淺沼スタートモデルによる着工時からの施工BIM活用を志向!
株式会社淺沼組は、1892年(明治25年)、淺沼幸吉によって奈良県大和郡山市において創業された総合建設会社である。大阪市浪速区に本社を置き、主に関西を地盤に全国展開しており、官公庁建設に数多くの実績をもっている。淺沼組では、2007年から顧客との合意形成の迅速化、図面整合性向上、製図作業の効率化による生産性の向上と建物の高品質化を目的にBIM運用を始めており、2016年度から設備投資及び人材投資(教育)を進めており、今後は本社技術支援部門だけでなく、作業所での利活用が更に広がるため、作業所職員のスキルアップが課題であるとしており、BIM/CIMへの取組みを視野にお話しを伺った。
創業理念「和の精神」「誠意・熱意・創意」2007年からBIM運用
■淺沼スタートモデルによる着工時から施工BIM活用を志向
株式会社淺沼組は、1892年(明治25年)、淺沼幸吉によって奈良県大和郡山市において創業された総合建設会社である。大阪市浪速区に本社を置き、主に関西を地盤に全国展開しており、官公庁建設に数多くの実績をもっている。創業理念「和の精神」「誠意・熱意・創意」は、創業者である淺沼幸吉の「仕事が仕事を生む」という事業に対する信念を実現するために創業以来変わることなく受け継がれてきたもので、人と環境を大切にする創環境企業として、事業活動を通じ社会の安全と幸福の増進に貢献している。公開資料「2012 CSR 報告書: 人・都市・自然のシンフォニーレポート」によってBIM導入の端緒を知ることができる。それによると、淺沼組では、2007年から顧客との合意形成の迅速化、図面整合性向上、製図作業の効率化による生産性の向上と建物の高品質化を目的にBIM運用を始めており、BIMソフトについては「Revit」を基軸のシステムとして用いている。
直近では、建設通信新聞の特集・BIM/CIM2022(3月31日発行の26面)において土木事業本部土木企画部長の森山保彦氏が「効率よく検索/共有/活用できる環境作り」と題して施工BIM/CIMの現況に関して寄稿している。それによると、設計から施工、施設管理まで3次元で情報が統一され、生産性向上の加速が期待できるBIM/CIMへの対応として、2016年度から設備投資及び人材投資(教育)を進めており、今後は本社技術支援部門だけでなく、作業所での利活用が更に広がるため、作業所職員のスキルアップが課題であるとしている。
BIM/CIMと合わせてVRやICTなどを活用した生産性向上策も推進しており、これらの取り組みも含めた業務プロセスの変革を伴う「建設DX」の推進のためにも社内だけでなく、社外も含めあらゆるデータを社員が効率よく検索、共有、活用できる環境作りが重要と考えているとしている。
■デジタルツールによる人材教育に取り組むと共に熟練技能維持システムも運用
淺沼組では、3次元のデジタルツールを用いた人材教育にも積極的に取り組んでいる。
大阪府高槻市の技術研究所において入社1〜2年目の社員向けに3次元モデルやVRを使った体験型現場教育システムを開発した。RC造集合住宅などさまざまな種類、用途の建物の施工工程を品質管理や安全管理の側面からより現実に即した形で学習できる。実際に技術研究所の増築に合わせ、杭打ちから鉄骨建て方や足場解体、内装仕上げまでの施工工程を3次元映像化し、各工程に即した管理手法などの研修に援用している。今後は、習得の度合いに応じてバーチャル現場が選択できる機能の追加やeラーニングなどにも対応できるように開発を進め、合わせて同業他社との連携についても検討していく。
淺沼スタートモデル〜着工時からの施工BIM活用〜
■基礎工事の進捗を確認しながら土工計画を立案可能な「GLOOBE Construction」
ここまで見てきたように、淺沼組では、BIMに象徴される建設業のDX戦略を推進する中で、BIM施工支援システム「GLOOBE Construction」採用に至った背景を探索する。
GLOOBEは、施工段階での見える化を強力に進化し、建築生産業務の効率化を支援、デジタルツインの実現と施工現場の生産性向上に貢献する次世代BIM施工支援システムだ。BIMによる建物3次元モデルが内包する各種の属性データを援用、施工・数量・工程のフェーズを連動することで、建設業にとって最も重要な生産拠点である施工現場での情報の見える化を実現する。それによって2次元施工図と3次元施工モデルを連動させた躯体計画、豊富な部材とリアルな3次元見える化で現場の安全と効率化を実現した仮設計画、ICT建築土工に対応した合理的な土工計画、「3D・4D・5D」計画で現場のムダを削減できる工程計画などを実現している。ここで最も重要なのは、施工・数量・工程のフェーズを連動することデジタル空間上で各種のシミュレーションを可能としていることだ。具体的には、基礎工事の進捗状況を確認しながら土工計画を立案したり、躯体計画を考慮しながら仮設計画を行うなどのシミュレーションを実現している。
デジタルツインに関しては、主要な建設機械メーカーも施工BIMとの連携を積極的に模索している。GLOOBEは、施工現場でのデジタルツインを実現するための機能を装備している。それらの機能を用いて、GLOOBEの施工データから座標データをCSV出力、測量機械との連携で杭芯出しや墨出しへの援用が可能となっている。
■GLOOBE選択の根拠となったRevitによる基礎地中梁のモデル読み込みの検証
施工BIMの運用方針は、BIM推進室が主体となって取りまとめた「2022年度取組:淺沼スタートモデル〜着工時からの施工BIM活用〜」に明記されており、それらは社内で情報共有されている。それによると、設計段階での淺沼スタートモデルは、確認申請 レベルの設計図+3次元モデル(意匠・構造・設備)から構成されており、設計BIMについては、企画・基本設計でRevitを運用し、次いで実施設計段階では、LOD200のBIMモデルを構築するとされている。
そのようにして設計BIMによって生成された意匠・構造・設備などのBIMモデルは、BIM推進室に移行され、その後、BIM推進室において意匠担当が意匠・構造・設備の各モデルを管理して施工チームへと提出される。その後、施工チームでは、意匠・構造・設備の各モデルを統合、合成して施工段階での淺沼スタートモデルとして完成させている。
そのような方針に基づき施工BIMを運用するに際して、導入すべき施工BIMソフトの選定を行った。その際に、土工事において初心者でも使えるツールとしてGLOOBEの存在を知ることとなる。GLOOBEについて情報収集する中で、操作性に優れており、マニュアルも整備されていることなどから導入の選択肢のひとつとして浮上した。更に加えて、主流のBIMソフトとして運用していた「Revit」の3次元モデルの読み込みが可能な点も導入時の重要なポイントとなった。Revitで生成した基礎地中梁のモデル読み込みなどの検証も行っている。
施工現場での実際のBIM運用を見てみよう。着工に引き続き、施工段階でのモデルは、施工検討会に提示され、淺沼スタートモデルに基づき、どのように施工するのかの検討と情報共有が行われる。施工検討会では、従来まで2次元図面による検討が行われていたが、3次元建物モデルの提出によって検討精度の向上が見込まれる。
施工BIMにおいては、対象建物の3次元モデルと共に、仮設計画のモデルも作成する必要がある。その際には、工務(仮設)計画の2次元図面を基に仮設計画のBIMモデル化を志向している。次いで施工BIMの意匠担当が敷地周辺データを重ね合わせ、施工BIMの施工担当が仮囲い、揚重計画を整備する。それらの施工BIMの運用に際しては、GLOOBEと合わせてグローバルBIM社の「smart CON Planner(スマートコンプランナー)」も検証中である。
■事業体としての生産拠点(施工現場)を経営するツールとなる施工BIM
建設業の生産拠点である施工現場は、製造業の工場と比較すると、そのユニークさが際立っている。竣工すれば、撤収するなど、施工現場は常にテンポラリーなものであり、デジタルツールによって管理、運用するためには、一時的であるが故に、困難が伴った。
一方で、米国で主流となっている※リーンコンストラクションという概念に則して施工現場を独立した事業体、工場として捉えてみることもできる。鉄骨など資材が運び込まれ、ストックヤードに留め置かれ、階を重ね、工区分けして施工される。収益を確保するためには正確な数量とコストの早期把握が必須だ。外部の協力会社含めて残業時間など環境に配慮しながら適正な労働力も確保する。竣工に向けて工期という時間軸にも目配りする。GLOOBEでは、それらは変数として施工モデル(仮設・土工・躯体)に紐付けされ繋がっており、データベース(建築生産インフォメーション)によって運用される。
更に重要なのは、GLOOBEでは、施工に関係する全ての変数を紐付けすることでシミュレーションできることだ。一例として自動生成した工程表の側から施工モデル(仮設・土工・躯体)側を操作して逆算的にシミュレーションすることも可能だ。BIMは利益を生み出すべく、事業体としての生産拠点(施工現場)を経営するツールとなる。
■枠組み足場の計画に優れたとの評価と共に概算計画への期待も表明
BIM施工支援システム「GLOOBE Construction」の現時点での検証結果を概説する。今回、検証の対象としたのは仮設計画となっており、主に新機能として搭載された「枠組み足場」への援用とした。検証を担当したのは、オートデスクの「Revit」、グラフィソフトの「ARCHICAD」の使用経験がある所員であった。
基本機能と編集機能については他のBIMソフトと比較しても、遜色なく、普通との評価であり、操作性とその習得に対しても、同様の評価を受けている。より具体的には、枠組み足場の計画に優れているとの評価であり、詳細には、ジャッキベースの高さなどを枠組み足場に設定できる点が良いとのことであった。合わせて基本設計段階での概算計画に利用可能との評価もあり、総合的には、国産のBIMソフトとして使いやすさの点が優れているとの評価であった。国産のBIMソフトの優位性を更に追求、今後のバージョンアップへの期待も表明された。
※リーンコンストラクション: Lean Construction。生産性向上と品質確保を追求するトヨタ生産方式を建設工事に応用しよう とする建設方式。Leanは無駄のないとの意味。
■取材記者/建築ジャーナリスト 樋口 一希 氏 2022年10月