REAL4+GLOOBEによる「見える化」から始まる鉄骨ファブリケーターの新たなBIMチャレンジ
新潟県五泉市に本社を置く株式会社ミツヒデは、建築鉄骨の製造、組立てを主力とする鉄骨ファブリケーターである。野鍛冶の始祖に創業88年という長い歴史と豊富な実績には定評がある。実際、新潟県五泉市の本社周辺には総計3つの工場を展開。北海道から富山、新潟、東京、和歌山等々、広く全国へ展開している。同社では早くから鉄骨設計に3D CADを導入し3次元設計を展開してきたが、現在、新潟駅で進んでいる大型プロジェクト「新潟駅万代広場整備計画」への参画が決まり、これを機にGLOOBE Constructionの導入を決定。BIMの導入と活用を開始した。鉄骨ファブリケーターにとってBIMとはどのようなものなのか? みずからGLOOBEを操作し、取り組みを進める同社取締役工務部長の竹石誠氏にお話を伺った。
新潟駅前万代広場整備工事でのチャレンジ
日本海側の町を代表する都市・新潟では、現在、新潟駅周辺整備事業の大規模な工事が進んでいる。すでに鉄道在来線の高架化や3本の立体交差道路新設を含む都市計画道路整備を完了し、現在は駅前広場整備事業のうち「新潟駅の顔」とされる北口・万代広場(約18,500㎡)の整備工事が最終段階を迎えている。この万代広場整備工事の大きな特徴の一つとなるのが、広場東側に建設中の新しいバスターミナルの乗降場で、利用者を雨雪から守るガラス屋根(シェルター)の存在である。上向きに開いた傘のような、開いた花のような形状の支柱上にはガラス屋根が載せられ、その連なりによって新潟の豊かな自然を象徴。モニュメンタルな空間を演出している。新潟県五泉市に本拠を置く株式会社ミツヒデが、このビッグプロジェクトに参加することになったのは今年2月のことだった。
「当社がこの万代広場の現場で作ることになったのは、ガラス屋根(シェルター)の支柱にあたる部分です。それは上向きに開いた傘のような、樹木の枝が伸びたようなユニークな形状で、私たちのような建築鉄骨をメインとする鉄工所があまり手がけたことのない、きわめて難度の高いものでした」。そう語るのはミツヒデで取締役工務部長を務める竹石誠氏である。竹石氏の見たところ、この製作作業には、通常以上に手間も時間もかかってしまうことが明らかだった。
「しかし、当社は“だからこそ”やるんです」と竹石氏は笑う。「できないものはない」を標榜する社長のもと「修業のために何でもやろう!」と指示が飛んだのである。
「実際、当社にとって非常にチャレンジングな仕事でした。当社設計部門のメインツールは“REAL4”という鉄骨専用CADなのですが、検討していくとこのREAL4だけではやりきれないことが分かってきたのです」。特に鋳物部分の取合いなどREAL4だけで検討するのは難しく、より高機能なツールが必要だと結論されたのだ。そして設計部門では、構造BIMソフトの“Tekla Structures”の導入を決め、万代広場の現場では、これを中心に運用していくことが決められた。
こうしてミツヒデ設計部門では、導入したばかりのTekla Structuresをメインツールとする新たな設計体制が動き始めた。だがその一方で、竹石氏は別の問題が気になっていた。すなわち、特記に『3次元組立精度を必要とする架構の製作・施工計画の立案が可能な者とする。』と記載されていた。そのため工事の進行にあたっては、この製作・施工計画の内容を、発注元にも早い段階で正確に伝えていく必要があった。そのため、この「施工計画をどう見せていくか?」という問題が、大きくクローズアップされることになったのである。
異色のキャリアを持つ「鉄骨屋」
万代広場の施工現場に隣接する新潟駅は、朝夕の通勤通学時はもちろんそれ以外の時間帯も、鉄道利用者の交通量が非常に多い。バスやタクシー等の侵入はこそ規制されているものの、徒歩の利用者のために現場すぐ脇に通路が確保されている。約18,500㎡に及ぶ現場敷地はこれらの通路で複雑に区切られ、工事の作業スペースは決して余裕がたっぷりある広さとはいえない状況だ。そんな作業場の何処に、どういう順番で資材を運び込んで配置し、どこに重機を据えてそれをどのように動かしながら、安全かつ迅速に工事を進めて行くか。──作業はパズルにも似た複雑な段取りが必要になると予想された。その施工計画を精密に作りあげるのはもちろん、施工そのものの内容に関しても、誰もが理解しやすいように伝えていく必要があった。
「とにかく支柱の施工計画を練り上げて、その分かりやすい計画書を作る必要がある訳ですね。最初はこの計画書も設計担当者がTeklaを使って作るんだろう、と思っていましたが、よく考えると、設計者でも慣れないTeklaで3Dの施工計画を考え、計画書まで作る余裕は無さそうです。これは私に回ってくるな、と思ったわけです。そこですぐにGLOOBE Constructionを導入しようと考えました。これを機にBIMの手法を活かしながら“見える化”を進めていこう、と言うわけです」。──ここまでお読みいただいた読者の脳裏には、いま多くの疑問が湧いているのではないだろうか。自ら「鉄骨屋」を称する竹石氏が、なぜ見やすい施工計画書の必要に気づけたのか? なぜGLOOBE Constructionを知り、選ぶことができたのか? また、初めて触れるGLOOBEを使いこなせると考えたのか?
「答えは簡単です。実は私はミツヒデへ中途入社した人間で、現場監督もやった技術者だったんですよ」。そう語る竹石氏によれば、ゼネコン社員時代の竹石氏はi-Construction現場等を担当していち早くBIMの活用に取り組み、EX-TREND武蔵を使って3D設計し図面を描き、TREND-COREやTREND-POINTを駆使して自らドローンまで飛ばしていた。「もちろんBIMソフトのGLOOBEについても知っていましたし、その操作方法もTREND-COREに似てるんじゃないかと思っていました。実際、その期待は裏切られませんでしたね」。
こうして半ばぶっつけ本番のような形で、竹石氏はGLOOBEの導入を決め、すぐにこれを活用し始める。やがて思惑通り、施工開始前の工事検討会で担当者が説明した。そして、竹石氏は自身が予想していた通りに、見やすく分かりやすい工事計画書をただちに作成するよう要請されたのである。
「見えないもの」が見える。だから話が早い
「計画内容をお客様にプレゼンしなきゃいけないというので、万代広場の工事計画はステップ図のような形で作って、誰にでも分かりやすく伝えられるよう工夫しました」。竹石氏によれば、まずREAL4やTeklaで作った3DデータをIFC出力し、これをGLOOBEへ取り込んだものをベースに工事の段取りを考えていったと言う。これを加工して計画書に仕上げていきました。本来はST-Bridgeで連携したかったのですが、どうも最初上手くいかなくて……解決法はあったはずですが、この時は時間的な余裕もなかったためIFC連携で進めたと言う。実際に竹石氏がGLOOBEで制作し、工事検討会でプレゼンテーションに使用された計画書を見せてもらうと、工事の進行に合わせて着々と変化していく現場状況が、各ステップごとにリアルな3D CGで描かれ、誰にでも分かりやすく仕上げられている。
「ここに重機を据えて、最初にここに建てましょう、と。で、次はここへ移動して建てます。するとこういう状態になります……という調子で、一種のステップ図として作りました。作業は1週間もかかってないんじゃないかな。メイン業務の傍らやっていたので、本当はもっと早くできたと思います」。仕上った工事計画書は、工事検討会でもたいへん好評だったとのことで、以来、新しい現場検討会のたびにこうした計画図書類の提出が求められるようになったという。
「BIMというか、3Dもこうした使い方はこの分野ではまだまだ普及が遅れているというのが現実のようです」と竹石氏は語る。「だから、3Dで描いたひと目で分かりやすい建て方計画図は、それだけで現場から歓迎されるのです。その方が職人さんたちの理解だって早いですからね」。
現在では、GLOOBEによる建て方計画等が完成すると、お客様へデータをGLOOBE Model Viewer共に送ったり、3D PDF等に変換して送ることも多くなった。このスタイルなら、安全確認も含め先方に確認してもらうことがとても簡単にできるのだ。さらに検討会では、このデータを出力したものが会議室の壁に張り出され、さまざまな施工検討に使われることもある。
「どこの現場でも、3Dの計画図や仮設図を見ながら工事に関わる詳細について、監督を交えて意見を交わすことが増えました。とにかく鉄骨の建て方計画は仮設計画や資材搬入計画まで影響するので、図面で説明するより“GLOOBEで作って見せた方が早い”ということになりがちです。そして、3Dにすると“見えなかった所”まで見えるから、分かりやすく、伝わりやすく、まとまりやすい。本当はこんなことまで当社がやるべきじゃないのかも知れませんが、とにかく話が早い!ことが一番重要なんです。実際、2Dと3Dを比較すると、監督や作業員との打ち合わせで必要な手間や時間は、2Dで話していた頃の半分以下に減っている実感がありますね」。
BIMの社内普及を着実に進めて行く
このように、GLOOBEで生成したビジュアライゼーションの幅広い活用からBIMの世界に足を踏み入れ、成果を挙げつつある竹石氏だが、もちろんこれに満足しているわけではない。やりたいことはまだまだ無数にありそうな様子だ。
「BIMデータの活用という意味では、言わばコミュニケーションツールとして“見える化”への利用に留まっていますが、この“見える化”に限っても、現状では建て方計画とか仮設計画程度にしか使えていません。これについては大いに物足りないと思っていて……本当はREAL4との連動がもっと上手くできれば、細かな所まで入力して活用の幅を広げたいと考えています」。
たとえば「階段の取り合い」等の確認や検討にぜひ使いたい──と竹石氏は言葉を続ける。実は建物の本体部分の鉄骨の設計はミツヒデの設計部門が描いているが、階段部分については階段を専門とする業者が独立して図面を描くことが多いのである。そうやって建物本体部分と階段が別々に進んでいくと、結果として現場でのミスが発生しがちなのだと言う。もちろん仕上った図面はチェックしているが、階段の平面図だけ見ていたらミスは防ぎきれないのである。 「平面図で見ても合わない箇所って、なかなか思い出せないんですよ。結果、現場で“あれ、ここに板はないのか?”とか……。まぁ、REAL4やTekla StructuresとのGLOOBEの連携機能の向上については福井コンピュータアーキテクトに任せるとして、私は社内外へのBIM普及に力を入れていきたいと考えています。現場の人たちもBIMのビジュアルを使ってみれば、日々の検討会や打合せで効果も目に見えるし、実感してもらえるでしょう。現状、私が一人で走り始めた状態ですが、次は現場担当の若手社員にGLOOBEを使わせる計画です。GLOOBEの操作はいわば積み木ですから、誰でもできますよ。そうやって徐々に社内普及を図っていきます」。
取材:2023年6月