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匠総合法律事務所

まずは契約書などの約款の見直し&改訂から!
120年ぶりとなる民法改正への対応を機に
民法そのものを学び、法に基づいたビジネスへ

2020年4月1日、制定以来約120年ぶりに民法が改正されます。改正の対象となるのは債権法に関わる規定で、特に売買契約や不法行為に関わる規定を大きく見直す内容となっています。たとえば売買契約における「瑕疵担保責任」に代わり、新たに「契約不適合責任」の考え方が導入されるなど、住宅業界にとってもその影響は決して小さくありません。そこで、長年にわたり住宅建築業界におけるさまざまな法律問題を扱い、日本木造住宅産業協会の顧問も務める匠総合法律事務所 代表社員弁護士である秋野卓生氏に、今回の改正民法が住宅業界に与える影響とその対策についてお話いただきました。

民法改正の背景と狙い

約120年ぶりの改正だそうですね

秋野

ええ。民法が定められたのは明治38年(1898年)ですが、以降約120年間、ほとんど抜本的な改正がなされないままきていました。しかし、社会や経済をとりまく環境は大きく変わり、民法に規定された内容も一部現代社会にフィットしなくなっています。条文に使われている用語や表現も、現代人には分かりにくいものが増えました。そこで民法の古い規定を現代社会に合ったルールにしていこう、というのが今回の改正です。用語も現代用語に変えて、「知っている人は知っているが、知らない人は知らない」状態だったルールをできるだけ簡略化・明確化。誰でも理解しやすいルールとしています。

意味は変わらず、分かりやすくなると?

秋野

基本的にはそう言うことです。たとえば瑕疵担保責任を定めた条項が変わり、「瑕疵」という難解な言葉も「契約不適合」と言い換えられています。「契約不適合」とだけ聞くと「瑕疵の範囲が広くなってしまう?」と感じるかもしれませんが、そうではありません。「瑕疵」と表現されていた過去の判例の考え方を、現代用語で分かりやすく表記し直したのが「契約不適合」なのです。今までは「仕事の目的物に瑕疵がある」と言われても、多くの人は何が瑕疵に当たるのか分かりませんでした。ところが「仕事の目的物の種類・品質・数量に関して、契約の内容に適合しない状態がある場合」だと言われれば、容易にイメージできるはず。消費者の誰でも「種類・品質・数量に関する問題……何かあるかな?」と考えられるのですから、工務店も対処を考えておく必要があるわけです。

種類・品質・数量はどれも工務店が苦手なモノですね

秋野

見積りでA社製となっていた断熱材を、施主に黙ってB社製に替えてしまう現場もありますからね。また、品質については、最初はどこも「高品質の家を作ります」と言って営業するので、品質に関するイメージギャップが起きるリスクは常にあるし、数量についても契約直前の見積数量と施工時の数量が合致するか?でクレームが付く可能性もあるわけで。これも対処しておくべきでしょう。

工務店・設計事務所側の対応は?

工務店や設計事務所はどのように対応すれば良いでしょう

秋野

ここで改正内容全体についての対応策はお話ししきれませんが、たとえば前述の瑕疵担保責任に関していえば、申し上げた通り「種類・品質・数量について契約の内容に適合しない」と書き換えられるので、引き続き法令遵守の施工が求められるのはもちろん、種類・品質・数量についていっそう気をつけていく必要があるでしょう。それから、改正前に各社とも必ず対応が必要となるのが、現在お使いの契約書や帳票類、パンフレットや取扱説明書等々の改訂です。

どういった内容の改訂を?

秋野

お客様と交わす契約書の契約約款等は、旧民法が規定した内容に基づいています。従って、その大もとの民法が変われば、当然、契約約款等もそれに合わせて変えていく必要があります。前述の通り、改正民法は2020年4月に施行される予定なので、その日以降、契約を結ぶ物件については、新しい民法に基づいた契約約款を準備しておいて、これを使うようにしていかなければなりません。

新しい約款を作るには?

秋野

実は当事務所では、以前から住宅会社の契約約款の改訂業務を行っており、膨大な数の蓄積があります。そこでこの蓄積したさまざまな改訂約款の良いところを集約して、事務所の内部資料として代表選手的な契約約款をまとめていたのですが、最近これを民法改正版に修正し本にしました(『改正民法対応 住宅会社のための建築工事請負契約約款 モデル条項の解説』日本加除出版)。また、民間連合協定による工事請負契約約款も、同様に新民法対応バージョンを制作中と聞いています。皆さんにはこれらをよく見比べていただき、自社にとってどれが使い勝手が良いのか、自社のビジネスモデルに合致するのか、正しくチョイスできるよう検討しておいていただきたいですね。

法律はどんな時代が来ても一番確かな船

住宅業界の取組みは進んでいるのでしょうか

秋野

実際のところ「これから」という会社が多いのではないでしょうか。そこで一番問題になるのは、新しくなった契約書を業務で使用する営業マンたちのスタッフ教育です。この人材教育にどれくらいかかるかがポイントになります。具体的には、来年3月末まで現行の契約書を使い、4月から新民法に基づいた新契約書を使うわけです。で、たとえば「営業社員の教育に1カ月かかる」という会社は、来年2月までに新契約書を準備すればいい。「2週間あればオペレーションできる」というなら、3月中旬までに作れば間に合います。まあ、あまりギリギリになっても辛いので、来年2月頃までには準備しておきたいですね。

先生は御本をかなり早くお出しになりましたね

秋野

ええ、『建築工事請負契約約款 モデル条項の解説』は実はこの夏に出版したばかりの新刊です。早目に出したのは、実は消費者側の弁護士さんにしっかり読んでもらい、忌憚のないご意見を伺いたかったから。約款の条項は民法の規定より少しだけ工務店有利な内容にしているので、消費者側の先生方から見て「業者有利でひどいな」という所があったら早目に意見を伺い、4月までにきちんと是正して完全版に仕上げたいのです。私たちが作った約款に対して、適格消費者団体※から「消費者契約法違反だ!」なんて言われたくありませんからね。
※適格消費者団体:消費者庁長官の認定を受け、消費者の利益のために法律上の差止請求権を行使する団体

消費者側と業界側で解釈にズレが?

秋野

適格消費者団体の皆様からすると、民法規定に比べて消費者に不利益寄りの条項には異議を唱えたいわけです。実際、適格消費者団体も消費者に不利益寄りの条項に関して、「違法な約款」でなく「不当条項」と言うわけです。一般的に不当条項と言われるものとしては、施主都合で中途解約した場合の高額違約金条項が上げられます。私が心配しているのは「瑕疵担保責任期間が短か過ぎる」というクレームで、業界では長期保証10年、短期保証2年という条項が多いですが、この2年が「短すぎる」と言われやしないか心配しています。

やはり工務店も勉強が必要ですね

秋野

そうです。本当は、今回の改正をきっかけに民法という法律全体……それが難しければ、その請負規定の所だけでも勉強していただいて、その民法の規定に「約款がどんな形で修正をかけているのか?」を知ってもらえれば理想的です。そして「民法の改正箇所はどこか?」、また、請負契約約款をトータルに見た時「個々のクレームに対して約款がどうやって解決しようとしているのか?」。その解決姿勢というものを知った上であらためて約款全体を通して見てみれば、設計段階のトラブルから着工時のトラブル、完成後の瑕疵担保責任まで全て載っているので、それらをトータルに学ぶことができるのではないかと思います。

忙しい工務店の社長が勉強するのは大変そうですが……

秋野

そうですね。「もう民法改正に対応するなんて面倒くさいな」という気持ちはよく分りますが、法律というものを度外視して「オレが思ったことは、何だって最終的にはなんとかなる」みたいなやり方は、私に言わせれば「オレは酒を飲んでも運転できるぜ」と言ってるようなもので。面倒でもちゃんと道路交通法を理解して、これを守って運転する方が事故率が低くなるのは当然でしょう。法律を理解した上で進めるビジネスは、それだけで「どんな時代が来ようと一番確かな船に乗っている」ということなのです。その重要性を理解していただき、もっともっと「法律を意識した経営」に取組んでもらいたいと思っています。ですから、今回の民法改正をきっかけに、そんな意識を持っていただければ、素晴らしいですね。

※役職などは2019年11月取材当時のものです。

秋野卓生代表社員弁護士

匠総合法律事務所

代表者
弁護士 秋野卓生
拠点
東京、大阪、名古屋、仙台、福岡
設立
2001年4月
所属弁護士数
17名(2019年月1月1日現在)
事業内容
主に法律顧問先企業からの法律相談、訴訟対応、コンプライアンス対応等、企業法務等各分野の業務ほか

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