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即実践!のスタンスでBIM活用フィールドを拡大。「フルBIM」体制への道を着実に進んでいく

名古屋市中区に本社を置く杉本組は、創業75年余の地域密着型ゼネコンである。事業の企画から設計、施工、アフターメンテナンスまで、ワンストップで対応する一貫体制を構築。賃貸マンションやテナントビルを中心にさまざまな建物を手がけ、その技術と品質の確かさには定評がある。そんな同社はIT全般の導入に積極的で、BIMについても2018年に福井コンピュータアーキテクトのGLOOBEの導入を決定。全社への普及と幅広い活用を推進している。現在ではJ-BIM施工図CADも導入し、企画・設計から施工に至るトータルなフルBIM体制を確立しつつある。かつてないスピード感でBIM活用のフィールドを拡げ続ける取り組みについて、同社設計部の寺澤信氏と丹羽美佳氏にお話を伺った。

「やるなら即やれ、行動だ!」

 「BIM導入の取り組みを始めたのは、2017年頃のことです。もっとも、設計部ではそれ以前からBIMに興味を持った個人個人が情報収集を進めており、そろそろ具体的な動きを始めようと考え始めたこの年に、トップダウンにより本格的な動きが始まりました」。そう語るのは、杉本組の設計部でBIM推進を任されている寺澤信氏である。同氏によれば、杉本組は業務現場のIT化に熱心で、グループウェアや見積システム、タブレット端末等の全社導入をいち早く決定。急ピッチで業務デジタル化を進めていた。BIMの導入も言わばその一環だったのである。
 「とにかく“やるなら即やれ、行動だ!”というトップのもと、私たちもどんどん進めていこうと走り出しました」。寺澤氏と共にBIM導入を担う丹羽氏はそう語る。こうして設計部はBIMツールの導入検討に着手。当時の代表的なBIMソフト3種の試用版を取り寄せ、比較していった。「結果、唯一の国産BIMソフトとして日本の建築基準法に則した機能を備えたGLOOBEを選びました」。実は寺澤氏も以前から多くのBIMソフト製品を調査しており、「当社がBIMを導入するなら、GLOOBEが良いだろう」と考えていたのだと言う。
 「GLOOBE導入は即決でしたが、それからが大変でした。BIMソフトを入れた以上、従来使っていたCADは基本的には使わないという方針となり、正直これがかなりのプレッシャーで……」と丹羽氏は苦笑いする。同社では長年2次元CADを使用しており、3次元CADを使うのは今回が初めてという部員が多かったのである。少人数でBIM試用でなく、全員が一斉にBIM習得に取り組んだことで、組織の目標が明確に共有され、互いに教え合いながら、少しずつ設計実務での活用を進めていった。
 「しかし、BIMへの切り替えで通常業務に支障は出せない。実際、使い慣れたCADをいきなり全廃するのは難しかったので、支障のない範囲でGLOOBEの活用を広げていこう、ということになりました」(寺澤氏)。まずは自社設計施工の案件を対象に、基本設計作業にGLOOBEを投入。3Dモデルを制作し、初期段階でのさまざまな打ち合わせ等に活用することからBIMの運用を開始した。
当初、打ち合わせ等では図面と共に3Dモデルを使っていたが、やがて設計部員たちは、施主も自分たちも図面でなく3Dモデルを見ていることに気付く。打ち合わせやプレゼンテーションの在り方が、図面主体から3Dモデル主体へ変わっていくことを感じたのである。

GLOOBEから出力したプレゼンパース

フルBIM体制へのチャレンジ

 「GLOOBE導入から3年が過ぎたいま、2次元CADは使われていません」(寺澤氏)。
 実際、同社の設計部員は今では全員が、基本設計からGLOOBEを用いて業務を進めるようになっている。自社設計施工の案件を対象とし、設計部員が自らGLOOBEで入力し、3Dモデルを立上げて、打ち合わせやプレゼンテーションに幅広く活用しているのである。
 「初回の間取り提案から3Dによるプレゼン手法を用いています。“VR提案”に重点を置き、その他にウォークスルー動画を活用しています。見せ方も案件の内容に合わせて変えており、ARCHIBoxでお客様と3Dモデルを共有しながら、時にはリモートで打ち合わせする事もあります」(寺澤氏)。
 もちろん設計検討や部内でのデザインレビュー等にも3Dモデルを活用しているし、そのモデルから切り出したデータをベースに提案図面も仕上げている。さらに2019年にはJ-BIM施工図CADも導入し、GLOOBEのモデルデータと連携させて施工図を作成。自社の施工現場に供給するようになった。発展途上ながら、同社の設計施工現場では「フルBIM」への流れが徐々に整備されつつあるのだ。
 「フルBIMの流れの中でFMへの連携も意識していますが、実際の取り組みはまだまだこれからというのが正直なところです」(寺澤氏)。
 他方、BIM活用の拡大と共に設計者の負担も増えつつあり、BIM運用を含む設計業務の効率化が新たな課題となった。丹羽氏は語る。
「BIMの世界は、やればやるほど奥深く、なかなかゴールが見えてきません。最初はFMまで到達すればひとまずゴールだろうと思っていましたが、実際にはまだまだ先がありますね。GLOOBEも最新版のGLOOBE 2021で大きく機能を増やしていますし、早く使いこなしたいです」。  
 では、BIM導入によるメリットや活用効果についてはどうなのだろうか? 丹羽氏に尋ねると、特にプレゼンテーションの効果について、早くから実感していたという。
「とにかく素早くビジュアル化できるのは大きな強みですね。提案はVRも活用しており、図面でお伝えするより、感覚的に全体感や細部を容易に確認頂けるため、わかりやすいと大変喜ばれます」。
 だが、GLOOBEの導入効果は、もちろんそれだけではない。

BIMモデルで見える化し多くの目にさらされれば設計精度は否応なく向上していきます。(寺澤氏)

見える化して多くの目でチェック

「強調したいのは設計品質の向上です。2次元CADでは頭の中に平面や立体を描いて図面化していましたが、GLOOBEは、実物がモニターで見られるんです。これは設計者にとって決定的に異なる環境です」(寺澤氏)。GLOOBEで3Dモデル化することで、その設計の「ここは納まりが綺麗ではないね」とか「こうした方が良さそう」といった箇所が早い段階で見える化されるのだ。しかも、杉本組ではその「見える化されたデータ」が社内で広く共有される。従来は設計者が1人で描き、チェックしていたので、他者は完成するまで全体像を見られなかったが、現在は初期段階から、他の設計部員や営業、工事の人間もITで共有できる仕組みがあるとのことである。
 「多くの目にさらされれば、自分が気付けなかった問題箇所にも早い段階で気付けるので、否応なく設計精度も向上するのです」(寺澤氏)。
このことは当然、顧客満足の向上にも繋がる。3Dで見える化すれば、建築の素人でも分かるからだ。丹羽氏は語る。
 「3Dモデルでお見せすれば、高さや仕上の色、質感等も最初にチェックしていただけます。“こんなはずじゃなかった”というお客様の不満はなくなり、明確な納得感に繋がるのです。BIM導入以前と比べると、この違いは非常に大きいですね」。
 このように多くの人に3Dモデルを通じて設計内容が“見える化”された結果、設計者の意識が向上し、杉本組としての企画力もまた、大きく向上していったのである。設計者の負担は軽くないが、トータルに見れば効率化のメリットは非常に大きいと寺澤氏は言う。
 「自分の家の設計に問題を感じれば、お客様が指摘したくなるのは当然です。それに早めに問題点を抽出できれば、設計も工事もスムーズに進められます。私たちもありがたいし、お客様にも喜んでいただけるのです」。

GLOOBEから出力したプレゼンパース

プレゼンを体感させるVR

 「先ほども少しお話しましたが、BIMの活用という点で、近年私たちが特に力を入れているのが、GLOOBE VRを用いた提案および広報宣伝活動の展開です」。狙いはもちろん受注力の強化だ、と寺澤氏は言葉を続ける。3Dの普及とともに、建築業界においてもプレゼンテーションでのパースやムービーの活用は一般化されつつあるが、VRを営業現場で実運用している企業は大手ゼネコンを除けばまだまだ少ないのだ。
 「VRは他社差別化に非常に有効なツールと言えます。……それに、お客様との打ち合わせにVRを使うと“現場の温度差”が全然違ってくるんですよ」。
そう語る丹羽氏の言葉に寺澤氏も大きくうなずく。
 「VRでご覧いただくプラン提案は、お客様にとって紙で見せるそれとは全く異なる一種の体験……というか“体感”になるようです。本当に“その場に立っている”ように感じられるんですね。それがお客様にもたらす効果は、お客様の様子を見ていればはっきり伝わってきます。建物完成への期待感が、受注してもいないプレゼン時に高まるのだと思います」(寺澤氏)。
 このようなVR効果が明らかになったことから、杉本組では現在、GLOOBE VRを設計のプレゼンテーションだけでなく、着工後の色決め等にも使用するなど用途を拡大している。

VRを用いた提案

BIM活用は次のステップへ

 最後に、寺澤・丹羽両氏にBIMを中心とする今後の取組み計画や目標について聞いてみた。
「BIMに関わる直近の目標としてはまず積算連携です。積算ソフトHEΛIOΣ(ヘリオス)との連携は実現し、実際にGLOOBEで入力した数量で積算数量を拾い出ししているのですが、これをさらに効率化したいと考えています。現状ではHEΛIOΣ側でも入力時の細かな作業が必要なので、これをできるだけ省力化したいですね。理想は、BIMモデルを作れば自動的に見積りも出る──というくらいにしていきたい。既に流れはできているので、後は調整していくだけの段階です。また、J-BIM施工図CADとの連携もさらに高精度なものにしていきたいですね。さらにFM等のBIM連携も見据えています」(寺澤氏)。
「BIMに関していえば、私自身はまだまだ道半ばという感じなので、さらなるスキルアップを目指したいと考えています。私たち設計部としてのBIMの取り組みは、最初はお客様に分かりやすく提案するための活用から始まり、続いて施工図作成等による現場支援活動や積算連携による省力化。さらにその先にあるのがFMを見据えたデータの活用と蓄積なのだと思っています。そして、いずれのステップにおいても、お客様の満足というところに繋げていくことが最も重要なのは変わりません。だから、私も含めた個々人のスキルと組織力のレベルアップを図っていきたいですね」(丹羽氏)。

BIMの世界は奥深く、なかなかゴールが見えません。お客様満足向上のため一歩一歩前進あるのみです。(丹羽氏)

取材:2020年12月

寺澤 信株式会社杉本組
設計部
課長代理

丹羽 美佳株式会社杉本組
設計部
主任

株式会社杉本組

■代表者/代表取締役社長 杉本高男
■本社所在地/名古屋市中区
■創業/ 1943 年1 月
■設立/ 1948 年1 月
■事業内容/建築・土木・その他建設工事全般の企画・設計・施工・管理、不動産の売買・賃貸借・管理・仲介ほか

■BIM開始時期/2018年
■使用ツール/GLOOBE・J-BIM施工図CAD・GLOOBE VR・ARCHIBox 

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