2022年4月 省エネ上位等級の新設! 今後の省エネ基準適合義務化まで見据えて 工務店&設計事務所が今やるべき事とは?
2022年4月、住宅性能表示制度において省エネ上位等級が新設されます。住宅の断熱性能、省エネ性能のさらなる向上が急務となったいま、私たちがいま取り組むべき事はいったい何なのでしょうか。福井コンピュータアーキテクトでは、そんな業界の要望に応えて、2022年2月25日、A-StyleフォーラムVol.9を緊急開催! ハウスプラス住宅保証㈱の西垣克治氏、全国住宅産業地域活性化協議会 会長の加藤秀司氏、アウェア㈱の椿田竜也氏というプロフェッショナルたちをお迎えしてオンラインセミナーを実施。1,000名を超えるご参加をいただきました。ここでは3氏の講演内容をまとめてご紹介します。
■ セミナー(1):省エネ上位等級新設に伴う申請業務への影響
「皆さん、こんにちは。私は性能評価機関という立ち位置から、上位等級新設の問題も含めながら今回の法改正について解説していきます。今回、性能評価だけでなく長期優良住宅の申請など諸々変わる点が多くあり、その辺りの情報を分かりやすく手短にお話しいたします……」。そう語り始めた西垣氏は、まず今回の法改正の背景にある「クリーンエネルギー戦略」の流れについて紹介します。西垣氏によると、省エネへ向う取り組みの中でポイントとなる年がエネルギー基本計画における2030年とグリーン成長戦略の2050年。それぞれに「目指すべき住宅の姿」が描かれ、取り組みもまた、そこへ向けて動いていこうという現状なのだと言います。
たとえば2030年に目指すべき住宅の姿は、新築では「ZEH・ZEB基準の水準で省エネ性能が確保」され、再エネでは新築戸建て住宅の6割で太陽光発電設備が導入されること。同様に2050年はストック平均で「ZEH・ZEB基準の水準で省エネ性能が確保」されるとしています。このような2030/2050年の「目指すべき住宅の姿」を実現すべく国はロードマップを作っており、ボトムアップ、レベルアップ、トップアップの3階層に分け個々の内容を示しています。そして、ボトムアップ期の最も重要な取り組みの一つが「住宅を含む省エネ基準への適合義務化」が実施される2025年度なのです。
性能評価ではこの4月1日から断熱等性能等級の5と一次エネ消費等級の6という新たな上位等級が設置され、これを取得しようとすれば、4月1日からの性能評価で──ということになりますが、それには設計等々も、あらかじめそれを見込んで進める必要があります。また、長期優良住宅についての改正は10月1日からとなっており、同様に断熱等性能等級5と一次エネ消費等級6という上位等級に基準が引き上げられるので、それ以前に設計し施主との打ち合せも済ませておく必要があるでしょう。こういったスケジュールを見ながら「わが社はこういうことをやっていくから、ここからスタートしていこう」等と考えていって欲しいと西垣氏は言います。
続いて西垣氏は性能評価と長期優良住宅それぞれの変更点をさらに詳しく、具体的な対応等を含めて解説していきます。性能評価については前述の断熱等性能等級に新たな最高等級5が新設されることで、たとえば東京など6地域で言えば、UA値0.87の4等級が最高だったのがUA値0.6の5等級に上がり、一次エネルギー消費量等級も同様にBEI0.9以下(等級5)から0.8以下(等級6)が最高となります。さらに温熱等級の取得には、従来のように断熱と一次エネのどちらかではなく、両方が必須条項となると言います。また、長期優良住宅については、特に重要な「住宅性能表示制度との一体申請」や「災害配慮基準の創設」「認定基準に係る省エネルギー対策の強化」の3つのポイントを中心に詳説。さらに「体炭素建築物の認定基準の見直し」や「住宅ローン減税」等々への影響についても解説するなど、現場を知るプロならではの視点で、幅広く分かりやすく解説しました。「性能評価や長期優良住宅、低炭素建築物、省エネ基準等々の見直しスケジュールに補助事業や税制、住宅ローンやフラット35等の見直しも絡んできます。やろうとすることを明確にして、かなり早くスタートする必要がありそうです。そういった事も考慮しながら、ぜひ確実な対応を進めていきましょう!」
■ セミナー(2):今後の省エネを見据えて工務店のいますべき対応とは
「いま、私はこの業界に入って初めて幸せを感じています……」。住活協の加藤氏の講演はそんな言葉から始まりました。「幸せ」というのは、怖れていたコロナ禍の影響が住宅業界では限定的なものに留まったこと。一昨年の着工棟数は1割減程度で済みましたし、昨年など需要は相当戻ってきていると言うのです。その原因として、加藤氏は「家賃を払うより住宅ローンの方が安いから」。つまり「低金利がこの業界を救ってくれた」のだと言います。しかし、その低金利も危うくなっています。1%を切った現状では仮に0.5%上がっただけで支払額は1.5倍になり、他方「逆ざや」状態だった住宅ローンの減税期間も昨年9月で終了。結果、控除額は0.7%となり減税額にもキャップが嵌められました。10年で400万円だった控除額は273万円となり実質120万円の増税です。ところが、その一方で、ZEH基準でUA値0.6を上回ればその限りではないとされました。つまり、史上初めて、家作りの入口である住宅ローンの設定に「省エネ」の概念が入ってきたわけです。
省エネへ向うこの大きな流れの中でもう一つ、加藤氏が注目したのが「太陽光発電」です。西垣氏の講演でも示された2030年に新築住宅の60%に太陽光設置という目標について、加藤氏は、寄棟や日射が太陽光に不都合な住宅を除き実質義務化に等しい目標設定であり、令和4年度は太陽光が一段と大きくクローズアップされる──と期待を語ります。そして、消費者目線で見れば、住宅業界は脱炭素やカーボンニュートラルよりも「光熱費」の問題からアプローチすべきと言います。元々高い日本の電気代は、燃料費調整額の反転上昇や再生可能エネルギー賦課金、炭素税等々により今後「とてつもなく上がる」から。そして、その対策が「脱・系統」です。高い電気代を払い続けるより住宅の省エネ性能を高めて再エネを自家消費し、電気を買わないライフスタイルを確立すべきなのです。
そこで重要になるのが太陽光+蓄電池です。加藤氏の会社では、これを活かしたエネルギー事業も展開しているとのことで、次々と具体的なアドバイスを挙げていきました。蓄電池は特定負荷と全負荷の2種があること。そして、電気自動車を蓄電池として使うか、そうでなければ気象警報連動機能付きの蓄電池が望ましいと語り、加藤氏の会社でも、独自に初期費用0円の太陽光発電サービスを提供していると言います。しかし同時に、それほど重要な太陽光発電も、耐震や断熱の性能を損ねたりコストを削ってまでして付け加えるべきものでもない、と加藤氏は言います。「私が工務店経営者だとしたら、いまやるべきことは4つあります。一つは自社の省エネ基準及び仕様の確定。要はUA値目標をどこにするか?ですね。二つ目の課題は、住宅は省エネが全てではないということ。UA値性能が良くなるほどリスクも上昇します。もし壁体内で結露を起こせば、構造躯体が弱くなり耐震性能も落ちてしまうのです。さらに住宅ローンと光熱費、補助金等々全てを勘案したコスト提案が3つ目で、それには基本仕様をどうするか?決めなければなりません。そして4つ目。太陽光は“あって当り前”になり、蓄電池や電気自動車と組み合せたその提案が、今後の差別化ポイントとなるでしょう」。
■ セミナー(3):ARCHITREND ZERO省エネ設計テクニック
「アウェア(株)は2018年4月設立の設計事務所で社員数は14名、現在は名古屋と京都で事業展開しています」。そう語り始めた椿田氏によれば、同社は木造建築の設計施工と研究開発を通じて社会貢献を目指すクリエイティブ集団。プラン作成から基本~実施設計のほか、外注設計として図面作成、構造計算、外皮計算を委託され確認申請や性能評価、長期優良住宅の申請等にも対応。ARCHITREND ZERO(以下 AT ZERO)の導入サポートやマスター設定、講習会等の技術コンサルタント活動も活発で、その全ての核にAT ZEROがあるといいます。椿田氏は早速AT ZEROを起動し、外皮性能計算機能による一次エネルギー消費量計算の解説を開始しました。
まずデモ用に作った木造2階建て住宅を立ち上げます。下屋やインナーバルコニーが付いた3LDKのプラン基本図から外皮性能計算機能で計算し、省エネ上位等級取得への流れを紹介しようと言うのです。外皮性能計算の画面を開き「設定」の重要さを強調しながら地域区分や目指す省エネ等級等を設定。次に「仕様」設定に進み、断熱材の仕様等が3Dカタログから各メーカーの断熱仕様のダウンロードが可能なことや専用初期設定からの仕様設定等について、具体的に操作しながら解説していきます。これらにより自社の標準仕様や高断熱仕様をあらかじめ設定可能なのです。
今回、椿田氏は外壁は標準仕様としてグラスウールの仕様と吹き付け断熱も加えた高断熱仕様を選択。さらに付加断熱も設定していきます。こうして普段使いの仕様オプションや今後の上位等級対応用の高断熱仕様など、あらかじめ設定しておけば、次からはタイプを選ぶだけで、登録通りに各部位の組み合わせが再現されるので大変便利に使えるのだと言います。椿田氏は仕様セットを選択し、全ての階を選んだ上で屋根断熱か天井断熱か選びます。もちろん基礎断熱や床断熱等も選べるとのことで、基礎の断熱仕様もここで決定。すべて選択し終えたら完了を押し、自動的に立ち上げていくのを待つだけ。そこで椿田氏はリアルタイムチェックを入れます。するとモニターを使って熱的境界の状況を3Dで確認できるのです。
こうして流れるように外皮性能計算を終えると、続いて椿田氏はシミュレーション機能を駆使しながら仕様をさまざまに変えていきます。見ていると、椿田氏が仕様を変える度にUA値が変更されることが分ります。目的の性能値を出すために仕様の何を・どうすれば良いのか、スピーディに確認できるわけです。その後も、椿田氏はシミュレートした内容を図面に反映させ、UA値の結果もそこへ反映させていきます……。自社の標準仕様で上位等級を取るならば、多様なパターンの仕様を登録しておき、次々とシミュレーションで切り替えながら比較することで、素早く標準仕様を決めていけるわけです。このように椿田氏は多彩な機能を紹介しながら、さらに省エネナビを用いた一次エネルギー消費量計算の手法や申請用の図表作成を紹介していきました……。「図面で数値が出ても、実際には省エネ性能の住宅にならないことも珍しくありません。まずは外皮性能計算そのものを理解すること。その上でAT ZEROの外皮性能計算機能を知り、強みである連動を活かすよう業務スタイルを変えていく──そんな意識でAT ZEROを活用していきましょう」。
A-Styleフォーラム2022 Vol.9 SLIDESHOW
記載の役職等はイベント開催(2022年2月)時点のものです。