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西松建設株式会社

施工現場でのBIM運用に注力するBIM推進室が切り開く建設業の近未来

建設業にとって最も重要な生産拠点である施工現場でのBIM援用の現在地を探るべく西松建設の本社BIM推進室を訪ねた。先進的なBIM施工支援システムとして評価を高めている福井コンピュータアーキテクトのBIM施工支援システム「GLOOBE Construction」の導入と運用を契機として、西松建設ではBIM推進室を中心に新たな胎動が起こっている。「BIMベンダーとのコラボレーション」「BIMによる人財発掘と育成」をキーワードとして建設業のこれからを本社BIM推進室の方にお話しを伺った。

開発で街の様相も激変している虎ノ門地区の虎ノ門ヒルズビジネスタワーを訪問

西松建設を最初に取材したのは、1980年代の後半に遡る。旧建築知識から刊行されていた「建築とコンピュータ」誌上に、西松建設の某氏がBASIC言語で開発したポケットコンピュータ上で解析する簡易な構造計算プログラムを掲載するためであった。再訪した本社は、急速に再開発が進み、街の様相も激変している虎ノ門地区の虎ノ門ヒルズビジネスタワーにある。同地区に建っていた旧本社の記憶を辿りながら、新設された東京メトロ日比谷線「虎ノ門ヒルズ駅」から直結する虎ノ門ヒルズビジネスタワーに足を踏み入れた。

虎ノ門ヒルズビジネスタワーは、大規模オフィスと商業施設を擁する地上36階建ての超高層複合タワーだ。虎ノ門ヒルズビジネスタワーが装備する先進的なインテリジェント機能の一端を垣間見ることもできた。取材に際して事前に送られてきた電子メールにはQRコードが添付されていた。入場ゲートにスマホに保存したQRコードをかざすとゲートは開いた。受付など入場時の人的チェックも省ける。退場時にもQRコードをかざすとゲートは開き、退出可能となった。入退出のデータは、日常的に勤務する人員と外部からの訪問者とを合わせて、セキュリティ管理は勿論のこと、空調、電気など建物全体の挙動の基礎データとして活用できるはずだ。設計施工段階で構築されたBIMデータは、ファシリティマネージメントに援用できるBIMデータへと引き継がれ、竣工後の建物の挙動をサポートするのは自明となりつつある。

1980年代後半の「建築とコンピュータ」事情から俯瞰すると、現在のBIMを取り巻く状況は、想像を絶するほど進化している。本稿では、国産のBIM施工支援システムとして注目を集めている「GLOOBE Construction」との関わりの中で西松建設のBIM推進室の活動を報告する。

岩手県の現場写真(この現場でGLOOBE ConstructionからICT建機連携を実施)

国土交通省のBIMモデル事業に採択されたBIM運用事例にも参画

BIM推進室が正式な機構として建築事業本部の意匠設計部の中に誕生したのは2018年4月のことであった。それ以前は、各施工現場ごとに、自主的にオートデスクの「Revit」を始めとして、グラフィソフトの「ArchiCAD」、福井コンピュータアーキテクトの「GLOOBE」など主要なBIMソフトを個別運用していた。一方で、設計施工を標榜する総合建設業、ゼネコンとしては、工程の上流に位置する設計部門から施工に向けて統一的にBIMを運用するべきだとの本意から、それら全社的な動きを統括するべく、意匠設計部の中にBIM推進室を置くこととなった。BIM推進室の施工BIMの責任者を務める岩崎課長も、同様に中部支店が管轄する施工現場においてBIMを積極的に運用していたことからBIM推進室に着任するに至った。現在、西松建設では、年間で約30案件において取り組みレベルはさまざまであるがBIMが稼働している。設計でのBIMモデル構築を行ったり、見える化による広範囲な合意形成に用いたり、施工現場でコンクリートなどの数量を拾ったりと、運用形態は個別、多様であるが、全社的には、3次元データ運用のマインドと共にBIMは必須との機運は高まっている。

BIMに象徴されるデジタル化に向けては、施主の側がBIM採用に積極的であるなど現状を切り開く動きも顕著となっている。関連事例は、2022年12月13日から25日までハイブリット形式で開催の日建連「施工BIMのインパクト-生産性向上からDXへ」において11月30日に収録されたプログラムで広く公開された。講演の標題は「プロジェクトにおける発注者視点でのBIMとライフサイクルコンサルティングへの思い~(仮称)プレファス吉祥寺大通り」であり、そこには施主である荒井商店、ライフサイクルコンサルティング業者としての日建設計の当事者と共に、施工者として岩崎氏も登壇している。

本事例は、国土交通省のBIMモデル事業に採択されたもので、講演に際しては主にライフサイクルコンサルティング業務が分析され、その実情が発表された。ライフサイクルコンサルティング業者としては日建設計が採択され、西松建設が施工を担当している。具体的には、発注者がライフサイクルコンサルティング業者を参画させ、EIR(BIM発注者情報要件)、BEP(BIM実行計画書)、BIM Uses Definitions(BIM利用法)を設計、施工者選定、施工のフェーズごとに援用したプロセスが報告された。発注者自らがBIMの採用と運用に積極的に関わったケースとして各方面から注目を集めた事例となっている。

トリンブルビジネスセンター画像

国産BIMとして優位性を発揮する「GLOOBE Construction」を徹底活用

キーワード「BIMベンダーとのコラボレーション」から福井コンピュータアーキテクトとの協働活動を見てみよう。西松建設では、多くのゼネコン同様、オートデスク社のBIMソフト「Revit」中心に業務に援用している。当該事例である岩手県の流通センターの施工現場でも「Revit」によって生産設計モデルを構築していた。

次に俎上に上がったのが生産設計モデルから土工計画へと援用できないかとの課題であった。その際に着目したのが試験的に導入していた「GLOOBE Construction」であった。ここでは「Revit」からネイティブデータを精緻に出力できる点で「GLOOBE Construction」が優位性を発揮した。BIM推進室の黒川副課長を中心に手掛けた「Revit」による生産設計モデルを正確な掘削モデルへと援用する挑戦を福井コンピュータアーキテクトと協働活動しながら行った。結果、「Revit」と「GLOOBE Construction」の共存のメリットが明らかとなりつつある。

「GLOOBE Construction」を援用する中で、我が国固有の建設プロジェクトの進め方に「GLOOBE Construction」がマッチしているとの認識をもったBIM推進室では、施工BIMの援用範囲を仮設・足場モデルの構築、4Dによる工程管理にまで拡張する計画を立てている。

GLOOBE Constructionから掘削モデルを作成

BIMから掘削データを生成してLand XMLデータによってICT建機へと援用

測量機器やICT建機との連携について概説する。「GLOOBE Construction」では、施工モデルから座標データをCSVデータや※1:SIMAデータとして出力、測量機器と連携して杭芯出し、墨出しが可能となっている。最も注目できるのは、BIMの進展と軌を一にするようにして建設機械メーカーがICT建機によるBIMとの連携に進める中で、福井コンピュータアーキテクトの側でも、「GLOOBE Construction」からICT建機用に最適化された※2:LandXMLデータの出力を実現したことである。

「GLOOBE Construction」から出力したLand XMLデータをICT建機側に入力すると、ICT建機はそれらのデータを掘削データとして認識し、駆動する。これによって従来、発生していた掘削に要する3次元データの変換・修正に関わる手間を大幅に削減することが可能となっている。

※1:SIMAデータ:座標、路線、区画データなどを交換するための電子データの書式で、測量機器やCADソフト間で観測データの受け渡しをする際などに用いられる。CSVデータと同様、表計算プログラムのExcelで作成できる。
※2:LandXMLデータ:土木分野における設計・測量データのオープンなデータ交換フォーマット。

「Revit」のネイティブデータを読み込み可能な「GLOOBE Construction」の優位性

岩手県の流通センターの施工現場での「GLOOBE Construction」の援用に関わる福井コンピュータアーキテクトとの協働活動について報告する。

「Revit」のネイティブデータを「GLOOBEConstruction」で読み込み、土工計画に援用する際に、当初、連携面で課題が発生した。福井コンピュータアーキテクト側で調査すると、BIMソフト「Revit」でのレイヤー設定に問題があると判明、一方で、レイヤー設定を変更すると、数量算出に支障が出たため、IFCデータで検証を行うことで連携が可能なのを確認している。異なるBIMソフト間の深部に関わる問題であるため両社間での試行錯誤が続いている。

「GLOOBE Construction」から出力したLand XMLデータをICT建機に連携する手法についてみてみよう。「Revit」の生産設計モデルをIFC出力してBIM建築施工システム「GLOOBE Construction」に移行、掘削モデルを作成してLand XMLデータとして出力した。使用したICT建機は、コベルコ建機の「ホルナビ3DMC SK200」である。地理空間総合オフィスソフトウェア「Trimble Business Center(TBC)」を用いてLand XMLデータをチェックしている。なお、作成したLand XMLデータを、「Trimble Business Center(TBC)」でチェックをした際にデータに欠落エラーが発生したが、「GLOOBE Construction」のデータを福井コンピュータアーキテクトへ送信し、データ修正を行っている。詳細には、初めの工区では、福井コンピュータアーキテクト側でデータ修正を行い、掘削モデルとして使用したが、次の工区からは、福井コンピュータアーキテクトからデータ不具合の修正方法のアドバイスを受けて、西松建設で掘削モデルとして使用している。その後、ICT建機の位置情報と3次元データを照合比較してICT建機のオペレーターがモニターを確認しながら半自動で掘削作業を行った。

「GLOOBE Construction」と「Revit」との連携時に発生する課題もより明確となった。「GLOOBE Construction」が規定しているGL基準は、BIMソフト「Revit」ではFL基準と規定されている。そのためICT建機用の掘削データを生成する際には、「GLOOBE Construction」側で作成したGL基準のBIMデータと「Revit」から書き出したFL基準の2次元データ(根伐り図)を合成する作業が必要となる。このように両BIMソフトでは基準となるレベルが異なるためヒューマンエラーが懸念されるので、掘削データの作成時に、FL基準でも掘削データが作成できるよう解決策の模索を続けている。

これらの協働活動にみられるように、ユーザーである西松建設の改善要望などは、BIMベンダーとしての福井コンピュータアーキテクトの開発セクションにまで直結して届けられる。「GLOOBE Construction」からのLand XMLデータ出力を可能とし、他社BIMソフトとの連携課題にも速やかに対応するなど「GLOOBE Construction」が国産であるとの優位性が際立っている。

GLOOBE ConstructionからLand XML出力した際のエラー例。
両社で協議を行い、改善策を見出した。

出力したデータで面の欠損が発生

BIM推進室がもつ人財発掘と育成のための拠点としてのポテンシャル

キーワード「BIMによる人財発掘と育成」からBIM推進室の次なる可能性を検証する。BIM推進室を実務面で運営している黒川氏がBIM推進室に着任したのは2022年の春であった。それ以前は四国支店に勤務しており、施工現場において現業を遂行しながらBIM導入にチャレンジしていた。一方で、日々の現業が最優先される施工現場においては、BIM導入というチャレンジを同時並行的に行うのには多くの困難が伴っていたし、地方において新たなチャレンジを続けるのにも限界を感じていた。

そのような現状の中で、建築事業本部の意匠設計部の中にBIM推進室が誕生したのを知った黒川氏は、自ら手を挙げて、BIM推進室への参加を申し出ている。BIMに象徴されるデジタルツールが浸透すれば、建設業のあり方の変革を通じて、社会課題の解決に貢献するべく企業としてのDX戦略にも貢献できると考えたからだ。そのためには単なるBIMの普及だけに留まることなく、BIMが現業の生産性向上などにも寄与すると、多くの人々にメリットを理解してもらいたいとの強い思いでBIM推進室入りを希望した。

著名な大学の建築学部を卒業した有意の学生が建設業界ではなく、外資系のコンサルやGAFAに職を得ているケースに遭遇したことがある。建築こそがBIMに象徴されるデジタルとリアルを統合、デジタル・ツインの実現によって多くの社会課題を解決できる最もユニークな産業だと業界をあげて喧伝する必要もある。西松建設ではホームページにおいて、求める人物像として、「現場力」に共感できる人財と掲げている。前述した日建連での講演事例にあるように、BIM推進室の先進的な活動状況が社内外に伝播していく中で、黒川氏に象徴されるような、次代を切り開く人財の発掘も続くだろう。高野氏がBIM推進室に参加したのは2021年8月のことだ。文系の出身で、建築の専門知識に留まらず、BIMを含めて全てが初めての経験だった。BIM推進室での1年余の実務経験を経て、便利なBIMだからこそ、積極的に使うべきだとの思いを強くしている。高野氏はBIM推進室を支える貴重な戦力となった。

コロナ禍は好むと好まざるとに関わらず、さまざまな産業分野でテレワークを広めた。BIMソフトもネットワーク対応を進める中で、分散運用も可能となった。妊娠、出産を経て一時的に離職した女性が自宅でBIMモデル構築や変更作業などを行う事例も出現するなど、BIMソフトは女性の活躍の範囲を拡げる可能性を秘めている。BIM推進室はBIMを運用する新たな職能を育成し、女性の活躍の場を提供するポテンシャルももっている。

取材記者/建築ジャーナリスト 樋口 一希 氏
2022年12月

岩崎 昭治西松建設株式会社
建築事業本部 意匠設計部
BIM推進室 課長

黒川 和孝西松建設株式会社
建築事業本部 意匠設計部
BIM推進室 副課長

高野 陽西松建設株式会社
建築事業本部 意匠設計部
BIM推進室

西松建設株式会社

■代表者/髙瀨 伸利
■所在地/東京都
■創業/1874年(明治7年)
■設立/1937年9月
■事業内容/建設事業・開発事業・不動産事業 ほか
■type/建設会社
■BIM starting/2022年4月

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