ループスアーキテクト一級建築士事務所
顧客企業各社の家造りスタイルに合わせZERO のマスターを予めセットアップ、高品質な木質系住宅設計を高度に効率化
福岡県福岡市のループスアーキテクトは木造住宅に特化した一級建築士事務所である。設計から施工、家具製作まで、技術者が結集し、高度な住宅性能とデザイン性を両立させた高品質な家造りを行っている。そして、そんな彼らの家造りを支えているのがARCHITREND ZEROなのである。その活用法の詳細について、同社代表取締役社長の吉本高広氏にお話を伺った。
木造住宅分野に特化した技術者集団
──社名の由来は何でしょうか?
ループスアーキテクトの「ループス」は「LOOPS」。つまり「輪」で、私たちはそこに「人と人との御縁」という意味を重ねています。多くの皆様と少しでも良い御縁ができることを願って家造りをしている一級建築士事務所ということですね。事務所としての特徴は「木」へのこだわり。設立当初はRCや鉄骨もやっていましたが、2年前から木造住宅に焦点を絞りました。木造であれば住宅・非住宅問わず、お客様の要望は「何でも聞こう」というスタンスで展開しています。
──全員が技術者だそうですが?
はい。しかも皆これまでずっと住宅造りを仕事としてきた人ばかりで……。設計、施工はもちろん敷地の測量をしている人や住宅用の家具を扱う職人までいます。この体制で意匠設計、設計監理までトータルに行う案件が月10件ほど。他に全国の住宅会社の設計支援の仕事も多く、意匠設計はもちろん断熱や耐震設計のサポートも行っています。
──設計支援では各社の家造りに合わせる?
もちろんです。お客様とその施工会社のことを意識して設計します。あくまでその会社の家造りの良い所を尊重しながら……ということで、自分の好みにはこだわりません。同時にお客様に対してデメリットがあるものは描きませんが(笑)。
──物件ごとに合わせていくのは大変ですね
そこで重要になるのがARCHITREND ZERO(以下ZERO)です。というのは……たとえば断熱工法ひとつとっても、外張り断熱に内断熱、基礎断熱、床断熱といろいろありますよね。そして、全国各地のさまざまな住宅会社とお付き合いがある当社の場合、その物件の各パートナー企業により構造を含めた仕様関係はまったく異なります。当社では各社の家造りスタイルに合わせるのが大前提なので、お客様ごとにその会社の仕様等々をZEROに入れ直す必要があります。顧客の数が多くなると、これも大変な作業なんですよ。
パートナー企業毎にマスターをセットアップ
──では、どのように対応しているのですか?
パートナー企業毎に分け、ZEROのマスターに各社それぞれの仕様等を細かく全部登録するようにしているのです。そして、新しい案件が入ったら、そのお客様のパターンを選んで即座に始められるというわけです。同じお客様の物件ならいくつでもすぐに着手して進められて作業を大きく効率化するのはもちろん、基本的な入力ミスも無くなります。
──マスター登録してあるのは何社くらい?
ちゃんと数えたことはありませんが、全体で10数社あります。そして、通常は各社ごとに2パターンを用意することが多いですが、お客様の層に合わせ大きな受け皿をもつ住宅会社の場合は、1社で4パターンほど用意することもあります。いずれにせよ全データが自分たちで作りこんだもので、そこには技術的な観点も含め「自分たちの全て」が入っています。当社の知的財産が集約されているとも言えるわけで……もしこれが外部に流出したら当社にとって大問題です。だから、データの書き出しには本当に気をつけています。
──マスターを作るのは大変だったのでは?
一つの業務を「少しでも早く終わらせたい!」という気持ちが、皆とても強かったんでしょう(笑)。で、「手間を掛けてもマスターを細かく設定した方が早い!」という結論になった。当然ですよね。たとえば外皮計算など、同じ会社の建物を同じ仕様で続けてやるのに1回1回設定を繰り返していたら手間がかかり過ぎます。1件のセットアップに10数分かけていたら5件で1時間にもなります。だったら最初にマスター登録しておいて「何件でもすぐにできる仕組みを作りたい」と皆が考えるのはむしろ自然でしょう。その結果、ちょっと大げさかもしれませんが、当社の業務において設計に関しては、現状ほぼ全てをZEROに頼っているような状況です。
──ZEROを核とした設計手法は以前から?
以前からZEROを利用しておりました。特に木造住宅に絞って全国の住宅会社を支援するようになってからは、さまざまなソフトを導入していきました。もちろんZEROは設立時に導入しました。私は手描きでの提案も現在同時に行っていますが(笑)
──では、設立時にZEROを選んだ理由は?
私はこの会社を設立するまでに、設計者として3つの会社を渡り歩きましたが、その3社全部がZEROユーザーでした。会社設立時に改めて木造住宅系で使えるCAD製品を見ましたが、ZEROなら基本設計から一貫して全部できるのに、他にはそんなソフトはなくて……。迷わずZEROを選びました。
優れた機能だからこそ「理解」して使う
──でも、当初は手描き主体だったのでは?
ええ(苦笑)。当初サブツール的に使っていましたが、コロナ禍をきっかけに変わりました。遠方のお客様とリモートで打ち合わせる機会が増え、3Dモデルやパース等を見せながら説明する便利さに気づいたんです。ちょうどその頃、手描きのラフ図面やスケッチで設計意図を正確に伝えることに限界を感じていました。お客様の受取り方次第で間違った捉え方をされるかも?という不安が募っていたんです。ZEROなら逆に私の考えは全て盛り込めるし、3Dカタログを使ってよりリアルタイムなモノで見せることもできます。図面で表現しようとしていたニュアンス的な所までお客様の眼の前で具体的なビジュアルに落とし込めますから。……ただ、そこにリスクが無いわけではありません。
──その「リスク」とは?
CADが有能すぎると頼りすぎてしまいます。エスカレートすると「CADがOKだからOKじゃん」となってしまいかねません。だから常に「なぜこれを入力するのか?」を考えながら進める必要がありますね。
──具体的にはどのようなケースでしょうか?
外皮計算など特にそうじゃないでしょうか。優れた機能だからこそ「何処をいじったら良いか」「なぜこの数字になるのか」といった、外皮計算の基本事項を理解した上で使う必要があります。そうしないとお客様への説明義務もきちんと果たせません。また、いわゆる「納戸申請」についても、何も考えずに納戸にしてしまうのではなく「充分な採光を可能にするため居室をどこへ置くか?」をまず一番に考えるべきで……その意味ではお客様にも法規を守ってもらうことが大切になります。「施主がやりたがるから」ではなく「◯◯な法規があるから××を正当にする」ということへの理解がお客様にも必要なわけです。当社のスタッフには、その上で「こういう図面を作るべきです!」と言えるプロフェッショナルであってほしいですね。
お客様にも法令の内容をきちんと説明し、理解していただいて
「こういう図面を作るべきです!」と言えるプロであってほしい
取材:2024年9月