緊急開催!「迫る!改正建築物省エネ法」コロナ禍における説明義務化・省エネ性能への対応
2021年4月施行の改正建築物省エネ法をどう捉え、どう対応し、どう活かすのか。住まいづくりに携わる皆様にとって、避けて通れぬ喫緊の課題の一つとなります。そこで、福井コンピュータアーキテクトでは、2021年2月9日にオンラインにてA-Styleフォーラムを緊急開催!2,000名近くの方にご参加いただきました。
今回はテーマをこの建築物省エネ法への実践的な対応に絞り、これに精通したスピーカーを招聘。まず【基調講演】は、国土交通省 住宅局 住宅生産課の上野翔平氏をお招きし、改正建築省エネ法の概要と省エネの取り組みに対する多彩な支援の内容を具体的に解説いただきました。続く【技術解説セミナー】は株式会社LIXILの林淑弘氏に、建具とガラスの組み合わせによる開口部の熱貫流率など、改正省エネ法に対応した新たな設計・計算ポイントを解説いただきました。さらに【製品のご紹介】では改正建築物省エネ法への対応を実現したARCHITREND ZERO Ver.7.2をピックアップ。そして600点超の応募作品から入賞者を発表した【FCAパースコンテスト2020オンライン表彰式】まで盛り沢山な内容で大盛況のうちに終了しました。
今回はこのうち、国土交通省 上野翔平氏による【基調講演】要旨と共に、講演後に行われた上野氏と福井コンピュータアーキテクト 代表取締役社長の佐藤浩一による【スペシャル対談】もお送りします。
【基調講演】住宅・建築物の省エネルギー対策をめぐる最新動向
■さらに適合率を上げる必要がある住宅分野
建築物省エネ法が施行された2017年度は、2,000㎡以上の大規模建築物はすでに適合が義務化され、基本的に全てこの基準に適合していました。また、300㎡以上の中規模建築物の場合も適合率は9割を超え、これもおおむね適合できている状況でした。ところが小規模建築物の適合率は75%程度に過ぎず、住宅は規模に関わらず6割程度に留まり、特に住宅分野はさらに適合率を上げる必要がありました。こうした背景を踏まえて行われたのが、令和元年の建築物省エネ法改正です。では、その改正内容を見ていきましょう。
改正前後を比べると(※図版A参照)、まず、従来は大規模建築物だけだった適合義務制度の対象が、300㎡以上の中規模建築物へ拡大されていることに気がつきます。また、住宅に関しては、300㎡以上の中・大規模の住宅(一般的には共同住宅が該当)は、従来通り届出義務を課す形のままですが、より適合率を高めるため、所管行政庁の審査手続きが簡素化されました。そして──ここが一番のポイントとなりますが──300㎡未満の小規模な建築物・住宅は、省エネ基準適合への「努力義務」に加え「建築士から建築主への説明」が義務付けられました。また、トップランナー制度の対象も、従来の建売戸建の持家に、注文戸建の持家や賃貸アパートが追加されています。
今回の改正は2段階に分けて施行されました。まず前半分が施行されたのは2019年11月16日。この時の施行内容は3項目で、まず複数の建物で省エネ性能を高めていく場合の認定制度。次に中・大規模の住宅に関する届出義務の手続き合理化。最後にトップランナー制度対象の追加でした。そして、残る後半分が今回の改正で、
①中規模非住宅建築物を適合義務制度対象に追加
②小規模な建築物・住宅を対象に説明義務制度を設置
③条例により省エネ基準強化を可能とする仕組みの導入
──の3項が、2021年4月1日に施行されることになります(※図版A参照)。
■改正内容のポイントと対応
では、今回の改正内容について、ポイントとなる箇所を説明していきましょう。まず、新たに中規模の非住宅建築物が適合義務制度対象に追加されましたが、この適合義務制度とは、どのような制度なのでしょうか? ご承知のとおり、建物を建てるには建築基準法に基づく建築確認や完了検査等の手続きを踏む必要があります。また省エネの適合義務制度の対象となるような物件の場合は、省エネ計算を行って所管行政庁(or登録省エネ判定機関)に省エネ性能確保計画を提出し、適合判定を受けなければなりません(※図版B参照)。そして、「省エネ適判」と呼ばれるこの新しい審査をクリアすれば適合判定通知書が出ます。これを民間審査機関や行政調査に提出すれば確認済証が交付されて着工の運びとなります。裏返せば、計算結果が省エネ基準に適合しなかったり計算内容が間違っていると適合判定通知書が出ず、確認済証も交付されないという事態も考えられます。まずはこうした準備をきちんと行うことがとても重要です。
次のポイントは、改正により着工後の新たな取り組みが発生する点です。従来の届け出制度では、工事変更が発生しても完了検査に影響することはありませんでしたが、改正建築物省エネ法施行後は、着工後の設備変更など、計画内容の変更に応じて計画変更手続きが必要になります。これをせずに完了検査まで進むと建物が申請内容と違いを生じて検査済証がもらえず、建築主に引き渡しできない……という事態も無いとは言えません。特に工事期間が全体的に短くなる中規模の非住宅建築物では、こうした時の計画変更手続きをしっかり行うことが非常に重要なのです。
では、具体的にどのような対応が求められるのでしょうか?まず再度の省エネ適判が必要となる計画変更は、建築物の用途変更やそれに伴う計算時のモデル建築物の変更。あるいは計算方法が変わった場合で、こうした時は再度の省エネ適判が求められます。一方、その他の変更は「軽微な変更」となり、完了検査時に必要な書類を提出いただくことになります。ただし、その「軽微な変更」も内容により進め方は異なります。基本的に省エネ性能を向上させる変更の場合はルートA。この場合は完了検査時に軽微変更説明書という書類の提出が必要です。次に、元々一定以上のエネルギー消費性能を有する建築物に、一定範囲内でエネルギー消費性能を低下させる変更の場合はルートBで、これも完了検査時に軽微変更説明書の提出が必要です。一方、このルートA・Bに該当しない軽微な変更、すなわち計算により省エネ基準への適合が明らかな変更の場合はルートCとなり、軽微変更該当証明書を省エネ適判機関や所管行政庁に申請。完了検査時にこの書類を提出いただきます。
■届出義務制度成功のカギは建築士に
改正後の建築物省エネ法では、基本的に中・大規模の住宅は届出義務制度の対象となります。届出義務制度とは、着工の21日前までに省エネ計算した結果を自治体へ提出いただくことを義務付けるもの。仮に省エネ基準に適合していなくても着工できなくなりはしませんが、あまりに省エネ性能が悪いと、自治体から計画見直しを含め指示や命令が下される可能性もあります。そして今回この制度に関わる手続き合理化が図られました。というのは──届け出られた物件は「省エネ基準に合っているかどうか」自治体側で審査しますが、たとえば住宅性能表示制度やBELS制度を活用し第三者機関による審査が行われ、省エネ基準への適合が確認済みの物件は、届け出も3日前までに提出すれば良い──という風に合理化。さらに提出図書も省エネ計算に関するものは省略できるようになりました。
続いて、小規模住宅・建築物については、今回新たに「説明義務制度」という新制度が設けられました。この制度で法律上義務付けられているのは、300㎡未満の建築物・住宅について、まずは設計段階で「省エネ基準に適合しているかどうか?」計算結果を評価し、さらにその結果を建築主に対してご説明いただく──という内容の新制度となります。さらにこのご説明は書面を持って行っていただく必要があるほか、その説明に用いた書面は建築士法に基づく保存義務対象図書となるので、15年間保存していただくことも義務となります(※図版C参照)。
一般的に300㎡未満の住宅や建築物は、建築主みずからが使う物件であることが多く、だからこそ「自分が使うのだから良いモノを作りたい」とお考えの建築主も少なくないはずです。ただ、こうした建築主は必ずしも建築の専門知識が十分ではないのも現実です。そこで、専門知識を備えた建築士が省エネについて説明すれば、小規模な住宅・非住宅建築物の省エネ性能の向上にも有効なのではないか──そんな発想がこの新制度の狙いの一つでもあります。ですから、建築士の皆さんは建築主に対して「住宅あるいは建築物で、省エネをするとこんな良いことがあるんだよ」だから「一緒に省エネ性能を高めていきましょう」と説明し、建築主に省エネの重要性や効果をご理解いただくことが今回の改正のポイントであり、この新制度が成功するためのカギだと私は考えています。
国土交通省では、皆さまの説明活動を支援するためのコミックやテキスト、動画などさまざまな資料類も用意しています。改正省エネ法の趣旨をご理解の上、ぜひご協力いただけますようお願いいたします。
●国土交通省「改正建築物省エネ法」サイト ●法改正について学べる「オンライン講座」
(2021年2月9日講演より抄録)
A-Styleフォーラム2021 Winter【スペシャル対談】
■国土交通省 住宅局 住宅生産課 課長補佐 上野 翔平氏
VS
■福井コンピュータアーキテクト株式会社 代表取締役社長 佐藤 浩一
■コミュニケーションを促すきっかけに
佐藤●ご講演お疲れさまでした。とても語り慣れてらっしゃるご様子で、非常に濃密かつ新しい情報も盛り込まれていましたね。たいへん興味深く拝聴しました。実は今日の講演は約3,000名もの事前申込をいただいたほどで、この業界の方にとって非常に関心の高いテーマだったことは間違いないようです。
上野氏●ありがとうございます。やはり今回の改正で新たに盛り込まれた説明義務制度は、「義務」と思わせる性格が強くて、建築士さんからすると、ある意味非常に「規制された」という受け止め方をしてしまう場合も少なくないのでしょうね。
佐藤●そうですね。実際に「規制」と感じるかどうかはともかく、気にしておいでの建築士さんは多いようです。それが今回のフォーラムへの関心の高さに繋がったのかも知れません。
上野氏●なるほど。ただ、私自身はこの制度にはさらなるコミュニケーションを促す狙いもありそうだ、と感じているんです。
佐藤●コミュニケーションとおっしゃると?
上野氏●ええ、たとえば手続きをするだけの制度だったら、いくらやってもなかなか人と人とのやりとりというものは生まれません。しかし、今回の制度はそこに「説明する」というアクションを義務付けることで、建築士と施主とのコミュニケーションを生み出すきっかけを作り出そうとしているのではないでしょうか。省エネについて親しく話し合い、互いに関心を深めるための導入として活用いただくと良いのかな、と思います。
佐藤●なるほど、それは非常に重要なことですね。コミュニケーションの機会を作り、互いの垣根を下げるというような……。
上野氏●ええ。そして、その意味では新しい技術が果たす役割も非常に大きいと言えます。たとえば……先ほど過去のセミナー映像を拝見したんですが、その中に建築家の伊礼智さんが、iPadに入れた貴社ソフトを使って設計してみせる映像があって。実は私、伊礼さんの建築のファンなので「ああ、伊礼さんもこういったものをお使いになるんだなあ!」と感銘を受けました。
■省エネに対するハードルを下げるために
佐藤●間取り作成アプリ「まどりっち」のプロモーション映像ですね。デジタルながら手描き感覚で間取りを描けるiPadアプリです。伊礼さんはまどりっちのコマンドを使うというより、これを一種のスケッチツールとして、自己流の手描きスタイルでエスキース的なスケッチをぐいぐい描いてくださいました。
上野氏●コロナ禍のいまは何事も「対面」で行うのはなかなか困難ですが、私たちも「まどりっち」のようなソフトやWebを上手く使いながらやっていくと良いのでしょうね。
佐藤●そうですね、おっしゃる通りだと思います。
上野氏●ある意味、省エネというのは、CADやBIMといった技術とも親和性の高い部分があるのではないかと思っていまして……。外皮計算だって、外壁や窓等々の基本情報が揃えばBIMやCADで難なくできてしまうと聞きます。もちろん制約はありますが、将来的なものを考えれば、我々はこうしたことも見据えながら仕事をしていかなければならないな、と思っています。
佐藤●そうなると、CADベンダーの責任も重大になりますね。
上野氏●ええ。ユーザーにとって使いやすいソフトをいろいろ出してくだされば、それだけ地場の工務店さんも無理なく使える──省エネ計算も簡単にできる、という風なことが現実になってくるわけで……。使いやすいCADやBIMがどんどん出て、活用が広がっていけば、将来的により省エネに対するハードルを下げることにも繋がるのではないでしょうか。
佐藤●そうですね。とにかく我々は業界とは一蓮托生のメーカーですから、つねに業界と並走する立ち位置を守って進んでいきたいと思っています。製品についても、ユーザーの立場に立って活用の広がりがあるソフト開発に努めていきますよ。
上野氏●それはぜひ、お願いします(笑)。
A-Styleフォーラム2021 Winter / VOL.6 SLIDE SHOW
600を超えるご応募をいただいた「FCAパースコンテスト2020」の結果は下記よりご覧いただけます。
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記載の役職等はイベント開催(2021年2月)時点のものです。