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最初にBIMのメリットとして明らかとなった設計情報の共有・見える化

鴻池組の大阪本社を訪ね、黎明期のBIMの状況を「BIMソフトと設計者の連携」として建築関係のメディアで報告したのは2014年4月であった。2023年7月に開催された「GLOOBEフェス2023in名古屋」において「鴻池組のICT/BIM活用事例~今までのBIM・これからのBIM~」の講演を拝聴し、内田公平氏(建築事業総轄本部工務管理本部技術統括部ICT推進課課長代理)を再訪。その後9年余のBIMの経過と現況、今後の新たな方向性について伺った。

最初にBIMのメリットとして明らかになった容積率の確認など設計情報の共有・見える化

 鴻池組では、2013年にICT推進課の前身であるBIM推進課を立ち上げ、設計段階でのBIM援用を進めた。設計者の試用を経て、設計者自らが使うBIMソフトとして福井コンピュータアーキテクトの「GLOOBE」を選定した。BIMソフトの運用、管理システムを構築し、スキルアップ教育にも着手している。
 最初にBIMのメリットとして設計情報の共有と見える化が明らかとなる。BIMモデルを構築し、ボリューム検討からパース作成を行う過程で、即座に面積・容積率の確認やチェックが可能となり、設計品質の向上が実現した。建築基準法に付随する日影・天空率・逆日影計算などが「GLOOBE」内で可能となり、設計効率も改善されていく。構造計算に基づき構造モデルを構築、プレゼンツール「リアルウォーカー」に展開、構造の課題を早期に発見するなど、3次元モデルの見える化効果を最大限に活用した。

即運用出来る施工現場のICT連携

BIMと他のデジタル技術(ICT)を連携して援用するICT推進課を中心に建設業の未来像提案

 総合建設業として設計から施工へと一貫してBIMを援用し、他のデジタル技術(ICT) と広範に連携するためICT推進課を2017年に設立した。ICT推進課では、日本建設業連合会主宰の「魅力ある建築生産の場づくり・人づくり」をテーマにしたアイデアコンペで「Craftsman NEO(クラフトマンネオ)」を発表し、高い評価を得ている。
2025年の大阪万博を目途に、ICT技術と古来からの匠の技を組み合わせ、伝統技術を新たに生まれ変わらせる挑戦だ。そこでは、コミュニティーツール、ロボット、AI、ドローン、3Dプリンタ、クラウド、ウェアラブル端末、スマートグラスからなる先端技術を用いた建設業の未来像を提案した。

Craftsman NEO(クラフトマンネオ)

設計施工の各フェーズでのBIM援用の成果をエビデンスに基づき組織内で共有・見える化

 設計フェーズでのBIM援用案件においては、エビデンスに基づき組織内で成果を共有し、見える化するべくモデル作成、一般図作成、申請図作成、実施図作成、干渉チェック、デザイン検討、シミュレーション、3D模型、モデル合意、パース作成、アニメ作成、VR利用、構造積算渡し、統合モデルの14項目からなる案件追跡表を整備している。
施工フェーズでのBIM援用案件では、仮設、解体、杭・掘削・山留、基礎・逆打、RC躯体、免震、鉄骨、外壁・外部建具、設備、昇降設備、内装・内部建具、シミュレーション、外溝、VR、3Dプリンタの15項目を設定、施工現場ごとの動向から個々の現場での取組状況までを見える化、共有している。

地上での3次元スキャン+ドローンでの空撮で得られた点群データを改修工事などに活用

 国土交通省による「i-Construction」での点群データの活用推進を受けて、ICT推進課においてもBIMと他のデジタル技術(ICT)を連携するBIM/ICTともいえる技術領域の援用が進んでいる。点群データの活用が急進する背景には、点群アシスト機能追加という「GLOOBE」の改良も寄与している。
地上からの3次元スキャンでは、現況の躯体を残した状態を撮影し、設備の検討を行うなど改修工事に利用している。精度確認(出来形確認)時には、点群データとBIMデータの比較や点群データと図面データ(断面・展開など)の重ね合わせに利用する。ドローンの空撮は、敷地内の土量の確認に有効で、点群データと敷地図を重ねて配置検討や建物確認(図面との差異)にも利用している。

「これからのBIM」に必須なBIMデータプラットフォーム構築を担うマトリックス戦略

 9年間に及ぶ鴻池組のBIM援用を「今までのBIM」として報告したが、続けて「これからのBIM」について概説する。講演の冒頭で内田公平氏は、7月から本社のデジタル戦略室デジタル戦略部デジタル戦略課を兼務すると発言している。内田公平氏が担う新たな職能を通して鴻池組が目指すデジタル戦略を紐解きつつ、総合建設業におけるデジタル戦略とは何かを俯瞰してみよう。
BIMの推進と共に、建設プロジェクトに関わる情報の見える化と共有が実現し、中でも図面・工程間の整合性の確保は、大きな成果として現実のものとなった。一方で、二次元図面へのこだわりに見られるように、従来の業務プロセスをそのままデジタルに移行した中途半端なデジタル化となった側面もあった。そこでBIMに象徴される建設のデジタル化は、業務全体に関わるプロセス改革であると宣言し、ICT連携などを推進している。
 業務プロセスの改革に着手し、次なるテーマとしてデータベース化とプラットフォーム化を視野に入れる中で、2023年になると人工知能=AI「ChatGPT」が登場し、広く社会全般での利活用が進んでいく。建設分野でのAI=人工知能の利活用を展望する中で、鴻池組では2023年を目途に、データベース化+プラットフォーム化をより進化させるために人工知能=AIを基盤としたBIMデータプラットフォームの構築を計画している。
2030年を目途に、デジタル化した建設業、デジタル・ゼネコンともいえる将来像を現実のものとして結実するために最も重要なのは、人材の育成である。そのためデジタル戦略課では、建設業全般に関わる業務プロセスを横串しとして、それらを多様なデジタル・スキルによる縦串しで貫くマトリックス戦略を立案、それらを担う人材育成を進めていく。
マトリックス戦略を担う人材を、より具体的にイメージしたのが、前述した日本建設業連合会主宰の「魅力ある建築生産の場 づくり・人づくり」をテーマにしたアイデアコンペで発表した「Craftsman NEO(クラフトマンネオ)」である。ロボットやAIが人々の生活や仕事をアシストする社会が現実のものとなる中で、建設業においても、コミュニティーツール、ロボット、AI、ドローン、3Dプリンタ、クラウド、ウェアラブル端末、
スマートグラスからなるDXツール「Smart Assist Eight」を装備した「Craftsman NEO(クラフトマンネオ)」が活躍することになる。

『施工』フェーズ1 BIMメニュー

鴻池組の業務改善+福井コンの製品改良の枠を超え戦略的パートナーシップを締結

総合建設業におけるデジタル戦略を加速化するべく、鴻池組では、福井コンピュータアーキテクトとのコラボレーションを更に強化している。
 具体的には、鴻池組と福井コンピュータアーキテクトは、「建設業の働き方改革」と「建築物の設計・施工・維持管理に係る生産性向上」に関するビジョンを共有し、創業から150年にわたって培われた鴻池組の高い技術力と、福井コンピュータアーキテクトの純国産BIMシステム「GLOOBE」に裏付けされた開発力を掛け合わせ、生産プロセスの実践に即したシステム構築により建築分野における生産性向上を達成するために、2021年7月に戦略的パートナーシップを締結している。
両社は、戦略的パートナーシップを鴻池組の業務改善や福井コンピュータグループの製品改良の枠を超え、ICT活用による建築分
野における生産性向上の実現に資する取組
と位置付けている。
 戦略的パートナーシップによる主な取り組みは次のように公表している。
◇ 設計から積算・施工・維持管理まで、それぞれのプロセスにおいてテーマを設定した共同プロジェクトを立ち上げる。
◇ 福井コンピュータグループは、福井コンピュータアーキテクトのBIMシステム「GLOOBE」を始めとするグループの製品・サービス等を共同プロジェクトに提供し、共同プロジェクトはこれを活用してシステム構築の研究を行う。
◇ 共同プロジェクトによる検証結果を分析し、システム構築の効果と課題を検証する。
◇ それらの検証を基に、建築分野における生産性向上を達成するシステムとなるよう製品の改良を行う。

GLOOBEとのICT連携

建築プロセス全般の業務改革と生産性向上を目指して「Japan-BIM Connect」を設立

福井コンピュータアーキテクトでは、「GLOOBE」のユーザー会である「J-BIM研究会」を会員共々、運営してきたが、更なる発展を目指して2023年4月に「Japan-BIM Connect」へと改組した。「Japan-BIM Connect」への改組に伴い、前身の「J-BIM研究会」で副会長を務めていた内田公平氏は新組織の会長に就任した。
 「Japan-BIM Connect」は、その目的を名称にも託しているように、GLOOBEユーザーの繋がり=「Connect」をベースにして、建築実務者の役に立つ日本の実情に合った「Japan-BIM」を確立し、建築プロセス全般の業務改革と生産性向上を目指している。
 主な活動内容は、会員専用サイト(TIPS・動画集)を通じたGLOOBEシリーズのノウハウや解決策の共有、各種イベントを通じたGLOOBEシリーズの最新情報収集とユーザー・開発間の親睦、意見交換、各種ワーキング活動を通じたGLOOBEユーザー会員同士の相互の研鑽、研究、成果発表などとなっている。

Japan-BIM Connectでのセミナー

ユーザーの要望を開発スタッフに直接届けられる国産のBIMソフトならではの優位性

 BIMソフトは、ベンダーとユーザーとの密接な情報交換と協働があってこそ改良(バージョンアップ)を継続できる。鴻池組が福井コンピュータアーキテクトと戦略的パートナーシップを締結した背景には、ユーザーの意見、要望をベンダーの開発スタッフに直接、届けられる国産のBIMソフトならではの優位性がある。内田公平氏は、共著として「BIMをもっと活用したい人のための Autodesk Revit ファミリ入門」(エクスナレッジ刊) があるなど、BIMソフト「Revit」への造詣も深い。そのようなバックボーンを持ちながら、内田公平氏が中心となり鴻池組がBIMソフト「GLOOBE」の導入と積極運用を決断したのは、ひとつにはBIMソフト「GLOOBE」が我が国固有の建築基準法に準拠していることであり、次いでBIM施工支援システム「GLOOBE Construction」の市場提供に見られるように、建設会社の重要な生産拠点である施工現場の生産性向上にダイレクトに直結するからである。

GLOOBEユーザー会 「Japan-BIM Connect」を設立

 

取材記者/建築ジャーナリスト 樋口 一希 氏
取材:2023年7月

内田 公平建築事業総轄本部工務管理本部技術統括部ICT推進課
課長代理

株式会社鴻池組

■社名/株式会社鴻池組
■代表者/渡津 弘己
■所在地/大阪府大阪市
■設立/1918年6月
■事業内容/ 建設工事の企画・測量・設計・監理・請負およびコンサルティングほか
■type/総合建設会社
■BIM starting/2014年04月
■Tool/
・GLOOBE Construction
・GLOOBE Architect
・GLOOBE VR
・TREND-POINT

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