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神﨑建築設計事務所

設計者の仕事は「仮想の建物」を作ることだからーBIMを唯一の「パートナー」に設計事務所を開設

高知県土佐市の神﨑建築設計事務所は、建築家 神﨑健史氏が主宰する一級建築士事務所である。
創立から2年数カ月の新しい事務所だが、代表の神﨑氏は、東京のゼネコン設計部からアトリエ系設計事務所、大手工務店などでの勤務を経て、意匠設計者として多彩かつ豊富な経験を蓄積。満を持して2018年に独立を果たしたのである。現在は土佐市を中心とする高知全域をフィールドに、工場施設から住宅、オフィス、商業施設など多種多様な建築設計を手がけている。まさに熟練の建築家である神﨑氏が、事務所設立にあたり、その唯一の「パートナー」として選んだのがGLOOBEによるBIMだった。独自のスタンスでBIMを駆使する神﨑氏に、その取り組みについて語っていただいた。

サラリーマン時代に遭遇したBIM

 「私が学校を出た頃は、まだパソコンもワープロもなくて、ドラフターが現役の時代でした。卒業後はまずゼネコンの設計部に勤めてCADに触れ、さらに3Dソフトによる支援も経験するなど、建築界のCADや3D黎明期から、さまざまなデジタルツールに触れていました」。神﨑建築設計事務所の代表 神﨑健史氏はそう語る。ゼネコンからアトリエ系設計事務所、大手工務店と勤務先を変えながら、神﨑氏はさまざまなCADソフトを駆使。業務そのものについても意匠設計はもちろん、大型開発プロジェクトの企画提案から細かな積算まで豊富な実務経験を積んできた。そんな神﨑氏が初めて「BIM」という言葉を耳にしたのは、2009年のことだった。
 「いわゆるBIM元年の頃です。実はそれ以前から、私は建築設計の世界に3Dの普及を目指そう、という建築仲間の活動に参加していました。もっとも、この当時、私自身は仕事で2D CADをメインに使っており、3Dに触れる機会はほとんどありませんでしたが(笑)」。ともあれ、そうした活動を通じて、徐々に3Dが広がっていく流れを体感していたのだと言う。そして、前述の通り2009年頃、その流れの中に出現したBIMという新しいトレンドの存在を知り、すぐにその重要性を理解。強い興味を持って、その動向をウォッチングするようになったのである。
 「活動のリーダー的存在だった方からは、たびたび“もうBIMを導入したら?”と勧められていましたが、設計者といっても当時は工務店に勤めるサラリーマン。会社で導入してもらうのは正直、難しいと思っていました」。BIMの重要さは理解しているが、職場で使うためには稟議を上げて「上」を説得し、購入してもらわなければならない。仮に運よく稟議が通っても職場でどう使うのか見えず、かといって個人の趣味で導入するにはあまりにも高額過ぎた。この状況が変わったのは、神﨑氏自身が独立&事務所創設へと動き始めた時のことだった。
 「もちろん、高額であることに変わりはないし、資金に余裕ができたわけでもありません。でも、私は独立するならパートナーが居た方が良いと思ったんです」。たとえば一人……と神﨑氏は続ける。優秀な若い人を雇って教えながら仕事を進め、自分が打ち合わせ等で留守の時はどんどん作業を進めてもらう。そうやってサポートしてもらうことで仕事もスムーズに回る、と神﨑氏は考えた。「しかし、いきなり人を雇うのはいろいろな意味で困難です。では、パートナーをどうすればよいのか?行き着いた答がBIMというパートナーだったのです」。

マンション計画

パートナーとしてのBIM

 「BIMを使ってまず何をするか?」と言えば、たとえばパースやウォークスルー、動画を作り、コミュニケーションツールとして活用するとか、設計作業のプラットフォームにするため、あるいは将来のFMへの展開を目指す将来を睨んで……といった答が多いようだ。つまり、多くの回答者にとってBIMはツールであり、とりあえずそれぞれの必要に応じて便利に使えば良い、ということだろう。神﨑氏の「BIM=パートナー」の発想はある意味対照的だが、その背景には同氏の設計者としての独自のスタンスがある。
 「設計者としての私の仕事は何だろう? と自らに問うと、答えは“仮想の建物を作っていく”ことだと思うのです」。つまり、設計者は施主の要望に応えて頭の中で仮想の建物を作り、これをたとえば図面という形で出力して施工者に渡し、現実に建物として建ててもらうというわけだ。
そして、BIMというのは、設計者の頭の中ではなく、コンピュータ内で仮想の建物を建てることを可能にした仕組みなのだと言う。 「BIMがあれば、そこへイメージを伝えスペックを伝えていけば、BIMがそれを3Dモデルに作りあげてくれます。そして、そのモデルを都度ブラッシュアップしていくことで最終的に建物ができ上がるわけです」。さらにそうやって完成したモデル=仮想の建物から、設計者は必要な図面や書類をストレスなく取り出せる。それはまさに優秀で従順なパートナーにほかならない。

 「単なる作図ツールならCADで十分ですが、優れたパートナーとして設計業務そのものをサポートしてもらうならBIMでなければなりません。それこそCADがBIMへ進化した一番のメリットなのです」。そう考えた神﨑氏は、事務所創設にあたりまずBIMソフトの選定を開始した。
 「事務所開設を決めた頃、タイミングよくあるイベントを紹介されて参加しました。これはCADベンダーの合同イベントで、各社のBIMソフトのデモが行われるものでした。すでにBIMソフトの導入は決めていたので選定の参考にしようと思ったのです」。会場では代表的なBIMソフト4製品のデモンストレーションが行われ、その全てをチェックした神﨑氏は、迷うまでもなくGLOOBEの導入を決めたと言う。
 「設計者仲間から“世界標準はあれ”とか“シェアはこっちの方が”とかいろいろ言われましたが、GLOOBEに即決でした」。設計実務でJw_cadを使っていた神﨑氏は、この2D CADと親和性の高いGLOOBEに注目した。そして、メニュー等が日本語表記の国産BIMである点も、新規導入時のストレスを軽減してくれる、と考えたのである。「パートナーとして仕事をしていく以上、“一緒にやっていけるかどうか”が一番重要です。そこで、分かりやすさと入りやすさに優れたGLOOBEを選択したわけです」。そして、この神﨑氏の選択は正解だった。

工場架構計画

スケッチ感覚のGLOOBE操作

 「実際にGLOOBEを使い始めてみると、確かにとても入りやすいソフトだったんですよ……」と、神﨑氏は当時を思い出してくれた。その頃、GLOOBEは“粗から密へ”というキャッチフレーズを使っていた。つまり、最初は簡単な情報だけ入力すればよく、そこから無理なく徐々にBIMモデルの密度を高めていける──と訴求していたのである。「そのキャッチフレーズが、本当にその通りだったんです」と神﨑氏は笑う。
 「通り芯から壁……それも本当に輪郭線みたいな形だけ入れて、そこへ必要な情報を次々与えていけば、自ずと建物になっていくのです。“これはスケッチと同じ感覚だ!”と感じるようになったら、もうまったく違和感なく取り組めるようになりました」。実際、以前はゾーニング図を手元で描いて進めていたのが、GLOOBEではスペースをさまざまな立体の形で配置しながらゾーニングを進めていくのだ、と神﨑氏は語る。「こうやってGLOOBEで作り込んでいく過程の感覚は、2Dで設計作業していた時の自分の思考パターンとさほど大きく変わらず、すんなりと入っていけましたね」。もちろん、2D CADに比べるとアイコンの数がとても多く、使いたいものの場所を覚えるのに時間がかかったが、それさえ覚えてしまえば、後は問題なくストレスなく作業できるようになった。

GLOOBEでモデルを作り込んでいく過程の感覚は2D設計の時の思考パターンとそれほど変わらない(神﨑氏)

 「操作習得のための勉強については、福井コンピュータアーキテクト主催の勉強会に1度参加したくらいです。あとはGLOOBEのYouTube動画を見ながらマニュアルをひもとき、半年ほどでひと通り使えるようになりました」。これらの準備について、神﨑氏は事務所の開設時期に合わせて進めていった。結果、事務所開きと同時にGLOOBEメインの体制に切り替えることができたのである。

事務所計画

3D/2Dを適材適所で切り替えながら

 「独立して2年ほど経ちました。初年度はご祝儀相場で色々なお話をいただきましたが、2年目は突然のコロナ禍で……キャンセルになったり延期になったりした案件も少なくありません」。いずこも同じ厳しい状況にあるわけだが、それでも神﨑氏の事務所では、土佐市の製紙工場関係の設計監理を中心に、メンテナンスや戸建住宅、オフィスビル、商業施設などのプロジェクトが動いていると言う。事務所を創設してから日が浅いため、竣工した完了案件はまだ1件に留まるが、もちろん一貫してGLOOBEメインの設計スタイルによる取り組みを続けている。
 「BIMでやれそうな案件の場合は、基本計画の段階からGLOOBEで進めます。ただ、私の場合、やはりあれこれ手を動かして感覚をつかむステップが必要なので、まずは手描きのスケッチから着手し、そこから2つのパターンに分けています」。1つ目はそこからすぐにGLOOBEに切り替えて、スケッチの形状を3Dで確認しながら進めていくパターン。これは特に造形的に、プランニング的に余裕のある場合が多い。敷地が狭小で、計画が非常にタイトな場合は、いったんJw_cadで情報を整理して、ある程度詰めた上でGLOOBEに持っていく流れとなる。
 また、図面に関しては、GLOOBEのモデルから吐き出したものをJw_cadでまとめていくのが神﨑氏の基本スタイルだ。実際にJw_cadに吐き出すタイミングについては、案件の内容次第となるが、ある程度実施設計に入って流れが見えた段階で吐き出して、Jw_cadで管理していく作業に切り替えることが多いと言う。

戸建住宅計画

次は意匠・構造の積算にチャレンジ

 「GLOOBEを使って作業するようになってから、自分は“図面でなく建物を作っているのだ”という意識がいっそう強くなりました」。もちろん図面は重要だが、神﨑氏がそれを作成するのは、申請で必要だから。あるいはお客様が求めるから、工事業者さんが必要だから……ある意味、仕方なく図面として取りまとめているのだと言う。そして、ここから先はもう「BIMの世界ではない」と神﨑氏は感じている。だから、そこで切り分けてBIMの仕事はいったん終わらせ、以降はドキュメントを整理するだけのCADの世界へ進めていこうと意識しているのだ。
 「BIM体制に切り替えて2年ほど経ちますが、いちばん変化したのは、1人でいろいろなことができるようになった点でしょう。企画し設計する傍ら、たとえばパース制作などのプレゼンテーション関連も容易に進められるのです。以前だったら、誰かと共同でなければ間に合わないようなスケジュールでも、BIMならば問題なく、より高いクオリティで対応できるのです」。打ち合わせ等においてもパース等のビジュアライゼーションを多用することが可能となり、結果、お客様の理解度が大きく向上したと神﨑氏は語る。「図面をお見せしながらやっていた頃とは大違いで、お客様も“こうなるんだね!”とどんどん理解し、スムーズに進みます。パース制作はもちろん、打ち合わせそのものも効率化されたわけで、“伝える”ためのツールとして、また“お客様を引き込む”ツールとしてもBIMは非常に強力です」。最後にBIMに関わる今後のチャレンジについて聞いてみた。
 「徐々にですが、IFCデータ連携を活用して、業務の幅を広げていこうと考えています。私は積算関係も長かったので、積算との連動を確立したいと考えています。意匠積算は既に取り組みを始めていますので、次は構造積算ソフトを導入し、意匠も構造もBIM連携で積算できる体制にしたいですね」。

ショールーム計画

GLOOBEでの作業

神﨑健史神﨑建築設計事務所
代表/一級建築士

神﨑建築設計事務所

神﨑建築設計事務所
■代表者/代表 神﨑健史
■本社所在地/高知県土佐市
■創立/2018年9月
■事業内容/一級建築士事務所

■BIM開始時期/2018年
■使用ツール/GLOOBE

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