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福井工業大学工学部建築土木工学科

BIMによる設計演習での意欲向上とコンペ参加推奨のため
学生ごとにBIMソフトのID交付

ベテラン技術者の退場が相次ぎ、人手不足が深刻な建築業界。BIMの普及が2次元CADの離陸前夜と似たような状況を呈している現在、産学協同=実学として教育現場でのBIM運用はどのようになっているのか。福井工業大学工学部建築土木工学科の今を報告する。

POINT

  • 現業でもBIMの普及が端緒につき、建築のデジタル化が3次元に移行する過渡期にある
  • 実務CAD を学ぶ全ての学生にはBIMソフト「GLOOBE」が使用できる専用IDが交付される
  • 現場写真やスケッチなどで実務の理解を深めつつBIMソフト「GLOOBE」を運用する

冒険型プレーパークに設置するツリーハウス提案+設計+発注+施工まで学生たちで完結

福井工業大学工学部建築土木工学科とデザイン学科の学生たちがデジタルツールを用いて設計施工を担った「坂井市竹田の里プロジェクト」のツリーハウス・ドーム。建方の完了は2015年4月26日。学生たちは有志ボランティアとして14年秋から同プロジェクトに参加、ツリーハウス・ドーム本体についてデザイン提案から設計、材料発注、施工までを延べ77名の学生で行った。

完成したツリーハウス・ドーム

写真を見れば明らかなように、従来の2次元CAD(図面)では、デザインスタディ+形態決定は勿論のこと、図面作成(表現)も困難だし、正確な施工図(製作図)もできなかったに違いない。設計施工に威力を発揮したのはパソコン用3次元モデリング・ソフトウェアSketchUp(TM)だ。

SketchUp(TM)では対象建物に相当するオブジェクトをマウスでつまむようにして、自由自在に伸ばし、拡げ、加工できる。この段階では対象建物を構成する数値情報を重要視する必要はないが、一方で、こんな形でと感覚的に「粗く」モデリングしても、背後に数値情報を保持しているので施工(製作図段階)では数値(寸法)を1/1レベルで整合できる。

製図の基本を習得した後に2次元CADソフト+BIMソフトを演習する

2年次の前期は実務CADⅠ、後期は実務CADⅡが演習としてカリキュラムに組み込まれており、製図法の授業で培った知見を基に2次元CAD、BIMソフト「GLOOBE」の操作スキルを学ぶ。

3年次のプレゼン演習では、デジタル化された建築情報の応用手法を学ぶ。前期のプレゼン演習Ⅰでは2年次の設計課題作品(手描き)をBIMソフト「GLOOBE」で3次元モデルとして作成するなど現業での運用を想定した演習となっている。後期のプレゼン演習Ⅱでは編集ソフトの定番であるAdobe Photoshop、Adobe Illustratorなどを用いて広範多岐に渡るデジタル情報の編集技術を学ぶ。

実務CAD を学ぶ全ての学生にはBIMソフト「GLOOBE」が使用できる専用IDが交付される。デジタルツールの演習が始まる2年次から、専門科目を履修する4年次になっても、学生には自由にBIMソフト「GLOOBE」を使える環境が整備されている。

BIM普及が産業側で端緒についたとの認識と他大学との差別化戦略

建築業界では、いぜんとして建築工程の中を2次元図面(データ)が流通しており、就職後、すぐに求められるのは2次元CADのスキルだ。それにも関わらず大学側が授業で積極的にBIMソフト「GLOOBE」導入を進めた背景には、現業でもBIMの普及が端緒につき、建築のデジタル情報が2次元から3次元に移行する過渡期にあるとの認識がある。

少子化が進行する中で大学の経営環境は厳しさを増している。他大学と差別化し、現業側からの要請に応えるべく優秀な学生を集め、送り出すためにはBIMに象徴されるデジタル環境の高度化対応が急務だ。

BIMソフト「GLOOBE」導入には、福井コンピュータアーキテクトの創業の地が福井であるのも関係している。カリキュラムに組み込んだ以上、演習時の瑕疵は避けなければならない。開発者レベルで直接、サポートが受けられる安心感は大きい。

コンペ参加の学生に魅力的なパース作成機能ハード進化で高度なレンダリングも可能

学生によるパース作成例(T邸・居間)

設計コンペでの提案力をスキルアップしたいとの学生からの要望がある。2次元CADの製図演習は本学科の学生全員が受講しており、大学側では建築の学修に対するモチベーションを上げるため設計コンペ参加を推奨している。BIMソフト「GLOOBE」を使用すれば高度なレンダリングを施した3次元パースなども作成できる。学生有志はチームを結成し、設計コンペで競いあっている。

3次元モデリング・ソフト「SketchUp(TM)」では、オブジェクトをマウスでつまむようにして、こんな形でと感覚的に「粗く」モデリングする。BIMソフト「GLOOBE」は同様に、3次元モデルを「粗く」入力する「スタディモデル機能」をもっている。両ソフトが操作面で高い親和性をもつと共に、BIMソフト「GLOOBE」ではSketchUp(TM)のデータを読み込める。このことはあまり注目されていないが、学生にとって3次元モデリング・ソフトからBIMソフト「GLOOBE」への移行は、比較的、容易に違いない。

建築的な修練が乏しくとも図面ができてしまうというブラックボックス化に最大限留意

BIMソフト「GLOOBE」は2次元図面の作成機能に優れ、設定によって7〜8割程度の実施図面が作成できると評価は高い。しかし、教育現場ではBIMソフト「GLOOBE」が進化する中で、逆説的にブラックボックス化が危惧されている。建築的な修練が乏しくとも、図面がそれなりにできてしまうからだ。

図面作成のルールはもちろん、一本の線が実際の建物の何を表しているのかを理解せずに、CAD操作のスキルばかりが上達しても意味がない。授業では学生の進捗を見ながら現場写真やスケッチなどで実務の理解を深めつつBIMソフト「GLOOBE」を運用している。

※2015年7月発行のJ-BIM WORLD 事例集 Vol.2で掲載したものです

五十嵐 啓工学部建築土木工学科准教授

多米 淑人工学部建築土木工学科准教授

福井工業大学工学部建築土木工学科

所在地
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福井県福井市学園3丁目6番1号

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