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建築基準法で決まっている「採光のルール」をやさしく解説!

2025.09.18

採光のルール記事のタイトル

建築設計や確認申請に携わっていると、「この居室は採光基準を満たしているか?」という問いは避けて通れません。居室に十分な自然光を取り入れることは、居住環境の質に直結するだけでなく、建築基準法上の明確な義務としても位置づけられています。

しかしながら、第28条をはじめとする条文の表現は抽象的で、実務に落とし込もうとすると、「結局どのように設計すればいいのか」「どこまでが適用範囲なのか」など、曖昧さを感じることも少なくありません。

特に開口部の有効面積の算出や、用途別に異なる最低限の採光割合、例外規定の扱いなどは、実務者であっても理解と整理に苦労する分野といえるでしょう。

本記事では、建築基準法に定められた採光義務の趣旨から具体的な適用範囲、そして条文に記された要件をどのように読み解き、設計や申請に反映すべきかを、法的根拠に基づきながら分かりやすく解説していきます。

▼なお、採光補正係数を用いた具体的な採光計算の方法やテクニックについては、別記事にて詳しく解説していますので、そちらもあわせてご参照ください。
https://archi.fukuicompu.co.jp/fcajournal/article/12

まずは建築基準法の採光義務を法文で確認

設計図を見る3人の職員

建築設計に携わっている方であれば、建築基準法第28条という条文を一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。

とくに確認申請や基本設計の初期段階で、「この居室は採光基準を満たしているか?」という確認は、避けては通れないチェック項目です。建築基準法第28条には、居室における自然採光の確保について、明確な義務と基準が定められています。

実際の条文では、以下のように記述されています。

住宅、学校、病院、診療所、寄宿舎、下宿その他これらに類する建築物で政令で定めるものの居室(居住のための居室、学校の教室、病院の病室その他これらに類するものとして政令で定めるものに限る。)には、採光のための窓その他の開口部を設け、その採光に有効な部分の面積は、その居室の床面積に対して、五分の一から十分の一までの間において居室の種類に応じ政令で定める割合以上としなければならない。ただし、地階若しくは地下工作物内に設ける居室その他これらに類する居室又は温湿度調整を必要とする作業を行う作業室その他用途上やむを得ない居室については、この限りでない。

条文としての構造は一文が非常に長く、また「政令で定めるもの」「これらに類する居室」「やむを得ない居室」などの抽象表現が多用されているため、実務者であっても一読してすぐに意味を理解し、設計に落とし込むことは簡単ではありません。

たとえば、「床面積に対して、五分の一から十分の一までの間において政令で定める割合以上」という記述。この部分は「1/5〜1/10の間であれば自由に設定できる」という意味ではなく、実際には建物の用途や居室の種類に応じて、それぞれ具体的な数値が政令や技術的基準で定められています。

住宅や病室なら1/7、学校の教室なら1/5、大学などの教室なら1/10といった具合です。しかし、条文からその具体的な数値を直接読み取ることはできず、別途政令(施行令)や告示にあたらなければなりません。

また、条文後半にある「ただし書き」も、現場での設計判断を複雑にするポイントです。

地下室や機械室、冷凍庫、温湿度管理が求められる作業空間など、用途上自然光が不要あるいは不適切とされる空間では、採光義務の対象外となることが示されています。

しかし、「やむを得ない居室」の具体例や適用可否は条文からは明確ではなく、自治体ごとの判断基準や事前相談で対応が分かれるケースも少なくありません。

このように、第28条の条文そのものは法的根拠として重要ではあるものの、実際の設計や確認申請の場面では、条文をそのまま解釈して適用することは困難です。読み手に専門知識が求められ、条文だけでは判断に迷う場面も多く、設計者の経験と運用知識が大きく問われる領域といえるでしょう。

建築基準法の採光義務をわかりやすく解説

建築図

建築基準法における採光の義務とは、簡潔にまとめれば「住宅や学校など、人が長時間生活する空間において、一定以上の自然光を確保するための開口部(窓など)を設けなければならない」という規定です。

これは単に快適性を追求するためではなく、設計に明確な法的義務として反映させる必要のある要件です。この条文の本質は、以下の二つの視点から成り立っています。

第一に「どの空間が対象となるのか」、第二に「その空間にどれだけの採光が求められているのか」という点です。

まず、対象となるのは住宅・学校・病院・診療所・寄宿舎・下宿など、日常的に人が長時間滞在する居室に限られます。

ここでの居室とは、具体的にはリビングルーム、教室、病室などを指し、倉庫や機械室のように一時的な利用を想定した空間は含まれません。たとえば、共同住宅であれば各住戸のリビングや寝室、学校では授業を行う普通教室などが該当します。

次に採光要件として求められるのは、開口部の採光に有効な部分の面積が、居室の床面積に対して一定以上であることです。

ここでいう有効とは、単に開口部が存在していればよいという意味ではなく、実際に自然光を室内に届けられる性能を有していることが条件となります。

たとえば、窓の正面に高い建物が隣接していて光がほとんど入らない、あるいは庇や袖壁によって日射が遮られるような場合、その窓は「採光に有効」とは判断されません。

極端な例では、補正係数が著しく低く設定される設計条件において、開口部の面積が大きくても基準を満たさないというケースも生じます。

では、どれほどの採光面積が必要とされるのでしょうか。これは建築物の用途や居室の種類によって区分されており、代表的な基準は以下の通りです。

  •  住宅・病室・寄宿舎など:床面積の1/7以上(約14.3%)
  • 幼稚園・小中高校の教室:床面積の1/5以上(20%)

  • 専門学校・大学の教室:床面積の1/10以上(10%)

このように、教育施設などでは高い採光率が求められる傾向があります。これは視認性の確保や学習への集中力の維持といった観点が重視されているためです。

一方で、すべての居室にこの採光基準が機械的に適用されるわけではありません。条文には「ただし書き」が設けられており、以下のような用途に該当する居室には例外が認められています。

  •  地階や地下工作物内の居室
  • 温湿度の管理が必要な特定用途の作業室(例:冷凍倉庫、機械室など)

  • その他、用途上やむを得ず自然光が不要な特殊空間(例:撮影スタジオ、クリーンルームなど)

これらの例外規定については、実務上、設計者の判断や所管行政庁との事前協議が求められる場面も多く見られます。やむを得ない居室という文言自体が抽象的なため、判断がつきにくい場合は、管轄の建築指導課などに設計意図や用途を説明し、適用除外の妥当性を確認しておくことが重要です。

このように、採光義務に関する規定は一見するとシンプルですが、実際には居室の性質、建物の用途、開口部の条件など、多様な要素が複雑に絡み合っています。

そのため、条文を形式的に読むだけでなく、設計初期から「どの居室が採光義務の対象となるのか」「開口部は有効とみなされるか」を丁寧に検討していく姿勢が必要です。

そもそも、なぜ建築基準法で採光の重要性が強調されているのか?

コインと家の模型

採光義務が建築基準法に定められている背景には、居住者の健康と安全を守るという本質的な目的があります。自然光は、単に室内を明るくするだけでなく、生活リズムの形成や心理的安定にも深く関わる重要な要素です。

第28条では、主に健康維持の観点から採光の必要性が強調されています。

自然光が十分に確保された空間では視認性が高まり、目の疲れやストレスが軽減されます。また、日照によって室内の湿気が抑えられ、カビやダニの発生リスクも低下します。特に免疫力の弱い高齢者や子どもがいる家庭では、この点は重要な配慮といえるでしょう。

さらに、採光は災害時の避難安全にも関係します。

建築基準法第35条では、非常時における安全な避難経路の確保が求められており、昼間に自然光があることは、避難時の判断や行動に大きな影響を与えます。たとえば停電で人工照明が使えなくなっても、窓から差し込む光があれば、避難経路を把握しやすくなります。

このように、採光は快適さだけでなく、健康維持と防災の両面からも不可欠な設計要件です。単なる設計の付加価値ではなく、法的義務として明確に位置づけることが求められます。

建築基準法にもとづいた採光の計算方法

インテリアの絵を描く人

採光義務を正確に満たしているかを判断するには、単に窓のサイズや面積を確認するだけでは不十分です。なぜなら、採光の評価は量だけでなく質にも深く関わるためです。

つまり、その開口部がどれだけ自然光を室内に有効に取り込めるかという視点が、建築基準法上で厳密に問われることになります。

そこで重要となるのが有効採光面積の算出です。

これは、開口部の実際の面積に加え、周辺環境や遮蔽物などの影響を加味して評価する仕組みで、以下のような計算式によって表されます。

 有効採光面積(㎡)= 開口部面積(㎡) × 採光補正係数(K)

まず、開口部面積とは、窓やガラス面のうち、採光に寄与する部分の実測面積を指します。

たとえば、壁厚に埋まった部分や開閉できない欄間など、実際には光を取り入れにくい構造が含まれている場合、それらは有効面積に算入されないことがあります。そのため、設計図上の寸法だけで判断するのではなく、現実的な採光性能を踏まえた面積の把握が必要です。

次に、採光補正係数とは、その開口部がどれだけ有効に自然光を取り込めるかを示す係数で、通常0.1〜1.0の範囲で設定されます。

補正係数が1.0であれば、開口部面積はそのまま有効採光面積として換算されますが、多くの場合は周辺環境などの影響により1未満となります。

補正係数に影響を与える主な要素は、以下の通りです。

  •  隣地建物までの距離(D):密集市街地では、隣接建物が光を遮るため補正係数が大幅に低下します。
  • 開口部の上端高さ(H):窓が高い位置にあるほど、より広い角度から光を取り込めるため、係数は高くなります。

  • 庇・バルコニー・外階段などの遮蔽物:これらの構造物が開口部の上部にあると、自然光の進入が妨げられます。

  • 窓の向き:一般的に南向きの窓は最も採光効果が高く、北向きは最も低く評価されます。東西向きは季節・時間帯により効果が変動します。

  • 用途地域や条例による日影規制:地域によっては建物の高さ制限や日影規制があり、それに基づいた係数が設定される場合があります。

一例をあげると、市街地の住宅で、隣地との距離が1m未満、かつ深い庇が張り出した南東向きの窓がある場合、採光補正係数が0.3程度まで低下することもあります。

このような状況では、たとえ開口部自体が大きくても、有効採光面積が床面積に対する基準を下回り、法基準を満たさなくなる可能性があります。

こうした場合には、以下のような設計上の調整が必要となることがあります。

  •  開口部の面積を拡大する(窓の増設・拡張)
  • 庇や袖壁などの遮蔽物の形状を見直す

  • 隣地との離隔距離をできる限り確保する

  • 窓の高さを上げ、より高い日射角度を確保する

さらに、建築確認申請時には、採光計算結果を根拠資料として図面や計算書とともに提出しなければいけません。特にRC造、地下階を含む建物、または敷地が狭雑な都市部の住宅などでは、採光補正係数の設定根拠について詳細な説明を求められるケースもあります。

このように、採光の評価は単なる数値計算ではなく、法令・環境・設計意図を総合的に踏まえた判断が求められます。中小規模の住宅であっても、住環境の質と法適合性を両立させるためには、初期段階から計画的に採光戦略を立てておくことが重要です。

建築基準法が定める採光面積の基準

建物の絵

建築基準法では、開口部の有効採光面積が、居室の床面積に対して一定割合以上であることが求められています。この割合は、居室の用途ごとに細かく定められています。以下の表は、主要な居室種別ごとの基準値をまとめたものです。 

居室の種類

最低限必要な有効採光面積の割合

教室(幼稚園・小中高)

1/5(20%)

住宅・病室・寄宿舎など

1/7(約14.3%)

専門学校・大学などの教室

1/10(10%)

このように、教育施設では比較的高い割合が設定されており、住宅や病室などの居住空間ではやや緩やかな基準となっています。これは、学習環境において明るさが集中力や理解度に直結しやすく、十分な採光が不可欠とされているためです。

設計においては、単に窓のサイズを決めるのではなく、「有効な採光が確保できているか」という視点で面積を検討することが重要です。また、建築物の用途変更やリノベーション時にも、この基準を満たしているかどうかを必ず確認する必要があります。

建築基準法の採光義務(法28条)と他の法令の違い

辞書が並んだ本棚

採光に関する法的規定は、建築基準法第28条だけにとどまりません。第35条や第35条の3にも採光・照明に関する条文があり、それぞれ異なる目的と要件を持っています。

最も大きな違いは、「窓を設けることが必須かどうか」という点です。第28条に基づく居室では、必ず窓などの開口部を設ける必要があります。一方、他の条文では、一定の条件を満たすことで窓を設けなくてもよいとされています。

たとえば、第35条では、照明設備を設けることで開口部の設置義務が免除される場合があります。具体的には、人工照明により床面で50ルクス以上の照度を確保し、非常用電源によるバックアップ体制が整っていることが条件となります。

さらに、「住指発第153号」に定められた技術的基準を満たしていれば、窓のない設計でも建築確認が認められることがあります。

このように、採光や照度に関する要件は条文ごとに緩和条件や適用範囲が異なります。設計に際しては、対象空間がどの条文の適用を受けるかを正確に見極め、それに応じた根拠資料を用意することが求められます。

採光は設計初期からの考慮が必須。建築基準法を正しく理解しておこう

採光基準の修正は設計終盤になるほどコストが増すため、初期段階からゾーニングや窓配置を計画することが重要です。建築基準法第28条では「面積」だけでなく「有効性」が求められ、隣接建物や庇などの条件を無視すると再設計を迫られる可能性があります。

このリスクを避ける有効な手段が建築CADソフト「ARCHITREND ZERO」の使用です。3次元シミュレーションを通じて、勘や経験に頼らず根拠ある窓配置を行えます。

ワンポイント:「ARCHITREND ZERO」では、意匠設計と採光計算が相互連携しており、図面と計算の整合性をリアルタイムで保つ事ができます。
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採光設計は建物の性能と快適性を左右する要素です。法令を正しく理解し、適切なツールを活用することで、質の高い設計と円滑な確認申請を実現できます。

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●【動画】採光換気排煙の計算に時間がかかっている【GLOOBE Architect】
https://youtu.be/rIl0guxFqfI

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