設計

吉村紳 一級建築士事務所

GLOOBEを核とするBIM設計で作りあげた「個人事務所が勝ち抜く」ためのサバイバル戦術

愛知県津島市の吉村紳一級建築士事務所は、その名の通り建築家 吉村紳氏が主宰する建築設計事務所である。愛知、岐阜、三重をフィールドに戸建住宅・共同住宅を中心とする建築設計を行っている。特に木造軸組工法の住宅建築を得意としており、意匠から構造をトータルにカバーする家づくりで地域の支持を集めている。そんな同事務所が業務効率化のためBIMを導入したのは2018年。実はこの時、吉村氏が導入したのは他社製BIMツールだったが、翌年すぐにGLOOBEへ乗り換え、現在ではこのGLOOBEを核にBIM設計を運用して大きな成果を上げている。では、当初、他社製品を選んだ吉村氏がなぜGLOOBEに乗り換え、すぐに大きなメリットを生み出せたのか?
吉村氏のお話を伺った。

戸建住宅プラン全景

個人事務所へのこだわりと2D設計の辛さ

「構造計算まで自分でやって意匠から構造まで一貫して面倒を見るのが、ウチの建築士事務所としての特徴ですね」と、吉村氏は笑顔で語り始めた。自分で構造計算まで行うから、お客様の無茶な要望にお応えして大胆な構造も採用できるし、コストダウンにも繋げられる。さらに現場の職人に対しても対等に説明できるわけで。結果として、それが建築士事務所としての強みの一つにもなっているのだと言う。「だから私の場合、作風もバラバラなんです。シンプルモダンとか和風とか、設計事務所としてのスタイルに統一性がありません(笑)。そのせいか、お客様からは素人ならではの無茶な要望も多々いただきますが、それらも一概に否定せず、何とか実現すべく工夫するようにしています」。

 このような独特のスタンスで、吉村氏は新築案件を年間に2~3棟、加えてリフォームも7~8棟ほど手がけている。その他、知り合いの事務所に頼まれて構造計算だけの仕事も数件を行っていると言うのだから、意匠から構造計算まで一貫して自社で行う個人設計事務所としては、相当の業務量だと言えるだろう。「本当は人を雇った方が良いのでしょうが、そうするとミスを避けられないし、トラブルになればフォローが必要になります。教育などのサポートも欠かせないでしょう。その点、自分一人なら努力次第である程度ミスは防げるし、ミスしてもその場で対処して問題を解消できます。確かに身体は大変ですが、精神的にはその方が楽なんですよ」と吉村氏は笑う。だが、だからこそ、吉村氏の中には業務効率化への思いが強くあった。

2D CADとプレゼンソフトで行う設計業務は一物件でしんどい山登りを二回しているようだった(吉村氏)

 BIM化を果たす以前、吉村氏はJw_cadのユーザーだったが、実はそれとは別にプレゼンテーション用として簡易な3Dプレゼンソフトも使っていた。業務の流れとしては、まず提案用にそのプレゼンソフトでパース等の資料を作り、首尾よく決まれば今度はあらためてJw_cadを使って2Dで作り直す、というやり方である。そして、これがとても辛かったと吉村氏は語る。
 「一つの物件に対して山登りを2回しているような気分だったんですよ。正直いってそういう物件に関しては、プレゼンを終えた段階で燃え尽きちゃって……さらに図面を描くのが嫌で嫌で仕方がなかった。Jw_cadなんて手描きをコンピュータで置き換えるだけで図面も量産できないし、夜遅くまでやらないと間に合わないし。しんどいなあ、しんどいなあと思っていたんです」。だから、そんな時に出会ったBIMの世界にいっぺんに魅了されてしまったと言う。

▲検討用の玄関ホールプラン(CGパース)

▲玄関ホールの完成(竣工写真)

▲事務所プラン外観

最初のBIMソフト選びでまさかの失敗

「私は地元の建築士会で講習委員会を担当していますが、3年ほど前に私が企画してBIMの講習会を開催しました」。実は吉村氏自身は、それまでBIMについてはほとんど知らなかったが、国内外の大手CADベンダー4社がBIMとBIM製品についてプレゼンテーションするというので、会員向けの講習会という形で開催することにしたのである。「ひと目見て“こんな便利なものがあるのか!”と驚き、すぐに導入しようと決めました。というのは、ちょうどそのころ当事務所も物件数が増え過ぎて仕事が回らなくなることがあり、お客様から度々“まだかまだか”と急かされることがあったのです」。

 こうして業務効率化を一番の目標にBIM導入を決めた吉村氏は、まずGLOOBEと海外メーカー製品の2つに絞り込み、両者の比較を行ったと言う。「で、正直に言うと、この時は別の海外メーカー製品を選んだんです。というのは、当時キャンペーンか何かでこの製品の価格が安かったんですよ。2018年夏のことでした。すぐに実務で使い始めて翌年の2月頃まで、約半年間で新築を1物件、リフォーム2~3物件をこのBIMソフトで作りました。しかし、結局そのソフトはそこまでで、乗り換えることにしたのです」と吉村氏は苦笑いする。理由は、その他社製品を使い続けること自体に、大きなストレスを感じるようになっていたからである。

 「私の場合、素材や住設機器など国産メーカーの既製品を使って設計することが多いのですが、その他社製BIMソフトはそのあたりが手薄で……。だからいちいち自分で部品を作らなければならなかったのです。どうしても面倒な時は2Dデータを貼り付けて使うこともできましたが、困ったことにJw_cadと相性が悪く、文字化けだらけになってしまうのです」。サポートに尋ねようと電話すれば今度は苦手な英語で話しかけられ、これまたストレスの種になってしまう。八方塞がりの事態に、もう使い切れないと投げ出すしかなかったのだと言う。

 とはいえこうした場合、使い慣れた以前のソフト──吉村氏の場合はJw_cad──へ逆戻りしてしまう人も多いようだが、吉村氏は安易に2Dへ戻ることはしなかった。断固として、別のBIMツールによる「本当に使えるBIM」の導入と活用にこだわり続けたのである。そして、吉村氏が改めて選んだのがGLOOBEだった。

▲検討用の内装プラン(CGパース)

▲内装の仕上がり(竣工写真)

「GLOOBE、行けるな!」

「以前比較した時にGLOOBEについてもある程度調べていたので、選定に躊躇はありませんでした。しかも、体験版が一カ月使えたので、同じタイミングでプレゼンを予定していた住宅の新築物件で使ってみようと考えました。まあ、試しにやってみよう程度の軽い気持ちで始めたんです」。初めて触れるGLOOBEを、しかもいきなり新規の実案件に投入すると言うのだから、大胆なやり方にも思える。しかし、吉村氏には、他社ソフトによるものとはいえ、既に半年間に及ぶBIM設計の経験があったのである。

 「もちろんGLOOBEとその他社ソフトの操作方法は全く異なりますが、BIMそのものの考え方には近い部分がありました。実際わりと早くGLOOBEの世界に入って行けた気がしています」。運良くその頃、その新築住宅のプロジェクト以外それほど大きな物件がなかったこともあり、吉村氏はそのGLOOBE案件に集中して取り組むことができた。そして、一カ月程でそのプランを作り上げてしまったのである。「GLOOBE、行けるな!」と、その時思わずそう呟いたと吉村氏は笑う。すぐに販売代理店と正式な契約を結び正規版GLOOBEを導入した吉村氏は、即座に本格的なBIM設計の運用を開始したのである。

 「そこからは完全にGLOOBEへ乗り換えて、ほぼトータルにBIMで業務を回しています。3Dプレゼンソフトは全く使わないので友人にあげてしまいましたし、Jw_cadも今はごくたまにしか使いません」。3Dカタログに載っておらずBIMデータのない住設機器の部材等が必要になった時など、メーカーから2DデータをもらってGLOOBEに貼り付けるので、Jw_cadはそこで使う程度だと言う。現実に自分にできないようなものは、無理して全てをBIMでやりきろうとしないのが吉村氏流のBIM運用スタイル。ある程度のところで割り切って、必要なら2Dデータを利用することも躊躇しないのである。

 「操作習得については、実務で毎日触っているうち何となく使えるようになりました。サポートがしっかりしているのも助かりましたね。分からないことが出てきたらすぐ電話して……すると私のPCに連動して教えてくれる。とても分かりやすく、最初はしょっちゅう電話していました。さすがに今はもうしませんが(笑)」。

初めてのGLOOBEを使い約一カ月でプランを完成「GLOOBE、行けるな!」と思わずそう呟いていた(吉村氏)

コロナ禍の建築業界を生き抜くために

 このようにして、吉村氏がGLOOBEによるBIM設計を展開するようになって約2年半。導入効果も最近はっきり見えてきたと言う。
 「一番感じるのは想像していた以上に効率化が進み、自分自身が非常に楽になったことですね。作業量はたぶん以前の四分の一ほどに激減しました。BIM導入前は仕上げるのに四カ月かかった物件が、今では一カ月でできてしまう。こういっては何ですが、目指していた“薄利多売”が実現できました」。言うまでもなく、このGLOOBE導入後2年半の中盤以降はコロナ禍のまっただ中で、建築業界全体が厳しい状況に直面していた。「もちろん当事務所も大きな影響を被りましたが、売上高はむしろ微増という感じで……もしBIMで薄利多売できてなかったら、正直ヤバかったという実感があります」。

 薄利多売というと聞こえは良くないが、BIM導入後、吉村氏はコンペ等も含めて初期段階のプレゼン数を増やすことで、この厳しい状況下での受注量を確保してきた。「当然のことですが、プレゼンしたからと言って必ず取れるわけではありません。打率で言ったら3割程度ですから、たくさん打席に立ってヒットを稼ぐしかないわけです」。以前のように“プレゼンソフトでプレゼンしてJw_cadで図面描いて”なんてやり方をしていたら、とてもあれだけの件数はこなせなかっただろうと吉村氏は言う。現在ではパースと「リアルウォーカー」によるウォークスルー、簡単な間取り等で提案している。


▲玄関ホールの提案

「また、打ち合せではGLOOBEモデルを使って、たとえば実際のクロスの柄をいろいろ入れ替えるなどして施主に見せています。棚の高さやクロークの幅など、寸法的な所も3Dで見せるとお客様も“分かりやすい”と喜んでくれますね」。そもそも建築の素人である施主にとって、図面は判り難いものだと吉村氏は言う。図面を見せながら言葉で説明しても、伝わる内容は2割程度に過ぎなくて、次に会う時はほとんど忘れていると言う。「こうでしたよね、と図面を示しても覚えていないことがほとんど。ところが3Dで見せると“そうだったそうだった”と思い出します。実際、BIM導入後はお客様との認識の違いによるトラブルはずいぶん減りました。施主の意思決定もスピーディになりましたね」。

 このようなBIMによる効率化や時短の効果を生かし、吉村氏はいま、GLOOBEの活用フィールドのさらなる拡大に挑戦を始めている。2Dと併用する形だが、電源コンセントの配置図や給排水関係など設備図面についてもGLOOBEで書き始めているし、GLOOBEで算出した積算データも工務店に提供している。「積算データと言ってもあくまで参考程度です。それでも内外装の面積やフローリングの面積などBIMのデータそのものですから、後はロスの分を見ておけばだいたい合うはずだ──と工務店さんには話しています。工務店の方は喜んでくれますよ。実数とはいえ、有ると無いとじゃ全然違いますから」。

GLOOBEで作業する吉村氏

 最後に、これからBIMへ挑戦しようと考えている人たちへメッセージをいただいた。
 「BIM導入を成功させたいなら、無理に全部をBIMでやろうとしないことです。たとえば部材を全部3Dで作ってやろう、とか……そこまでフルにBIMでやろうとすると大変なことになりますよ(笑)。だから、出来そうもないものはある程度のところで割り切って、とにかく先へ先へと進めていくこと。そうやってとにかく一棟仕上げてしまうのです。そうすれば、きっとBIMの楽しさや効果も実感できますよ」。

吉村 紳吉村紳 一級建築士事務所
代表
一級建築士

吉村紳 一級建築士事務所

■代表者/吉村 紳
■TYPE/一級建築士事務所
■所在地/愛知県津島市
■開所/2003年
■事業内容/戸建住宅・共同住宅の新築・リフォームなどの設計・監理、木造住宅耐震診断及び耐震改修工事設計・監理及び木造住宅耐震改修補助金の申請手続き、各種建築設計図書の作成、木造の構造計算(許容応力度計算)ほか
■BIM導入時期/2018年
■使用ツール/GLOOBE Architect

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