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日鉄テックスエンジ株式会社

機・電・建を網羅する総合エンジニアリング企業が独自のBIM運用で進めるフロントローディング

日鉄テックスエンジ株式会社は、わが国を代表する鉄鋼メーカー日本製鉄のグループに属する総合エンジニアリング企業である。日本製鉄とそのグループ企業が全国に展開する製鉄プラントを中心に、その設計から建設、試運転、操業管理、改造、そしてメンテナンスまで、トータルな形で技術サポートを提供している。
近年はその強みを活かしてグループ外の各種プラントやオフィス、社宅、寮など一般的な建築物の分野にも幅広く展開を開始している。そんな同社の建築設計技術グループでは、2015年にGLOOBEを導入し、BIMの活用を開始した。その活用方法と様々な分野で着々と蓄積しつつある成果について、技術グループの小崎政文氏、早﨑智憲氏、森佳貴氏に話を聞いた。

“機・電・建”の全てをトータルにサポート

 「日本製鉄グループの製鉄プラント設備を作り、操業し、また整備する当社は、一般的なゼネコンとは大きく異なっています。それは一社の中に機械事業部、電計事業部、建設事業部等々の部門を持ち、いわゆる“機・電・建”の全ての技術を複合的に備えている点です」。同社建築設計グループの小崎政文氏はそう語る。通常、ゼネコンと機械メーカーがJVを組んで進めるようなプラント設備等のプロジェクトも、日鉄テックスエンジなら一社で全てトータルな対応が可能だ。つまり、お客様は個別に発注したり各社の調整を取るまでもなく、一元発注で一度に済ませることができる。お客様にとっては手間がかからず、進行もスムーズなのである。

 この機・電・建のうち、小崎氏が所属する建設事業部は、ゼネコンと同じく建築と土木関係の仕事を担う部署である。日本製鉄グループのプラント施設基礎や建屋を中心に、グループ各社の事務所や倉庫、また社宅や寮等の福利厚生施設等も作っている。土木工事まで行うのは、製鉄プラント施設に置かれ、使われる重量物=各種機械のため基礎工事が必要になるからだ。
 「建設事業部のスタッフは、日本製鉄グループの事業所内にある建設センターに配置されています。建設センターは製鉄所ごとにあり、全国で10数拠点あります」。そう語るのは、小崎氏と同じ建築設計グループの早﨑智憲氏である。早﨑氏によれば、各建設センターはその事業所内にあるグループ各社から発注された業務を請負う。どの製鉄所でも毎年相当なボリュームの工事案件が発生するが、その内容は製鉄所ごとに大きく異なっているのだと言う。
 「工場ものの仕事が多い建設センターもあれば、事務所ものや社宅など住宅ものが多い所もあります。中にはグループ外から請負う外部案件が大半を占めるようなセンターもあるのです」。実は建築設計グループでは、早くからBIMのトレンド到来も捉えていた。そして、プラント設計の効率化とフロントローディングの推進を目指してBIMの導入を計画してきたが、前述したような理由で、BIMソフト自体の全社統一は難しかった。「そこで最終的には各建設センターごとに、それぞれの判断によって個々にBIM製品を選定、導入していきました」(早﨑氏)。

 こうして、2015年頃から日鉄テックスエンジの各建設センターはBIMの導入を開始。国内外の複数のBIM製品の中から、それぞれの業務内容や顧客の必要に応じて製品を選び、導入していった。もちろんGLOOBEもその一つとして、幾つかの事業所に導入されていったのである。

“機・電・建”の全ての技術を複合的に備えた総合エンジニアリング企業ならではのBIMを

最も「取っつきやすい」BIMツール GLOOBE

「海外の他社製品と比べると、唯一の国産製品であるGLOOBEは、まずとても取っつきやすく、その辺はすごく良いなと思いました。特に入力の仕方などあまりマニュアルを読まなくても直感的にできるので、とても導入しやすいのです」。そう語る早﨑氏は、本社建設事業部のスタッフとして各建設センターのBIMソフト選定をサポートしていた。同氏によれば、そうした「敷居の低さ」に加え、日本の法規に適合し法規チェックも出来るという国産BIMソフトならではの魅力があり、制作したBIMモデルをレンダリングしてパースを出力した時の見栄えも、やはりGLOOBEが一番質が高かったと言う。

 「こうした強みを持つことから、GLOOBEは特に事務所ものや住宅系などの通常建物の設計に、強みを発揮するソフトだと考えています。実際の各地の建設センターへの普及状況を見ると、やはり基本設計段階でBIMを活用している建設センターが、数多くGLOOBEを採用している傾向がありますね」(早﨑氏)。

──たとえば千葉県内の建設センターも、いち早くGLOOBEを採用した事業所の一つである。同センターの君津設計技術グループに属するエンジニアの森佳貴氏にBIM導入とGLOOBEの活用法について話を聞いてみた。
 「BIMの導入によって設計業務を効率化できたかと言えば、まだそこまでは……」と苦笑いする森氏によれば、同センターでは現在も新規案件ではまず、2D CADによる基本設計が行われるのが基本なのだと言う。そうして、出来上がった2D図面を元に、GLOOBEを使えるスタッフが3Dモデルを作成していくのが基本スタイルとなっている。現状では同事業所に属する設計者13名のうち、GLOOBEを使った経験を持つのは森氏を含め4名程度に過ぎず、特にベテラン勢は、仕事の忙しさもあってなかなか使い慣れた2D CAD環境を手放せないでいると言う。

 「ですから、多くの場合、私が担当する時は計画段階はすでに終了しており、実施段階から始める場合がほとんどです。基本的には鉄骨造の建物が多いので、先輩や同僚が作った2D図面をベースに鉄骨と基礎関係、後は外部内部の仕上関係等を入れ込んでいきます。完成したモデルはパース等に活用したり、施工検討用に使ったりします」。そんな森氏の言葉からも分かる通り、2D/3Dともに一から起こす形になるため、どうしても時間がかかってしまうのが現実なのである。

──だが、そうだとしたら、なぜ、時間と手間を掛けてBIM化に挑戦し続けているのだろうか。

ウォークスルーによるイメージ確認

フロントローディングの効果が発現

「理由はいろいろありますね。──たとえば私の場合を言えば、自分でGLOOBEを使ってモデリングしていくと、その段階でいろんな疑問点に気づくことができる、といったメリットが大きいですね。施工した時に干渉物がないか?とか、納まりはどうだろう?とか」。だから、早い段階で現場と相談して、事前に問題を解消しながら進めて行けるのだと森氏は言う。これにより、後々の手戻り等を無くすことができるわけだ。モデリングで多少の手間がかかったとしても、現場が効率化されスムーズに進むことのメリットの方がはるかに大きいのだ、と森氏は言う。まさにフロントローディングの効果と言える。

 「もう一つ、私が感じているのは打ち合せや提案を行う時のGLOOBEのビジュアル的な効果の大きさです。建物の3Dモデルが出来てくると、仕上関係のために色決めなどを行わなければなりません。そうした時にGLOOBEを使ってプレゼンすれば、先方の要望に応えてその場ですぐに色を変えて見せたりできるんです。決定する時も画面上で見ていただくので早く済むわけですね」。

お客様とも協力業者ともよりスムーズに、効率的に進められるようになった実感があると森氏は語る。実際、GLOOBE導入時からこのことに気づいていた森氏は、以来ずっとノートPCにGLOOBEを入れて打ち合せ等に臨むようにしている。これにより、打ち合せ・プレゼン等の作業が大きく効率化されたのはもちろん、お客様や反応もとても良くなったと感じている。

 「ちょうどいま、日本製鉄の仕事で既存施設の改造工事を進めています。今回は建物と機械が複雑に配置されるので、前述の通り建物に機械が干渉しないか等々、GLOOBEを使って細かく確認しながらモデルを作っています」(森氏)。当然、お客様にもGLOOBEモデルをご覧に入れて確認してもらうが、「非常に分かりやすくて良い!」と好評をいただくことが多いのである。さらに最近のプレゼンテーションではノートPCで見せるだけに留まらず、プロジェクターやモニタに映写して、大きな画面で一緒に見ていただくようにしていると言う。

クレーン操作室のイメージ

某社宅

VRにMR、点群データの活用にも挑戦

 「そうしたビジュアライゼーション面の効果は私も強く感じています」と、森氏の言葉に強く頷いたのは早﨑氏である。「最近行ったある事務所系の新築プロジェクトのプレゼンテーションでは、3Dの間取図や建物各所の内外観パース等を配置したプレゼンボードを作成したほか、打ち合せ時の提案ではウォークスルーやVRも活用しました。非常に分かりやすいと、お客様にもとても好評でしたよ」。実は早﨑氏の部署では、こうしたGLOOBEを用いた先端的な取り組みにも積極的な挑戦を進めている。同氏の話に登場したウォークスルーやVRの事例は、ある廃棄物処理施設更新工事における施設本体及び管理事務所棟の新築工事で、GLOOBEによるBIMモデルと組み合わせにて実践したものだった。

「たとえばVRについては、廃棄物処理施設のクレーンを操作するクレーン操作室からの視認性を確認するために使いました。GLOOBEで作った操作室のBIMモデルを、実際にクレーンのオペレーターにVR体験をしていただき、“操作席からの見え方がどうか?”施工後の空間イメージを体感してもらったのです」(早﨑氏)。また、ウォークスルーも同じく実際に施設を使用する人とプロジェクト関係者を対象に、使用者の動線や部屋の広さなど、2D図面からはイメージし難い部分を中心に3Dモデルを活かしたウォークスルー・レビューを実施。使用者の視点でプランの詳細な部分まで確認いただいた。

クレーンのオペレータがVRを体験

「VRもそうですが、2D図面で“こういう風に見えるだろう”と想像させるのでなく、“実際の見え方”を提供できるわけです。図面に詳しくない、建築に詳しくない一般の方にも、見た通りの空間になると分かっていただけたと思います。さらにこの廃棄物処理施設の設計では、タービン室部分の3Dモデル等を用いて温熱環境の解析まで行いました」(早﨑氏)。

一方、ユニークな取り組みとしては、「スチールハウス」に日本製鉄㈱が独自の開発を加えた「NSスーパーフレーム工法®」への応用も計画が進められている。「NSスーパーフレーム工法®」は、工場生産された屋根、床、壁パネルを現地で箱のように組み立てる短工期な乾式工法で、「薄板+外張り断熱通気工法」による優れた環境性能が注目されている。
 「このNSスーパーフレーム工法®は薄板軽量形鋼と構造面材を組み合わせて作っていく構造体なので、BIMとの相性が非常に良いんですね。計画はまだまだ発展途上段階ですが、GLOOBEを上手く使って魅力的な商品にしていきたいですね」(早﨑氏)。

「スチールハウス」のモデル

タービン室の3Dモデルを用いて温熱環境を解析

施工した時に干渉物がないか?納まりはどうか?モデリングすることで設計の多様な疑問点に気づける

 このようにして、2015年のBIM導入以降、何らかの形でBIMを活用した日鉄テックスエンジのBIM案件はすでに累計70件を超えている。もちろん普及はまだまだこれからだし、同社の設計現場におけるBIMの使い方・運用フローも充分確立できたとは言えないが、BIM活用の流れが、2D/3Dの併用による「後追いBIM」から基本設計段階から活用するスタイルへ、移行し始めているのは間違いない。事実、GLOOBEを核とするBIMの活用について、すでに多角的なチャレンジが開始されているのはここまで紹介した通りである。最後に今後の同社のBIM戦略について早﨑氏に伺った。

 「今年は3Dスキャナーを導入して点群データーも取れるようになったので、この活用が当面のテーマですね。たとえば点群とBIMデータとを重ね合わせて干渉チェックし客先合意に活かしたりする計画です。また、自社開発したMR等も利用を広げていきたいですね。たとえばお客様に見せて合意形成をスピードアップするなど、用途はいろいろ考えられます。とにかくBIMデータ活用のための機器はいろいろ揃ったので、これらをさまざまに活用しながら、さらにフロントローディングを推進していきます」。

小崎 政文建設事業部 技術部
建築設計技術グループ
グループ長

早﨑 智憲建設事業部 技術部
建築設計技術グル−プ

森 佳貴建設事業部 技術部
君津設計技術グループ

日鉄テックスエンジ株式会社

■TYPE/総合エンジニアリング会社
■所在地/東京都千代田区
■創立/1946年9月
■事業内容/
●土木建築工事の調査、企画、設計、施工、監理及びコンサルティング業務の請負・受託
●地域開発、都市開発、海洋土木、環境整備に 関する調査、企画、設計、施工、監理及びコンサルティング業務の請負・受託ほか
■BIM導入時期/2015年
■使用ツール/GLOOBE

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