GLOOBE Construction & GLOOBE Architectで施工図作成から現場ミーティングまで幅広く展開
大阪市の三和建設株式会社は、創業76年の総合建設会社である。ゼネコンとして幅広い建設事業を展開する一方で、3つの専門分野に特化した独自ブランドを立ち上げ、事業の新たな三本柱として推進している。すなわち食品工場建設の「FACTAS」、集合住宅の「SI200」、倉庫建設の「RiSOKO」という3ブランドで、同社はこれを主柱とするユニークなブランド戦略を展開している。このようなチャレンジ精神は新技術に対しても発揮され、たとえばBIMの導入にも積極的だ。設計部門でもBIMの活用が本格化する中、工事部門においても、GLOOBE Constructionをメインツールに施工BIMの導入・活用が急ピッチで進んでいる。同社で施工BIMの運用を牽引するFL室の皆様に、その取り組みの詳細について伺った。
フロント・ローディングを施工BIMで
「FL室なんて聞き慣れない名称だと思いますが、“FL”とは“Front Loading”。工事部門におけるフロント・ローディング推進を担い、着工前の施工検討や施工図作成等を行っています。正式な発足は2022年11月。できたばかりの組織です」。そう語るのは、このFL室を率いる室長の福山順司氏である。新人の頃から工事畑を歩み、現場経験も豊富な福山氏は、11年前からこの工事部門におけるFL研究を担当してきた。そんな福山室長に、なぜ工事グループでフロント・ローディングが求められたのか聞いてみた。
「工事現場では役所に提出する書類や図面について、着手前に多くの打合せが必要になります。ところがその時期、現場所長は他現場に忙殺され打合せ時間がなかなか取れません。そこで先行してさまざまな作業を済ませる、フロント・ローディングという発想が生まれました」。このフロント・ローディングへの動きが進むなか注目を集めたのが、当時すでに部内で研究が進んでいた施工BIMだったというわけだ。福山氏と共にFL室を牽引する光森進一郎氏は語る。
「2019年夏頃、この業界でも働き方改革が叫ばれ、業務効率化と共にその推進が大きな課題になっていました。当時、施工図作成を担当していた私は、この課題について上長と話すうち、BIMによる施工図作成という考えにたどり着いたのです。図面の歴史は手書きから2D CAD、そして3D CAD、BIMと進んできたのですから、BIMを目指すのもある意味自然でした」。こうして光森氏らによる施工BIMの研究が始まった。その第一歩は「BIMって何?」だったのである。
「とにかくまず“BIMで施工図を作る”ことについて学ぼうと考え、或る大手ゼネコンにお願いして、そこの施工図作成を一手に引き受けている会社を見学に行きました」。その会社ではすでに全面的にBIMを導入して、BIMによる施工図作成を行っていたのである。ところが彼らが使っていたのは海外製のBIMソフトだった。「それを見て、当社はどうしよう? どのBIMソフトを選べば良いのか?となったわけですが、重要な問題だけに決めきれず、もっと勉強しようということになって……で、今度は別の大手ゼネコンのフルBIM現場を見学に行ったのです」。そこで確認申請から施工そのものまで、BIMとBIMデータの幅広い活用を目のあたりにした光森氏は「これは本当に大変だ」「何を選べば……」とさらに深く悩むことになったのである。
J-BIM施工図CADマジック
(GLOOBE Constructionの前身)
当時、光森氏らが導入の選択肢として挙げていたBIMソフトは、2つの海外製品とJ-BIM施工図CADで、光森氏らはこの3製品の比較検討を進めていた。それでもなかなか決められずにいたが、そんな時たまたまJ-BIM施工図CADのデモを見る機会があり、それを機に光森氏らの思いは一気にJ-BIM施工図CADへ傾いていったのである。
「なにしろJ-BIM施工図CADでパパパパーン!とあっという間に3Dmodelを作り、施工図を描きあげるんです。デモですから、そういうものだとは思っていましたが、見ていると“おいおい、これはマジックか!”と思わずにいられないほど凄いのです。それまで迷いに迷っていたのに、一気に“これ、いいよね!”と購買意欲が高まってしまいました(笑)」。こうしてJ-BIM施工図CADの導入が決まった──と光森氏は笑う。しかし、これは単にデモに幻惑されたからではない。そこには明確な理由があったのである。
「見学させてもらった施工図制作会社では、たくさんのオペレーターが海外製BIMソフトを使って施工図を作っていました。裏返せば、その製品は操作が広範囲にわたるため技術者が一人で使うのは難しく、専任のオペレーターが必要だったということです。しかし、J-BIM施工図CADなら技術者1人である程度のモデルを作り、図面を仕上げられるわけで……私はそこに魅かれました」。こうしてJ-BIM施工図CAD導入を決めたFL室だっが、問題はその先にあったと光森氏は言う。
「導入だけならツールを選んでお金を支払えば済みますが、難しいのはその先。いかにそれを継続させるか? です」。つまり、いかにして工事グループの皆にJ-BIM施工図CADを使ってもらい、施工BIMを工事グループ全体に定着させるかだ。そのためには皆に施工BIMを理解させ、J-BIM施工図CADを使ってもらうしかない。光森氏はそう考え、BIMのWebセミナーを次々受講し多くのBIM専門家の話を聞いた。その上で「この人こそ!」という講師に連絡を取り、協力を依頼したのだと言う。
「とにかく本当に当社工事グループにBIMを定着させたいので、定期的にBIM講習をやってほしいと話したんです。そして、約60回分のプログラムを立て“灼熱BIM塾”と名付けてスタートしました。今ではこれが第50回まで続いています」。
BIMのメリットを作業所へ還元していく
こうして月2回じっくり半日かけてBIMについて学ぶ「灼熱BIM塾」は順調に回を重ね、BIMを理解しGLOOBE(2022年2月16日 GLOOBE2022リリース)の操作を学ぶ者も増えてきた。FL室ではこのBIM塾を継続する一方で、施工BIMの運用についても、あくまで施工図作成を中心としながら徐々に幅を広げつつある。
「設計グループが海外製BIMソフトを使っているので、残念ながら現状、施工BIM側とのデータ互換は確立できていません。なので施工図作成は、GLOOBE Constructionに一から入力してモデルを作り、施工図を描いています。また、平面詳細図についてはGLOOBE Architectも使っています」(光森氏)。今後は設計グループの全面BIM化に合わせて、さらに自社物件全ての施工図作成をGLOOBEで行っていきたい。だが、だからと言ってFL室としての施工BIMへの挑戦をそこまでで留めるつもりはまったく無い。
「結局、現場に送る施工図は2次元になってしまいますからね。紙の図面で業者さんに渡して拾い出しとかしてもらうわけですが……でも、そこで終わってしまうと面白くないし、勿体ない。だからいまは、せっかく作ったBIMのメリットをどうやって作業所へ還元していくかが大きなテーマになっています」(福山氏)。このテーマに基づいて、最近始まった新たな取り組みの一つが施工検討会等でのBIMの活用である。つまり、現場との施工検討会でPC画面にBIMモデルを映し出し、“細かい納まりはこうなります”等とビジュアルに説明しようというわけだ。
「実は今日もある現場の基礎伏図が完成したので、現場所長とオンラインミーティングを行い、BIMを使って説明しました。で、“埋設配管がここにあります”とBIMモデルで説明したのが“分かりやすいね”とたいへん好評でした。埋設配管なんて平面図で見せても高さ関係など判りませんからね」(福山氏)。こうした形でBIMのメリットを現場に体感してもらい、いずれは現場スタッフが自らBIMを活用するようになってもらおうという考えだ。「作業所でも、協力業者との打合せやお客様への説明等に使ってもらおうと、GLOOBE Model Viewerと共にモデルを渡したり、現場を巻き込んでいく動きを本格化しています」。福山氏によれば、現在、FL室が絡んで施工図など何らかの形でBIMを活用しているプロジェクトは8件ほどあり、他にもBIM活用を提案中の新規案件が12件ほど動いていると言う。これらBIM案件でGLOOBE操作を担当して中心的に活動しているのが、FL室の若手コンビ、六嶋瞬氏と谷邑真緒氏である。
BIM施工本格化への助走
「私自身はFL室ができる前、まだ灼熱塾すら始まる前からの参加だったので、J-BIM施工図CADの操作は独学で身に付けたんですよ」。そう言って笑うのは、工事グループ出身で以前は現場にいたという六嶋瞬氏である。現場勤務時代は施工図製作の経験は少なく、CADに触れる機会自体ほとんどなかったと言う。「それどころかBIMの概念も知らなかったし、施工図上での納まりも理解してなくて……最初は何とか結果を出そうとしてもがきましたね。ただ、それはJ-BIM施工図CADの操作が難しかったというわけではありません」。実際、操作の修得は独学ながら半年かからなかった、と六嶋氏は語る。J-BIM施工図CADの操作はむしろ分りやすく使いやすかったが、問題は建築の「納まり」で、これがなかなか理解できずに悪戦苦闘したという。一方、もう一人の谷邑氏も現場勤務の工事グループの出身者である。
「私がFL室に参加したのは2022年の8月からですが、やっぱりBIMとの出会いはそれが初めてでした。でも、私の場合、すでに灼熱BIM塾が始まっていたので、受講できたんです」。さすがに最初は内容がほとんど理解できなかったが、FL室での日常業務で頻繁にGLOOBEに触っていたこともあり、操作はやはり半年弱で修得できたと言う。「私も問題は納まりですね。これは今もまだまだ勉強中です。でも、全然分からなかったBIM塾の講義には付いていけてますよ」。この谷邑氏と六嶋氏が、前述の通りFL室の施工BIMの実戦部隊として、施工図作成はもちろん事前検討での提案等も行うようになっている。実際、六嶋氏は最近初めて、意匠、構造、設備までGLOOBE Architectでフルにモデルを作るプロジェクトに参加したと言う。
「それ以前はモデルは土から下の部分だけ作るだけで停まっていたんですが、今回は全て作らせてもらい、大きな驚きがありました。というのは、様々な部材や構造関係を入れていくと、これまで2Dだけでは見えてなかったような部分が見えてきたんです」。たとえば構造の部材と設備の開口の干渉など経験の浅い若手には想像し難い問題箇所も、一目瞭然で発見できたのだと言う。それを事前に作業所と打合せておくことで、時間も手間も大いに節約できたのである。
現在では、初期段階からFL室が参加して進める物件では、作業所とFL室が週1回オンラインで打合せてモデルの出来形や施工図の進行状況、問題点等について、モデルを確認しながら話し合うスタイルが定着し始めたと言う。いずれはこれを全作業所へ広めていくのが、次の目標だと福山氏は語る。また、関東地区の食品加工場プロジェクトで、FL室の施工モデルに加え、設計グループの意匠モデルや鉄骨会社の鉄骨モデルまで、全て取りまとめて活用するフルBIM現場も着工した。まさに今年は、三和建設にとってBIM本格化の元年となるのかもしれない。最後に光森氏と福山氏に「これからBIMに取り組む方」へ、アドバイスをいただいた。
「私の知人にもBIMという聞きなれない言葉に“アレルギーを感じる”と言う方がいらっしゃいました。“試しに一度、気楽な気持ちでBIMソフトにふれてみては?”とお話したことがあります。そして“気楽に始めるなら、パパーンと使えるGLOOBEがお勧めですよ”と(笑)」(光森氏)。
「BIMによる設計施工は既存のそれと180度異なります。全社で実現するには、会社の仕組みを変えるくらいのパワーが必要です。一人では無理なので、先へ先へと手を打ちながら理解者を増やしていくことが大切です」(福山氏)。
取材:2023年5月
室長 福山順司氏
着手までに施工図を完成させることが主柱と考えています
後はBIMのメリットをどうやって作業所に還元していくか?ですね
光森進一郎氏
BIMを使うことで若手の建築への考え方は一新されています
そこへ我々の経験値を加えれば効率も大きく向上しますよ
六嶋 瞬氏
現場の負担を軽減するためBIMも点群もどんどん活用します
「これで助かったわ!」っていう現場の声が聞けるまで
谷邑真緒氏
FL室で担当した物件が、来年5月に初めて建物として完成します
竣工したらそれを東京まで見に行くのが、今の目標です