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BIMが使用できる設計者を速やかに増やすことが急務
=「組織としてのBIM」戦略を展開

コスト面など解決すべき課題が数多く、多岐に渡る中で、若手設計者はBIM導入を成功させるためには、机上の空論でなく、BIMを使用できる設計者をいかに増やすのかが急務だと考えた。5人からスタートしたBIMチームは10人、15人と増強され、組織の過半までを見通せる段階となった。

POINT

  • 行政がBIM運用に注目する中でBIMによる既存建物の改修設計のニーズがあると想定
  • BIM運用の設計者は15名=全体の約30%となり「組織論としてのBIM」は着々と進展
  • 複雑な形状の建物の設計に用いる「コンピュテーショナル・デザイン」手法にも挑戦

新聞記事を切り抜き掲示した行政機関の動きがあるなど業界を上げてBIMへの関心高まる

日刊建設工業新聞で毎週木曜日連載の[建築のデジタル化の現状を追う:BIMの課題と可能性]。千都建築設計事務所の今を「組織論としてBIM」のキーワードで切り取り、2014年8月28日から三回に分けて紹介した。その後の進展を報告する。

行政がBIM運用に関心を向け始めている場面にも遭遇している。新聞社には千葉県内の某行政機関で連載記事が貼り出されているとの情報が入った。行政も同社の積極的なBIM運用を注視している。

現業の新規案件で行政にBIMモデルを納品した事例はないが、今後、発生する既存建物の維持管理、改修でBIMが有効なのではとの非公式な声掛けはある。近接する某市の現況を調べると、約600棟に及ぶ公共施設の改修、再配置が順次、待ったなしなのも判明した。

5名になると一挙に増えるクロスファンクショナルな関係

少子高齢化が進行し、東京オリンピック開催の2020年以降の生き残り策へ関心が集まる中、改修設計へのBIM運用に向けた試行 錯誤も開始した。竣工後10年を経たマンションの大規模改修に援用するBIMモデル構築の見積提出事例もすでにある。

当初設定の設計者10名=約20%の組織内BIM導入率は15名=約30%と急速に加速化

2次元CADと同様、BIMの有効性を現業化するためには、設計者一人に一台(システム)の環境構築が急務だ。導入コスト面で経営陣の理解は必須だし、設計者自身がBIMの有効性を実感し、組織内での共通認識とする必要もある。

若手設計者5名を中心に結成されたBIMチームがBIM普及の最初のターニングポイントとして設定したのは10名=全体の約20%。

約半年を経た前回取材時には目標も達成し、BIMソフト「GLOOBE」を実施設計まで運用できるとの実証結果を得て、複数の実案件へのBIM適用も実現した。今回訪問の2015年5月には15名=全体の約30%となり、BIMを使う設計者の比率を高める「数の論理=組織論としてのBIM」は着々と進展している。

複雑な木架構についてもBIMで検討

次のターニングポイントである過半数の実現に向けて、新入社員を含め、新たにBIM運用を始めた設計者は驚くほど習得が早いとの好循環も生まれている。先輩格の設計者という目標もあるし、蓄積されたノウハウも共有できる。設計部内に日常的な風景としてBIMが存在しているのも大きい。「組織論としてのBIM」はエネルギーを倍増し、全面展開に向けて疾走している。

3次元モデルによる見える化効果は自明とし現実的には2次元実施図面の生成精度に着目

BIM運用の全面展開に向かう「組織論としてBIM」。数の論理の追求だけでなく、設計者のモチベーションを高めるべく行われたチーム編成も戦略的だ。設計者の得意分野を担当パートとして位置づけ、それら特性を組み合わせた「クロスファンクショナルなチーム編成」を採用。担当パート分けはBIM運用のメリットと密接に連動している。

BIMの3次元モデルは、施主への見える化、建築工程の見える化、設計者自身の見える化を実現する。BIMを優れた[コミュニケーションツール]として活用する担当パートも設定している。

現業の工程間では2次元図面(データ)が流通している。3次元モデルから2次元の実施図面をいかに効率的に作成するのかは喫緊の課題だ。BIMを[図面作成ツール]として徹底活用する担当パートが重要だ。

BIMを構造、積算、環境などの他工程と連携する[コラボレーションツール]として捉える実証実験を実施しつつある。

「組織論としてBIM」を現実化し、クロスファンクショナルなチーム編成を可能にするため複数のBIMソフトを試用する中で「GLOOBE」の採用を決定した。最初に重視したのは2次元CADからの円滑な移行。2次元CAD 「JW-CAD」と「GLOOBE」の操作性=[拡大][縮小][前画面の倍率に戻る]などが類似していることも採用の根拠となった。

BIMソフト「GLOOBE」のアイコンが他のBIMソフトと比較して、大きく、わかりやすいこと。純国産ソフトなので法規制変更にも迅速な対応が期待できること。最も重視したのは、3次元モデルから作成(生成)される2次元の実施図面を現行の図面表現・標記に近似できることであった。

BIM導入で設計者の視野は広がりコンピュテーショナル・デザインなどの新技術へも挑戦

2次元CADによる設計製図からBIMによる3次元設計+デザインへと業務プロセスが移行する中で、設計者は建築のデジタル化の新たな試みにチャレンジし始めた。3次元曲面による複雑な形状の建物の設計に用いる「コンピュテーショナル・デザイン」手法。話題のソフトウェア「Rhinoceros(ライノセラス)」とプラグインソフト「Grasshopper(グラスホッパー)」の試用も始まっている。

「組織論としてBIM」化が着実に進む中で、BIM運用の利点を生かした営業戦略も展開している。建築主、施工会社、サブコンなど建築に関わるさまざまなプレーヤーを初期段階で結集し、意思決定の高度化をフロントローディングするBIM運用手法のIPD(Integrated Project Delivery)が注目を集めている。BIM運用を深化し、建築設計事務所としての立ち位置を強化、再構築していく。BIMは建築設計事務所の職能を建築工程全般のマネージメントへと伸延する可能性を秘めている。

※2015年7月発行のJ-BIM WORLD 事例集 Vol.2で掲載したものです

田中 明夫専務取締役設計本部長

池田 好剛設計課長

大石 聡設計主任

吉田 真也設計主任

田辺 俊和設計主任

株式会社千都建築設計事務所

所在地
千葉県千葉市美浜区真砂3-1-2千都ビル

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