GLOOBEを活用しさまざまな工夫を凝らしてゆっくりと、しかし着実に進むBIM設計の道
ジェイアール西日本コンサルタンツ株式会社は、社名の通りJR西日本グループに属する鉄道総合コンサルタント会社である。土木、建築、機械、電気のほか、環境、ITなど幅広い分野に跨る鉄道技術を核に、交通や街づくりに関わる構想・計画から設計、施工管理、維持管理に至る一連のフェーズを幅広く担って総合力を発揮している。それだけにBIMの導入にも積極的で、2013年に建築設計のツールとしてGLOOBE(現GLOOBE Architect)を導入。以来その普及を推進し着々と成果を積み重ねている。特に近年は2030年へ向けた全社的な基本戦略「JRNC Vision 2030」においてBIM活用の重要性を明確に表現し歩みはさらに加速している。取り組みを主導する建築設計本部副本部長の麻田恭一氏、BIM推進室長の延安英雄氏、主任の徳永大海氏らにお話を伺った。
GLOOBEによる基本設計が「当たり前」に
「当社がGLOOBEを導入したのは2013年のことですから、もう10年以上も使い続けていることになりますね」。そう語り始めたのは、JR西日本コンサルタンツでBIM推進室の室長 延安英雄氏である。同社のBIM普及を推進する立場にある延安氏は、自らGLOOBEを駆使して基本設計からパース制作、さらには詳細図面の作成までトータルに行うGLOOBEのディープユーザーだ。そんな延安氏が率いるBIM推進室に牽引され、設計部門全体への普及も確実に進んできた。「いまでは当社が扱うプロジェクトのうち鉄道関連は全体の5割をBIMモデルを活用した設計手法で行っており、それ以外の民間施設等の開発系案件ではほぼ100%をBIMモデルを活用した設計手法で進めるようになっています」。もちろんBIMの活用レベルは案件ごとに異なっているが、少なくとも開発系案件の企画設計段階ではGLOOBEによるBIM設計が設計部門の「当たり前」として定着している。そして、BIMの導入効果と環境変化の大きさを設計者が実感することも多くなっているようだ。
「仕事の流れで言えば、基本設計のパース制作までの流れが凄く効率よく進むようになりました。以前の無駄な待ち時間……例えばパースを外注するとそれだけで1週間もかかっていたのがいまや2~3日で完成するし、内製率は99%近いでしょう」。その変化は単に効率アップというだけでなく、クオリティ面の向上にも繋がっている所がポイントだ。「以前はスケッチや立面図等を使って打ち合わせやプレゼンをしていましたが、正直分かりづらく設計意図がなかなか伝わり難いものでした。ところが3Dモデルにして立体で見せると先方もすぐ把握してくれるのです。無論、こちらも頻繁に3Dで確認しながら設計を進めますから設計品質も向上する……両者にとって非常に良い環境ですね」。
なお、パース内製業務のさらなる品質向上を目指し、同社は建築向けの高品位レンダリングソフトである Lumionも導入し、現在はこれもGLOOBEと合わせ設計者自身が使いこなすようになっている。こうなると次なるステップは、やはりGLOOBEによる詳細図作成ということになるだろう。しかし、実はこの詳細図作成についても同社では7年ほど前から挑戦を開始しており、その実現と普及への道のりは既にはっきり見え始めているという。──そして、着実すぎるほど着実なBIM普及へのJRNC Visionの陰には、BIM推進室を中心とするスタッフたちの、さまざまに工夫を凝らした多彩な支援活動があった。
どうやってBIMを使わせるか?
「GLOOBEの導入当初は、これを設計者に使わせること自体が大変でした。なにしろ当時の設計者たちには“3Dを自分で作るという”意識がまったくと言っていいほど浸透してなかったのです」。そう語るのは、延安氏のもとでGLOOBEの普及活動を担ってきたBIM推進室の徳永大海氏である。同氏によれば一番の問題は「2D CADによる設計業務に慣れ、満足している人たちにどうやってBIMソフトを使わせるか?」だ。これを解決するには、まず設計者たちを「3D設計が楽しく、設計者にも大きなメリットをもたらす」と納得させる必要があった。
「では、どうすれば良いのでしょうか? そこで思い出したのは、GLOOBEに積極的には触りたがらない設計者も、それでパースを作成する時だけは不思議なほどモチベーションが高まる点です」(徳永氏)。ならば、より簡単により質の高いパースが作れるソフトを加えれば、設計者の誰もがGLOOBEの操作に前向きに取り組んでくれるようになるのではないか。そこで徳永氏が着目したのが前述のLumionだった。
Lumionは建築系に特化したレンダリングソフト。GLOOBEで制作した3Dモデルをインポートしてレンダリングを行い、容易に高品位なビジュアルを作り出せるのである。「私自身はあまり使わないソフトでしたが、延安が使えるのでまず私が操作を教えてもらいました。その上でGLOOBEとセットで使ってみたら、これがとても具合が良いんです。そこでGLOOBEとLumionをセットで使うための操作講習の講座を作り、設計部門の新入社員に対して行ったんです。これは現在も毎年必ず行っています」。
また、こうしたGLOOBE等の若手向け操作講習においては、講習スタイルそのものについても、徳永氏らは独自のスタイルを編み出している。当初は独自に編集した操作マニュアルの冊子を作り、外部講師を依頼して座学主体の講習を行っていたが、現在ではマニュアルの内容をそのまま録画して動画に編集。これを都合の良い時間にテキストと共に視聴しながら自学習してもらう一種のeラーニング方式だ。「やはり、最近の若者ってスマホ等で動画を見て参考にすることに慣れてるんですね。以前2日がかりだった内容が1日でできるようになりました。非常に効果的だと実感しています」。
GLOOBE用“駅”部品集を制作
こうして、簡単に楽しく高品位なパースを作ってもらうための「種まき」はできた。しかし、これだけではまだ安心できないと徳永氏は考えていた。たとえ講習を受けてもらっても、その後の実務で彼らがGLOOBE+Lumionを使い続けてくれるとは限らない。逆に「放ったらかし」にされてしまう可能性も十分あったのだ。
「研修後も継続してGLOOBEを使い続けてもらうにはさらなる工夫が必要だ、というのが、皆の一致した意見でした。では、この場合どんな工夫が最も効果的なのか? 皆で話し合い、アイデアを出し合う中で生まれたのが、独自のGLOOBE用“駅”部品集の制作です」。ご承知の通り、3D建築モデルの制作を支援し作業を効率化するため、GLOOBEにはさまざまな3D部品が用意されている。一般建築のモデル化ならこれを便利に使えるが、同社の場合はそれだけでは全く足りない。なぜなら同社が担う案件の多くは駅舎を始めとする多様な鉄道関連施設づくりであり、そこでは一般の建築とは異なる専用の設備や機器、部材が大量に使われるからだ。GLOOBEに限らずこうした特殊な3D部品はほとんど存在せず、そのことがこの分野における3Dモデル化の高いハードルとなっていた。
「たとえば改札機や券売機といった駅特有の設備はもちろん、構内のエレベーターやトイレも駅特有の機器が使われます。こうした特殊な3D部品を作ってほしいという声は以前からあり、個別に作ったりしていました。最初から一式作って用意しておけば、これからGLOOBEを使う人のモチベーションも上がりますよね」。そう考えた徳永氏らは、空き時間を利用し汎用オブジェクトで部品作りに励んだ。制作開始後6年の現在では、個別に作ったものを加え総数100個近くの鉄道部品集となっていると言う。
「最初は汎用オブジェクトでしたが、最近は集計を行うことも多いので、なるべくバラバラにして作っています。実際、新人にデータを見せて“コピペして使えるよ”って伝えると、改札機周りのモデル等も皆すごく上手に作るようになるんです。で、これで行けそうだなと」(笑)。徹底して使い手の立場に立ったGLOOBE運用支援は功を奏し、冒頭で延安氏が述べていた通り、現在では同社の鉄道系で50%、開発系ではほぼ100%の基本設計がBIMモデルを活用した設計手法で進められるようになった。まさに着実な普及ぶりと言えるだろう。だが、延安氏も徳永氏も「ゴール」はまだまだ先と考えている。
「誰でも、簡単に」できる図面化へ
「専用部品を作り3Dで基本設計を行い、パースを仕上げてお客様の合意をいただき、実施設計に入っていく……という所までは、皆ができるようになりました。詳細設計のための3Dモデル作りも始まっています。そうなると次の問題は図面化です。実際、仕上げたBIMデータをどう使うか?という所で終わってしまう事例も実は少なくありません」と徳永氏は嘆く。BIM活用を基本設計に集中するのも一つの方法だが、それでは「せっかく作ったBIMデータがあまりにもったいない」と延安氏は言うのである。
「2Dや手描きで描く図面には、不整合の問題があります。自分が図面を描いていた人間だからかもしれませんが、100点取ろうと思って全力を尽くして描いた図面でも絶対にどこか間違えているもので、少しでも気を抜いたりしようものなら不整合な図面しかできません。そうなってしまうと直すのがまた大変で……しかし、BIMで図面作成まで完結できれば不整合は無くなるわけで、私はこれをどうしても実現したい。設計者なら誰もがそう思うのではないでしょうか」(延安氏)。こうしてBIM推進室では7年前からこのBIM図面化の取り組みを積極的に推進。複数の実案件でこの図面化に取り組んできた。
「中には図面の設定を詳細図レベルまでガッツリ作り込んだものがあります。そこでこのデータをテンプレート化し、同じようにアクションすれば図面化できるという流れのテキストと共に配布すれば、図面化のハードルも下がると考えました」(徳永氏)。このテンプレート化にあたっては、たとえば同社仕様の建具表等、そのままでは作れない部分や作業に手間のかかる部分も多々あったが、徳永氏は福井コンピュータアーキテクトのアドバイスも得ながら「誰にでも使えるようなモノ」を目指してブラッシュアップを重ね、最近一応の完成を見た。徳永氏は早速このテンプレートをBIMモデラーに提供し、BIMデータ図面化への挑戦を依頼したのである。
「結果ひと通り図面化できましたが……多少の加筆も必要でしたし、改善の余地はまだまだたくさんありそうです。さらにブラッシュアップは進めていきますが、それでも今年度中には形にし配布を始めていきたいですね」(徳永氏)。
「鉄道」の全てをデータ化しBIM化する
最後に副本部長の麻田恭一氏に、今後の同社のBIMへの取り組みについて概観していただいた。
「当社では『JRNC Vision 2030』を、コロナ禍の拡大による社会環境の変化を受けて2022年4月に改訂しました。その改訂版 JRNC Vision2030では、デジタル空間情報を活かして、交通のシステムチェンジを推進し、鉄道システム整備を技術でサポートすることを示しています。ご承知の通り、私たちは建築分野を担当していますが、当社全体を見ると建築以外にも土木や機械、また電車の信号設備や高圧な電車線設備、電力設備等々の多種多様な領域が存在し、高度に複合して運営されているのが「鉄道」インフラということになります。そして、将来的にはこれら全てをデータ化し、BIM化し、可視化して、それを計画や設計に活用していけるようにしたい、ということが会社全体の目標の一つとなっています。まずは駅や商業施設におけるBIM活用をすすめ、さらには鉄道施設全般でのBIM活用のさらなる広がりを推進したい。──そう考えています」。
(取材:2024年9月)
延安英雄 氏
ソフト選定時に各社をリサーチし、GLOOBEを導入した理由は
「どのBIMソフトよりも日本の法規に長けているから」です
徳永大海 氏
どうやって設計者の3Dモデル作りのモチベーションを高められるのか?
そこで思い出したのが「駅」用3D部品がほとんど存在しないことでした
麻田恭一 氏
駅や商業施設をはじめ、鉄道施設をBIM化し可視化して
それを計画や設計に活用していけるようにしていきたい