GLOOBEを核とするBIM設計の活用を原動力に
人員を増やし新市場を開拓して部門売上高も3倍に
浜松市の常盤工業は、設立70年余となる地域密着型の総合建設会社である。公共・民間の建築、土木、住宅の施工を行うほか、民間建築については設計も行うなど幅広い建築分野に展開している。7年前、同社では顧客のある言葉をきっかけにGLOOBE Architectを導入し、BIM設計を開始。これを主にプレゼンテーション分野で活用することで大きく売上を拡大。次々と新分野を開拓するなどして新たな成長期を迎えている。さらに昨年はBIMで設計・施工したZEB建築の新本社が、優れた省エネ建築として国交省のサステナブル建築物等先導事業(省CO2先導型)事業に採択され、ここでも大きな注目を集めている。BIMを核に躍進を続ける同社設計・積算部の皆様に、GLOOBEによるBIMの取り組みについて伺った。
1カ月以内に可視化した提案を!
「もう7年も前のことですが……あの時は本当に慌てました。ある地場大手企業の建設プロジェクトの打合せで、担当者と話していて突然、“誰でも理解できるようプランを可視化してくれ”と言われたのです」。そう言って当時を振り返ってくれたのは、常盤工業の設計・積算部で設計チームを率いる中村圭介氏である。中村氏によれば、その頃同社の設計チームでは、新規案件のプレゼンを図面で行っていた。当時の浜松市ではそれが一般的で、もちろん手描きパース等を使うこともあったものの、外注のため設計意図を正確にビジュアル化するのは難しく、予算や時間もかかるため活用機会は限られていた。
「先方担当者によれば、社内稟議を通すため各部門に提案内容を回覧する必要があるが、他部門の人には図面による説明では理解されないから──ということでした。そして、“1ヶ月以内に可視化した提案を用意するように”と言うのです」。新たにパースを作成するにせよ、前述のような理由で外注は使い難い。将来のことを考えれば、むしろこれを機に設計チームで内製すべきだろう、と中村氏は考えた。では、どうするか? パース作成だけならCGソフトも考えられるが、設計者が使うのであれば、操作性の問題からも建築に特化したツールが良さそうだ。さらに今回のパース制作という課題だけでなく、より広汎な設計業務への活用という将来的な展開まで考えるなら選択肢は大きく広がってくる……。そこで中村氏が思い浮かべたのがBIM。当時建築業界で本格的な普及が始まっていたBIM導入へのチャレンジだったのである。
「まずはBIMソフトを決める必要がありました。そこで海外製BIMソフトから3次元CAD、3Dデザインソフト、そしてGLOOBEまで、合計5つのBIM製品を次から次へとダウンロードし、片っ端から実務で使ってみたのです。何しろ私自身がそれを1カ月で使いこなし、お客様にお見せできるレベルのパースを仕上げる必要がありましたから、もう必死でしたね」と、中村氏は苦笑する。文字通り背水の陣と言うべき取り組みになったが、中村氏は冷静に内外各社のBIM製品を試していった。結果、ほぼ全ての製品が中村氏の要求に応えられないまま退けられてしまったが、「たった一つだけまともに使えた」BIMソフトがあった。それがGLOOBE Architect(以下 GLOOBE)だったのである。
たった一つだけまともに使えたBIMソフト
「他社のBIMソフトとGLOOBEの何が違ったのか? と言えば、一番はGLOOBEの操作です。壁や柱、内装材等々の部品を、それこそ建物を作る要領で入力することができ、しかもどれも日本語の建築用語で示されている。私たちのようにずっと建築をやってきた者にとって非常に分かりやすく、なじみ深く親しみやすい世界がそこにありました」。たとえば、と中村氏は言葉を続ける。「柱を描きたい」と思うと「柱」のコマンドがあり「壁を描きたい」と思えば「壁」コマンドが用意されている。さらに「仕上げよう」と感じればもちろん「仕上げ」のコマンドがあって、設計者としての思考の流れに寄り添うようにスムーズに操作が進められる。まさに思いのままに入力することができたのだ。
「ですから、GLOOBEに関しては最初に触れた時からストレスなく、まさにパソコンの中に建物を建てていくような感覚で入力していけました。私見ですが、日本で建築をやっている人間にとっては、GLOOBEは非常に楽に使えるBIMソフトなんだと思います」。中村氏は即座にGLOOBEの採用を決めると、そのまま自ら体験版を使って課題建築物の3Dモデルを作り、パース制作を進めて行った。もちろん初めて使うBIMソフトでのパース制作は試行錯誤も少なからずあった。だが、中村氏は独力で美麗なパースを仕上げ、見事受注を勝ち取ったのである。
「とにかくGLOOBEというBIMソフトに出会ったことで、1ヶ月という期限の中でなんとかやりきれたのだと思っています。ただ、バタバタするうちにGLOOBEの体験版の期限が切れてしまったのです」。受注が決まると早速お客様から修正依頼が入り、もはや正式に導入するしかない状況になっていた。そこで中村氏が稟議書を書いて上司を説得。GLOOBEの正式導入を実現。これを機に、地域の先陣を切って設計BIM化へと踏み出すことになったのである。
「実は当時、非住宅設計部門の設計については、私ひとりで担当していたんです。ところがBIMによるプレゼンの成功を見て、会社は急遽この非住宅部門の設計案件については全て、その初期段階からBIM設計を導入する、という方針を打ち出し、当部門の全案件でGLOOBEによるプレゼンテーションを行っていくことになりました」。当然、これを機に非住宅設計部門の積極的な強化も進められることが決定した。設計チームのスタッフ数も、GLOOBEの導入本数も着々と拡充が進められ、やがて、彼らの手で制作された美麗なパースを活用したビジュアルなプレゼンテーションが基本的な提案スタイルとして定着していった。そして、ここから常盤工業の新しい成長期がスタートしたのである。
BIMの活用を原動力に新たな成長期へ
「それまでこの地域ではパースによるプレゼンが一般的ではなかったこともあり、私たちが内製したパースによるビジュアルプレゼンの効果は圧倒的でした。正直それまでプレゼンによる競合案件はほとんど取れなかったのですが、GLOOBEで作ったパースを持っていくようになると、どんなプレゼン合戦でも100%に近い勝率で取れるようになったのです」。さすがに最近は他社もBIMなどの3Dソフトを使うようになり、勝率100%とはいかなくなったが、圧倒的な強さであることに変わりはない。
「当社はBIM導入当初から内製化にこだわり、担当スタッフの育成に注力してきました。いまやメンバーのスキルも向上しノウハウも蓄積され、生産性は大きく向上しています。結果、より高品質なパースをどこより早く提出でき、修正や変更対応もスピーディになっています」。現在もなおこの地域で内製化に成功した例は少なく、競合時に高品質なパースを一番に届けるのは、今も常盤工業なのだと言う。では、そんな対応を可能にしている同社のBIM設計の流れはどのようなものなのか。中村氏に紹介してもらおう。
「まずお客様から“こんなものを建てたい”というオーダーが入ったら、すぐGLOOBEで3Dモデルを作り始めます。そして、なるべく早い段階……1~2回目のプレゼンで、3DモデルかCGパースをお見せします。直しの要望が入ればどんどん直して、設計契約をいただくまで全力でCGを作り続けるんです」。競合の有無に関係なくこの流れは変わらない。従ってここまでは8割がGLOOBEによる作業となり、平面図の作成など残り2割程度を2次元CADで行う。設計契約後はこの比率が逆転。8割を2D CADで行いGLOOBEでの作業は2割程度となると言う。
「GLOOBEによる実施設計にも2度挑戦しましたが、移行にはまだ時間がかかるでしょう。現状、実施設計はCADで行ない、GLOOBEは内外観のパースなど図面を補完するビジュアライゼーション用途での使用が中心です」。このGLOOBEの使い方は、工事監理の段階でも積極的に使用する。たとえば施主に内装材や外観色を選んでもらう時も、同社ではGLOOBEで3D CGによる見える化を図っている。「以前はこの作業も、お客様の前に数十冊ものカタログを積み上げて行っていましたが、今は3Dモデルの床や壁、天井の材料の品番まで全部入力して3Dモデル化し“こんな内観でどうでしょう”とお見せしています。お客様に負担なく、分かりやすく、お客様に楽しんで頂きながら工事を進めることができ、私たちも楽しいですよ。当然、工事発注もスムーズに行えます」。
このように、GLOOBEによるビジュアライゼーションをトータルに活かしていくことで、同社の非住宅設計部門の受注量は以前の3倍に拡大した。それは単にBIMを導入したからというより、それを徹底して内製化することで成し遂げた成果なのだ。「つまり、それだけGLOOBEを使うスタッフを育てられたから、と言うわけです。現在はGLOOBEを使う設計スタッフは私を含めて4名となり、各得意分野に合わせ分担して進めています」。では、それぞれの担当業務とGLOOBEの使用感について語ってもらおう。
まず、設計チーフを務める村松芳丞氏は、BIM業務全般に関わり、同時に自分の案件を担当しながら若手のサポートも行っている。「自分はデザイン力が乏しいので、パソコン内でいろいろ描いて何パターンも試せるGLOOBEに助けられています。建築や設計が分っている人間にとっては、非常にやりやすいソフトだと思いますね」。
設計シニアスタッフの野島広樹氏は、内装の会社から転職してきて3年目。その経験を生かして内装デザインやプレゼン提案を担当している。「3Dソフトは当社に入って初めて触れましたがGLOOBEは操作性に優れ、最初から非常に使いやすかった印象です。内装材等もビジュアルに見せられるので、お客様の要望に適確に応えられ、提案力の向上に繋がっています」。
1年前に住宅部から移籍してきた冨田チーフは、建築を勉強しながら内装設計とプレゼンを担当している。「実は前職でARCHITREND ZEROを使っていたせいか、GLOOBEは何となく感覚的に使えている感じです。でも、まだまだ不慣れな部分も多いので、建築の勉強と合わせてどんどん使い込んでいきたいですね」。
BIM設計+ZEB建築で築く新時代
最後に、BIM設計と並び常盤工業の大きな強みとなっているZEB(Zero Energy Building)建築について紹介しておこう。この取り組みの出発点は、優れた省エネ建築として2019年に国交省サステナブル建築物等先導事業(省CO2先導型)事業に採択された新社屋改築プロジェクトである。企画設計を担当した中村氏は語る。
「計画が始まったのは6年前。社長の意思で新社屋は省エネ建築と決まっていました。そこで我々も中途半端なことはせず、注目されるくらいの省エネ建築……ZEB建築にしようと考えたのです。まず東京の大手設計事務所に助言を仰ぎ、アイデアを提供いただきました」。これに基づき、中村氏らは多日照で風力が豊かな浜松の地域特性をフル活用。太陽熱や地中熱等の自然エネルギーを最大限生かす建築形態と、省エネに係る汎用技術を数多く組み合わせることで、実質CO2排出ゼロのZEB建築を実現したのである。もちろん採光計画や日射検討など、さまざまなシミュレーションを行う検討ツールとして、BIMが幅広く活用されたのは言うまでもない。
こうして2021年に竣工したZEB建築による新本社は、完成と同時に広く建築業界全体から注目を集め、現在も毎日のように県内外から多くの見学者を迎えている。中村氏によれば「ZEB建築への興味ももちろんですが、まず建物に一歩入られた所で“この吹き抜け空間が素晴らしい”とデザイン面を評価いただくことが多いんです。やはりZEBは見た目も大事ですね(笑)。BIMを使って3Dで確認し、意見を出し合いながらデザインを詰めた成果と思っています。今後もBIM設計の強みをフルに活かし、ZEB建築のエキスパートとして挑戦していきたいですね」。
取材:2023年5月
中村圭介 氏
当社の設計では「GLOOBEが使えること」を全てに優先します
新人もGLOOBEを使えるようになるまで他ツールは触らせません
村松芳丞 氏
実は私はデザインが苦手でしたが、何だかこのごろ楽しくて
2D作図と違い、BIMは立体的に考え事前に検討できますからね
野島広樹 氏
今年30歳になる私と同世代の方なら3Dへの抵抗はないですよね
逆に2Dより3D設計から入る方が楽しいんじゃないでしょうか
冨田弥生 氏
粘り強く取り組めば、GLOOBEは誰でも使えるようになります
そして、レンダリング後の仕上りを見る喜びをぜひ感じてください