Revitのエキスパートが法規チェック機能で『GLOOBE』を検証
株式会社安井建築設計事務所は、1924年(大正13年)、安井武雄によって創設された歴史ある建築設計事務所である。大手組織事務所として、ただ紳士然としているかというと、進取の商いへの強い気概も感じることもできた。進取の気概といえば、組織建築設計事務所の中でも、早期にオートデスクのBIMソフト「Revit」の導入に踏み切り、設計実務のデジタル化への挑戦を続けている。
ここでは、前段として日刊建設工業新聞の記事から安井建築設計事務所のBIM活用の一端を概説する。
その後、本題として、Revitを基軸のBIMソフトとして運用し、Revitのエキスパートとしても知られる安井建築設計事務所が福井コンピュータアーキテクトのBIM建築設計システム「GLOOBE Architect 2022」採用に至った背景を探るべく、繁戸様・戸泉様・竹内様よりお話しを伺った。
設計の射程距離を建築物全般のマネジメントビジネスへと拡張
2015年12月に「BIMの課題と可能性」で最初に取り上げたのは、Revit対応の意匠設計用BIMテンプレート・ライブラリを開発、販売している事であった。キーワードは、標準化と公開性である。テンプレートによる設計工程の標準化とライブラリによる部材共有ができれば、設計者間の効率的な協働が可能だし、そのためには建築の専門内部にもノウハウを開いていく公開性が必須となるからだ。建築設計事務所であると共にシステムハウスとして機能して自社のノウハウも開いていく。組織の壁もやすやすと越えていくデジタルの優れた流通性と可用性を最大限に活かそうとする挑戦である。
次いで報告したのは、設計から施工に至るまでBIMを連続的に援用し、仮想的な竣工も実現した「加賀電子本社ビル」(千代田区)のケースだ。設計事務所として創る=「設計BIM」を、建てる=「施工BIM」、管理する=「FM(ファシリティマネジメント)・BIM」に切れ目なく援用する先駆的な事例だ。BIM-FM連携のベースとなる設計施工段階でのBIM運用の実際を紐解いている。続くのはBIM-FM連携を更に拡張する挑戦だ。建築設計の射程距離をFMの知見を用いて、不動産の運用・管理にまで伸延する。安井建築設計事務所が目指すのは、BIM-FM連携によって設計(者)のマネジメント力を強化し、クライアント=広く社会に向けた新たなソリューションを提供するマネジメントビジネスの構築だ。
ここまで見てきたように安井建築設計事務所では、Revitを基軸のBIMソフトとして位置づけ、設計(者)の能力を建築物が「創るから建てる、管理する、運用する」へと拡張する試みを続けている。本題に入ろう。
そのようなRevitのエキスパートである設計集団が何故、GLOOBEの採用に踏み切ったのだろうか。キーワードは、建築基準法へのネイティブ対応とRevitファミリの読み込み機能である。
Revitのネイティブデータを用いてGLOOBEで法規LVSチェック実行
安井建築設計事務所では、前述したようにRevitを基軸のBIMソフトとして用い、基本設計における3次元建物モデルを入力、運用しているが、その際、特に手間のかかる採光、換気、排煙、関連の法規チェックと作表作業については人力で行わなければならないとの課題が潜在していた。
そのためRevitをベースにした法規チェックシステムの自社開発も行い運用したが、Revitのデータ構造と機能の仕様上、Revit APIを使用し開発したアドインプログラムでは、どうしても手入力する部分が残り、操作性に課題が残った。そのため真に使いやすいツールにするには大規模な開発が必要で、一社単独の開発には限界があるとの判断に至っていた。
そのような背景を受けて、検証の対象に挙がったのが国産のBIMソフトとして建築基準法対応に定評のあるGLOOBEであった。そこでRevitによる3次元建物モデルを用いてGLOOBEの法規チェック機能を援用できないのか。特に多くの部屋を有する病院建築などでは、GLOOBEの法規LVSの自動化の効果が発揮しやすいのではと考え、検証に着手した。
具体的には、以下に的を絞って検証を行うこととした。第一には、GLOOBEがRevitのネイティブデータをどの程度、読み込め、GLOOBEのオブジェクトとして再現できるのかであり、次いでGLOOBEが読み込んだRevitのネイティブデータからどの程度の精度で採光、換気、排煙のチェックができるかである。最終的には、GLOOBEが読み込んだRevitのネイティブデータを基に実施した法規LVS=「有効採光計算(Light)」「換気計算(Ventilation)」「排煙計算(Smoke)」の法適合度、正確さを検証することとした。
GLOOBE側の仕様で再設定+[法規LVS]コマンドを起動でチェック開始
検証の前提となるが、GLOOBEでは、Revit固有のネイティブファイルであるRVTファイルを読み込むことができる。これによって確認申請業務において必須の法規チェック時の居室判定や法規LVS判定に援用できる。GLOOBEがRevitのネイティブデータをどの程度、読み込めるのかの検証については、同時に、Revitから中間ファイルのIFCを経由してArchiCAD(グラフィソフト)、RevitからBricsCAD(図研アルファテック)への変換とオブジェクトの再現性をチェックしたが、図面の再現性、属性とBIMオブジェクトの変換と再現性では、RevitからGLOOBEが群を抜いているとの結論を得ている。
RevitのネイティブデータをGLOOBEに読み込んだ後に法規チェックを行うまでの過程を見てみよう。GLOOBEの[Revit読み込み]コマンドを用いて、Revitで構築した3次元建物モデルを読み込み、スぺース、建具といった情報をセットするなど、法規チェックを行うための前準備を行う。
前準備の一例としては、Revit固有の仕様をGLOOBEの仕様に置き換える作業も必要だ。ここでは詳細を省くが、Revitは階に相当する[レベル]という概念を持っている。Revitの[レベル]とは、有限の水平面で、屋根、床、天井などのレベルに依存する要素の参照面となる。Revitでは、メニュー[建築]タブ=>[基準面]=>[レベル]コマンドで各階のレベルや基準面(1階、壁の上端、基礎の下端など) を作成する。それらレベルに基づき、GLOOBE側の仕様である設計GLと階の設定を行っていく。それら前準備が完了したら、法規LVS=チェックを実行するための計算条件を以下のような手順で入力する。
最初に用途地域・境界線の設定では、[法規LVS]コマンドを起動し、使用するデータの確認を行った後に、用途地域、敷地境界線、道路境界線、隅切りの入力を実行する。その後、一例として「有効採光計算(Light)」では、採光換気対象室の指定、採光換気区画を入力した後に、区画の連結、開口面積の算定、判定を確認へと移行、実行する。
上記のような手順を経て、GLOOBEで法規LVSチェックを行った結果、法適合度、正確さにおいても、建築確認申請の実務に十分に耐えうるものとの結論を得るに至っている。
異なるBIMソフトを組み合わせ共生させて運用する共創段階
GLOOBEでは、RevitのRFA(Revit Family)ファイルの読み込みが可能だ。Revitファミリの読み込み機能については、建具、壁、天井について実行した。安井建築設計事務所では、それら部材については、主に概算に必要な属性データを中心に付与する。一例として壁ファミリにおいては、壁は天井またはスラブまでなのか、遮音性能があるのかなどの属性データも付与している。
GLOOBEのRevitファミリの読み込み機能を用いて部材を読み込むと、GLOOBE側では、部材の有する属性データを保持しない汎用部品となる。 福井コンピュータアーキテクトの開発セクションからは、Revitファミリの読み込み機能の今後の拡張については検討を続けていると回答を得た。
Revitのエキスパートである安井建築設計事務所がGLOOBEの有するRevitのRVTファイルの読み込みと法規チェック機能に着目し、GLOOBEを試験導入したことの意義を考えてみる。どのBIMソフトによって構築された3次元建物モデルでも優れた流通性と可用性をもっている。BIMを取り巻く状況は、3次元建物モデルの優れた流通性と可用性を最大限に生かして、得意分野の異なるBIMソフトを組み合わせ、共生して運用する共創段階に入ったといえよう。
■取材記者/建築ジャーナリスト 樋口 一希 氏 2022年6月