耐震性能は「差別化」となるのか価格競争に陥らない自社ブランディングとは

株式会社M's構造設計

「一生懸命」も「長年の経験」も家を丈夫にしない!
地震で倒壊しない木造住宅を作ってもらうため
日本全国で構造計算の広汎な普及を進めつづける

横浜市のM's構造設計は、建築構造家 佐藤実氏が率いる構造設計事務所。木質構造を中心とした構造計算・構造設計を行うほか、別組織「構造塾」で構造計算の研修/サポート事業も展開しています。特に近年、佐藤氏が講師を務めるこの構造塾や企業セミナー等による構造計算関連の教育事業が大きな人気を集めており、日本各地で開催される構造塾&セミナーは年間220~230回にも及んでいます。全国の建築設計の最前線を知る佐藤氏に、構造計算をとりまく現状とその問題点、そして、ARCHITREND ZERO Ver.6の新機能について伺ってみました。

日本中の木造住宅を「地震で倒れない家」に

構造設計だけでなく構造計算研修の活動も活発ですね

佐藤

実はいまでは構造計算の仕事より、これを「伝える」ための構造塾やセミナーの方が規模は大きくなっています。構造塾は今年10年目ですが、会員企業は1500社に達し、研修も全国28会場で年間150回余り開催しています。この他企業の依頼で行う構造計算セミナーもあり、これらを合わせると研修やセミナーは年間200回~240回ほどになります。

なぜそこまで構造計算教育に注力するのですか

佐藤

背景にあるのは私のある経験です……私の実家は新潟で工務店をやっており、私もそこで意匠設計や現場管理の仕事をしていました。転機となったのは1995年の阪神淡路大震災で、テレビで被害の様子を見て驚嘆しました。特に木造住宅があんな壊れ方をしたことが信じられなくて、矢も盾も堪らず現地へ行ったのです。で、本当に木造住宅が倒れていることにビックリしてしまって……。

「構造塾」の様子

木造住宅は倒れないと思っておられた?

佐藤

ええ。木造住宅は丈夫だと勝手に信じていたのですが、実際にはたくさん倒れていた。もう一つ甘く見ていたのは木の重さ。鉄骨やRCはともかく木なら皆で持ち上げて助けられる、と思っていましたが、触れてみると全く動かせません。しかもこの場合、人間自身が「耐震性能の低い家」という原因をつくり、人が亡くなっているわけで……。繰り返してはいけない!と痛切に思ったのです。

それで、構造計算をやろうと?

佐藤

最初に感じたのは、4号特例の勘違いから構造計算も壁量計算もせず家を建てた人がたくさんいたのだろう、ということです。そして、この人たちはまたきっと構造計算しないままの家を建てるのだろう、と。ならば、その前に日本中の木造住宅を地震で倒壊しないようにしようと決意し、構造計算の勉強を始めました。そして、当初は自社物件の構造計算をしていましたが「それでは足りない!」と独立し構造設計事務所を立ち上げ、構造塾を始めました。

「長年の経験」も「勘」も「一生懸命」も家を丈夫にしない

構造塾を始めて10年、構造計算の普及は進みましたか?

佐藤

正直まだまだです。この10年、研修やセミナーで一貫して言い続けてきたのは「構造計算をやりましょう!」ということ。メッセージとしてはごく初歩的な内容で、省エネでいえばせいぜい「断熱材を入れましょう」レベルに抑えていました。なのにそれが伝わりません。しばしば「そんなの要らないよ」と言われてしまうような状況のままです。

なぜ普及が進まないのでしょうか

佐藤

よく勉強して良い家をつくる人から、勉強せずに良いとは言えない家をつくる人まで、家のつくり手にはいろんな人がいます。私はその全体を底上げしたいのですが、実際に構造塾やセミナーに来てくれるのは前者が中心で、そういう意識の高い人が何度も来て構造計算を学んでより良い家を建てる一方、本来来てほしい構造に興味ない人たちはほとんど来てくれません。結果、業界は二極化が進んでいます。

二極化とは?

佐藤

構造計算をやろうという人は省エネにも取組みますが、構造計算に興味ない人は省エネもやりたがりません。実際、耐震性能と省エネ性能、そして維持管理(劣化対策)という3つの住宅性能に関して、全てをやろうとする意識の高い人がいる一方、何一つやらない人も多く、この両者による二極化が進んでいます。ただ、お客様はこの両者がなかなか見分けられず、一緒に並べて「どっちが良いかな」と比べている状況です。

講義中の佐藤氏

やらない会社は淘汰されそうなものですが?

佐藤

何もやらない会社は「ダメな家をつくっている」認識がありません。なぜなら「一生懸命つくっている」気でいるから。彼らは「気持ちがこもれば地震でも倒れない」と本気で思っています。お客様にも「安全です!温もりがあります!」と一点の曇りない気持ちで言う。結果、お客様には真面目な会社に見えるのです。当然ながら「真面目」で家は丈夫になりません。どれだけ一生懸命建てても、構造計算しなければ耐震性能は上がらないのです。

「長年の経験と勘」で建てるから大丈夫という人もいます

佐藤

「何百軒も建ててきたから大丈夫」という声は私もよく聞きますが、その人が何百軒建てた経験値は「家」をつくった経験で、「家の安全性」の経験ではありません。「家の安全性」を担保するのは構造計算です。実際、筋交いを入れる量や向き、バランス、金物の位置・大きさ等々、構造計算経験のない人には決められません。こうした人が何百軒建てようが、安全な家を作る経験値はゼロのままなのです。

ARCHITRENDを使いながら構造計画を学ぶ

ARCHITREND ZERO Ver.6をどうご覧になりましたか?

佐藤

ざっと見ただけですが、良い感じですね。特に平面図入力の新しい流れが気に入りました。間取り入力から構造ブロックを構想し、そのブロックを崩さないよう意識しながら進めるあの流れなら、建築士も構造計画を意識しながら意匠設計を行えます。さらに直下率や建物チェック、耐震チェックなど、プラン段階で素早く構造面をチェックできるのも良い工夫で、これらをクリアすれば、自ずと直下率も良く構造的にキレイなプランが出来上がります。あとはその検証として構造計算すれば良いわけですね。

ARCHITREND ZERO Ver.6に受講者の皆様も興味津々

従来はそういう流れではなかった?

佐藤

これまでは構造計画の考えなど全くなしにただ漠然とプランをつくっていて、耐震性については「構造計算で何とかしておけ」という感じだったんですよ。「上下階の柱位置がずれていてもいいよ、梁を太くすればOK!」とか「壁がずれたって大丈夫、水平構面を強くつくれば!」とか、構造計算が支援していたわけです。ARCHITREND ZERO Ver.6の新しい流れで進めれば、プラン段階でこうした問題ある部分を撥ねられるし、使いながら構造計画を学ぶこともできるはず。これはすごく重要なことですね。

今後のご計画は?

佐藤

構造塾は来年さらに大きく展開していく計画です。ただし、私が全てのセミナーの講師を務める現行の手法はそろそろ限界なので、2つの新しいやり方を導入します。一つは各地で育てた私の教え子の建築士の皆さんに「伝える側」へ回っていただくやり方で、まずはこの「伝道師」をたくさん育てていきます。そして、もう一つはWebの活用ですね。セミナー動画をどんどん制作し、動画配信でいつでもどこでも構造塾を受講できるようにしていきます。とにかく構造計算をもっともっと広めていきたいですね。

※役職などは2019年6月、取材当時のものです。

佐藤 実代表取締役社長

株式会社M's構造設計

所在地
神奈川県横浜市
代表者
代表取締役社長 佐藤 実
設立
2006年5月
資本金
500万円
事業内容
木質構造を中心とした構造計算・構造設計、「構造塾」(構造計算研修・サポートサービス・相談窓口)

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