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株式会社カトー建築設計事務所

意匠&構造設計をトータルに行う総合設計事務所がGLOOBEを核とするBIM環境構築を推進

青森県青森市のカトー建築設計事務所は、意匠デザインと構造設計を2本柱に測量設計部門まで擁する総合建築設計事務所である。少数精鋭ながら多彩な建築設計を総合的かつトータルに引き受け、いまや地域の建築設計業界をリードする存在となっている。そんな同社では、代表者である建築家 加藤彰氏の指揮のもと2020年にCAD環境を一新。GLOOBE Architectを導入し、BIM設計体制の構築を目指す第一歩を踏み出した。意匠・構造を連携させた総合的なBIM設計の実現はまだ道半ばと言うが、その成果は着々と上がっている。5名の技術員を率いて不退転の決意でチャレンジを続ける加藤彰氏と、その右腕として現場を率いる設計課長の大嶋浩司氏に、BIM化戦略の背景と狙いについて伺った。

「人」で選んだGLOOBE Architect

 「当社がBIMを導入したのは、ある改修工事の現場で工事監理をやっていた時の経験がきっかけです。あれは2020年、コロナ禍真っ只中のことでした」。そう語り始めたのはカトー建築設計の代表である加藤彰氏である。加藤氏によれば、その現場──青森県内のある文化ホールの大規模な改修工事現場では、工事の進行と共にホールの鉄骨トラスや空調ダクト、電気配管等々で納まりの不具合が多発していたのである。結局現場は一時ストップしてしまい、加藤氏らも頭を抱えることになったが、それを救ったのが施工会社による3D測量だったのである。

 「これがBIMの威力なのか!と痛感しました。もし最初から3D測量等を行ってBIMを導入していれば、工事を止めずに済んだかも知れません。そして、これからの設計・施工には3D CADの導入とBIMが不可欠と確信しました」。当時、カトー建築設計の設計現場では、時々の必要に応じて導入した3~4種ものCADが混在する状況だった。この混沌とした設計環境が所員間のコミュニケーションを損ない、作業効率を低下させるなど問題となっていたと言う。加藤氏にとって、統一CADの選定・普及は避けて通れない重要課題となっていたのである。

 「当社のような小さな事務所にとってCADの乗り換えは一大事です。そして、大変なパワーをかけてCADを統一するのなら、この際、3D化、そしてBIM化へと進んでいける体制を目指すべきだと考えました」。そうと決まれば次なる問題はBIMソフトの選定である。将来を左右するこの選択を間違えるわけにはいかない。設計事務所として40年余(当時)の歴史を持ち、青森県建築士事務所協会で会長も務める加藤氏だけにBIM情報も豊富にあった。そこから2つの海外製品とGLOOBE Architect(以下 GLOOBE)に絞り込んで検討を進め、最終的に加藤氏みずから選んだのがGLOOBEだった。

 「GLOOBEを選んだのはまず、ARCHITREND ZEROと同じメーカーの製品だったから。実は以前ARCHITRENDシリーズを導入検討し、使ってみたことがあったんです」。その時の印象が非常に良かったのだと加藤氏は語る。同じ会社が作ったBIMソフトなら使いやすいに違いない、と言うわけだ。そしてもう一つの、一番の選定理由は?というと「最終的には“人”ですね。人で選びました」という言葉が返ってきた。

 「長年の付き合いがあり当社のことをよくご存知で、私も厚く信頼している販売会社の方が、数あるBIMソフトの中からGLOOBEを勧めてくれたのです。もちろん機能も大切ですが、私は何であれ“人”が一番重要だという信念があるので、躊躇なくGLOOBEを選びました。もちろん、当初から事務所全体に普及させる計画があったので、一気に4セットを導入しました」。

トップライトからの採光の様子を表現

取り込んだ景観写真と合成しリアルなパースを作成

代表が率先して操作習得にチャレンジ

 こうして2D CADからGLOOBEへの切り替えとBIM普及を目指す、所内での取り組みが始まった。まずは当然、所員がGLOOBEの操作を習得して、実務で使えるようにしていく必要がある。この活動を強力に牽引したのはもちろん加藤氏である。「事務所全体で何かしようと思ったら、やはり誰かが先頭を切って“これで行くぞ!”と大声で号令しなければできません。みんな忙しいですからね。特に今回は言い出しっぺの私がやるしかない、と思ったからです」。その言葉通り加藤氏は自ら率先してGLOOBEの操作習得に取り組んだ。教材DVDを見ながらGLOOBEに触れ、その機能をあれこれと試し、一通り終えたところで所員たちに順にDVDを回して独習させ、基礎を身に付けさせていく。もちろん教材による学習だけではなく、可能な限り実務で実際に活用しながらの習得が目標だ。そして、数カ月後に基礎が身についた中核スタッフが育った所で、福井コンピュータアーキテクトから講師を招き講習会も2度ほど行った。

 「ちょうどその頃、ある幼児教育施設に取り掛かっていたので、その基本設計にGLOOBEを使ってみることにしました。ところがこれが大変でした。単純な箱型のプランから始めれば良いのに、いきなり複雑な楕円形状を作ろうとして四苦八苦。最後は部下まで巻き込んで2人で悪戦苦闘する羽目になりました」。そう言って加藤氏は笑う。そして、この時加藤氏に声をかけられGLOOBEによる初のプラン作成に参加したのが、現在同社で設計課長として設計現場を率いている大嶋浩司氏だ。大嶋氏は語る。

 「楕円形屋根のRが付いた32分割の梁全部の角度を出し、さらに勾配も出しました。そしてSTBridgeで構造計算ソフトとの連携を試したら階高がズレてしまい、何度も読み込んで変換して繰り返したり……本当に手探りで試行錯誤しながら進めていきましたね。チャレンジは現在も続いていますが、今はもうちょっと楽に進められるようになったかな」(笑)。その最初のチャレンジにおいて、BIMならではのメリットを感じることができたかを聞いてみると、大嶋氏はすぐに基本プラン作成時の使いやすさとスピードを挙げてくれた。「まず先生が元になるプランをGLOOBEでまとめ、ざっくりスペースと壁、そして開口部が入った配置図のデータをくれます。これを叩き台に“ああでもない・こうでもない”とやりながらプランを練って仕上げていくわけですが、ビジュアルだから楽に雰囲気を掴めるし、とても便利に感じました」。基本プラン時には法規チェックも便利だったと加藤氏が続ける。日本の建築法規に素早く対応する国産BIMソフトならではの強みだと言う。

ガラス越しの外部・内部の様子も検討できる

鏡への映り込みまで表現できる

 「そして、もう一つGLOOBEが生み出した強力な効果はプレゼン力です」。大嶋氏によれば、仕上げた基本プランの建築モデルを予定地付近のGoogle Earthと合成して見せると大好評だったのだという。「たしかにあれは施主に大ウケだったね」と加藤氏も頷きながら言葉を続ける。「大嶋君が岩木山の写真まで入れてくれて、あれは本当に凄い出来だった。先方はあれを見て一発で“これでいこう!”と決めてくれて……BIMにはそういう効果もあるんだね」。

 GLOOBEによるプレゼン手法については、その後さらにオプションのARCHITRENDリアルウォーカーを導入し、ゲームコントローラーを使って施主自身がウォークスルー体験できるサービスも提供を開始している。「何より施主が喜ぶんです。で、“ここはどう?あちらは?”と積極的にいろんな所を見たがるので、要望や注文がはっきり分かるんです。基本プランのプレゼン&打ち合わせに最適ですね」(加藤氏)。

ARCHITREND リアルウォーカーとコントローラーを使ってプレゼンテーション

GLOOBEを生かした多様なチャレンジ

 こうして自己学習と実務での運用を積み重ねていくことで、GLOOBEによる基本プランの作成からプレゼン用ビジュアライゼーション作りまでの流れは、その効果の確かさと共に徐々に全社に定着し始めている。「加えて言えば、たとえば概算数量の拾い出し等にもGLOOBEを使い始めています」と加藤氏が続ける。「役所に“早く概算数量を出して欲しい”と急かされて、けれども積算事務所は忙しくて引き受けられない!という状況の場合など、バタバタしながらGLOOBEの拾い出し機能を試してみたわけです。そうしたらコンクリート量から何からちゃんと拾ってくれましたね」。この機能の精度がさらに向上し、こうした概算数量の出し方を役所が認めてくれるようになれば「本当に楽になるだろう」と加藤氏は大いに期待している。

 このような構造設計分野での活用に関わる取り組みとしては、計画敷地が開発許可を要する高低差のある農地等だった場合等の対応として、測量部門が作った敷地測量図のSIMAファイルをGLOOBEで読み込んで、プランの外観パースに反映させるといった試みも始まった。さらにハード面では、複数所員で取り組む大型プロジェクト等の共同作業に備え、図面共有のための専用サーバーも2022年に設置した。しかし、意匠・構造両分野を一連の業務としてトータルに展開している総合建築設計事務所のBIM運用としては「まだまだ課題は多い」と大嶋氏は言う。

敷地測量図のSIMAデータ・景観写真データを読み込んで鳥観図を作成

Super Build/SS7のデータをSIRCAD・ST-Bridgeを使って読み込む

 「構造データをGLOOBEで読み込んで意匠と重ね合わせ、たとえば“天井から梁が出てる”みたいな干渉や納まりのチェック的な使い方は何度か行ってきましたし、効果も上がっています。しかし、それ以上の構造との連携や活用、また実施設計での2D図面作成にも課題はたくさん残っています。GLOOBEの進化に期待したいのはもちろんですが、私自身も問題解決に繋がるような情報収集に力を入れていきたいですね」。たとえば最近GLOOBEユーザーの話題になっているGLOOBEユーザー会(Japan-BIM Connect)にも興味があると大嶋氏は言う。では、代表の加藤氏は、今後のBIM化戦略についてどのような構想を持っているのだろうか。

BIMデータ管理の専用サーバーとUPS

GLOOBEと共にどこまでも進化したいから

 「私自身は、数年のうちに事務所を完全にBIM化したいと思っています。同業の友人からは“それには10年かかるよ”、“手書きからCADへの移行も時間がかかったじゃないか”なんて言われますが、私たちにそんな時間は残されてないと感じるのです」。なぜならいま日本中で進んでいるBIMの普及は、かつてのCAD化の波などよりもはるかに急速な流れになっているからだ、と加藤氏は語る。そして、なぜBIMの普及がそれほど急ピッチに進むのかといえば、日本の建築設計そのものが、BIMというツールを強く必要とするようになったからなのだ。

 「そのことは大手設計事務所の仕事を見ればお分かりでしょう。かつてないスケールの高度に複雑な建築設計がすごい速さで設計され、建てられていますよね。あのレベルの仕事には、BIMの活用を欠くことができません。たとえ地方の小規模事務所だって、それに無縁ではいられないんです。もはや私たちが生き残るには、BIMを使いこなせるようになるしかないんですよ。それも一刻も早く」。大嶋氏が言う通りまだまだ問題は山積みだが、だからこそ福井コンピュータアーキテクトとGLOOBEには、もっともっと頑張って欲しいのだ、と加藤氏は言う。

 「当社のような小さな事務所にとって、4セットのGLOOBEはけっして小さな投資ではありませんでした。いまさら別のBIMソフトを選び直し、導入し直すことなんてことは現実的ではありません。だからとにかくGLOOBEには海外製BIMソフトに負けないでほしいのです。日本のBIMとして、私たちと共にどこまでも進化していってほしい。──そう考えています」。

2022年入社の鈴木滉一朗氏はすでにGLOOBE操作に熟達している

 取材:2023年9月

 

株式会社カトー建築設計事務所
代表取締役 加藤 彰 氏(右)
設計課長 大嶋浩司 氏

加藤 彰 氏
GLOOBEは私が選び「今後はこれで行く!」と号令しました
所内で取り組むには、誰かが号令かけて進むしかありませんから

大嶋 浩司 氏
現在はまだ2D紙ベースの図面を求められるのが現実なので
GLOOBEでの図面作成を試行錯誤しながら追求しています

加藤 彰代表取締役

大嶋浩司設計課長

株式会社カトー建築設計事務所

■本社所在地/青森県青森市
■創立/1982年10月
■設立/1989年8月
■資本金/1,000万円 
■事業内容/建築総合設計及び設計監理、建築構造設計、建築物の耐震診断・耐震補強設計及び耐力度調査、特殊建築物の定期報告調査、建築積算ほか
■type/総合建築設計事務所
■bim starting/2020年
■tool/GLOOBE Architect

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