GLOOBE導入から2年で独自のBIM設計手法を確立。生産性を1.5倍に拡大し、再び若者にも人気の職場に
大阪府高槻市にオフィスを置くHoribe Associatesは、建築家 堀部圭一氏が、同じく一級建築士のパートナーである堀部直子氏と共に主宰・運営するアトリエ設計事務所である。個人住宅を中心に大型のオフィスビルや福祉施設等も数多く手がけ、シンプルで力強いデザインワークはもちろん、施工現場の品質監理にも注力。その設計品質の高さには定評がある。そんな堀部氏がGLOOBEを導入しBIMへの挑戦を開始したのは2019年のことである。3年後の現在、同社はすでに所員全員でGLOOBEを駆使し、作業効率と設計品質を両立させた独自の設計スタイルを確立。大きな成果を上げている。そのユニークな設計手法の狙いと背景について、代表の堀部圭一氏にお話を伺った。
仕事のやり方を変えていくために
「当事務所のBIM導入の背景には、アベノミクス以降の建築設計分野における求人市場の変化があります」。Horibe Associatesの代表 堀部圭一氏はそんな風に語り始めた。同氏によれば、アベノミクス以前はアトリエ系設計事務所も建築系の新卒学生に人気のある就職先だった。堀部氏の事務所へも就職を希望するインターンシップ生やアルバイト学生等が絶えず出入りしていた。
「実際、当時は当社も施工中の監理物件や実施設計案件のほか、毎月複数の新規プレゼン案件があり、スタッフの泊まり込みがなかった月は少なかったように記憶しますし、我々自身も数カ月休日なしという時期も頻繁にありました。しかし、長時間労働や非正規雇用が社会問題化した時期と同じ頃から、募集をかけなくても毎年あった就職希望の問合せは、募集をかけても集まらないという状況に一変しました」。その頃、働き方改革やワークライフバランスという言葉が一般に浸透し始め、堀部氏たち自身も、これまでの仕事のやり方を変えていくべきだ、と感じ始めるキッカケとなったのである。では、この状況を打破するには、どうすれば良いのか? 解決策の一つとして堀部氏が構想したのが、BIMの導入による業務効率化の推進だった。
「BIMについては、だいぶ前から口コミでいろいろ聞いて知っていました。しかし、正直言ってここまで進んでいるとは思いもしませんでしたね」と堀部氏は2年前を回想する。自身は、長年にわたって海外製の汎用2次元CADを使用していた。だが、BIM導入を決めた以上、新しいBIMソフトへの乗り換えが前提となる。使っていたCADの開発元もBIMソフトを開発・提供していたが、堀部氏はそれに囚われず、できるだけ多くメーカーの製品を試したいと考えた。そして、別のBIMソフトと共に注目したのが、唯一の国産BIMソフトだったGLOOBEである。
「設計者の知人でGLOOBEユーザーがいたので、使用感について訊いてみたんです。すると“自分の仕事に欠かせない存在”だと言うんですね。それがすごく気になって」。GLOOBEの何がそんな言葉を言わせるのか。知りたいと思った堀部氏は、前述の海外メーカー製BIMソフトと合わせ、GLOOBEの製品レクチャーも受けることにしたのである。そして、両社のレクチャーが終わった時、結論は出ていた。Horibe AssociatesはGLOOBEの導入を決めたのである。
GLOOBEはBIMソフトの「オートマ車」
「GLOOBEを選んだ理由は幾つかあります。まず一つ目は、GLOOBEにおけるモデルの作り方が、実際の施工の流れと非常に親和性が高かったことです」。つまり、と堀部氏は言葉を続ける。壁を作り仕上を貼っていくGLOOBEのモデル制作手法が、実際の施工の流れをなぞるようにして進むと思えたのだ。これに対して、他社製品の場合は、壁パーツを作る時は下地仕上を組み込んだ形で作っていくやり方で、現実の施工手法とは大きく異なっていたと言う。「現場そのままという感じのGLOOBEのモデル作りを見ていると、こちらの方が現場の施工を──ひいては建築というものを、より深く理解しているのではないか。そう思えたのです」。
このことはGLOOBEのオプションプログラム〈法規チェック〉についても共通していた。逆日影による斜線計算や逆天空アシストといった各種の斜線計算や天空率等々、日本の建築基準法に対応したこのプログラムは、国産BIMソフトならではのオプションと言える。「この法規チェックオプションがシームレスに繋がっているので、たとえば用途やボリュームの確保が非常に厳しいロケーションの物件でも、プランを立て、関連する法をチェックしていくような困難な作業がシームレスに、スムーズに、感覚的に行えるのです」。このような特徴を備えたGLOOBEについて、堀部氏は「オートマのBIMソフト」という言葉で表現してくれた。
「かつて私が使っていた海外メーカーの2次元CADは、高いカスタマイズ性を備えていました。たとえば操作の仕方も自分の使い方に合わせて細かく手を加え、使いやすくできるソフトだったのです。そこのBIMソフトも同じような特徴を備えているようですが、私みたいなユーザーはそこまで高度なことはできないし、求めません」。むしろ操作の仕方など、ある程度絞り込んで自動化してくれた方が使い手としては有り難いと堀部氏は笑う。「その海外製BIMソフトがマニュアル車だとすれば、GLOOBEはオートマ車なんですよ。そして、私はオートマ車の方が使いやすいのです」。ちょうどスタッフのいないこのタイミングを好機と捉え、ちょっとここでBIMという新しい流れに乗ってみよう。──そう堀部氏は考えたのだと言う。ちょうどその時はIT補助金など制度面のバックアップもあり、これも強い追い風になってくれたようだ。
最初のBIM案件でモデルデータをフル活用
「操作の習得に関してはちゃんとDVDのチュートリアルが用意されていたし、わりとスムーズでしたね。Q&Aがすごく充実していて、とても分かりやすいんです。“こんなものを作りたいな”と探せば、すぐ“ハウツー”が出てくるんです」。それを使うことで、説明書に載っていないような操作方法もずいぶん習得できた、と堀部氏は語る。実際の学習については、一日を「仕事する時間」と「DVDを見て勉強する時間」にきっちり分けて進めていった。「電話サポートもたくさん利用しましたが、受け答えもしっかりしていたし、相談を持ちかけて解決しなかった問題はありません」。中にはシステム自体の改善が必要な問題もあったが、そんな時は“次のバージョンアップで対応するよう努力します”という答えがあり、実際に次バージョンで対応されていたことも度々あったと言う。
「そうは言っても最初の頃は多少の不安もあったので、初めて実務にGLOOBEを投入した時は、デュアルモニタの左でGLOOBEを開き、右には使い慣れた2次元CADを開いておいて、いざとなったらすぐ2Dに切り替えるつもりでした」と苦笑いする。だが、その「2Dへの逃げ道」は早々に廃止となった。「何日かして“2次元CAD禁止令”を出したんです。“高いお金を払ったあげくロクに使わず一年経ってしまった”なんて話を聞いて、それではいかんなと。まさに背水の陣です」。もっとも当時の事務所は堀部氏とパートナーだけだったので、その二人で申し合わせをしただけだが──と堀部氏は苦笑する。
「とにかく、そうやって背水の陣で臨んだ最初のBIM物件は、総計700㎡ほどの共同住宅でした。BIMでやってみようと思ったのは、このプロジェクトが3住戸+4住戸の2棟に分かれた長屋の計画で、計7住戸のプランは全て同じという物件だったからです」。つまり、BIMで一棟を作り込めば、「それを複写して他の棟にも使える」と言うわけだ。BIMを幅広く活用できるプロジェクトと堀部氏は考えたのである。
「初めてで多少時間はかかりましたが、仕上がったBIMモデルは現場監理までフルに活用できたと思います。たとえばそのモデルを確認しながらカスタマイズし、さらにそこから施工図の詳細をどんどん発行して現場に指示を出すなどしました」。設計段階で作り込んだBIMモデルが、施工フェーズまでトータルな形で活かされるBIM運用の基本形を、堀部氏は初めて挑戦したBIMプロジェクトで体感できたのである。
▼YouTube(Horibe Associates Official YouTube Channel)で詳細動画が視聴できます。
Japanese architect HoribeAssociates Works/Court House Apartments
BIM設計により生産性が1.5倍に向上
「2019年4月にGLOOBEを入れて、5月のひと月をその練習に充て、前述した最初のBIMプロジェクトは6月から実施設計を開始しました。そして、お盆前の頃には見積もり依頼をかけていたはずです」。つまり、初めてのGLOOBEをひと通り使えるようになるまで約2カ月かかったと堀部氏は言う。実際、それ以降同氏は完全にGLOOBEによるBIM設計に切り替え、すでに独自のスタイルを構築し、これを実行している。
「実は基本設計では別の3Dモデリングソフトを使っています。感覚的に操作できるのでスタディ模型的に使えるんです。しかも、GLOOBEの場合、このソフトの3Dモデルデータとものすごく親和性が高く、自在かつ正確に取り込める。これが非常に大きなポイントです」。ある程度形状が決まればその3DモデルをGLOOBEへ持ってきて、天空率や逆日影でチェック。法的に問題のないカタチにカットしたものを、再度3Dモデリングソフトに戻して──というモデルのキャッチボールでスピーディに基本設計を固め、それがまとまったところでGLOOBEによるBIMモデル制作を始めるのだ。「とにかく基本形さえ固まってしまえば、BIMモデルを作っていく作業はGLOOBEが圧倒的に速いですからね」。
当然ながら、こうして制作進行中のモデルデータは、施主との打ち合せ等にも度々利用するようにしている。「特にコロナ禍の影響で一般にDXが急速に広がったおかげで、遠隔地の人ともモデルデータを共有して打ち合せをすることができるようになりました。2年前にはとても考えられなかった状況です」。モデルを共有することで、先方にはご自宅でモデルを多様な角度から確認していただけるのはもちろん、HMD等を利用すれば最新のVR体験を楽しんでいただくことも可能になったのである。
「かつては何十枚もの図面をお渡しし、一枚一枚対面で説明を行っていました。しかし、本来一般の方が2Dの図面を見ても、100%理解するのは非常に難しいはずです。その点、BIMモデルならきちんと整合性も取れているし、一般の方だって目で見て感覚的に判断できるのです」。だから現在では、基本設計~実施設計はほぼ全てBIMモデルで進めるようになった、と堀部氏は言う。もちろん最終的には2D図面も提出しなければならないが、もはやそれは副産物的な存在に過ぎないのである。
「導入して2年ちょっと経ちますが、作業効率は大きく向上しましたね。おかげで私自身も、建築家として“考えること”により多くの時間を注げるようになっています。これも私にとって大きな収穫ですね」。2Dで設計していた頃のレイヤー分けや線の太さ・線種の選択など、クリエイティブと無縁の作業がBIM導入でゼロになった、と堀部氏は言う。「事務所の生産性はほぼ確実に以前の1.5倍ほどに拡大しており、いまは大小様々な十数件のプロジェクトを4名体制で切り盛りしています」。だから──というわけではないが、Horibe Associatesでは、昨年10月からアルバイトで米国からの大学生を預かっている。
「9月の大学院入学を前に日本での実務も経験したいそうなので、ウチに来てもらうことにしました。BIMは未経験と言うので試用版GLOOBEの練習をしてもらったら、驚きの声が返って来ました。“すっごいですね、これ!”って興奮していました」(笑)。
■取材時期/2021年8月
「建築設計のデジタル道具箱」書籍発刊!
堀部圭一氏・堀部直子氏・Horibe Associates 著
「建築設計のデジタル道具箱」
ードローンからBIMまで、小規模事務所の生産性を1.5倍に高める39のヒントー
学芸出版社より2023年8月に発売されました。
●小さな事務所こそ、導入したい便利ツール
建築設計の生産性向上を実現させるためにはデジタルツールの活用が欠かせない。効率的な図面作成や効果的なプレゼンテーションを行うためのツールの使い方を公開。ドローンを飛ばすノウハウ、エスキース時の面積チェック、確認申請図書のための大量の図面をBIMで一気に作成するなど知っておきたい知識が満載。小規模設計事務所必読。(学芸出版社サイトより転載)
弊社BIMソフト「GLOOBE」もご紹介いただいています。
▼詳細・ご購入はこちらから(学芸出版社サイト)
https://book.gakugei-pub.co.jp/gakugei-book/9784761528645/