GLOOBEによる管理物件BIMモデルデータベースで独自の建物管理イノベーションを推進する
埼玉県入間市に本社を置くOFFICE WILD ONE(以下WILD ONE)は、各種の福祉施設や医療施設等を中心とする建物の管理を専門とする、建物管理のプロフェッショナル集団である。難度の高い建物管理のスペシャリストとして実績を蓄積し、近年はそこからさらにフィールドを拡大。管理を任された建物の改修工事から設備設計、意匠設計まで手がけるようになっている。そして2015年、WILD ONEは業界の先陣を切ってGLOOBEを導入。意匠設計に関わるさまざまな提案や建物管理の業務にもBIMの活用を開始した。現在では独自の管理建物用BIMモデルデータベースまで構築・運用を始めている。業界ではまだ珍しい本格的なBIM活用の狙いとその成果について、同社を率いる代表の嶋瀬岳彦氏にお話を伺った。
なぜ建物管理会社がBIMを?
「なぜ建物管理会社がBIMを?ですか、その質問に答えるには、私のキャリアを紹介する必要があるかも知れません」。そう言って嶋瀬氏は笑った。WILD ONEを率いる同氏は、電気工事士や消防設備士などの設備関係資格を多数取得して建物管理を幅広く手がけ、さらに二級建築士を取得して自らGLOOBEでBIMモデルを作り意匠設計も行う、多彩なエンジニアの顔を持つ異色の経営者だ。「まあ、最終学歴は高校中退なんですが」と言ってまた笑顔になった。
「高校中退後、さまざまな職に就いて経験を積んで物販会社を立ち上げたんです。ところが、いろいろあって潰してしまい、結構な額の借金を背負ってしまいました」。すぐ再起を図ったが、問題はどんな業種に進むべきか? だったと嶋瀬氏は言う。倒産経験の辛さはさすがに身に沁みていたので、物販のように在庫を抱える仕事はリスクが大きいと思ったのである。「在庫リスクを避けるにはどんな仕事が良いのか……。目を付けたのが清掃や建物管理でした」。
こうして飛び込んだ清掃や建物管理の仕事に一心に取り組むうち、嶋瀬氏は徐々にお客様からさまざまな要望をいただくようになっていく。「御社でここまでできないか?」「ついでにこんな業務も任せたい」と、お客様に求められるまま新たな資格を取得し、フィールドを急速に広げていった。「そうやって建築や設備関連の仕事を幅広く経験するうち、建物や設備のトラブル原因の箇所が予想できるようになりました。対応も適確になり、お客様の信頼も厚いものとなっていったのです」。やがてお客様が建物を新築する時は「設備は全てWILD ONEに任せろ」ということになり、新築計画へのプラン提案まで求められるようになっていったのである。
「そうなると、今度はその建物を設計する設計事務所の先生方とも対等に話す必要があります。それには、せめて建築士資格を取らなければ同じ土俵にも上がれません。そこで必死に勉強して二級建築士の資格を取り、少しずつ建築設計の世界に踏み出して……そんな時に出会ったのがBIMでした。2015年のことです」。
初心者にも最もハードルが低いBIMソフト
それまで嶋瀬氏は主にJw-cadを用いて設備図面を作製していたが、前述の通り、意匠なども含めた建築提案を行うようになると、2D図面で行う提案に限界を感じるようになった。「平面図だけだと、お客様にプラン等を説明しても伝わり難いんですよ。パース等の活用も考えましたが、もっと分りやすいものはないか探し回り、たどり着いたのがBIMでした。すぐ各社のBIMツールを試しました」。試行錯誤の中で福井コンピュータアーキテクトのwebサイトへたどり着いた嶋瀬氏は、まずARCHITREND ZEROに注目した。「しかし、これは住宅系の3D CADだったので、RC造中心の当社にはGLOOBEが良いだろうと思ったんです」。そうして各社のBIMソフトをピックアップし、比較・検討した上でGLOOBEの導入を決めたのだと言う。
「さまざまな製品を見ましたが、初心者の私にはGLOOBEの操作画面が一番分りやすかった。何がどこにあるか明確で、直感的に操作できるのです。しかも当時、月幾らでリースできたのでコスト的にも敷居が低く、気軽にチャレンジできました」。──だが、BIMの運用はそう簡単にはいかなかったようだ。嶋瀬氏はJw-cad以外にも設備CADなど複数を併用していたが、繁忙期は使い慣れたJw-cadに頼りがちになる。当時の同社でBIMを使えるのは嶋瀬氏以外に一人しかおらず、手が足りなくなりがちだった。結局、嶋瀬氏が本格的にBIM運用に取り組むようになるまで2年の歳月が必要だった。
「その2年間はGLOOBEもずっとJw-cadとの併用でしたが、たとえばお客様との話が“部屋の雰囲気は?”とか“家具は?”等々デザインやインテリアの話題になると、毎回BIMの必要性を痛感していました。その積み重ねがBIM本格運用への後押しになった気がします。そしてもう一つの理由が改修案件の急増です」。WILD ONEの顧客は社会福祉法人や医療法人が中心で、特別養護老人ホーム等の社会福祉施設や病院を設備管理の対象としている。そうしたお客様の物件の中には古いものも多く、築30年以上という建築物も珍しくない。そうした建築の改修工事には多くの困難がつきまとう。
「30年も前の建物だと、たいてい図面がないんです。運よく青図等が残っていても設計図ばかりで竣工図はなかなか出てきません。施工後何十年も経つ建物ですから、実際にはあちらこちらを改装したり修繕したりしているわけで……。そうした箇所は各図面間の整合が全く取れていないのです」。そのため改修にあたって役所に提出するための図面さえ揃えられず、お客様が困り果てるケースも少なくなかったと言う。そこで嶋瀬氏は一つの提案を行った。
「当社が管理する物件全ての書類を一式預かり、青図をスキャンしトレースして、GLOOBEでBIMモデル化させてもらえないか?と」。
言わば、管理物件のBIMモデルデータベースとも言うべきこのシステムを作っておけば、必要となる図面はいつでもBIMデータから切り出して使える。さらに言えば、膨大な量のBIMモデル作りという作業を通じ、GLOOBEの操作に一気に習熟していこう──という、ある種OJT的な狙いもあったかもしれない。ともあれ、嶋瀬氏はこのGLOOBEによる作業を先頭に立って推進し、30棟ほどあった管理物件のBIMモデルデータを一年かけて作り上げていった。
管理物件のBIMモデルデータベース
「お客様の話では、以前は“各施設の図面は各所にバラバラに置いてあるはずだが、本当にそこにあるかどうかは実際に行ってみなければ分からない。仮にあってもどの図面を見れば良いか分からない”という状態だったと言います。私たちはGLOOBEを用いて、これを全てBIMモデルという分りやすい形に作り替え、さらに一カ所に整理してまとめ上げたのです」。
前述の通り、これは嶋瀬氏自身が提案して、半ば自発的に進めたプロジェクトであり、直接WILD ONEの利益に結びつくようなものではなかった。しかし、これによりWILD ONEは、そのお客様から改修工事を依頼されれば必要となる図面を素早く切り出して、さまざまに活用できるようになった。しかも、他業者から求められた場合も無償で図面データを提供するようにしたのである。個々の管理物件はBIMモデル化により誰にとっても目で見て分かりやすい/使いやすいデータとなっており、非常に使いやすい仕組みが出来上がっていたのである。
「そのせいでしょうか、このデータベースは社内外を問わず“現場”でとても良い評判をいただきました。実際、当社の改修工事はもちろん他社の工事も、よりスムーズに進められるようになった実感があります。お客様からもこのデータベースについて“ここまでやるなら、WILD ONEで全件やってもらおう”という言葉をいただき、以来そのお客様の物件は全て当社が管理を任せていただくことになりました」。
現在ではこの管理物件データベースは、600㎡ほどのグループホームの建物から7000㎡を超える病院まで、総計40件分近くの建物データを収録し、さらに拡大し続けていると言う。
BIMでの提案や打ち合せが当たり前に
「実はいま、新しいプロジェクトが動き始めました。特別養護老人ホームなんですが、これはもう、“その土地にどんなものを建てるのか?”という所から任されてBIMで制作を進めています」。そう言うと嶋瀬氏はGLOOBEを起動し、慣れた手つきでプロジェクトのプレゼンテーションを見せてくれた。お客様との打ち合せでもこうしてノートPCを持っていき、BIMでプランを見せながら説明するやり方が、同氏にとって当たり前のものとなっているのである。
「こういう打ち合せで役所の担当者が何を知りたいか?というと、その建物全体のボリュームや日照等で、それを建てた時の近隣への影響をとても気にされるのです」。そうした内容を図面や数字でて説明してもなかなか理解されないが、BIMモデルを使ったビジュアルで見せれば一目瞭然で理解してもらえるのだと言う。
「だから、今回も最初からGLOOBEでボリュームを作ってロケーション全体をお見せしながらビジュアルに説明し、きちんと理解していただきながら進めるようにしています」。そうやって建物のボリュームや形状をある程度固めてから、グループの設計事務所に実施図面を制作させ、追加していくのである。「もちろん建物内も、職員動線や什器類を置いた時の広さやトイレの使い勝手など、お客様が気にする箇所は、BIMモデルでビジュアルに検討し提案します」。そのため同社では新たに「リアルウォーカー」や「GLOOBE V-style」などオプションも導入するなど、プレゼンテーションのさらなる充実に取り組んでいる。──最後に、そんな嶋瀬氏に「BIMの導入効果」について聞いてみた。
BIMを使って進めると安心感が違う
「それならお客様の声を通じて如実に実感しています。一番多い声は“安心感が違う”ということですね」。そう語る嶋瀬氏によれば、BIMによって“視覚的に見えるもの”をベースに話を進めていけるから、お客様にとっては全てが分かりやすく、ものすごくスムーズに物事が進んでいく実感があるのだと言う。しかも、最初から“出来上がった時の状態”をある程度把握できるから、仕上がりに対する不安もなく“安心して進められる”のである。「そのせいでしょうか、最近はお客様がいろいろな所へ当社のことを紹介してくれることが増えました。実は前述した特養老人ホームの新プロジェクトも、そうやって紹介された仕事の一つです」。こうした紹介案件は現在も増えており、新規顧客からの仕事が急増していると嶋瀬氏は言う。まさにBIMを活用していること自体が、WILD ONEの大きな追い風となっているのである。
「ウチが初めて設計業務を始めた頃、設計関連の売り上げなど年100〜200万そこそこでした。でも、いまでは設計分野だけで2,000万円以上も売り上げるようになっています。全てがBIMのおかげとは言いませんが、急拡大しているのは間違いありません」。その意味で、今後はBIMを活用した他社との連携が非常に重要になってくる、と嶋瀬氏は言う。実際、他社を含めた幅広いBIMユーザーが連携し、そのネットワークの中で仕事を共有し協力していければ、一社では受けられないようなビッグプロジェクトにも、対応できるようになるはずなのだ。
「ですから、私はGLOOBEユーザーにもっともっと増えて欲しいのです。福井コンピュータアーキテクトにもそこを期待したいですね!」。