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株式会社フジタ

BIM運用で設計(意匠)モデルと施工モデルの連携精度を
最適化して設計施工の優位性を確保する

「建築とコンピュータ」の領域において、早くから先駆的な試みを行っていたフジタ。
BIM普及が視野に入りつつある現在、それらのDNAを受け継ぎ、建設会社として設計施工の優位性を徹底追求するべくBIM運用を進めている。明らかとなった効果と相関する課題とは何か。フジタの今を報告する。

POINT

  • 設計部門でのBIM運用ノウハウを蓄積しながら施工段階へと適用する機会を増やしていく
  • 2次元図面では3割程度の加筆作業が必要な現状の改善に向けてベンダーと協議を続ける
  • BIMモデルによる現場の作業員への「見える化」が生産性向上と業務効率改善に結びつく

2009年のBuild Live Tokyoへの参加を契機に有志による草の根的なBIM導入からスタート

BIMがメディアに登場することも少なかった09年、将来のIT技術動向に関心をもった開発部門(技術センター)、設計部門(建設本部設計エンジニアリングセンター)の有志による草の根的な導入からフジタのBIMはスタートした。自社の設計施工案件において設計部門でのBIM適用を繰り返し、BIM連携のノウハウを蓄積しながら、施工段階へBIMを適用する機会を増やしていった。

設計施工を柱とする大手建設業において、設計と施工部門間の2D CAD図面(データ)によるデジタル連携をいかに深化させるかは大きな課題だった。2000年前後に両部門間をコーディネートする生産設計部で続けられた業務連携フローの知見は、組織としてBIM導入を行う手がかりとなった現在、再び、重要な意味を持ち始めている。

BIMソフトによる3次元モデルからは「2次元図面ができない」との課題の解決に注力

川上において競争で仕事を勝ちとるコンペティションでの提案力強化、建築主への見える化でBIMの効果が大きいのは共通認識となりつつある。そのような中で問題となっていることは混在する2次元図面(データ)とBIMによる3次元モデルとの相関性だ。2次元と3次元の切り替わり時に学んだ若手設計者の発言の中に解決すべき課題が見えてくる。

学生時代、図学や製図法を学ぶ際に「手描き」は経験したが、設計演習はBIMソフトでの3次元モデリングが主体。入社後、実施設計図、竣工図などを見て、実務では「ここまで図面を描く」のかと驚いた世代だ。設計部門においてBIMモデルを用いた図面化の試行を始めたのは約3年前、BIMソフトによる3次元モデルからでは図面にならない課題に直面した。

設計で運用する海外出自のBIMソフトと比較したのが日本版BIMを謳う「GLOOBE」。3次元モデルから2次元図面(データ)を生成する実態調査が始まった。

設計者のニーズに応えるべく出力設定機能など2次元図面の生成に特化した機能が特色

設計で運用する海外出自のBIMソフトと比較したのが日本版BIMを謳う「GLOOBE」。3次元モデルから2次元図面BIMソフト「GLOOBE」では「上端」「フカシ」「巾木」などの用語が使われている。編集者の視点で実施設計図面のサンプルを見ると、2次元CADによる出力と違わない。さらなる設計者の要求=残された課題はどこにあるのか。(データ)を生成する実態調査が始まった。

「GLOOBE」によるレンダリング

BIMソフト「GLOOBE」では3次元部材(オブジェクト)に対して図面出力時に必要となるテキスト情報を付加できる。組織内で用いる「線種」など図面出力時の仕様は、出力設定機能で標準化でき、個々の3次元モデルには依存しない。それでも特記仕様書が典型的な事例だが、BIMソフト「GLOOBE」で構築した3次元モデルに付属しない情報は出力されない。BIMソフトで完成された図面が出力されるのが理想であるが、現状ではシンプルな建物であっても3割程度の加筆作業は避けられない。設計部門では福井コンピュータアーキテクトの開発者も交え、改良に向けた協働を今も続けている。

BIMによる設計モデルと施工(図)モデルの連携効果を上げるべくJ-BIM施工図CAD導入

設計と施工部門をコーディネートし、施工図作成という現業を担う施工図部門。2次元CADでの部門間連携の知見を元に、BIM状況にチャレンジしている。

建築主のニーズの高度化、経済効率性の追求などから工期短縮への要求は強い。設計部門が施工に繋げるべく実施設計図の確定度を高めても、仕様変更は時には施工(図)段階にも及ぶ。BIM運用の成功条件として知られているフロントローディング。生産性向上という目標において設計施工の優位性を活かすべく、設計部門でも施工部門とのBIM連携の機運が高まっている。そのような現況下、BIMソフト「GLOOBE」に引き続き、福井コンピュータアーキテクト製の「J-BIM施工図CAD」の導入に踏み切った。

建設業全体の業務プロセス改革への可能性を秘めた生産拠点=現場でのBIM運用の進展

恒常的な人手不足、急激な資材高騰などの厳しい環境下、受注するとすぐに、施工現場からは施工図が必要だと施工図部門へ要請が相次ぐ。施工図部門では2012年からBIMによる設計の3次元モデルを施工モデルへと転用するべく「J-BIM施工図CAD」の運用実験を開始した。

設計部門が「GLOOBE」で作成した精度の高い平面詳細図を施工図として活用

「J-BIM施工図CAD」は躯体を構成する部材データを通り芯と面芯距離を設定して配置すると各種施工図面を作成する。BIMソフト「GLOOBE」の設計(意匠)モデルからは躯体情報(柱、梁、壁、スラブ、基礎他)と開口情報(開口部)をIFC形式データで取り込み、躯体図を自動生成する。「J-BIM施工図CAD」のより一層の進化に向けて福井コンピュータアーキテクトと協働を続けている。

現場で実際に作業を行う作業員への「見える化」でもBIMは威力を発揮する。3次元モデルで納まりが確認できればディテール検証の精度も上がるし、自在に平立断面図を切り出し、協議できる。手拾いでは時間を要し、曖昧でもあったコンクリート数量も瞬時に把握できる。建設業におけるBIM普及の要は施工現場での生産性と業務効率をいかに最大化するかだ。

BIMの高度化に向けた課題の共有も現実のものとなりつつある。さまざまな運用局面で部分的な効率化を求めるのではなく、建築主、行政、サブコン、設備関連業者、外部協力組織、ハード・ソフトベンダーなども巻き込み、業界をあげて全体最適となるBIMへの業務プロセス改革をいかに行うのか。本格的なテイクオフに向けてBIMは疾走している。

※2015年7月発行のJ-BIM WORLD 事例集 Vol.2で掲載したものです

小田 博志技術センター
先端システム開発部
次長

山手 清司首都圏支社
建設統括部建築部
主席コンサルタント

天野 公則建設本部
設計エンジニアリングセンター

津田 晃平建設本部
設計エンジニアリングセンター
計画設計部

株式会社フジタ

所在地
東京都渋谷区千駄ヶ谷4丁目25番2号

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