起死回生のブランディング「dwarf」の決め手は
家具まで含めたトータルコーディネイトと
独自の世界観を正確に伝えるこだわりのCGパース
新潟市の別所材木店は半世紀余の歴史を持つ老舗材木店ながら、同時に人気のハウスビルダーとしての顔も持っています。7年前、同社は北欧スタイルの注文住宅ブランド「dwarf(ドワーフ)」で若い消費者を中心に人気を集め、続いて開発した西海岸スタイルの新ブランドも話題を呼んでいます。質の高いデザインと精緻な世界観の提案を得意とする同社の戦略において、重要な役割を果たすのがARCHITRENDZEROで作るパース等のビジュアライゼーションです。ここでは同社のクリエイティヴを牽引する専務取締役の別所陽平氏に、そのブランド戦略とビジュアルの活用について伺います。
ローコスト住宅の失敗から新ブランド創出へ
- 元々は老舗の材木店だったとか
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別所氏
現社長で4代目の老舗材木店です。材木卸し専業できましたが、先代社長の時に住宅分野へ進出しました。当初、自社ブランドはなく、いわゆる「地域密着の家づくり」でした。当時はローコスト住宅全盛期でウチもこの波に乗ろうとしたのですが、上手く行かなくて……。そこで当社の独自性を活かし、新しくブランディングしていこうと作ったのが「dwarf」です。
- dwarfはどんなブランドですか
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別所氏
高品質なデザイン重視の家づくりが一番の特徴です。特に「北欧時間でくらす家」は北欧スタイルをベースに、ご家族が毎日を楽しむためのオリジナル・スタイルの家づくりを行っています。基本となる間取りや住宅性能にも十分配慮しながら、同時に家の素材や家具などインテリアまでトータルにデザインしコーディネートして、一棟一棟独自の世界観を創りあげます。
- なぜ新潟で北欧スタイルを?
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別所氏
木材等の仕入れでスウェーデンに行く機会が多かった社長が、あちらの住宅や生活スタイル、デザインに触れたのが出発点です。冬が長く雪も多い新潟は比較的北欧と気候が似ており、ならば北欧デザインや暮し方も新潟に合っているのでは?と考えました。北欧の人々は、天候が良くない冬の間、長く屋内で過ごします。彼らはこの「長い時間をどれだけ楽しく暮せるか」を重視しており、そのために好きなデザインの家具を揃えて、楽しく暮すための空間を創り出します。これを新潟でもやってみようと考えたわけです。
- 狙いは見事にヒットしました
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別所氏
自信はありましたが、最初は大変でした。保守的な方が多い新潟ではデザイン的に深く踏み込んだ住宅は敬遠されがちで。でも、そうでない方も確実にいるわけで。その方たちへどうやって伝えるかがポイントでした。たとえば新潟初の「IKEAキッチン」の施工代理店となり、IKEAのデザイン性の高いキッチンや家具を全面的に打ち出して話題作りをしたり……。2015年頃には、関東で流行り始めたトレンドをいち早く取り入れて、西海岸スタイルの「サーファーズハウス」も展開しています。新潟はサーファー人口も多く、これも人気を呼んでいます。
世界観を正確に伝えるためのCGパース
- 家具まで含めて提案するのですね
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別所氏
当社ウェブサイト掲載の施工例をご覧いただくと分かると思いますが、どの家もそれぞれの空間デザインに合わせた照明や家具、ファブリック等を配し、温かな生活感とともに統一的な世界観を創出しています。当社ではこの施工例写真の状態までトータルコーディネートした上でお引き渡しします。通常のハウスメーカーは建物だけ作り、家具等はお客さまが選びますが、統一的なコーディネートは容易ではありません。「想像していたのと雰囲気が違う」なんて失敗を避けるためにも、プラン段階で家具レイアウトまで一式提案しています。そこで重要になるのが、その世界観をお客様へ確実に伝えるCGパースです。
- パースもいろいろ工夫を?
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別所氏
パースで世界観まで伝えるには、ディテールまで作り込む必要があります。たとえば西海岸スタイルでもカリフォルニア系は決まったスタイルに囚われない自由さが特徴なので、古材を壁に貼ったりしますが、こうした古い材料のアンティーク感やビンテージ感をCGで表現するのは至難の業。そこで本物の古材を貼った面を撮影し、切り取った画像をCGにはめ込んで調整します。家具等も海外の珍しいものを使うので、そうした家具の3Dデータを求めて海外サイトへ探しに行きますね。
- 細部までこだわりますね
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別所氏
たとえば照明器具も単に部屋を明るくする設備ではなく重要なインテリアの一つと考えており、使いたい照明器具を具体的にパースのビジュアルに落し込むようにしています。思い描いたCGパースを作る為には3DカタログとDATA STATIONの活用は不可欠ですが、それでも飽き足りず、海外の照明器具メーカーのウェブサイトで画像を探して、切り取って張り付けたり……手間はかかりますが、それをやるだけで雰囲気がガラッと変わるんですよ。
- 作り込んだパースはどんな効果を?
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別所氏
当社のパースをご覧になったお客様の頭には、確固とした世界観が築かれます。そうなれば、そのパースに描かれた以外の箇所の提案についても、パースを起こすまでもなく設計意図を理解し、受け入れてもらえます。ちなみに実際に制作するパースは、1プランについて外観と内観1点ずつ。初回プレゼンでは平面プランとこのパース2点、そして概算見積を提出します。パースをご覧に入れたお客様の場合、8~9割が仮契約を結んでいただけます。
設計もパース制作も ARCHITREND ZERO で
- 作り込んだパース通りに施工するのは大変では?
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別所氏
建築知識を持たないCGパース専門の人が描くと、確かに「これ、どうやって納めるの?」と言いたくなるようなパースになりがちですね。CG制作者は、センスやテクニック以外に納まりなど最低限の建築知識を身に付けるべきでしょう。私はパース専門ではなく建築士資格を持つ設計者なので、当然、納まり等は理解しており施工できないパースは作りません。だからというわけではありませんが、ウチのパースは施工現場でも使われるんですよ。ちょっと変わった仕上げや板の貼り方を指示する時、図面を描いたり口頭で説明するより、パースを見せた方が早いのです。現場の職人もプロですから、雰囲気を共有してもらうことが重要なのです。
- 設計だけでなくパース制作も ARCHITREND ですね
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別所氏
当社ではずっと以前から ARCHITREND ユーザーで、私も入社後修得してパースを作り始めました。もちろんCG製品が他にもあるのは知っていますし、実際に乗換えを検討したこともありますが、結局は使いやすく十分美しいパースが描ける ARCHITRENDを使い続けています。バージョンアップしてもインターフェイスが大きく変わらず、マニュアルを見なくても直感的に使えるのも助かりますね。また、機能的には ARCHITREND ZERO からアンビエントオクルージョンによるレンダリングが可能になったのが大きかったです。陰影もリアルに出せるようになり、一段とクオリティが向上しました。
- 会社の現状と今後の展開について
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別所氏氏
供給棟数は新築ベースで年間10棟前後ですが、リノベやリフォームが増えており、現在は新築が6でリフォームが4程度の割合です。一方で受注棟数は増え続けていますが、これ以上手を広げても質を落とすだけだと考えており、お断りするケースも増えています。まず必要なのは人材育成。特にインテリアのセンスの育成は難しく、この教育が当面の私たちの課題の一つと言えるでしょう。
※役職などは2019年11月取材当時のものです。