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GLOOBEを核に自社設計案件の設計BIM化100%を実現、次なるステップ、施工BIMへのチャレンジも着実に進展

茨城県水戸市(本店)と東京都新宿区(東京本社)の2拠点を基盤に4支店8営業所で全国展開する株木建設は、この地域きっての実力派ゼネコンである。水戸本店の施工部隊が大型公共工事を主体とする土木建築分野を中心に展開する一方、設計部を擁する東京本社の建築部門は民間分野を主要なフィールドに多様な建築を手掛けている。同社はこの2拠点を両輪に着実な成長を続け、2021年4月には創業100周年を迎えた。そしていま、次の100年を目指してさまざまな新戦略に着手している。その一つが東京本社設計部若手設計者たちを中心に進む、BIMの普及と活用を目指す取り組みだ。GLOOBEを駆使する設計部・建築部を核に、設計BIMから施工BIMへと急ピッチで進化し続ける取り組みについて、同社設計部と建築部の4人に話を伺った。

GLOOBE運用を機にBIM運用が再始動

 「BIMという技術の存在は私もだいぶ以前から知っていましたし、個人的にもとても気になっていました」。そう語るのは、株木建設の東京本社設計部で意匠設計を担当する一級建築士の山岸健祐氏である。「設計者としての技術的な興味はもちろん、国のBIM推進の動きも強まる一方でしたし、我々も早く始めなければ!という焦りがあったのです」。当時、株木建設ではすでにGLOOBE Architectを導入してBIM研究に着手していたが、実務への導入は進まず半ば停滞していた。一方、山岸氏自身は逆にBIMへの関心を強めつつあったが、実務ではJw_cadによる2次元設計を中心とせざるを得ず、もどかしさと危機感を感じていた。そして、それは同社の若手設計者の多くが共有する思いだった。

 「そんな時、上司の我妻室長から声をかけられました。それは“GLOOBEを使ってみないか?”という誘いだったのです」。前述の通り、同社ではGLOOBEをいち早く導入したにもかかわらず、様々な事情で設計者への普及が遅れ、その使用機会は急速に減っていた。そのことを苦慮した我妻氏は、若手設計者たちの思いを背景にいわばボトムアップの形でBIM導入リスタートの道を探り始めたのである。もちろんBIMへの関心が高まりつつあった山岸氏にとって、またとないチャンスだったのは言うまでもない。同氏は即座に、触れたことがなかったBIMソフト GLOOBEの実務への導入を引き受けたのである。

 「とはいえ長年のJw_cadユーザーだった私が即座にGLOOBEに乗り換えられるわけがありません。まずは操作のトレーニングから始めました。もちろんテキストを見ながらの独学です」。具体的には竣工済みの自社物件を素材に、その図面等々を見ながら一から入力し直していくやり方で、自社物件の3Dモデルをコツコツと作っていったのである。不明な所は既に熟練したGLOOBEユーザーだった我妻氏に教わったり、電話サポート等も利用しながらのチャレンジである。「特に福井コンピュータアーキテクトの電話サポートはとことん使い倒しましたね。まぁGLOOBE自体、コマンドを分かりやすく上に示してくれるなど取っつきやすい操作性だったことにも非常に助けられました」。そう語る山岸氏によれば、早くもその頃からBIM設計のメリットを感じ始めていたと言う。

 「GLOOBEの操作画面では、入力していくとすぐ横にその3Dモデルがリアルタイムで現れ、自分の設計を目で見て確かめられる。つまり仕上がりを容易にイメージできるんですね。作っている本人がイメージしやすいということは、ご覧になるお客さんにとってはさらに見やすく、伝わりやすいわけで……。我妻室長からはGLOOBEの法規チェック機能の素晴らしさを聞いていましたが、プレゼンにおいても大きな力を発揮するに違いないと直感しました」。

鳥瞰設備パース

初のBIM設計プロジェクト「新東京本社」建設

 このようにして、山岸氏が通常業務と並行しながらGLOOBEの操作を学び始めて数カ月が過ぎた頃、同氏のBIMチャレンジはさらに大きな転機を迎えることになった。それまで我妻氏を中心に進められていた新規大型案件、グループ会社の新社屋建設プロジェクトの設計作業後半を「引き継がないか?」と、山岸氏に声がかかったのである。株木建設は2021年に創立100周年を迎えたが、新社屋建設はこれを機に動き始めた全社的プロジェクトである。東京・目白通り沿いの敷地にSRC+鉄骨造の7階建てで総面積約3,000平米弱の新社屋を建設し、移転しようというわけだ。この新社屋は倉庫棟とオフィス棟を備え、高断熱化や高効率空調、太陽光発電等最新のZEB技術を結集した建築となる。今回は同プロジェクトの基本プランとデザインが仕上がった所で、山岸氏に声がかかったのだった。これにはもちろん理由がある。実はこの設計作業後半はBIMの活用が構想されており、このことから若手設計者を中心に社内で広がりつつあったBIMムーブメントの中心にいた山岸氏が、同社初のBIM設計の担当を要請されたのである。

 「GLOOBEを触り始めてわりとすぐのことだったので驚きましたね。自分でもGLOOBE操作は“まだまだだ”と思っていましたし……正直いって不安もありました」。しかし、これもまた自分にとってチャンスであるのは間違いない。社内へのBIM普及のためにもと、思い切って引き受けることにしたのだと言う。「ただし、そんな状態で引き継いだので、以降の進行はステップごとにマニュアル等を見て一つずつ確認しながら進めざるをえませんでした」。そう言って山岸氏は苦笑いする。具体的には、我妻氏による基本デザインをベースにモデルを作り、建築基準法の審査に必要なデータも入力。さらにGLOOBEの法規チェック機能を利用して確認審査に提出していった。言わば実案件を通じてBIM設計の流れをトレースしながらGLOOBEの機能を一つ一つ試し、“BIMでどこまでやれるのか?”手探りで確かめていったのである。

打ち合わせにもGLOOBEモデルを使用

 「最終的には、実施図面まで全てをほぼ1人でGLOOBEで……もちろん室長をはじめ多くの助言をいただきながらですが、仕上げることができました。まぁ、こんな進め方だったので、作業速度は思うほど上がりませんでしたが、それでもGLOOBEの威力は十分以上に体感できました。たとえば……」と山岸氏は言葉を続ける。まず例に上がったのは、前述の通り我妻氏が語っていた法規チェック機能である。「確認申請を行う以上、法規関連のチェックは不可欠の作業ですが、私が以前使っていたJw_cadでやるには、自ら電卓を打って計算し表を作って行うしかありません。ところが、GLOOBEなら入力したモデルをそのまま判定してくれる。後はそれを図面化するだけです。実際、この関連の作図時間はかなり短縮できたと思います」。

 一方、難しく感じることが多かったのは、実施図の作成だった。「自分が入れたモデル精度がそのまま図面に反映されるのは同じなのですが、実施図レベルになるとそれが大きな問題になります。どうしても上手く表現できない箇所が目に付き、気になってしまうんですね。結局モデルに戻って直し、また図面に行って再作成を繰り返すなどしてかなりの時間がかかってしまいました」。時には2Dの方が楽だと思ったこともあったほどで、そこからJw_cadに移して2Dで進める等の選択もあったが、GLOOBEによる実施図作成に山岸氏はこだわった。その頃すでに、同氏がBIMが生み出すメリットと可能性の大きさを強く意識するようになっていたからだ。

入社3年目の大河原氏がGLOOBEで作成

BIM運用の多彩な副産物というメリット

 「GLOOBEのBIM設計に慣れてくるとどんどん可能性が広がるというか、いろいろ試したくなるんです。たとえば、1人でやると随分時間を取られる面積表作成等も簡単に出来て速いし、モデルさえ入れてしまえば、その副産物でさまざまなメリットが生まれると実感しました」(山岸氏)。また、一番苦労したという実施図も「GLOOBEはモデルさえ直せば関連する他の図面も連動して即座に全部直るわけで、修正にも強いんですよね」。そう語る山岸氏にプロジェクト後半を託した我妻氏も言う。

 「正確にモデル入力しようとすれば、BIMは確かに時間がかかりますが、最終的な成果物までの期間で考えれば、やはり相当に効率化できたのは間違いありません。実際、2Dであの物件を確認申請や実施図までやったら、2人がかりでも3カ月では到底終わらなかったでしょう」。新東京本社の建設は以降順調に進み、2022年7月に着工。2024年3月に竣工した。もちろん設計部門では既に5件目となるBIM設計の新規設計施工案件に取り組んでいる。今回は立ち上げ段階から山岸氏が中心となって進めていたが、前回同様、BIM設計の実務は既に若手設計者に引き継がれた。入社3年目の大河原剛氏は語る。

 「引き継いで担当させてもらったのは自動車ディーラーのオフィスビルで、私は昨年春から参加。徐々にBIM設計の実務を引き継ぎました。その後はモデルを作り込んで確認申請を出し、1人で実施までやり切りました」。GLOOBEの操作は山岸氏のサポートを行ううち自然に身に付けたと言う大河原氏だが、学生時代は2.5次元CADや海外製3D CADのユーザーでGLOOBEに触れたのは入社後である。「GLOOBEは入力した内容がすぐ3Dの形で出るので凄く分かりやすくイメージしやすいですね。それにモデル入力では部材の大きさなど具体的な数値を入れるので、“現場ではこういう所に使うのだ”と実感できるから、建築の勉強にもなりました」。

 このGLOOBEの「イメージしやすさ」については山岸氏も語ってくれた。「前述した通り作り手がイメージしやすいのですから、お客様もイメージしやすいわけです。実際、GLOOBEを使ったプレゼンはお客様の食いつきが全然違います。先日も設計のディティールを3Dでお見せしたら“こうなってるのか”と社長自ら前に出て来られ、要望に応えて即座に修正したら“時代が進んだなあ!”なんて言葉までいただきました」(笑)。

点群を用いた土工計画

そして、施工BIM連携へ

 こうして着々とBIM設計の拡大を進める株木建設の東京本社ではいまや意匠設計担当の9割がGLOOBEユーザーとなり、計画レベルでの活用を含めると自社設計施工案件の全てでBIM設計を用いるようになった。そして新たなステップ──施工BIMへの取り組みも始まっている。

 「我妻さんから声をかけられたのは昨年春、前の現場が終わった時のことでした」。そう語るのは、建築部生産向上推進室に勤務する久保田祥仁氏だ。豊富な現場経験を持つ久保田氏は、施工のための納まり図作成等を通じてCAD操作にも熟達した現場のプロである。「BIMについては以前から気にはなっていました。施主から確認用に3Dを求められたり、サブコンからBIMデータが欲しいと言われることが増え、ウチもやらないとまずいのでは?と危惧していたんです」。それだけに、自分に声がかかったことに特段の驚きはなかったようだ。

GLOOBEによる施工計画の検討

 「まずはGLOOBEの操作を覚えるため、前物件のデータをGLOOBEで起こして、自分で調べながら作成しました」。現在は既に新現場でGLOOBEの運用を開始。BIMモデルを作って施工図──という流れで挑戦を進めている。「他社設計なのでBIMデータは無く、PDFを見ながら私が全て起こし直しました。変更があった場合は、リストに変更をかけながらです。現場は杭が終わった所で、私は基礎伏図・土間伏図まで2Dに変換し現場に渡しました」。そんな言葉からも施工BIMの着実な進行がうかがえるだろう。最後に今後の展開について我妻氏に聞いてみた。

 「基本的には自社の設計施工案件は設計・施工ともにBIM100%を目標に実現していきます。つまり設計側は計画から基本設計、実施設計までやってBIMで施工に渡す。そして施工もBIMで進めBIMでまとめ、竣工図までBIMで作ってデータを残す。これを3年で実現したいですね!」。

躯体モデルの断面

(取材:2024年1月)

 

(左から)我妻輝信氏、山岸健祐氏、大河原剛氏、久保田祥仁氏

山岸健祐 氏
BIMを超えた新しい建築システムも、いずれは出てくるでしょう
その動きを見逃さないよう、アンテナを張って情報収集も続けます

大河原 剛 氏
建築系の学校出身なので、当時の同級生と飲むとBIMの話も出ますね
で、たぶん自分が一番多く経験させてもらってるな!って実感があります

我妻輝信 氏
設計が、手書きからCAD、BIMと進化してきた流れは必然でしょう
若手には「いまBIMをやらないと生き残れないよ!」と言っています

久保田祥仁 氏
海外製品と違い、GLOOBEはある程度部材が用意されています
だからモデル作りはそれを選んで配置するだけ。感覚を掴めば簡単です

我妻輝信設計部 室長

山岸健祐設計部 意匠担当

大河原 剛設計部 意匠担当

久保田祥仁生産向上推進室 課長

株木建設株式会社

■本社所在地/本店:茨城県水戸市
東京本社:東京都新宿区
■創業/1921年4月
■設立/1943年11月
■資本金/27億円
■事業内容/土木事業:道路、橋梁、トンネル、ダム他の設計・施工
建築事業:官公庁施設、教育文化施設、オフィスビル、商業施設、住宅施設、レジャー施設、宿泊施設その他の設計・施工
■type/総合建設会社
■bim starting/2014年
■tool/GLOOBE Architect、GLOOBE Construction

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