ARCHITREND ZEROの構造計算を活かし【構造計画+耐震等級3+制振装置evoltz】で家づくりの構造面をトータルサポート
静岡県浜松市のevoltz(エヴォルツ)は木造住宅用制振装置を開発・製造する専業メーカー。耐震と組み合わせて揺れを抑え、木造住宅の初期性能を保つ同社の製品は大きな注目を集め、この【耐震+制振】の普及を目指して同社は工務店のサポート活動も開始した。そして、そこで大きな役割を果たしているのがARCHITREND ZEROである。設計グループ課長 早川浩平氏にお話を伺った。
新時代の制振装置「evoltz」
──制振装置とはどのような装置でしょうか
簡単に言えば地震の揺れを吸収する装置です。たとえば木造住宅で耐震性を高めるために使う耐力壁は、地震の揺れを「硬くして耐える」仕組みですが、どれほど硬くしても揺れを完全に抑えるのは難しい。この抑えきれない揺れを吸収し、揺れ幅をできるだけ抑えるのが制振装置。硬い耐力壁も地震の揺れを繰り返し受けるうち、留めていた釘やビス、接合部の金物がだんだん緩んでいきます。揺れれば揺れるほど緩みの幅は広がり家自体のダメージも大きくなるので、制振装置で揺れを吸収して緩みの幅を抑え、家のダメージを減らすことが重要になるわけです。
──制振の効果は耐力壁以外にもありますか
たとえば断熱材や気密シート、外壁に使う透湿防水シート等も、家が揺れれば切れたり、止めている針穴が広がったりします。また、仕上材も同じでクロスや塗壁、外壁のモルタルサイディング等も、地震で揺れるうちに亀裂が入ったり目地が割れたりします。だから制振装置で家の揺れをなるべく抑えることでさまざまな建材のダメージを抑え、初期性能を長持ちさせることに繋がるわけです。
──貴社の制振装置「evoltz」の特徴は?
多くの制振装置は揺れが大きくなってから制振効果が発揮されますが、evoltzは小さな揺れから効き始め、いち早く揺れを吸収します。つまり最初から最後までより長く効果を発揮するわけで、家の初期性能をなるべく長持ちさせる、という点からもより効果的な装置と言うことができるでしょう。
──制振装置メーカーとしての貴社の特徴は?
当社ではより良い製品を開発するため常に研究を続けており、基礎となる実験や解析にも大いに注力しているのが特徴です。実験も多様なケーススタディを行っており、たとえば現場の都合で、装置を取り付ける箇所に受材が1本入る可能性を考慮して「受材があっても付けられるか?」「性能は担保されるか?」等まで細かく検証しています。
構造や耐震に疎い設計者に最適なツール
──なぜARCHITREND ZEROをご導入に?
それには、まず「単なる制振の“物売り”になりたくない」という当社代表の思いをお伝えする必要があります。制振装置は耐震と同じく家を守るための構造の一部。そして何よりまず大事なのは耐震。evoltzでも耐震等級3以上を推奨しています。つまり制振だけではなく耐震まで理解して設計者に寄りそう必要があります。実際、工務店や設計事務所の方から「evoltzの依頼と一緒に構造も検討してほしい」というご意見もいただいていました。そこで私たちは工務店や設計事務所の構造面のパートナーとなるべく、2年前から構造コンサルティングや構造計算、既存住宅の耐震診断を請け負い始めました。これを進める上でARCHITREND ZERO(以下ZERO)がどうしても必要と考え、導入を決めました。
──するとZEROの構造関連の機能が目的で?
ええ。構造計算をするために導入しました。また弊社の取引先にもZEROユーザーがけっこう多く、そういった所とZEROデータでやりとりできる点も大きかったですね。
──実際の運用の仕方をご紹介ください
最初からデータでやり取りするわけではありません。まずはPDFで図面をもらい、構造計画をチェックして「ここに柱・壁を追加できませんか?この柱無くせますか?」と戻します。途中のざっくりしたチェックは手計算で行い、意匠図が確定するまでこれを繰り返します。で、意匠図が確定したらそれをZEROデータでもらってZEROで構造計算を行うという流れです。お客様が他社CADをお使いの場合は、PDF図面をもらってZEROで起こし直し、構造計算してJw_cadデータかPDFで納品します。やはりZERO同士でやりとりできないと手間がかかりますね。
──「手間がかかる」というのはどのような?
たとえばもらったPDFを基に入力していて間崩れした時など、正しく寸法を出してあればともかく、そうでないと柱や壁の位置が分からなかったり間違えてしまったり……。ZEROデータなら先方が入力したものをそのまま読み込むのでそんな行き違いは無いし、屋根の形状もその通りに掛けられます。いろいろな面で対応しやすくて非常に良いですね。
──なぜZEROをお選びになったんですか?
2年前に構造計算の勉強を始めた時、会員制の構造計算・構造設計講座「構造塾」を受講したんですが、そこで勧められたツールの一つがZEROでした。実際、ZEROは見やすく使いやすいツールですね。構造関係の機能も「ここは危ないよ」と色付きで見せてくれたり、3Dで「この力はこう流れてる」と視覚的に分かりやすく見られる。構造や耐震に疎い設計者にこそ使ってほしいと思います。
構造計算の内製化は1年で実現できる
──今後の展開はどのようにお考えですか
目指しているのは、私が構造面をサポートしている工務店さんが自社で構造計算できるようになり、これを内製化して実装してくださること。これが理想だと思っています。私一人でサポートできる量は限られるので、内製化してくれれば私は不要になり、別の工務店をサポートできます。そうやっていけば、全国でもっと耐震性の高い安全な家が広まっていくのではないでしょうか。その意味では、私が要らなくなることが目標ですね。
──内製化は時間がかかりそうですね
実は構造計画の手法を身に着けて構造を綺麗にしていくことで、構造計算の難度はガクンと格段に下がります。細かいことを知らなくても、それこそZEROだけで簡単に構造計算できるようになるんです。工務店の皆さんが私のコンサルティングを受けて構造計画の手法を身に着け、他に専任で構造計算を学ぼうという方さえいれば、1年もあれば構造計算の内製化は実現できると思っています。
──高耐震の家を広めたいというのは使命感?
そうですね。大地震が起きると家が倒壊して人が亡くなる。または家が損傷して住めなくなり、過酷な避難所生活を余儀なくされる。友達や近所の方とのコミュニティや街の活気もなくなる。そう、全ての根源は家であり、家に住み続けられればこういったことは起きないんです。私は、こういう経験や思いをする方を減らして、いつもと変わらない日常を送れる方を増やしていきたいのです。
──遠大な目標ですね……
何年かかるか分かりませんが、最終目標はそこです。それぐらい耐震は世の中の当たり前になるべきですし、「構造計画」や「耐震等級3」という言葉や「構造計算を住宅レベルで行う」といったことも同じです。全てが当たり前になるような、そんな世の中にしてしまえばいいかな、と考えています。
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