年間300案件の設計・デザイン・積算業務を7名体制で対応!GLOOBEによるBIM設計で実現する超・効率化戦略
香月設計企画は、北九州市に本社を置く一級建築士事務所である。一般住宅を中心に各種商業施設やクリニック、オフィスなどの企画、設計から工事監理、さらに建築積算から多彩なデザイン業務まで幅広く展開。2020年には不動産部門まで創設している。事務所を率いる代表取締役の香月龍己氏は、積算事務所に13年間勤務したのち意匠設計へ転じた異色の建築家で、そのキャリアを生かした設計と積算を事業の2本柱に、同社は着実な成長を続けている。そして、そんな成長を支えるもう一つの基盤がGLOOBEとARCHITREND ZEROで取り組むBIM設計と、これによる徹底した業務効率化の推進だ。そんな同社の取り組みの詳細について、香月氏にお話をうかがった。
7名で年間300案件の設計・積算に対応
「いま、当社の社員は4人ですが、うち1人は不動産担当ですから、設計を行っているのは私を加えて4人ということになります。他にパートさんが1人とテレワーカーの設計者2人にも手伝ってもらっています」。香月氏によると、テレワーカーとは県外からテレワークで協業する設計者のことを指している。つまり、香月設計企画の設計部隊は総計で7名ということになる。
「この7名で、1カ月あたり20から30棟前後の設計や積算を行っています。もちろんボリューム的には設計の方がずっと多いですね。物件はさまざまですが、確認代願も行うため棟数は住宅が一番多くなっています。後はクリニックとかオフィスとか……内容に合わせGLOOBEとARCHITREND ZEROを使い分けて進めています」。香月氏は笑顔でそう語る。だが、たった7名で年間300棟余りの設計・積算業務を行っている計算となる。しかも、香月氏の手がける仕事はそれだけではないのである。
「ちょこちょことデザインの仕事もやっているんですよ。たとえば名刺やショップカード、お店の看板など、頼まれれば何でもデザインします。ビルのリノベーションでオフィスの模様替えだけ、なんて仕事もありましたね。おかげで余裕はほとんどありません」。もちろん企画設計の案件に関しては、基本的に香月氏が全てをプランニングしている。
「1週間に4プランとか、普通に描いていますからね。もうスタッフに、描いては渡し描いては渡しで……効率化しないと到底さばききれません」と苦笑いする香月氏だが、そう言いながらも、なぜか実に楽しそうに見えるのだ。
「私って、もともと“超効率化”が大好きなタイプなんですよ。1人が1つのことだけやっているのはメチャメチャ効率が悪い、と思っていて、同時に2つ3つのことを同時進行で進めないと気が済みません。──これは昔からで、たとえば2D CADで図面を描く時も独特の描き方をしていました」。2D作図では1ファイルに1つの平面詳細図をこつこつ描いていく人が多いのではないだろうか。複数案を描く場合は、まずAタイプを描き上げてからBタイプを描き、次にCタイプと描き進めていくやり方だ。ところが、香月氏は1ファイルに一気にA・B・Cタイプの平面詳細図を描き進める。つまり、トイレならAのトイレ、Bのトイレ、Cのトイレとトイレばかり描き、最後に各プランに分けるような、徹底して効率的な進め方を最初からしていたのである。
「だからでしょうか、2D図面を描くのは初めからものすごく速かったですよ。独学でJw_cadを覚えたばかりの若造が、いきなり先輩設計者より速く描いちゃう(笑)。まあ、私自身が積算畑出身だったので、建築の細かいディティールまで頭に入っていた点も大きかったでしょうね」。そんな超効率重視の香月氏にとって、GLOOBEとARCHITREND ZERO、そしてBIMとの出会いは必然の運命だったかもしれない。
BIMが普及したら積算業が無くなる?
前述の通り、香月氏はもともと建築積算士として建築業界におけるキャリアをスタートさせた。積算事務所に13年勤務したのち意匠設計へ転じ、ハウスビルダーに1年半ほど勤務。仕事をしながら二級建築士や宅建資格を取得して独立したのである。
「独立後はJw_cadを独学で覚えて、数年は作図や積算の仕事をもらって1人でやっていました。でも、やりたいことをやるには、やはり事務所を構える必要があるわけで。また独学で一級建築士資格を取って事務所を開所しました……2013年のことでした」。開所当初はフリーウェアのJw_cadを使っていた香月氏だったが、すぐに多くの工務店から声がかかるようになり、やがてJw_cadでの作図だけでは殺到する仕事に対応しきれなくなってしまったのである。そこで香月氏が思いついた対策がARCHITREND ZEROの導入だったのである。
「ARCHITRENDは以前勤めていたビルダーで使っていたのです。だから、これを上手く使いこなせば確実に効率化が進むと分かっていました。実際、導入後すぐに作業効率が大きく向上し、棟数もこなせるようになりました。加えて“ARCHITRENDを使っているならぜひ!”と多くの工務店から声がかかるようになり、どんどんお客様が広がって行ったんです」。だが、ここで満足しないのが香月氏の真骨頂である。たまたまARCHITRENDの経験者だったスタッフにその担当を任せ、自身はまた別の新技術の導入に取り組むことにした。それが当時業界で普及が進み始めたBIMだった。
「BIMについては積算士時代から知っていましたし、大いに期待していました。将来はきっと建築設計業務の全般においてBIMが主流となっていくに違いない、とただならぬ匂いを感じていたんです。だって凄いじゃないですか? BIMで平面詳細を描き上げれば、いちいち拾っていくまでもなく積算ソフトと連携させて積算も完了しているんですよ。将来、このBIMが普及したら積算業なんて無くなってしまうんじゃないか、と思ったほどです」。また、ARCHITRENDの稼働とともに非住宅物件の依頼が増えつつあったことも香月氏の背中を押した。こうして同社は、ARCHITRENDの導入から約半年後、いち早くGLOOBEを導入する。
まずは好奇心で使い始めたGLOOBE
「もちろん、他にもいろいろなBIMソフトがありましたが、私は比べるまでもなくGLOOBEを選びました。ARCHITRENDユーザーとして付き合いのあった福井コンピュータアーキテクトを信頼していたし、操作系も似ていて使いやすかったんです。日本の建築基準法に最適化されている強みもありましたね。そして、もう一つ大きかったのが、福井コンピュータグループが提供している3Dカタログ.comの存在です」。
3Dカタログ.comとは、200社5300シリーズに及ぶ実在する建材や住宅機器、インテリア製品などを忠実に再現した高品質な立体モデルを一堂に揃えて提供する3D部品カタログ。GLOOBEやARCHITRENDシリーズで行うプランニングでは、この3D部品を使うことで施主のイメージしやすいリアルなビジュアライゼーションが作れる。また、Web上でさまざまに部品を入れ替えながら、3Dシミュレーションや仕様検討も行える。
「当時、他のBIM製品はどれも3D素材があまりに乏しくて、必要な素材を集めるだけで大変な時間がかかってしまったんです。いちいちダウンロードしていたら仕事になりませんよ」。とはいえ、開所したばかりの小規模事務所である香月設計企画にとって決して小さな買い物ではない。相当な決意を持ってBIMへの挑戦を決めたのではないだろうか。そんな風に想像しながら当時の思いを聞いてみると、香月氏は困ったような苦笑いを浮かべた。
「いや、あのプロジェクトで使おう!とか、いつまでにBIM設計化する!とか、具体的な目標があったわけではありません。むしろ、実際は好奇心が勝っていたんじゃないかな。BIMって何だろう、何ができるのだろう。どれだけ効率化できるのか、と。だから“使ってみてダメだったら止めればいいや”くらいの気持ちで始めました。結果として、それが良かったんじゃないかな」
GLOOBE習得は無理せず、自然体で
「GLOOBEの習得とBIMの活用ステップが10段階まであるとして、私の場合、その最終段階……つまり実施設計まで行こうとは最初から思ってませんでした」。つまり、香月氏はGLOOBE習得を、決して無理しない自然体で進めていったのである。「たとえば、平面を入力できたら最初はそれだけでいいんですよ。一気に最後までやろうとしても無理ですから。で、次は立面までできた……という調子で、さまざまな物件でできる所まで使っていく」。こうして少しずつBIM活用を積み重ね、徐々にステップアップしていけば良いと香月氏は言う。
現在も香月氏は物件ごとに「GLOOBEを使おうか、ARCHITRENDが良いか」考える所から着手し、作業開始後もポイントごとにこれをジャッジし直していく。「これはここまでGLOOBEでやろう」「これ以上は時間がかかりそうだからJwにエクスポートして進めよう」という具合だ。「そうやってできる範囲を徐々に広げることで、無理なく習得できるんです。まぁ、ひと通り使えるまで何年もかかりましたが、別に苦になりませんでした。よくBIMソフトを買ったが覚える時間がないって言う人がいますが、せっかく購入したのなら使えばいいのに!って」
BIMで「建築設計の楽しさ」をもう一度
昨年(2019年)、香月設計企画はRC2階建て2,400㎡の物件を任され、初めて確認申請書類の提出段階までGLOOBEによるBIM設計で行った。「事務所が忙しく人手をかけられない状況だったので、GLOOBEで効率よく仕上げようと考えたんです」。ちょうどその頃、提供が始まったばかりだったGLOOBE用確認申請支援ツールも駆使し、ほぼ最終段階まで作りあげたのだ。
「最後の最後でどうしても作業の分割が必要になり、ちょっとだけJw_cadも使いましたが(笑)
GLOOBEで完成度を引っぱり上げておいてJw_cadへエクスポートし、スタッフたちと手分けして一気に仕上げました。納まりも分かっていない若手に全部描けというのは無理な話ですが、GLOOBEなら、私が思い通り描いたものを切り取ってエクスポートし、彼らに仕上げさせれば大きな間違いは起こりません」。この成功により「免疫ができた」香月氏は次の非住宅案件でも躊躇なくGLOOBEによるBIM設計を選んだ。このまま非住宅の受注が増えれば、GLOOBEの活用機会はさらに拡大していくと考えている。
「GLOOBEでやるBIM設計は、とにかく速いし手がかからないですからね。昔は誰かが描いた平面から立面・断面・矩計を起こすわけで、実質3人がかりの仕事でしたが、GLOOBEならモデリングを組むだけでそれができてしまう。つまり、3人分の作業を実質1人でできるわけで……使わない理由が見あたりません」。冗談めかして笑う香月氏だが、実際、売上はGLOOBE導入後ずっと右肩上がりが続いており、同時に残業や休日出勤も減り続けているという。
「売上目標など特にありませんが、常に考えているのは“若手を育てたい”ということですね。せっかく建築に興味を持ってくれた若者たちが、ブラックな環境で消耗して建築を嫌うようになっていくのが悲しくて。彼らに“建築って楽しいんだよ”と感じてほしいのです。そのためにもBIMの普及は重要です。BIMを使えば残業を減らせるのはもちろん、何より建築設計の楽しさ・面白さを思い出してもらえると思うのです」。
取材/2020年12月