180分であなたのプレゼン表現力を大幅に向上!「プロから学ぶ バズる!住宅プレゼン」
2021年6月24日、福井コンピュータアーキテクトは、その第7弾となる〈A-Styleフォーラム 2021 in June〉を開催しました。コロナ禍のもと住宅業界の営業スタイルが変わりつつあるなか、お客様へのプレゼンテーションはその重要性を一段と増し、同時にプレゼンのためのステージや手法、求められる品質もより高度なものへと変化しようとしています。そこで今回はこの最新トレンドを先取り! 業界を代表する建築写真家 田岡信樹氏とパースコンテスト大賞受賞者 別所陽平氏をお招きし、それぞれ建築写真と建築パースに関わる最新&最強テクニックについて、オンラインセミナー形式で存分にレクチャーしていただきました。本レポートでは、このお2人の講演に絞り込んでその内容を詳細にお伝えします。
■基調講演「集客できる建築写真の撮影術!」
建築写真家 田岡信樹氏
「皆さん、こんにちは! 建築写真家の田岡信樹です。今日は大勢の方にご覧いただけるという事で、僕自身も非常にワクワクしています。短い時間ですが一つでもお役に立てたらな、と考えていますので、よろしくお願いします」。
いち早く建築写真をデジタル化し3Dパース等を活用するなど新時代の建築写真家として最先端を走る田岡氏は、いわゆる「建築家が建てる家」を発案し、自ら500棟以上をプロデュースしてきた建築プロデューサーとしても広く知られています。そんな田岡氏の講演は、まず住宅建築業界の厳しい現状を数値ベースで解説。淘汰が進む住宅建築業界で住宅会社・工務店が抱える問題点を指摘していきます。
「たとえば、WEBや広告宣伝が外注任せで何をすれば良いか分からず、ホームページの更新も自分たちで行えない──そんな工務店が多いのも問題点の一つです。WEBや広告宣伝を外注任せにしていると、伝えるべき情報発信がワンテンポ遅れがちで内容も不十分なものとなり、せっかくの情報がきちんと顧客に伝わりません」。そこで質の高い建築写真を撮り、これを情報発信に利用していくことで問題を改善できる、と田岡氏は語りかけます。高価な一眼レフでなくても、スマホがあれば建築写真は撮れると断言。そのためのテクニックについて語り始めました。
「スマホで撮る建築写真のテクニックは10以上ありますが、今回は5つに絞ってお伝えします。まず一つ目は“できるだけ広めの構図で撮影する”こと。建築写真は“対象の空間をどれだけ抑えられるか”がポイントになります。つまり、空間を少しでも広く撮るにはどうすれば良いか?が重要なわけです」。そう言って、田岡氏は実際に自身のiPhoneで撮った悪い例/良い例を見せながら、テクニックを具体的に解説していきます。たとえば、対象物に寄って撮るのではなく、下がった位置から広めの構図で撮るべきであること。つまり、不要な箇所は後でトリミングすれば問題ないというわけです。さらにスマホの画像解像度の問題やトリミングの注意点、焦点距離と画角の重要さ等々、iPhoneを手に具体的に説明していきます。結論としては、少しでも後に下がって撮る。または焦点距離の短いレンズのカメラで撮って広角にするなど、できるだけ広めの構図で撮ることがポイントだと語りました。
「次のテクニックは“垂直・水平・中央”を意識する”ということです。カメラにはたくさんの軸があるので、これを使って垂直や水平、中央を意識して撮ることが重要です。具体的には建物の柱やサッシの垂直を目安に、カメラの傾きを垂直・水平・中央に合せてみてください」。垂直水平を綺麗に合わせて撮った作品例を見せながら、田岡氏は技の解説を進めていきます。たとえば壁面を平行に撮影したり柱間・天井高等を構図の中央に据える──それだけで建築の美しさがぐっと引き立つのです。
「3番目のテクニックは“建築に適した構図を頭に入れて撮影する”こと。写真を美しく見せられる構図はたくさんありますが、中でも建築写真に適したものを選び、対象に最適な構図を当てはめて撮るのがお勧めです」。たとえば三分割法や四分割法、シンメトリー構図に二分割構図……と、建築に適した基本構図とその実際の作品例を次々上げていきます。田岡氏によれば、スマホは縦長で撮ることが多いので、特に縦の構図を意識することが重要だとか。スマホの撮影画面でグリッド線を表示できるので、これを使って構図の意識に慣れていってほしいと言います。
「4番目は“撮りたい建物の環境や撮影時間等を考慮する”こと。たとえば外観撮影も北向きの建物は太陽が南側に来ます。つまり、天気の良い日は逆光になるので、そうなる時間帯は避けなければなりません」。さらに室内撮影は実は曇りの日の方が撮りやすいとか、照明器具の違いで色温度に差が出る等々、これもまた次々と実例を挙げていきました。
「最後となる5つ目のポイントは“適性露出(露光)を常に意識”すること。適性露出とはちょうど良い明るさを示し、明る過ぎる露光オーバーの“白トビ”も暗過ぎて露光アンダーの“黒ツブレ”も、基本的に建築写真には禁物です。スマホの明るさ調整機能にばかり頼らず、たとえば室内撮影ならHDR機能をオンにして撮れば、明るい窓の外と暗い室内の双方が見やすい明るさに仕上がりますよ」。このように、田岡氏が紹介するテクニックは、どれも実践しやすい具体的な手順に落とし込まれており、誰でもその狙いと効果が理解できるのです。
田岡氏は最後に撮影した建築写真の「後」について、熱いメッセージを送ってくれました。
「せっかく撮影した建築写真を、HDやスマホに保存したままでは宝の持ち腐れになりかねません。自社ホームページの施工事例で紹介したり、facebookやInstagram、twitter、YouTubeといったSNSを駆使して、どんどん情報発信していきましょう!」
■テクニカルセミナー「CGパースプレゼンの極意」
別所陽平氏/DWARF 株式会社別所材木店
「皆さんこんにちは! DWARF/別所材木店の別所陽平です。私はこの会社で住宅設計とCG制作を担当しています。どんな家を作っているかと言うと、いわゆるサーファーズハウス──アメリカ西海岸スタイルの住宅です。そしてもう一つ、北欧スタイルもメイン商品となっています。つまり、どちらかといえばデザインやインテリアで売る住宅会社なんですね。それだけにこうした商品の“ビジュアルをどう伝えるか?”がきわめて重要で、CGパースがきわめて有力な手段となってきます」。
落ちついた口調で語る別所氏は、15年余のキャリアを持つ熟練したARCHITRENDユーザー。昨年度開催された「FCAパースコンテスト2020」で大賞を受賞した実力派の設計者&CGクリエイターです。同受賞作は実案件のカフェの内観パースで、依頼元のオーナーから「自由にやって」と任されて設計・内装デザインを行い、そのまま応募し大賞に選ばれた作品です。別所氏はARCHITREND V-styleで制作したこの受賞作の設定値を公開し、V-styleによる制作過程を解説しながらその制作スタイルを紹介。いよいよセミナー本論を語り始めます。
「今回は事前アンケートで募集した、“皆さまのCGパース制作に関わるご質問”にお答えする形で進めていきたいと思います。最初の質問は──“トイレなど狭い部屋の見せ方を知りたい”です。つまり、できるだけ全体像を捉えながら同時に見栄えするよう作るには?というお尋ねですね。これは主にアングルの問題です」と、別所氏は即座にポイントを指摘します。基本的には縦構図で視野角は95°程度、しかし広角にしすぎないように、と仕上り例を見せながら説明。さらに360°パースを使うととても見やすくなる……等々、多様なテクニックを紹介します。
「続いての質問は“太陽光の方向は何時方向がベストか?”ですね。外観パースをパーススタジオで作る場合、太陽光の仰角は55°前後。基本的には建物正面からやや角度をつけて太陽光を当てますが、建物正面が北面の場合は注意が必要です」。特にアンビエントオクルージョンを使うと太陽光が当たらない面がのっぺりしがちです、と別所氏は注意を喚起します。もちろん必ずしも実際の太陽方向に合せる必要はありませんが、合せない場合は施主に説明しておくべきだと言います。
「3つ目は“テクスチャの質感が上手く表現できない”という悩みで、同様の質問を多数いただきました。質感の表現は、都度テクスチャの設定値を調整するしかありません。そうやって数値を設定したテクスチャを保存しておけば、後でまた使う時に便利なのでお勧めです」。作業のポイントとしては、素材編集とテクスチャの色調補正。これを行ってレンダリングを繰り返し、違和感のある箇所を調整していくのが基本だと別所氏は語ります。ただし、V-styleの場合は設定は不要とのことでした。
「次は“間接照明の表現が上手くいかない”という質問ですが、正直いってアンビエントオクルージョンの場合、光源を配置しただけで間接照明を表現するのはなかなか難しく、私もレンダリング後のレタッチで対応しています。これに対してV-styleは、光源を配置するだけで、およそ想定した通りの見え方になります」。そう語った別所氏は、自作のパースを示しながら光源の位置などを細かく説明していきます。
「5つ目の質問は“綺麗に見える構図の決め方を知りたい”で、これも幾つか同じ質問をいただきました。外観パースの場合は視野角70°前後。一方、内観パースは視野角90°前後で視点高さは1300前後で、あおり補正を使って垂直ラインを揃える……私自身はこれを定番としており、基本まずこれで作ります」。これらの数値は、別所氏お気に入りの建築写真を撮ったカメラマンに聞いたレンズ種類等を参考に算出したもの。こうして自分の好むパターンを決めておけば、構図で悩むこともなく、品質のバラつきも抑えられるのです。
──この後も「設計変更が多くパースの修正まで手が回らない」「見栄えする内観パースを作りたい」「パース作成にかかる時間は?」等々、時間いっぱい質問に答え続けた別所氏は、最後にこんな言葉でセミナーを締めくくりました。
「施主さんの多くは不安を抱えながら家づくりを進めています。自分たちのイメージや理想がちゃんと伝わっているのか、図面だけでは分からないのです。だからまずは一枚、苦手でも内観パースを作ってみる。それを積み重ねていけば、やがてコツが分かり時間短縮できて、自分なりのパターンも生まれます。そうなればプレゼンもスムーズに進み契約にも繋がって、施主と会社の双方の利益になっていくに違いありません」。
A-Styleフォーラム2021 in June / VOL.7 SLIDE SHOW
記載の役職等はイベント開催(2021年6月)時点のものです。