不動産管理会社がGLOOBEでBIM導入を開始
より幅広い維持管理BIMの展開を目指す
株式会社東急コミュニティーは東急不動産ホールディングスグループの総合不動産管理会社である。マンションやビル、公営住宅・公共施設などの管理を行う管理業、各種建築物の大規模改修や設備改修等を行うリフォーム事業など、幅広い不動産管理ビジネスを展開。近年は東急グループ外の物件の受託も増えて着実な成長を続けている。そんな同社では、PFI手法による公共事業「名古屋第四地方合同庁舎整備事業」への参加が決まった。同事業では設計施工から維持管理までBIM活用が予定され、同社も2023年暮れからBIM導入に着手、GLOOBEを選定・導入した。ここでは同社のBIM導入の取り組みを主導するビル事業本部第二事業部の皆様に話を伺った。
「このソフトなら使えそうだ」と直感
「当社のBIM導入の取り組み──私たち第二事業部としてのそれが始まったのは、昨年暮れのことです。具体的にはGLOOBE Architect(以下 GLOOBE)の選定・導入と同時にスタートしました」。
そう語るのは第二事業部企画課の主幹を務める小出昇平氏である。
企画課は業務に関わる新技術等の社内への紹介、普及をミッションの一つとしており、その最新のテーマの一つが「BIM」だったのである。BIMの活用フィールドと言えば、建築物の計画・設計から施工、点検、修繕、改修といった建物ライフサイクルほぼ全てに及んでいるが、現状BIMの普及状況は分野ごとに異なっている。そして、中でも遅れが目立っていた一つが維持管理業界だった。だが、それも国交省によるBIM推進の動きと共に変わりつつある。業界の先陣を切って走り出した一社が東急コミュニティーである。
「実は当社は国交省のBIM推進プロジェクトにも携わっており、国交省が進めるBIM案件(2025年12月に維持管理が開始する名古屋第四地方合同庁舎整備事業)に参加が決まっています」。同プロジェクトは当初より設計から維持管理段階まで一貫したBIM活用が行われる予定だった。そして、今後はこうしたBIM案件が増えていくことが確実なものとして予想できた。だが、同社ではBIMの検証実験は数年前から実施しているものの、実業務への適用は進んでおらず、このままでは社会の要請にも、国の要請にも、実際の案件にも対応しきれないのではないか?という危機感があったのである。
「とにかく一刻も早くBIMソフトを導入して、当社の設計や管理の現場で試用してもらう必要があると考えました。そこで、いろいろなBIMソフトを見て試し、一番使いやすそうだったGLOOBEを選んだのです」。
GLOOBEの選定にあたっては、小出氏自身が販売店のオフィスに足を運んで、実際にこれを試用させてもらったのだと言う。
「1時間程度の予定で触り始めたら、面白くて止められなくなってしまって……気づくと半日も経っていましたね。実は、私自身はCADの使用経験は無いのですが、何だか“このソフトなら使えそうだ”と感じたのです」。
小出氏によれば、オブジェクトを組みながら3Dモデルを作るGLOOBEは、線で描くだけの2D CADより「実際に何かモノを作っていく」実感があり、しかも組み上がっていく3Dモデルを我が目で見て確認しながら進められることから「誰にとっても分かりやすい!」と感じたのである。
こうして2023年11月、小出氏のGLOOBE選定と共に同社における初のBIM活用への挑戦が動き始めた。もちろん最終的な目標は同社の主業である維持管理業務での運用だったが、当面目指すべき短期的な目標はリニューアル工事での活用である。そして、同月GLOOBEはその担当となった第二事業部テクニカルソリューションセンターの工事営業チームに導入された。
予想以上に早く操作を習得したスタッフたち
「当社の業務のメインは、やはり管理業務ということになります。そして、この仕事には維持管理に関わるさまざまなリニューアル工事が欠かせず、ある程度計画的にこれをオーナーへ提案しなければなりません。この点からも建物に関わる多様な情報をストックできるBIMが重要になってくるわけです」。
そう語るのはテクニカルソリューションセンター 工事営業チームの設計担当、平桂史郎氏である。
平氏によれば「こんな改修が必要ですよ」「こんな景観にしましょう」等とリニューアル提案するには図面が必要だが、実際にはCADデータどころか紙の図面さえない管理物件や、あってもいつのものか分からないものがしばしばあると言う。 「そうなると現地調査して図面を起こし直し、資料を作って、その資料を見せながら“どうしましょう”と話していくしかありません」(平氏)。
このような場合の対策の一つとして、第二事業部では2022年にMatterport社の3Dカメラと合成処理AIクラウドプラットフォームを導入。管理物件の施設内部を3Dスキャンすることで現地調査や打合せのデジタル化を実現していた。物件の現状をMatterportで見せるとともに、完成後のパースも表示したいというニーズに対して、リニューアル工事でGLOOBEの活用を試みることになったのだ。
「製品としてのGLOOBEは導入されるまで知らなかったんですが、20年近くCADに触ってきた経験から、操作習得はそれほど難しくないと感じました。全ての操作が直感的に行えるし、必要なものは全て用意されていますからね」。そんな平氏の言葉通り、GLOOBE操作の担当となったスタッフたちは、予想以上の早さでこれを使いこなしていった。
「実は私は昨年4月に中途入社してきたばかりで、前職では平面図作りが業務の中心でした。使っていたのは海外製の汎用2D CAD。このCADで、たとえば何もない山中に建てる水力発電所等の図面を書いていました」と語るのは、GLOOBE操作の指導役を任されている久保田彰子氏だ。
前述の通り大型施設の建設に参加していた久保田氏は、BIM経験も豊富であったことから一足早くGLOOBEを提供され、独習でいち早くその操作を習得していたのだと言う。
「GLOOBEの場合、付属のマニュアルを見て基本をしっかり理解すれば、CADが使える・使えないに関わらず誰でも触れるツールだと思います。細かな知識は勉強していけば何とかなりますから」と久保田氏は語る。実際、スタッフに対する操作講習は久保田氏の予想以上にスムーズに進んでいった。もともとGLOOBEは3Dモデルを作る上でさまざまなやり方が用意されているソフトだが、久保田氏は中でも最も簡単な描き方を中心に教えていった。
「それでも皆さん、早々と描けるようになりました。図面が読めてマウスを自由に使えて建築の基礎知識を持つ方なら、1~2カ月あれば簡単なものを建てられるようになりますね。むろん奥の奥まで突き詰めればやはり大変だと思いますが」。
まずはリニューアル工事の提案営業に活用
「初めてGLOOBEを実務に投入したのは昨年暮れ頃だったと思います。と言っても依頼された仕事ではなくて。ちょっと勉強がてら描いてみたら意外と“使えるかも?”っていうパースが2案ほどできて、実際に使われることになったんです」。久保田氏がGLOOBEで初めてパース制作を行った物件は、地上4階ほどのオフィスビルで、これが事実上GLOOBEで作り上げた最初の作品だった。
「前述した通り、付属のマニュアルで学んだ基本的な操作だけで、けっこうできてしまった感じで……。まあ、多少時間はかかりましたが、外構等も含めて何とかそれらしく作れたんじゃないかと思っています」。
このようなパース制作をきっかけに、工事営業チームによるGLOOBE活用は一気に加速する。同チームを率いる平氏は語る。「我々にとって大きかったのは、GLOOBEを使って内製するパースが非常に綺麗で、制作作業も効率的に行えたという点です」。平氏によれば、パース制作作業で最も時間がかかる家具データ集めや素材の検討等の情報収集も、GLOOBEは3Dカタログ.com等のサービスがあり効率的に行えるのだと言う。もちろんその活用効果も現れ始めた。
「Matterportの3Dカメラと合成処理AIで3Dスキャンして作った物件の現状のMatterport 3DモデルとGLOOBEで作ったリニューアル後の完成予想パースを並べて表示するんです。で、“いまこんな状態ですが、こういう風に変えます”という見せ方をしています。するとお客様の方も“こんなに汚いウチのビルが、こんなに立派になるのか!”と喜んでくれます。パースになると何だか立派に見えるようです(笑)」(小出氏)。
一方、GLOOBEならではの機能を生かした「これまでにない新しい見せ方」へのチャレンジも活発に行われるようになった。たとえばリーシング業務においては、空き区画のレイアウト案をGLOOBEで作り、パノラマレンダリングで360°画像に仕上げて、現地内覧会でVRゴーグルをかけたお客様に簡易的VRビューでご覧に入れる。
──という新機軸の内覧会を実施している。つまり、リーシングの空き区画を現地でリニューアル後の眺望をVR体験していただこうというわけだ。GLOOBEならではの機能を駆使したこの新しいプレゼン手法を創出したのが、久保田氏に操作を学んだ竹内らな氏である。
「従来外注していたパースをGLOOBEで内製化するようになってすぐ、当社の賃貸部門の担当者から“ただのパースでなくVRっぽく見せられないか?”と要望されたんです。そこでGLOOBEのパノラマレンダリングで仕上げて簡易的VRでお見せしたら“これでやってくれ!”と言うことで、それからはこの簡易的VRでお見せする機会が増えました」と語る竹内氏の言葉に小出氏・平氏も頷く。
「お客様の反応は総じて非常に良かったですね。オーナー様には絶賛されましたし、仲介業者からも好反応が返ってきました。イメージしやすいとかお客様に説明しやすいとか、アンケートでもそういう声が多かったです」(小出氏)。
「“ウチならこういう事もできます!”とアピールし、競合に一歩リードできるのも大きいですね。管理物件のリニューアル工事はテナント自身が業者を連れてくることも多いので、彼らとの差別化も重要。私達としては、ここから営業に繋げたいという思惑もあります」(平氏)。
多様なフェーズで幅広いBIM活用を
GLOOBEを導入してまだ半年も経っていないが、第二事業部のBIMへの取り組みはますます加速している。
現在は実務で使いながら活用の多様な可能性を探りGLOOBEの使い勝手を確認し、さらにその先の維持管理での活用法を探っている状況だ。それらの取り組みを含め今後の展開について小出氏に語っていただこう。
「GLOOBEの活用法はまだいくらでもありそうです。たとえばGLOOBE Model Viewer等も、無償なのに非常に幅広く活用できそうですよね。3Dでの提案も容易だし、先方にもダウンロードしてもらえばオフィスに居ながらにして打合せできます。数量だって拾えますから、工事でも管理業務でも様々な場面で使えるでしょう。
とにかく施設にまつわるあらゆるサービスを一気通貫で提供する当社だからこそ、建物のライフサイクルにおける様々なフェーズでBIMを活用できるわけで。3Dモデルさえ作っておけば、維持管理にも工事にも賃貸にも活かせる──そんな形が、私たちにとって一番理想的なBIM活用スタイルかもしれません。だから、そんな風に多様なフェーズで活用できそうな管理建物については、最初から3Dモデルを作るようにしていければ、と考えています」。
(取材:2024年1月)