電子化、オンライン化で建設業界が変わる!? 目からウロコ!これからのクラウド活用術
2021年10月1日、〈A-Styleフォーラム 2021 in June〉が開催されました。電子申請の普及やリモート勤務の常態化等を背景に、建築業界では幅広い業務のデジタル化とWebネットワーク活用が進んでいます。今後はその核となるクラウドの活用が、全ての効率化のカギとなります。今回のA-Styleフォーラムでは、クラウドの活用動向に詳しい日本マイクロソフトの小杉靖氏、J建築検査センターの佐々木彰氏、エー・ディー・エルの三ノ宮浩氏をお招きし、クラウド活用について様々な角度から論じていただきました。ここでは3氏のセミナー内容を中心にレポートします。
■基調講演:建設業界におけるクラウド活用とは?
「2 years of digital Transformation in 2 months──まず皆さんにご紹介したいのはこの言葉です。これは弊社CEOのサティアナディラが2020年4月──日本で第1回目の緊急事態宣言が出された頃に行った発言で、“この2カ月で2年分のデジタル変革がおきた”という意味になります」。そんな風に語り始めた小杉氏によれば、サティアナデラ氏は2021年夏にも「(コロナ禍が)1年経過する中、企業や組織のDXの取り組みはむしろ加速しているが、これはまだ始まりに過ぎない」と語ったと言います。
2020年にコロナ禍が始まる前年まで、ネットへのアクセスもセキュリティ管理も会社が行っていればそれで良く、多少の無駄は問題になりませんでした。しかし、これが激変しました。リモートワークが基本となり、遠隔環境のセキュリティ管理が不可欠となって、変化する業務規模や業務形態への柔軟な対応が求められるようになったのです。そして、先行きが見えない状況から、特に情報システムに関わる徹底したコスト管理が新たな課題となりました。だからこそいま、DXが求められているのだと小杉氏は指摘します。
ただし、DX化とは単にDX技術の導入ではなく「デジタルを駆使してビジネスモデルや働き方を革新していく」ことだと言います。そこでは旧システムの刷新や業務デジタル化ばかりでなく、デジタルを活用できる組織への改革が重要です。そして、デジタル環境を整備して社員がこれに接する機会を拡げ、最終的にはデジタル製品の創出を目指すことが最大の課題となります。特に既存手法に縛られないデジタル製品の開発は大きなポイントになるでしょう。
では、日本の各業界はどのようにDX化を進めているのでしょうか。小杉氏は自社が関わった各業界のDX化事例を紹介していきます。たとえば教育分野では生徒各1台のPC・タブレット端末を配布するGIGAスクール構想。製造分野ではAIやIoTを駆使して生産現場自動化、ブロックチェーンやモバイル決済等を進めるFinTech分野の取組みも紹介されます。そして、特に注目すべき案件として取り上げたのが、オンプレミス環境からクラウド化に取り組んだ3社(東京ガス、アサヒファシリティズ、西条市教育委員会)の取組みです。東京ガスが自社運用していたシステムのクラウド マイグレ ー ションを開始したのは2017年。数百のシステムのクラウド移行を進め、2020年8月時点ですでに約 1 0 0システムの 移行を完了しています。
一方、アサヒ ファシリティズの事例は、オンプレミスのサーバーを用いていた旧システムをクラウド化。新たな建物情報プラットフォームを構築した取り組みで、これもクラウド化そのものではなく、より優れた建物管理サービスの提供のために「クラウドを利用した事例」であることを小杉氏は強調しました。
3番目の事例は、小学校のPC教室を中心にICT教育を進めてきた西条市教育委員会が、システムコストを抑えて安定運用するため、マイクロソフトのクラウドサービス「Microsoft Azure」を核にクラウド化を進めた取り組みでした。小杉氏は、先方が目標として掲げた「多忙感を解消して教員が教育活動に専念できる環境作り」に注目。デジタル化や外部リソースの活用でこの「多忙感」を解消し、自分たちの役割を果たし価値を生み出していくべきだと語りました。
では、これらクラウドを用いたDX化にはどのようなメリットがあるのでしょうか。小杉氏はオンプレミス環境とクラウド環境を、柔軟性・拡張性、情報共有、メンテナンス、サポート、将来的な対応等の点から比較しました。ポイントは安全性と障害対策、コストです。まず安全性では、オンプレミスがユーザー自身の規定でユーザー自ら運用せざるを得ませんが、クラウドは事業者が高度なセキュリティ機能を提供し安全性を確保できるなど大きな強みがあります。
また、障害対策については、データやサーバーの冗長化の問題等が避けられないオンプレミスに対し、外部リソースを活用できるクラウドがやはり有利で、冗長化やリストア先についても事業者が対応しますしWeb経由で復旧も可能なのです。そして、最後のコストについても、クラウドならハードウェアや周辺機器、空調や電源等は不要ですし、月額や従量制での支払いも可能なのです。
「私たちマイクロソフトはクラウドのプラットホームの提供者に過ぎません。多くのパートナーがこれを活用してDXを進め、優れたソリューションを築くことで、初めて社会はより良くなります。つまり、私たちはプラットフォーマーとして最大限努力し投資しますが、それだけでは社会は変えられません。皆様と共にこれらを発展させていくことで、初めて互いに成長し、延いては日本経済も良くなっていくのです。本日はどうもありがとうございました」。
■テクニカルセミナー(1): 今日から始めよう! オンライン確認申請
「建築確認の電子申請を使えば“いろんなことが楽になるのだろう”と考えている方が多いようです。しかし、実は確認申請の流れそのものは、電子化以後も今までと全く変わっていません。基本的に代理者である建築士事務所等が設計し、確認申請を出して着工する……という流れは、たとえ電子申請で進めたとしても全く変わらないのです」。テクニカルセミナー①の講師として登壇したJ建築検査センターの佐々木彰氏は、そんな風に語り始めました。
J建築検査センターは、建築物の設計図書確認・建設現場検査を行い、確認済証や検査済証を交付する民間の指定確認検査機関。言わば電子申請等のプロ集団です。セミナーではその豊富な経験を踏まえて建築確認のどの部分が電子化され、どのようなメリットが生まれるのか、具体的に紹介していきました。佐々木氏によれば、電子化されたのはあくまで「申請行為」そのものに限られ、図面の審査や現場の検査といった作業部分は電子化されていないと言います。
従来の確認申請では、建築計画を作って紙に印刷し、これを指定検査機関や建築主事へ提出しますが、電子化されたのはこの部分の作業。つまり、紙に出力する代わりにPDF化し、これを郵送・持参する代わりにシステムへアップロードするわけで、申請者側にとっては申請行為の作業工数が大きく減ることになるわけです。
電子化のメリットはそれだけではありません。佐々木氏が指摘したのは、作業場所や時間に制限がないという点でした。いちいち足を運ぶ必要がないから時間を削減でき、いつでも・どこからでも申請書を送付できるわけで。さらに申請時の作業も減少します。たとえば図書の印刷が不要なので、手間や時間だけでなくコストダウンにも繋がるでしょう。しかも、審査の進捗状況はWebで共有されるので、いちいち電話で確認する必要もありません。「この6月、政府はオンライン利用率引上げへの取り組みを閣議決定しました。当然、今後は確認申請に限らず、各種の行政手続きの電子化がいっそう加速していくことになります。また、近年、押印不要が実現したように行政の緩和措置もまた、急速に進んでいくでしょう。さらにARCHITREND ZEROによる電子申請データのアップロード先も増え、従来のNICEWEBだけでなく、弊社独自の電子申請システム「JAICポータル」へのアップロードも可能となりました。現在、弊社に提出される確認申請件数の40%が電子申請ですが、今後はJAICポータルへのアップロードを拡大。80%の電子申請化を目指しています。2021年1月には弊社サイトに「確認申請等の電子申請とは」を設け、ARCHITREND ZEROからの取込みも紹介する計画です。ご利用を心からお待ちしています」。
■テクニカルセミナー(2): 実務者目線の設計効率テクニック
「皆さん、こんにちは。今日は“実務者目線の設計効率テクニック”と題して、私の仕事スタイルについてお話ししましょう」。そう切り出したのは㈱エー・ディー・エルの三ノ宮氏です。同社は住宅建築に関わる国策実務に即した研修やコンサルティング、申請サポートを行うユニークな企業。三ノ宮氏もセミナー講師やコンサルタントとして広く知られた方ですが、今回は申請や設計支援に携わる実務者として自身のワークスタイルを中心に紹介してくれました。
年に4カ月出張していると言う三ノ宮氏は、ARCHITREND ZEROのヘビーユーザー。設計ツールとしてはもちろん、BELS申請や長期優良住宅認定申請、建築確認申請のメインツールとして使い、特に長期優良住宅認定申請では「ARCHITREND ZEROなしでは仕事ができない」と言います。他に資料作成用のPowerPointやExcel、Google Chrome、デジタル文書を一元管理するDocuWorks等も使っており、出張先や自宅でもこれは変わらないと言います。
こうした装備を調えた三ノ宮氏にとって、現代の業務環境は非常に便利かつ快適なものに違いありません。移動中の航空機内で図面を描き、ホテルの部屋からWeb研修を配信するのも常のこと。電子申請もExcelやWord、ARCHITREND ZEROのデータをPDF出力し、時と場所に囚われず申請・修正を行うなど、隙間時間を効果的に活用。これにより設計の作業効率を大いに向上させています。この効率化を支えるのが、同氏独特のARCHITREND ZERO活用法です。
たとえば、確認申請の設計作業における図面の記入漏れや誤記入を防ぐ確認申請チェック機能。あるいは長期優良住宅の適合申請等で時間と手間を1/3以下にしてくれる図面整合チェック機能。また、電子申請でもZEROと連携した3DカタログのWeb申請書作成機能を使えば申請書入力は不要となり、ZEROから指定確認検査機関のWeb申請システムにアップできるのです。最後に同氏はネット時代のデータ共有の決め手として最新のARCHITREND ZERO Ver.8の新機能 ATDriveを挙げました。「皆さんがARCHITREND ZEROを導入しておられるなら、後はその機能をいかに使いこなすかが非常に重要になります。ZEROを上手く使い込めば、仕事環境に合ったシステムを構築し設計効率を上げていくことができるでしょう」。