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東京都立 墨田工業高等学校

情報技術基礎科目の一環として「GLOOBE」を運用

 墨田工業高等学校は2020年度に創立120周年を迎えた歴史ある伝統校で、2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智氏が1958年から5年間、定時制の教諭として理科などの授業を担当したことでも知られている。建築科の教諭と実務者の立場で授業、実習を支援する一級建築士・インテリアデザイナーから、卒業も翌春に迫った2020年12月3日時点でのBIM運用の現在を聞いた。

 建築科におけるBIM運用は、情報技術基礎科目の一環として、他のデジタルツールの運用などと共に実施されている。産業界からは主として建設現場の施工技術者育成を託されていることから、社会人として必須のデジタルリテラシーの獲得を目標として掲げており、標準的なビジネスツールであるWord、Excel、PowerPointの習得を目指している。

 情報技術基礎科目の受講によって工業高等学校の生徒は、計算力の検定試験「計算技術検定」の受験資格を得ることができる。そのための「計算技術科目」も設けられており、実践的な演習、模試も実施されている。外部から講師を招き、ビジネス文書作成のリテラシーを学ぶ「ITマスターとの授業」もユニークだ。

初心者向けの導入マニュアルを授業で活用

 建築科として建築に特化したデジタルツールの運用も、卒業後の実務への即応を想定して多岐にわたっている。基礎的な図学、製図能力を鍛えるために製図板は設置されているが、就職後に向けてCADの習得も求められることから、「Jw-cad」も採用している。住宅設計に必須の間取りの計画・検討については、専用の間取り& 3D住宅デザインソフト「3Dマイホームデザイナー」[メガソフト]を活用している。

 BIMについては、住宅設計に特化した3D建築CADシステム「ARCHITREND ZERO」[福井コンピュータアーキテクト]を導入していた経緯から、BIM 建築設計・施工支援システム「GLOOBE」[福井コンピュータアーキテクト]を選定し、運用している。

 「GLOOBE」の授業は、2020年の第一学年を例に挙げると、3学期に5コマ実施されている。情報技術基礎科目においては、ビジネスソフトからCAD、間取り作成ソフト、「計算技術検定」の受講が目白押しで、BIMソフトの徹底習得に至るまでの時間が割けない。そのため、福井コンピュータアーキテクト提供の初心者向け導入マニュアル「基本操作編」「モデル入門編」目的別マニュアル「レンダリング編」をベースに、限られた時間を有効利用している。

 スマートフォンはお手の物で、ゲーム機の3 次元映像にも日常的に慣れ親しんでいる生徒たちは、マニュアルを参照しながら「GLOOBE」の操作を進めていった。一方で、「GLOOBE」のマニュアルに沿って、初心者向けの3 次元建物モデルを構築していくと、映画の書割のような、外見上はそれなりの建築物が成立してしまうとの課題も顕在化した。3次元建物モデルが内包する各種の属性情報をどのように構築していくのか。建築的な納まりをどのように構築していくのかなどの本格的なBIM運用については時間切れとなっている。墨田工業高等学校建築科が建築教育全般との整合性をとりつつBIMへのチャレンジを続け、より実り多きものとするためには、官民挙げての継続的な支援と教育制度自体のデジタル転換が求められている。

リアルとデジタルを融合したBIM 運用の可能性

 コロナ禍で高校生たちの就職にも異変が起きている中、墨田工業高等学校建築科では、大手ゼネコンを中心に、生徒全員の採用が実現した。高い就職率の背景には外部講師を招いたユニークな授業の数々がある。一例として施工技術者育成に即応したリアルな建設現場の再現授業がある。

【画像1】「軽井沢の山荘」の1/2の軸組模型

 

 【画像1】は、建築家・吉村順三の設計で名作建築として知られる「軽井沢の山荘」の1/2の軸組模型だ。1 年の工業技術基礎ではスチレンボードで模型を製作し、模型の作り方と空間のつながりを学習した。2 年の実習では2階より上の木造部分を実際の建築物の1/2 で作り、あわせて透視図の作成方法を習得、製図では軸組模型製作を通して断面詳細図を描くことを学んだ。

 生徒たちは伝統的な仕口の作り方などリアルな手触りを感じながら学習していった。現業ではすでにBIMによる3次元建物モデルをベースにした工場でのプレカットも自明となっている。本格的なBIM運用によって、リアルな手作業とデジタル・ファブリケーションを融合させた学習も視野に入ってくる。そのためには実利面での予算措置なども含めて、官民挙げてのより一層の支援が求められている。

【会誌「日事連」2021年3月号より転載】