BIMソフトを経営資源として積極活用して
地域密着型の建設業のビジネスモデルを強化
戸建て、マンションなど住宅を中心に商品企画、設計・施工、販売、不動産管理から修繕までを一貫して手がける地域密着の建設会社、環ハウスグループ。意匠設計部門への導入に続き、組織間連携を通してグループ全体へと広がるBIM運用の現況を報告する。
POINT
- 地域に根ざした建設会社としてBIMによる業務革新を進めさらなる顧客満足度を徹底追求
- 企画、設計施工、販売から不動産管理まで一連の業務プロセスをBIMによって経営資源化
- 顧客ニーズへのきめ細かな対応とBIMによる標準化を通して質の高い商品を市場に供給
雇用確保と地域振興目指す沖縄のBIM拠点化「ものづくり支援」事業もBIM化を後押し
参加・体験型のイベント「Build Live Japan2014」では沖縄県石垣島が課題対象として選ばれるなど、BIM状況の急速な進展が見られる沖縄。BIMの技術拠点を沖縄に定着させ、雇用確保と地域振興を図るとの官民をあげての強い思いが背景にあるに違いない。
沖縄県地域事務局による「平成25年度補正・中小企業・小規模事業者ものづくり・商業・サービス革新事業」。環ハウスグループでは「BIM建築設計システム運用の高度化」計画を提出、「沖縄県のものづくり支援」事業から補助金を受け、意匠設計部門からのBIMソフト「GLOOBE」の運用を本格化させている。
グループ全体の事業ドメインを貫き組織全体での情報共有と見える化を実現するBIM
本格的なBIM運用に向けたロードマップを創り、全社的に活動を開始したのは約4年前。2015年に入り、設計部門でのBIM運用を追求する中で、構造、設備などの協力設計事務所、自社の施工部門との連携強化に努めている。
商品企画、営業部門へのBIMの援用効果はすぐに実感できた。BIMと連動する中で、高度なレンダリングを施した3次元パース、動画も提示できる。顧客との打ち合わせ時にはBIMソフト上で2次元図面+3次元モデルを確認しながら合意形成を図る。コミュニケーションの質的改善と時間短縮が実現した。
建物の3次元モデルによる「見える化」効果は施工部門との工程会議でも実効性を発揮する。3次元モデルでは重点的に検討すべき課題点が前倒しで潰せ、手戻りが減らせるからだ。商品企画、設計・施工、販売、不動産管理から修繕までの全事業ドメインを貫き、情報共有と業務の見える化のためにはBIM運用が必須との結論に達した。
10階建の分譲マンションを対象に意匠・構造・設備間のデータ連携と実施設計まで運用
本案件は、意匠設計部門で構築したBIMモデルと構造部門、設備部門のBIMモデルの連携、確認申請など行政対応に必須の各種2次元図面+実施設計図面の作成までを「GLOOBE」で行った初めての事例だ。
実務を進めるのに際して、商品企画、設計・施工、販売、不動産管理から修繕までを一貫して手がけるグループ全体でのBIM運用力を高めるため、タマキハウジング(土地活用提案/アパート・住宅建築)、タマキホーム(不動産売買/賃貸管理)にもBIMソフトを導入した。
販売担当のタマキホームでの顧客へのプレゼンテーション、施工担当のタマキハウジングでの協力事務所を含む職能間の合意形成の円滑化など、3次元モデルによる「見える化」効果は、建築の非専門家、専門家を問わず、組織間を跨がり効果大だ。
「日本仕様のBIM」を標榜するGLOOBEは、3次元モデルから2次元図面(データ)を生成する際に、2次元CADで作図していた図面表現+標記を踏襲しているとユーザー間での評価は高い。2次元CADは使わず、一気にBIMへ移行するとの全職員間での決定をサポートするために、自社仕様のテンプレートや標準部品の整備、社内勉強会の定例化など支援体制の整備も開始した。
若手とベテランのBIM協働でのメリット具現化で高まる「BIMは経営資源」との共通認識
BIM導入を加速化する中で、職員の意識も変化していった。若手職員は、オペレーション・レベルではBIMソフトに容易に馴染んだが、実務経験面でベテラン職員には及ばない。ベテラン職員は、当初、「ここまで入れるのか=3次元でモデルを創るのか」と疑念を呈したが、若手職員によるBIMのフロントローディング効果を実感し、BIMへのモチベーションを高めていった。
両者のBIMによる協働効果は、BIMソフト上で3次元モデルと2次元図面との相関関係が同時進行で視認される際に明らかになる。3次元モデルによって2次元図面では見えなかった検討課題が明らかとなり、各職域の射程距離を遠くまで伸ばせる。施工段階では遅きに失する課題を前倒しして設計段階でも確認できる。
両者の関係は、BIMを通して「教える者が教えられ」「教えられる者が教える」へと変化していった。このような過程を経て、商品企画、設計・施工、販売、不動産管理から修繕までを手がける地域の建設会社にとって「BIMは経営資源」との認識が社内で共有されつつある。
住宅分野でのメリットが周知となった設備機器などの「標準化」をBIM運用で加速化する
戸建てやマンションなどの住宅建設では設備機器などを中心に「標準化」が進んでおり、メリットは周知のものだ。環ハウスグループでは、沖縄という地域特性、風土環境に則した設計施工ノウハウとBIMを連携させて「標準化」メリットの最大化に着手している。
福井コンピュータアーキテクトでは、住宅建材・設備3次元データベース「バーチャルハウス・ドットネット」を運営しているが、環ハウスグループのようなGLOOBEユーザーも同データベースを利用できる環境を提供している。
BIMによる標準化+データベース構築は、商品企画、設計・施工、販売、不動産管理から修繕までの全事業ドメインを貫き、[人][物][金]の見える化に貢献、最終的にはグループ全体での財務政策にまで直結する。「経営資源としてのBIM」をいかにして進化させるのか。環ハウスグループの新たなチャレンジを注目したい。
※2015年7月発行のJ-BIM WORLD 事例集 Vol.2で掲載したものです