの企業」宣言を行った同社は、いま新たに全社的なイノベーションの取り組みを開始した。見谷組のBIM導入と展開の経緯については、STYLE LAB(建築事例サイト スタイル・ラボ)上の「現場の発想で活かす施工BIMの推進により地域の建築業界へのBIM普及を牽引していく」において詳しく報告しているので、本稿では、モデル事業(中小事業者BIM試行型)に採択された経緯や背景についてお話しを伺った。

 

国土交通省では、令和3年度BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業(中小事業者BIM試行型)において、学識経験者等による評価を踏まえた審査の結果、9件の提案を採択した。見谷組の提案も採択され、同省のホームページ上で広く公開されている。このモデル事業は、国土交通省傘下の建築BIM推進会議で策定された「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第1版)」に準じて、設計・施工等のプロセスを横断してBIMを活用する建築プロジェクトにおけるBIM導入の効果検証や課題分析等を試行的に行う取組について、優れた提案を行った者に対し、国が当該検証等に要する費用を補助するものである。

◇参考:国土交通省の令和3年度BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業 公式ホームページ
https://r04.bim-jigyou.jp/r03/

国土交通省 令和3年度 BIMモデル事業 中小事業者BIM試行型提案概要

施工図自動作成・施工数量算出及びBIMモデルとICT建機との連携などを検証・報告

見谷組では、モデル事業(中小事業者BIM試行型)の提案においては、仮想プロジェクトでの基礎工事に限定したBIM活用で、目に見える効果や実感を伴う実利のある活用方法を模索、検証する内容とした。仮想プロジェクトの概要は、新築の事務所建築として想定し、地上4階、延床面積約1,000平米、構造種別はS造とした。

検証、課題分析の手法としては、仮想プロジェクトにおいて施工関係者が1つのBIMモデルからパソコンの自動処理による変換または切り出した情報を利用して作業の連携を図るものとしている。具体的には、BIMモデルからの施工図自動作成・施工数量算出及びBIMモデルとICT建機・AR端末機器の連携などである。

検証の体制は、見谷組がBIMモデル作成、施工図自動生成、数量自動集計、互換形式への変換などを行い、共同応募者で連携相手である轟建設側がICT建機調達、建機へのBIMデータ入力、ICT建機の操作、従来手法との比較・評価などを行った。検証に際しては、BIMベンダーとして福井コンピュータアーキテクト、建設建機メーカーとしてコマツサービスエースが支援、協力を行っている。

BIMの活用効果と改善方策に対する検証では、施工図などの作成業務時間の短縮効果に始まり、ICT建機との連動プロセス、BIMの可視化を利用した検討会での意思疎通や問題点の発見などによるリスク回避からAR端末機器を用いて現場にBIMモデルを投影する効果、互換性を持つ形式でのデータ受け渡しの精度に至るまで多岐に渡っている。

設計段階の基礎BIMモデルから施工段階の掘削BIMモデルを生成+ICT建機へ伝達

BIMデータとICT建機との連携の実際についてみてみよう。仮想プロジェクトの建物概要に準じてBIM建築設計システム「GLOOBE Architect」を用いて設計段階でのBIMモデルを構築し、基礎BIMモデルを生成する。この段階では、基礎BIMモデルは「GLOOBE Architect」固有のファイル形式であるGLMファイルとして保存されている。次に「GLOOBE Architect」における基礎BIMモデルは、施工BIM段階でのBIM施工支援システム「GLOOBE Construction」へと受け渡され、掘削BIMモデルとして成立する。ここで用いられるファイル形式は、GLCM形式となっている。最終的に「GLOOBE Construction」上の掘削BIMモデルは、※Land XML形式のデータとしてICT建機への入力データへと変換され、ICT建機へと送信され、稼働状態となる。

従来の建機とICT建機での掘削作業の実現場での比較、検討が実現している。従来の建機の運用では、詳細な図面などを用いて正確な掘削の位置出しが必要となり、現場要員が測量機器を用いて掘削位置と深さを指定する。そのため人手も要するなど作業手間が発生すると共に、現場要員と建機の接近リスクなども発生する。それに対して、ICT建機では、「GLOOBE Construction」が生成した掘削BIMモデルを基にICT建機が自動的に掘削位置と深さを認識するため、現場要員も配置せず、監視員のみでの現場運用が可能となる。

※Land XML形式:⼟⽊分野における設計・測量データのオープンなデータ標準を⽬指したXMLフォーマット。LandXML.orgにより策定され、国内外で多数のCADやソフトウェアに対応したデータ形式となっている。

ICT施工へのデータ連携

実用には十分に耐えうるものであるとの結論を得たICT建機による掘削作業

従来の掘削とICT建機による掘削の両方を同じ条件下で実践した結果をそれぞれ掘削完了後に実測確認している。それによると、更なる掘削精度の改善余地はあるものの、実用には十分に耐えうるものであるとの結論を得ている。

合わせて、今回の検証において、設計から施工段階へとシームレスなBIM援用を可能とするBIM建築設計システム「GLOOBE Architect」とBIM施工支援システム「GLOOBE Construction」の優位性が明らかとなった。当初、BIM建築設計システムとして登場した「GLOOBE」は、建設業にとって最も重要な生産拠点である施工現場のデジタル化を実現するべく、施工BIMを司るBIM施工支援システム「GLOOBE Construction」との連動を実現した。それによって設計BIMで構築した対象建物の躯体モデルから土工事における掘削モデルを連続的に生成することが可能となっただけでなく、施工BIMの援用範囲を仮設・足場モデルの構築、クレーンの駆動確認、4Dによる工程管理にまで拡張することが可能となっている。

BIM施工支援システム「GLOOBE Construction」とICT建機との連携に見られるように、施工現場でのデジタル運用も急速に進展している。それらの動きと軌を一にするように、建機メーカーの側でも施工BIMとの連携を強化している。今回の検証においては、施工BIMから展開された掘削BIMモデルを用いて人力でICT建機を運転しているが、近い将来、遠隔操作での無人操縦も日常的に行われるだろう。少子高齢化による労働人口の減少によって建設業でもベテラン技術者の技能をいかにして継承するかが課題となっている。多くの人力に頼らざるを得なかった施工現場の労働環境の改善は、4K労働の代表ともいわれていた建設業のイメージを刷新するだろう。建機メーカー側では、次なる課題として建機におけるEV化も視野に入れている。建設業においても施工現場での脱炭素化によるSDGsが次なる目標となるに違いない。今回のモデル事業(中小事業者BIM試行型)への採択を契機として、見谷組は建設業の次なるDX戦略へと舵を切った。

BIMベンターからの推薦と経営の後押しを受けてモデル事業への提案に再挑戦

BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業(中小事業者BIM試行型)へ応募した背景には、いくつかの要因があった。ひとつには、BIMに象徴される建設業のデジタル化を推進するべく掲げた目標の「MILKEN BIM2030」の更なる徹底と再確認であった。BIMソフト「GLOOBE」を導入し、運用を開始したのは約7年前に遡る。施工現場でのICT建機の活躍など、BIMを取り巻く環境が激変する中で、2030年を見据えて掲げた目標の「MILKEN BIM2030」を強化し、BIM援用を加速化するための応募でもあった。

応募資格として、中小事業者BIM試行型と明記されていたことに加えて、BIMベンダーである福井コンピュータアーキテクトの担当者から応募を薦められたのも大きな要因となっている。実際には、3年前にも、当該モデル事業に応募していたが、その際には、採択されず、再チャレンジとなっている。轟建設の協力も応募実現に大きく貢献している。主に土木工事の分野で協力関係にある轟建設は、以前からICT建機の導入と運用に精通していた。社内のBIM担当者とBIMベンターそして協力会社による総力戦で応募が実現した。

BIM導入の当初からのデジタル化に向けた経営陣の後押しも応募への動機となっている。ドローンを飛ばし、BIMモデルを用いてAR(拡張現実)技術で施主にプレゼンテーションするなど、以前であれば、想定できなかったような活躍でBIMチームが成果上げている。できることは徹底的にやってみる。経営陣共々、チャレンジの気概に溢れている。

見谷組が応募し、提案が採択された中小事業者BIM試行型と共に、BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業では、先導事業者型、パートナー事業者型が俎上にあげられている。そこで採択された企業・組織名には、大手ゼネコンや組織設計事務所などが多く挙げられている。それらの企業・組織と伍して見谷組が公的に列記されているインパクトは、自社内に留まらず、広く地域社会へも波及していくに違いない。

ICT掘削出来形実測

施工図等の作成業務時間の短縮効果を証明すると共に見えてきたICT建機の可能性

検証対象の中から、施工図等の作成業務時間の短縮効果について報告する。施工図作成の前段階においては、BIM建築設計システム「GLOOBE Architect」を用いて基礎BIMモデルを生成し、続いてBIM施工支援システム「GLOOBE Construction」へと受け渡された基礎BIMモデルから掘削BIMモデルを生成するが、そこではエビデンスに基づき、成果が数値化されている。具体的には、杭+基礎+地中梁+1階立ち上がり+1階土間からなる基礎BIMモデルの生成には、99分、掘削BIMモデルの生成には、8分の所有時間であった。

続いて、上記所有時間と杭+基礎+掘削施工図作成時間及び掘削+埋戻し+基礎コンクリート数量算出時間を綜合し、[BIM作成+自動処理の合計時間]と[従来のCAD作図+手拾いの合計時間]として比較している。結果は明瞭であった。[従来のCAD作図+手拾いの合計時間]が530分であったのに、[BIM作成+自動処理の合計時間]は、305分となり、BIM援用による施工図等の作成業務時間の短縮効果を証明している。

ICT建機による施工に対する検証結果も詳細に提示されている。今回がICT建機を用いた初めての基礎掘削作業であったため、従来の掘削よりも掘削時間が12.7%増加するなど課題も明らかとなったが、他方、作業性の改善と掘削ノウハウの習得によって掘削時間が短縮に転じる見込みは十分にあるとの認識も共有している。発生土量においては、ICT建機の場合、余分な掘削作業に対して制限がかかるため、発生土量の抑制に繋がったとしている。ICT建機での掘削による発生土量は24.8%減少し、従来の掘削方法で 11.2%増加する結果となっている。

ICT建機による掘削作業において最も衝撃を受けたのは、BIMによる基礎BIMモデルから生成された掘削BIMモデルがシームレスにICT建機へと伝達できたことであり、運転者による半自動掘削とはいえ、従来のように、測量に基づく精緻な図面がなくとも、掘削作業が可能となったことである。従来作業との比較のため、施工図等の作成業務時間の短縮効果を検証したが、将来的には、ICT建機の徹底活用によって図面不要の現場作業が実現するし、その際には、施工図等の作成業務時間の測定自体が意味をなさなくなる。近未来の建設業のあるべき姿が垣間見られた瞬間であった。

ICT機能の応用

今後のBIM連携チャレンジマップ

 

取材記者/建築ジャーナリスト 樋口 一希 氏
2023年1月

見谷 純次株式会社見谷組
取締役営業部長

橋本 哲株式会社見谷組
建築部工事課副課長

株式会社見谷組

■代表者/代表取締役 見谷貞次
■本社所在地/福井県福井市
■創業/1923年7月 設立/1966年4月
■事業内容/総合建設業、設計及び施工、建築工事業、土木工事業、とび・土工・コンクリート工事業
■関連企業/ルックバレーホールディングス、株式会社エムアール福井、マツケン工業株式会社、(株)見谷組一級建築士事務所
■type/建設会社
■BIM starting/2014年

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