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有限会社 戸田設計

法改正[影響と対策/設計者]
改正建基法の知識と対応の仕方で
建築士としての資質がはかられる

東京都大田区で設計事務所を営む一級建築士・戸田知治氏も、改正建築基準法施行の影響をダイレクトに受けたお一人です。早めに対策に動いていたにもかかわらず、事務所の売上げなどにも少なからぬダメージを負ったという戸田氏に、建築士としての現状と今後の展望についてうかがいました。

施行後2ヶ月は完全に業務停止状態

施行後の業務状況はどんな状態でしたか?

戸田

本当に大変でした。ともかく申請が出せない、審査も止まっている、だから仕事も動かない。施行直後の2カ月くらいは売上げ自体ゼロで、経営的にも厳しい状況でした。これは私だけでなく、周りの同業は皆そんな感じだったようです。

4号建築物の申請図書についてはほぼ変更なしでしたが?

戸田

そうですが、実際にはこれも役所側は様子見が多く、当初ほとんど申請受付が止まっていたのです。私の場合、4号建物については、取引先の審査機関が施行1週間後くらいから受付を始めてくれたので、これについては比較的早く動けましたが、役所の方は1カ月半くらい「受け付けしない」という姿勢でした。また、木造3階建てについては、審査機関も確認を下ろさず、「どこか下ろす所が出たらウチも下ろす」という感じで完全に止まっていましたね。

そうした状況が動き始めたのは?

戸田

私自身の場合は、やっと申請を出しはじめたのが9月頃からですが、状況が変わったのは、9月25日に国土交通省から出された「技術的助言」以降です。この「助言」で国土交通省の方針が大きく転換しました。厳格化は厳格化として少し円滑化を図ろうというわけで、例えば以前は訂正は一切認められませんでしたが、以降、場合によっては訂正印も少し認めることになった。結果、現在では以前より時間はかかりますが、一応順当に流れ始めています。

方針が変更されたのはなぜでしょう?

戸田

大きな物件も軒並み止まり、ゼネコンもまったく「商売上がったり」の状況でした。あのまま行ったら業界全体が大変なことになりかねず、日本経済への影響も懸念されるほどでしたから、ある程度の方針変更は当然だったでしょう。

改正法対応ではかられる建築士の資質

新しい課題も見えてきたでしょうか?

戸田

建築士の確認申請に対する考え方は、これまでたしかに甘かった部分があります。取りあえず申請を出し何か指摘されたら直せばいい、という意識があった。その意味で、今回の法改正は当然の結果。運用が多少柔軟になっても、正しく設計してきちんとした図面を描くべきなのは変わりません。つまり、一番の課題は我々自身がもっと勉強する必要がある、ということです。もちろん建築士も人間ですから、ヒューマンエラーを無くすことは困難でしょう。特に「不適合」の問題については、役所の「事前相談」や審査機関による「事前審査」などのシステムも、必要かもしれませんね。

建築士の業務スタイルも変わりますか?

戸田

当然、大きく変わります。まず同じ仕事でもはるかに作業時間が必要になります。図面の数は変わりませんが、細かくチェックしながら描くので非常に時間がかかるのです。そして書類。例えば仕様書も求められるようになったので、これだけで1件あたり100枚以上になります。最近、木造3階建ての申請を下ろしたんですが、これも構造関係の書類だけで500枚になりました。当然、審査する側も時間がかかります。ピアチェック無しの物件でも、優に従来の2倍はかかっているようですね。

時間も手間も数倍に膨れ上がる…?

戸田

来年は4号建物の特例廃止も決まっていることもあり、状況はさらに厳しくなるでしょう。まさにこうした法や条例に関する知識と対応の仕方で、建築士の資質がはかられる時代が来たといえますね。今後は改正法に則して、膨大な図面や書類をいかに間違いなく、効率よく作成するかが大きなポイントとなるでしょう。その意味で、改正建基法に対応したARCHITREND Z Ver.3に対する期待は非常に大きい。特に構造計算プログラムや構造伏図の自動化精度アップなど、多いに注目しています。

※2007年発行のWind/fで掲載したものです。役職などは、取材当時のものです。

戸田 知治代表取締役

有限会社 戸田設計

ARCHITREND Z、Jw_cadのヘビーユーザーとしても知られる、戸田知治氏が主宰する一級建築士事務所。戸田氏は個人住宅、マンション等の企画、設計、監理を行うほか、CAD講座/セミナーの講師としても活躍している。

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