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村上木構造デザイン室

構造ブロックを意識した構造計画を大前提に
プレカット工場とのコラボレーションで作る
本当に安全&安心な、新時代の木造2階建て住宅

東京台東区にオフィスを置く村上木構造デザイン室は、社名の通り木造建築物の構造設計を主業として展開する構造設計事務所です。代表の村上淳史氏は、さまざまな建築物の構造設計や耐震診断、補強設計を行うのはもちろん、木構造の専門家として大学や各種セミナーの講師やコンサルティング、さらには4号建築物の構造実態調査など木構造に関わる研究と普及啓蒙活動にも積極的に取り組んでいます。ここでは、そんな村上氏に木構造に関わる業界の現状と問題点、そして、ARCHITREND ZERO Ver6の新機能について伺ってみました。

家づくり分業化のリスク

非常に幅広く活動しておられます

村上

基本は住宅・非住宅を問わず木造建築の構造設計をメインに、耐震診断や補強設計、既存の改修なども引き受けています。また、もう一つの柱としてセミナーや大学の講師、コンサルティングも行っています。長野県建築士会の「信州木造塾」というセミナーでは、毎年伏図と軸組の講師を担当しているし、職業能力開発総合大学校で指導員向けの性能表示セミナー、全国木造住宅機械プレカット協会主催のプレカットCADオペレーター向け研修の講師、さらには芝浦工業大学建築学部で設計製図の非常勤講師も務めています。

木構造の研究や普及啓蒙活動も?

村上

ええ、NPO「木の建築フォラム」の現代木割技術研究会で、4号建築物における床の不陸事故分析をきっかけに架構設計の手引きを作り、4号建築物の構造実態調査にも参加しました。ただ、私自身は構造一筋の研究者ではなく大学も構法の研究室でした。大学院1年時に阪神大震災が起こり、木造建築の調査団として先生方と現地調査を行いました。卒業後は大手木造住宅メーカーやプレカット工場に勤めましたが、その時は木構造をやろうと思っていませんでした。しかし、やはり阪神大震災の被害は忘れられず、その後、独自に木構造を学んだり、木造住宅の構造実態調査などを行いながら少しずつ前に進み、村上木構造デザイン室を設立し、木構造の計算や研究、普及啓蒙活動を行ってきました。

木構造をとりまく現状をどう見ますか

村上

CLTを中心に木造・木構造へ注目が高まり関連の研究なども活性化していますが、その関心は中・大型規模木造建築物に集中し、木造住宅の問題は見過ごされがちです。私自身はたとえば家づくりの分業化にも問題が潜んでいると考えています。昔は棟梁が施主と打ち合せ間取と伏図を描き、自ら木を買付け手刻みし建てていましたが、今は売る人と設計者、木材の加工(プレカット工場)、施工者にアフターフォローまで分業化していることが多い。ただ分業化と規格化などにより全国どこでも早く、一定の品質の家が建てられるような生産システムになったのは素晴らしいことですが……。

そのどこに問題が?

村上

分業化により誰もが自分の分担にばかり集中し、後のことを気にする必要が少なくなりました。間取りを作る人は「梁をどうかけるか」など意識しなくてもできてしまう。極論すれば、設計者は木造住宅の平面図・立面図・矩形図などを描けば建物ができ上がってしまうわけです。その結果「間取りと構造の一体性」など、設計の基盤となるべき部分への意識が崩れつつあるのです。むろん消費者にマイホームに関するアンケートを取れば「耐震性」が常に上位に来るし、設計者も構造というものを気にしているとは思うのですが。

重要なのは構造ブロックによる構造計画

村上木構造デザイン室 代表 村上淳史氏

構造に対する設計者の意識が低い?

村上

耐震性の重要性は皆さん意識しているでしょう。壁量が必要とか、そういった意識もあると思います。ただ、その先の「梁がどうかかるか?」とか「力(水平力や鉛直荷重など)がどう流れるか?」といった部分まで、ちゃんと意識して設計できている方は多くありません。「とりあえず壁を入れておけば良い」とか、施主に広い空間を要求されて材料や構法に頼ったり、少ない壁を無理に高倍率の耐力壁にしたり……。ややもすれば、無理(合理的でない)な設計になってしまうところがあるのかな、と感じます。

伏図はプレカット任せの場合も多いのでは?

村上

そのようなケースは多いと思います。でも、これだけプレカットが普及したいま、私は架構をプレカット工場にある程度任せても良いと思うのです。大切なのは、設計者がその前に構造計画をしっかり立てておくこと。柱・梁があって壁がある軸組工法の基本を抑え、耐力壁と耐力壁を水平構面でしっかり繋げて基礎もきちんとする。つまり軸組や梁組を考慮した、構造ブロックによる構造計画を行うということです。それをせず間取りやデザイン優先で進めるから、無理のある(合理的でない)梁組をしなければならなくなってしまうのです。

無理なプランが多いのですか

村上

私はプレカット工場の実態調査も行ったし、私自身プレカット会社の勤務経験があるのですが、設計事務所から伏図が届くとは限らないのです。平面・立面だけのことも多いし、せっかく伏図が届いてもプレカットに使えない場合もしばしばです。これも初期段階で構造計画をきちんとやってくれれば避けられたはずで。裏返せば、そこだけきちんと考えて設計すれば、後の細かい部分はプレカットに任せた方が良いです。機械加工への対応や納まり、材料の取り都合等々、プレカットの方が成熟していますから。そのプレカットに任せた分、できた時間でもっと設計が良くなるように考えてもらいたいです。

村上氏らが制作した研修用テキスト類

設計者への構造計画に関わる啓蒙や支援が重要?

村上

そうですね。私のセミナーやこうしたコンサルティング活動も、そうした普及啓蒙活動の一環です。こうした教育を必要としている点ではプレカット工場のオペレーターも同様で、そのためのセミナーも行っています。ただ、一朝一夕には行かないし、私たちは地道な取組みを積み重ねていくしかありません。だから──というわけではありませんが、実はARCHITREND ZEROにも大いに期待しているんですよ。本来CADというものは設計を支援するものであり、ARCHITRENDはそのような方向でプログラム作りをしているので。

構造計算不要の設計のために

ARCHITREND ZERO Ver6 のデモを見る

ARCHITREND ZERO Ver6 はいかがでしたか

村上

新機能を中心にざっくり拝見しただけですが、とても良いですね。特に新しい耐震チェック機能により、プランニング段階で……つまり実際に構造計算をかける前に、ある程度耐震等級を事前チェックできるのは素晴らしいです。上手く使えば、この機能は「構造ブロックを意識した設計」をバックアップしてくれるでしょうし、取組の第一歩として良いものになっています。これを上手く使って構造ブロックを意識した意匠設計に取組むARCHITREND ZEROユーザーが、どんどん増えてくれると良いのですが。

今後のお取組みに関してのお考えは?

村上

昨今は「構造計算でNGさえ取れればどんな設計でも良い」という風潮を感じますが、それは違うと思うのです。2階建ての木造住宅でも構造計算が行われることが多くなり、それは大変良いことだと思います。しかし、構造計算というものは、しっかりと構造計画を行い、それが正しいかどうかを確認する手段です。構造のことを考えず、とりあえず間取りや梁組みをし、それが成り立つかどうかを構造計算し、NGが出れば壁を無理矢理増やしたり、梁成をただ大きくしてNGをとるだけ。設計を見直すわけではなく、耐震等級をとるために計算書にNGが出ないようにするという、構造計算をすることが目的となってしまっている。そうではなく、自分の設計が間違っていないかを最後に確認する手段が構造計算であるという本来の意味にしていきたい。

それでも施主が「大きな吹き抜けや大空間が欲しい」と言ったら?

村上

そのような時は、たとえば2階建ての4号建築物でも壁量計算などの仕様規定だけでなく、きちんと構造計算を行って安全性を確かめる、というのが本来の建築設計のあり方ですよね。ARCHITREND ZEROも、そういう設計……自然な流れで構造ブロックに基づく安全な設計が行えるようなシステムに進化していって欲しいですね。

※役職などは2019年6月取材当時のものです。

村上淳史

村上木構造デザイン室

所在地
東京都台東区
代表者
一級建築士 村上淳史
事業内容
木造建築物(住宅・非住宅)の構造設計、耐震診断、補強設計、各種セミナー講師、各種コンサルティング、調査・研究活動ほか

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