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BIMの積極運用で他社との差別化を目指してBIMソフトGLOOBEによるプロポーザルに挑戦

金秀建設は、沖縄県那覇市に本社を構える総合建設会社である。戦後、郷土復興を志した創業者の想いを基に鍛冶屋として出発し、創業の1947年に遡る長い歴史を持つ。社訓に「誠実・努力・奉仕」を掲げ、時代の要求に順応するべく鍛冶屋から鉄工所、総合建設業へと成長を続けて来た。事業内容は、建築・土木の請負工事、建築の設計・監理業務、不動産開発と多岐に渡り、橋梁、モノレール、野球場などの公共インフラ施設からホテルや工場、倉庫などに及ぶ多様な建築・土木工事を手掛けている。合わせて自社独自のマンションの企画開発なども行っており、企画営業本部設計部の宮城 諭氏と山川真衣氏よりお話しを伺った。

BIMで設計する案件を決定して運用に集中する

 BIMソフト「GLOOBE」の導入は、トップダウンによる決断を端緒としており、導入時期は2014年と運用期間はすでに足掛け7年に至っている。
 BIMソフト「GLOOBE」は、設計部門から導入を開始している。建築工程の最上流に位置する設計実務をBIMによってデジタル化し、設計の生産性と品質の向上を導入目的としていたが、一方で導入当時はBIMソフトの実務運用に関わる情報は極めて限られていた。そのため社内には、BIMはこれからの建築業に必要なものだが、果たして何ができるのかとの思いも共通して潜在していた。
 金秀建設においても、BIMソフト「GLOOBE」を浸透させる際に、多くの組織に共通する課題に直面した。それは現業とBIM運用との間に重複実務が発生することであった。2次元CADなどの既存のツールを用いた設計手法とBIMソフト「GLOOBE」による設計手法は決定的に異なる。一方は2次元の図面をベースに設計を進めるのに、他方、BIMソフト「GLOOBE」ではあらかじめ3次元の建物モデルを前提に設計を進める。それら設計手法の相違だけでなく、BIMソフト「GLOOBE」の修練を進めつつ、現業の設計案件も進めなければならない。BIMソフト「GLOOBE」の導入初期には、設計者の負担は倍増することになる。
 金秀建設では、BIMソフト「GLOOBE」を主体として設計を進める案件を設計部内で協議、決定し、案件ごとに役割分担することから始めた。

BIMソフト「GLOOBE」の導入は、トップダウンに よる 決断を端緒として

ベンダーの充実した教育体制をフルに活用する

 BIMソフト「GLOOBE」導入に際しては、社内ヘの浸透を進めるため、教育体制をどのように構築するのかも大きな課題となる。それに関しては、福井コンピュータアーキテクトが開催するセミナーに上長も含めて設計部員が積極的に参加することによって課題解決を進めた。
 セミナーにおいては、BIMソフト「GLOOBE」によってどのように建物3次元モデルを構築し、それら建物3次元モデルからどのような2次元図面が自動生成されるのかを学んだ。それによって設計者は、「平立断」図面間の整合性が完璧に確保されることを理解し、従来、膨大な労力を傾けている「平立断」図面間の確認・修正作業から解放されるとのメリットに気付いていった。
 これまでの設計手法とは異なり建物3次元モデルの構築に多くの手間を要したとしても、2次元図面間の整合性確保との「飴」によって設計者はBIMソフト「GLOOBE」活用へのモチベーションを高めていった。
 セミナーでは、BIMソフト「GLOOBE」の習熟度に応じて、より実務に即した学習機会も得られた。それらは具体的には、BIMソフト「GLOOBE」活用の基盤となる社内テンプレートの作成方法から建物3次元モデルの詳細度を規定するLODの考え方などへと多岐に渡った。

カラー平面計画_平面図

カラー立面図

カラー断面図

総合建設業としてBIMの網羅的な活用を志向する

 設計施工を標榜し、竣工後の施設管理から不動産業までを網羅的に担う総合建設業としては、設計部門でのBIMソフト「GLOOBE」運用に留まらず、次なる展望も描いている。現状、施工現場では、建物3次元による干渉チェックや安全対策などを行っているが、BIMソフト「GLOOBE」による本格的な設計と施工の連携も視野に入ってきた。
現在、設計部門でのBIMソフト「GLOOBE」の運用は、多くのケースにおいて企画・基本設計段階に限られている。それは実施設計を外部の協力会社に依頼する仕組みとなっているためであり、企画・基本設計から実施設計へと至るBIMによるデジタル情報の連携メリットを活かせていないからだ。今後は、企画・基本設計から実施設計に至るまでを内製化すると共に、協力会社へのBIMソフト「GLOOBE」導入なども推進することで、施工BIMへの連携を志向していく。 建物3次元モデルは、数量を含む属性データを保持している。それらのメリットを活かすべく、今年度から設計BIMで構築した建物3次元モデルが保持する数量データと積算ソフトとを連携し、その領域において施工BIMへと繋げていく目標を立てた。そのため、それらの案件に対しては、設計部内で企画・基本設計から実施設計までを行い、数量ベースでの施工との連携を実現する予定だ。
 企画・基本設計に限定したとしても、BIMソフト「GLOOBE」は、建築確認申請業務への援用で国産BIMソフトとしての優位性を発揮する点が特筆できる。
 将来的に、施工段階でのBIMソフト「GLOOBE」の運用に関しては、建物3次元モデルを現場監理に用い、干渉チェックなど設計との相違点のチェックに用いていく。工程会議の際に、従来の2次元の紙ベースではなく、BIMによる建物3次元モデルを使用して打合せを行うことで、変更への対応を容易に把握でき、維持管理フェーズへと繋げることで運用効果を生み出していく。そのように企画・基本設計から実施設計へと連携し、更には施工から維持管理まで一貫してBIMによる建物3次元モデルを活用することで、業務の効率化が実現できるとの期待を持っている。

外観イメージ2

ユーザー情報などもフル活用してBIMを進化させる

 福井コンピュータアーキテクトが開催するセミナーは、設計部内にBIMソフト「GLOOBE」を浸透させるのに効果大であった。加えて実施設計を依頼している協力会社においてもセミナー参加の機会を得られたので、共にBIMソフト「GLOOBE」を積極的に運用していくモチベーションも高まった。インターネットを介してJ-BIM研究会のコミュニティへ参加しているが、他のユーザーが提供してくれるBIMソフト「GLOOBE」の小技集などの情報も操作スキルの向上に役立っている。
 コロナ禍の影響もあり、沖縄ユーザー会もオフラインで開催できず、リアルな情報交換ができないが、J-BIM研究会を活用し、全国各地のユーザー同士で交流できる環境が構築されているのが心強い。
 BIMソフト「GLOOBE」は、施主への情報の見える化において貢献する。他社との競合プレゼンテーションに勝ち抜き、実施案件として獲得した「一般社団法人沖縄県自動車整備振興会会館新築工事(仮称)」を事例として取り上げ、仕事を創るBIMソフトの優位性を明らかにしていく。

カラー敷地計画図

3次元動画でのプレゼンで施主も驚きの声を上げ

 「一般社団法人沖縄県自動車整備振興会会館新築工事(仮称)」は、鉄骨造2階建て、延床面積1837.7平米の事務所建築だ。施主は一般社団法人沖縄県自動車整備振興会である。公共性の高い建築物であり、受注に成功すれば社内外への影響も明らかだと考え、他社との差別化を目指してBIMソフト「GLOOBE」によるプロポーザルに挑戦した。
 当初は、紙ベースの提案書のみでの提出を予定していたが、紙ベースでは提案意図を明確に伝えきれない部分があり、BIMソフト「GLOOBE」の運用メリットでもある動画によるプロポーザルを行った。建築の素人である施主に対して紙ベースでは、建築物を取り巻く動的な変化は伝えられないからだ。特に効果を発揮したのが刻々と変化する室内への日射の変化を動画で見える化したケースだ。
 動画での見える化には設計者全員で挑戦した。動画作成に際しては、各居室を細部まで3次元入力するなど多大な作業時間を要したが、社内でも繰り返し検討機会を設けることで、関係者間に動画による見える化のメリットが浸透していった。そして何よりも最も驚いたのは施主であった。
 紙ベースでの説明を施主側へ事前に通達していたが、設計意図をよりわかりやすく伝えるためには動画が必須と考え、理事会での正式プレゼンの前に担当者に動画を見せることとなった。その段階で担当者からは、図面や文章だけでは分からない箇所も3次元の動画で確認できるのでとても分かりやすいと好評を博した。それらの経過を経て、30名余の関係者が列席した理事会で、競合他社の前での動画放映となった。効果は絶大であった。

作業風景

設計施工案件でのフルBIM挑戦も計画する

 「一般社団法人沖縄県自動車整備振興会会館新築工事(仮称)」の受注などによって、設計初期でのBIMソフト「GLOOBE」の運用メリットへの社内認知が広がると共に、施工担当(工事部・工務部)への導入を通して更なる社内認知も進めている。施工段階では特に建物3次元モデルによる干渉チェックに威力を発揮している。建物3次元モデルは、建築の素人である施主のみならず、建築のプロである施工技術者に対しても、見える化の効果大である。
 今回の案件受注によって設計者自身がBIM運用のメリットを明確にできた。
今後は、それぞれの設計者がBIM機能の一層の理解を通じてスキルアップに努め、新規案件に対しても機動的に対応していく。
 具体的には、自社の設計施工案件においてフルBIM対応できる環境整備を行い、設計と施工までデジタル連携を本格化させる計画だ。

取材記者/建築ジャーナリスト 樋口 一希 氏 

宮城 諭金秀建設株式会社
企画営業本部
設計部 部長

山川 真衣金秀建設株式会社
企画営業本部
設計部 係長

金秀建設株式会社

■TYPE/建設会社
■代表者/上地 千登勢
■所在地/沖縄県那覇市
■設立/1947年5月
■事業内容/
建築工事一式・土木工事一式・リニューアル工事・設計監理業務・分譲マンション総合監修(企画・設計・施工・販売)・賃貸アパート総合監修(企画・設計・施工)・宅地建物の売買、仲介
■BIM導入時期/2014年3月
■使用ツール/GLOOBE

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