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日本工学院北海道専門学校

ARCHITREND ZERO、GLOOBE、J-BIM施工図CADで木造&鉄筋コンクリート造のBIMをトータルに教育

日本工学院北海道専門学校は北海道登別市にキャンパスを置く、私立の専門学校である。東京の日本工学院専門学校を母体として、登別市の誘致により1982年に北海道校を開校し、現在は総計10学科もの多彩な専門学科を展開する総合的な専門学校である。建築学科はいち早くカリキュラムにBIMを取り入れ、ARCHITREND ZEROからGLOOBE、J-BIM施工図CADまで福井コンピュータアーキテクトのBIMソフトを導入。木造住宅から鉄筋コンクリート建築の設計、そして施工図作成まで、BIMをフルに活用するBIM実践教育を実施して大きな成果を上げつつある。その先進的な取り組みについて、同校参与でBIM講座の設置/運営を牽引する丸山一孝氏にお話を伺った。

いますぐにでも授業にBIMを

 「本校は東京の蒲田(日本工学院専門学校)と八王子(日本工学院八王子専門学校)に姉妹校があり、BIMについては蒲田校から最初に情報をもらったんです」。
そう語るのは、日本工学院北海道専門学校の参与として建築学科のBIM関連講座を統轄する丸山一孝氏である。このBIMが建築の次代の主流になる、と蒲田校から聞いた丸山氏は、それを我が目で確かめるため、道内でBIMを運用している建築会社を探し始めたと言う。「すぐに札幌のある建設会社がBIMを使っているという情報が入りました。早速連絡を取ってみたところ、ちょうど札幌のマンション建設現場で使っていると言うので、見学させてもらったのです」。こうして丸山氏は当時まだ札幌でも珍しかったBIM運用現場を訪問した。そこでBIM活用の核として運用されていた、GLOOBEと遭遇したのである。
 「じっくり見せてもらいましたが、見れば見るほど“これは凄いものだ!”と。そして“授業で使える”、“使うべきだ!”と確信しましたね」。早く授業にBIMを取り入れたい──そう思った丸山氏だったが、GLOOBE購入の予算をすぐ取るのは難しい。そこで、応急処置として海外製BIMソフトを導入することにしたと言う。教育機関が無料で使えるアカデミック版が用意されているからだ。GLOOBEによる本格的なBIM講座を始める前に実際にBIMで授業を行ってみて、いろいろ確かめておこうと考えたのである。
 「すぐに海外製BIMソフト2製品を検討しました。北海道ではJw_cadが広く普及しており、本校も授業に使っていたのです」。こうして2015年、同校はこの他社ソフトを使いBIMを授業に導入したのである。試験的とはいえ、いったん講座が始まってしまえばツールの乗り換えはなかなか難しくなるものだが、丸山氏のGLOOBE導入への意志は変わらなかった。なぜ丸山氏はそこまでGLOOBEの導入にこだわったのだろうか?
 「理由はまず、GLOOBEがJw_cad連携に非常に優れていたからです。前述の通り本校では全ての設計製図の授業でJw_cadを使用しており、Jw連携はとても重要でした。さらに北海道の企業の多くがJw_cadを使用しており、また、国産CADならではの強み、つまり日本の法規と建築スタイルに基づいたCADだったことも大きいですね。コマンドも日本語で、英語が得意ではない学生もGLOOBEなら直感的に操作できると感じたのです」。そして、この丸山氏の直感は、早くもその翌年、正しかったことが証明される。

見れば見るほど“これは凄いものだ!”と “授業で使える”、“使うべきだ!”と確信しました

GLOOBEを用いた授業風景

BIM設計をトータルかつ実践的に学ぶ

 「その海外製BIMソフトは優秀な学生を選抜して使わせました。テキスト課題はすぐできたのでオリジナルのモデルも作らせ、それもそれなりに作れました。ですが満足の行くようなものはできなくて……。もっと自由自在に作品を作らせ、BIMの能力を展開するためには、やはり福井コンピュータアーキテクトのBIM製品が必要だ、と」。あらためてそう確信した丸山氏は、GLOOBE導入へと積極的に取り組みを進めていく。その後も紆余曲折あったが、2017年、ついにGLOOBEとARCHITREND ZEROを導入(その後 J-BIM施工図CAD も導入)。これを建築科のカリキュラムに全面的に採用し、念願の本格的BIM教育を全学生を対象に開始したのである。

 丸山氏が工夫を凝らした、BIM実践教育のカリキュラムについて紹介してもらおう。
「建築学科は2年制となっており、1年次は建築の基礎として木造住宅を学びます。まず木造住宅の基礎知識を学んだ後、Jw_cadで実際に木造住宅の設計製図を行います」。さらに1年次後期には初心者向けの他社製3Dツールを使った簡便な3D入門講座も用意された。こうして建築の基礎と2D CADの使い方をじっくり学び、3D設計の入口まで体験した学生たちは2年生に進級。いよいよ本格的にBIMを学ぶことになる。
 「BIM講座が始まるのは2年生前期からです。まずARCHITREND ZEROで木造住宅のBIMを体験してもらいます。ARCHITRENDはとにかく使いやすくBIM入門に最適。BIMへの理解も進むし、何よりこれをやっておくとGLOOBEの修得が非常にスムーズになるんです」。こうしてARCHITREND ZEROに続きGLOOBEによる授業が始まり、学生たちは“鉄筋コンクリート建築のBIM”を学んでいくことになる。さらに2年生後期になるとARCHITREND ZEROによる木造建築BIMの学習は終了し、GLOOBEに集中して鉄筋コンクリート建築のBIMをみっちり学ぶ。加えてJ-BIM施工図CADも導入され、“BIMによる施工図”の制作も始まるのである。
 「学生たちはGLOOBEで作った自分の建物のモデルデータを用いて、今度はJ-BIM施工図CADで施工図を描いていくわけです」。BIMで施工図まで描かせる専門学校はなかなか珍しいが、その背景には同校ならではの教育理念がある。「本校では建築学科卒業生の7~8割が施工会社へ就職します。つまり、多くが建設現場に出て、施工図による品質管理を任されるわけです。そして、質の高い品質管理を行うには、施工図を理解し、コントロールする必要がある。そのためにも自分で施工図を描く必要がある。しかし、現場に出たらどうしても時間がなくなるし……そんな中でどうやって施工図に取り組むかが重要な課題になります」。だからこそ、J-BIM施工図CADで素早く精度の高い施工図を作れれば、確実に現場のメリットに繋がるというわけだ。
 「ARCHITREND ZEROによる木造住宅BIM、GLOOBEによる鉄筋コンクリート建築BIM、そしてJ-BIM施工図CADによる施工図BIMとトータルにカバーして流れを作れるのも、私たちにとって、福井コンピュータ製BIMソフト群の大きな魅力の一つだと言えるでしょう」。

ARCHITREND ZEROで学生が制作した木造二階建専用住宅のプラン

GLOOBEで学生が制作した校友会館のプラン

BIMの導入が建築教育そのものを変える

 こうして始まったBIM教育の推進は、同校の建築学科のあり方そのものに大きなインパクトを与えた。それは学校にとって巨大なイノベーションにほかならなかった、と丸山氏は言う。
 「とにかく学生が大きく変わりました。2D主体でやっている頃は、誰もが“どんな建物が出来上がるのか明確でない”まま図面を描いていましたが、3Dで描くいまは建物の実態をきちんと理解しながら進めていると感じます」。このことは学ぶ側にとっても教える側にとっても非常に重要だ、と丸山氏は言う。2D時代も別の3Dソフトでパースを作るなどしていたが、Jw_cadで描いた図面データを3Dソフトに読み込ませて立ち上げ、修正する手間がかかった。しかし今は、あらゆる方向から3Dモデルを見ながら進められる。誰もが「どんな建物を作っているのか」よく理解しているのである。
 「そしてもう一点の変化は、“もう2D CADには戻れない”と学生の誰もが口を揃える点です。前述の通り、本校では1年生前半に皆Jw_cadで作図していたのですが、いったんBIMを使い始めると、もう2D CADは勘弁ですと言う」(笑)。つまり、若い学生たちにとって、2D CADによる作図作業は時間とエネルギーを使う、面倒な作業だったのである。BIMを使うことでその面倒な作業が省略され、図面も半ば自動的に生成されるようになった。結果、学生たちには時間的にも手間的にも大きな余裕が生まれたのだ。  「学生たちは、自分の設計というミッションの中で図面を描く作業にエネルギーを割かれることがなく、そのぶん他のことに力を注ぐことができるわけです」。実際、2D CADでやっていた頃は、一つの建物を描くのに半年ほどかかっていたが、いまでは1〜2週間で図面まで仕上がるから、次々と新しい課題に取り組める。もちろん個々の課題に対しても、作図作業の時間を気にする必要がないから、最も重要なプランニング部分にじっくり時間をかけて練り上げられるのだ。おのずと作品の質も向上するのである。
 「実際、以前は半年かけて1課題仕上げるのがやっとでしたが、いまは学生会館や美術館といった大きな課題を2つ。加えて事務所建築も1つやっているので、GLOOBEで合計3課題こなしています。以前の3倍ですね」。しかも、以前は美術館のような大きな課題はグループで当たらないと作図が間に合わなかったが、いまは1人で対応できる。グループを組む必要もなくなったのである。「それでいて以前よりずっと質の高い作品ができるのですから……学生が2D CADに戻りたくない!と言うのも当然ですね」。

J-BIM施工図CADで学生が制作した基準階躯体図

J-BIM施工図CADを用いた授業風景

北海道のBIM革命の核を育てる

 同校でARCHITREND ZERO、GLOOBE、そしてJ-BIM施工図CADをフル活用した取り組みが始まって5年。同校のBIM教育環境はますます充実し、建築学科の学生たちにとっても教員にとってもBIMはますますなじみ深く、無くてはならないものとなっている。BIMに関する授業は2年生の前期で週6時間ほど。後期はこれに施工図のBIM講座が3時間加わるので計9時間となる。つまり、一週間のうち丸3日はBIMの授業を受けていることになるわけだ。
 「その他にもほぼ毎日、ほとんどの学生が放課後も自主的に残ってGLOOBEやJ-BIM施工図CADを動かしています。以前は課題制作など学生の尻を叩いてやらせる必要がありましたが、BIMならその必要はありません。自らどんどん進めたがるのですから……。どうやらBIMは、彼らにとって堪らなく面白いものになっているようですね」。そのせいだろうか、例えば同校が入学希望の高校生向けに開催している体験入学でも、来校してくれた高校3年生たちに学生の指導でBIMを触らせると、大喜びでARCHITREND ZEROやGLOOBEを動かし、あっという間に図面を描けるようになってしまうという。実際、建築系では、BIMを学びたくて同校への進学を希望する高校生も近年急増しているようだ。こうした好評を受けて、同校では新たにARCHITREND VRやGLOOBE VRなどのVR製品と3Dプリンター等も導入している。
 「ARCHITREND ZEROで作った住宅のモデルやGLOOBEで作った美術館のモデルをVRで確認するなどしており、これも学生に大人気ですね。3DプリンターはGLOOBEのモデルを出力して、建築模型を作ろうと計画中。これも早く実現したいと考えています」。そう語る丸山氏の元からは、もうすでにBIMスキルを身に付けた卒業生が100人以上も巣立っている。その彼らが成長し、核となって北海道の建築業界を変革していくこと。それが丸山氏の次の夢だ。

自分が作った建物モデルをGLOOBE VRで検証

木造&鉄骨造のBIMスキルを身に付けた卒業生が北海道の建築業界におけるBIM革命の核となる

「スーパーゼネコン等の大企業はともかく、日本の建築業界において、BIMはまだ施工分野にまで普及しているとは言えません。しかし本来、北海道という土地は本州のようなしがらみの無い、進取の気風に富んだ土地で、BIMの普及に最適なはずなのです。BIMに習熟した本校の卒業生がそこにどんどん増えていけば、きっとそこから、北海道の建設業界にBIM革命を起こすことができるのではないでしょうか──。そのためにも、私たちはBIMへの取り組みと、学生の就職先である企業への普及を積極的に進めて行きます。最後にBIMの普及に頑張っている方、導入に一歩踏み出せない方に、クラーク博士の言葉を贈ります。
“Boy's be ambitious like this old man”」

取材:2021年7月

丸山一孝日本工学院北海道専門学校
参与/専任教師

日本工学院北海道専門学校

■代表者/
学校法人片柳学園 理事長 千葉 茂
■所在地/北海道登別市
■開校/1982年
■学校タイプ/私立専門学校
■学科/ITスペシャリスト科・情報処理科・CGデザイナー科・医療事務科・ホテル科・公務員1年生学科・公務員2年制学科・建築学科・電気工学科・自動車整備科
■BIM開始時期/2014年
■使用ツール/
・ARCHITREND ZERO
・GLOOBE
・J-BIM施工図CAD
・ARCHITREND VR
・GLOOBE VR

 

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