建築基準法に準拠する国産BIM建築設計・施工支援システム「GLOOBE」の優位点を探る
国土交通省では、2025年からBIMデータを用いた建築確認申請を試行する。当初は、BIM図面審査を試行するもので、図面審査で求められるのは、「BIMデータから出力したPDF形式の2次元図面」となっている。一部の指定確認検査機関からBIM図面審査の試行を開始し、2027年の全国展開を目指すとしている。
建築確認業務でのBIM援用は必須となった。BIM図面審査においては、手描きの製図をデジタル化した2次元CADによる図面は審査対象とはならない。国土交通省では、BIM図面審査の次の段階として「3次元図面や属性情報を含むIFCデータ」によるBIMデータ審査への段階的な移行も計画している。これによって各図面間の整合性の確認を不要とすることで、審査期間の短縮に繋げるためだ。
福井コンピュータアーキテクトでは、建築確認申請時のBIM援用が必須となった現況を踏まえ、建築基準法に準拠した氏育ちの良い3次元建築BIMモデルを生成する建築設計・施工支援システム「GLOOBE」にフォーカスした書籍の編纂を進めている。刊行に際しては、詳細が決まり次第、追って報告する。
法規機能を強化した「GLOOBE Architect」の計画初期での使い勝手を早稲田大学において検証
福井コンピュータアーキテクトは、直近では2024年5月15日付けで建築設計・施工支援システム「GLOOBE」のバージョンアップ版の提供を開始した。
そのような状況下、早稲田大学創造理工学部研究科建築学専攻石田研究室では、「GLOOBE Architect」を試験的に導入し、建築のワークフローにおける初期段階でのBIM援用、法規に係る授業への適用の可能性を探るべく検証に着手した。
「GLOOBE Architect」は、膨大な情報量となる建築基準法インフォメーションをデータベースとしてシステムに内包している。具体的には、それらのインフォメーションを援用して、「申請面積の自動計算」「有効採光/換気/排煙計算」「防火・防煙区画のチェック」「平均地盤算定」などを実行すると共に、「日影図・斜線図・天空図」「延焼・燃焼ライン」などの算定を行い、円滑な確認申請図書の作成を実現している。入力された情報が日本ERIや建築行政情報センターの確認申請ツールへ連携できるのも国産のBIMソフトならではの優位性となっている。
既築建物として早稲田大学喜久井町キャンパスを対象に鳥かご図で建築可能性を再確認
石田研究室において最初に着手したのは、建築計画の最上流に位置する日影規制、斜線制限などの法的規制の検討において「GLOOBE Architect」がどのように挙動し、有効性を発揮するのかの確認であった。法的規制での「GLOOBE Architect」の使い勝手の確認には、既築建物として新宿区喜久井町にある早稲田大学喜久井町キャンパスを対象として選択している。
喜久井町キャンパスは、多目的グラウンドを中央に挟み、グリーン・コンピューティング・システム研究開発センターをもつ40号館、第一・第二研究室、内藤記念館などをもつ41号館から構成されている。今回の「GLOOBE Architect」の試験運用では、主に法的規制時の鳥かご作成に関する挙動を確認している。
対象建物が斜線制限に抵触せず高度地域内にも収まっており仮想的な増築も可能と確認済
建築設計システム「GLOOBE Architect」を援用した喜久井町キャンパスの鳥かご作成に際しては、最初に「GLOOBE Architect」に敷地情報を入力する。その際に広く公開されている地籍図を用いた。
地籍図は、地籍 調査によって作成されたもので、写しが法務局(登記所)に送られ、公図として備え付けられており、土地の登記単位の「筆」と「筆」の境界線と地番が記入されている。現在、公図は、法務局の委託を受けた登記情報提供サービスなどを通してインターネットでも取得が可能だ。今回は※「東京都主税局のweb[地籍図公開(23区)]サービス」を通して喜久井町キャンパスを含む近辺の地籍図をデジタル情報として入手した。
入手した喜久井町キャンパスを含む近辺の地籍図は、PDFファイル形式であったため、画像形式のpngファイルに変更することとした。pngファイルは、画像をリサイズしても輪郭がくっきりとするなど、同じ画質を保つ可逆圧縮という特性を持つためである。このようにpngファイル形式とした地籍図を用いて、喜久井町キャンパスを含む敷地をなぞるようにして「GLOOBE Architect」への敷地入力を行った。
※東京都主税局のweb[地籍図公開(23区)]サービス
https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/chisekizu/index.html
次に「新宿みんなのGIS」を用いて用途地域などの都市計画情報の入力を行った。図にあるように喜久井町キャンパスを含む敷地は、近隣商業地域、第一種住居地域、第一種中高層住居専用地域に跨るように輻輳することが判明している。
まず40号館のみの鳥かごの作成に着手した。その際に40号館のみだと隣地斜線が影響し、建築可能範囲が小さくなってしまうと予想できたので、40号館以外の敷地=41号館も含めた敷地も対象として鳥かごを作成した。その結果、40号館・41号館共に、全ての建物が斜線制限には抵触せず、高度地域内にも収まっていることが確認できた。
地盤面の高さ算定には「ボリューム解析」をクリックし専用の「地盤計算」コマンドを使用
次に平均地盤面の検討を行った。建築基準法では、平均地盤面からの高さは、対象建物が周囲の地面と接する位置の平均の高さにおける水平面からの高さを指している。加えて対象建物が周囲の地面と接する位置の高低差が3メートルを超える場合であっても平均地盤面は1つとなり、同一敷地に二以上の建築物がある場合は、これらの建築物は一つの建築物とみなされ、平均地盤面は一つとなる。
「GLOOBE Architect」で地盤面の高さを算定するためには、「専用設計ツール」タブの対象「ボリューム解析」をクリックして、「地盤計算」タブのコマンドを用いる。「算定ポイント」で計算建物の外周上の点と地盤が接する高さを設定し、「地盤算定」で平均地盤高を算出すると、その結果が「敷地境界・地盤」のプロパティにセットされることになる。その結果、40号館の仮想空間上での改築を想定しても、十分な余裕をもって可能であると判明している。
「GLOOBEの操作手順は難しくなく、ソフトウェアに触れたことがない人や専門の知識がない人でも簡単に操作ができると感じられた。ソフトウェアを使用せず、手動で建築可能範囲を作成したが、それはGLOOBEで作成された鳥かごと一致していたため鳥かごの精度も高いことが確認できた。」(研究生 押野谷希美氏)
更に加えて、建築基準法との関連においては、各種建築部材がコマンドとして揃っているため、名前や形を覚えられて教材としても活用できる。合わせて、法規チェック機能によって日影計算や面積計算、採光換気排煙計算などの理解が根拠を基に深めることができる。
「耐火性能基準の精緻化」「容積率不算入対象区分の追加」といった建築基準法の直近の改正に対応
建築基準法の改正に迅速かつ正確に対応できるのが国産のBIM「GLOOBE Architect」の優位点だ。建築基準法の直近の改正に対応するべく「GLOOBE Architect」では、「階数に応じて要求される耐火性能基準の合理化へ対応した耐火性能基準の精緻化」「容積率不算入対象区分を追加して建築確認申請書の様式変更に対応」を実現している。
「階数に応じて要求される耐火性能基準の合理化」の対応条文は、建築基準法施行令第107条で、改正の趣旨は、木造による耐火設計ニーズの高い中層建築物に適用する耐火性能基準を合理化し、中層建築物への木造利用の促進を図るとされている。改正内容は、階数に応じて要求される耐火性能基準は図にある主要構造部について、60分刻みから30分刻みへ精緻化することとした。
「GLOOBE Architect」では、条文に規定された耐火性能を躯体モデルと階の関係から割り当てる機能を持っていたが、今回の改正に準じた内容に変更している。具体的には、最上階からの階数に応じた耐火性能のチェックと主要構造部耐火性能編集機能とによって、ワンタッチでの耐火性能の編集を可能としている。
「日本国内で開発されたソフトウェアということで、日本の法令にしっかり対応しており使いやすい。逆天空率計算なども含まれており、手計算では困難な検討をスムーズに行える点が特に素晴らしいと感じる。TREND-POINTなどの点群データを扱うソフトウェアを開発している企業であることもあり、点群データとの連携がしやすい点も、改修工事などの研究を行う際にも役立っている。」(早稲田大学理工学術院創造理工学部建築学科 石田航星准教授)
「容積率不算入対象区分を追加して建築確認申請書の様式変更」については、確認申請書への「ホ.認定機械室等の部分」と「ヲ.その他の不算入部分」の追加に対応している。
「GLOOBE Architect」では、スペースと床面積区画に「容積率不算入対象区分」の情報を持っており、それらの情報から床面積を算定、その結果としてスペースと用途区分から求積図データを自動作成する。これらの機能を活用するべく、今回の改正に対応するため、従来からのプロパティに「認定機械室等」と「その他の不算入」を追加している。
国土交通省は8月付けで建築確認におけるBIM図面審査ガイドラインの素案を広く公開
国土交通省の建築確認申請へのBIM援用を巡る最新の動向をみて みよう。確認申請におけるBIM図面審査を更に先に進めるために、2024年8月付けで、ホームページ上で「建築確認におけるBIM 図面審査ガイドライン(素案)」「入出力基準・設計者チェックリスト(素案)」を公開している。
特に「設計者チェックリスト(素案)」では、「入出力基準に従って作成し、整合性確認の省略を求める図書」を詳細に渡ってリストアップして概説するなど、確認申請のBIM援用が現実のものとなったと切迫感さえ感じられる内容となっている。
「建築確認におけるBIM図面審査ガイドライン(素案)」では、建築確認における「BIM図⾯ 審査」の⽅法・⼿順等について⽰すことを⽬的とするとしており、BIM図⾯審査の定義では、「BIMデータから出⼒された図書を活⽤した建築確認のための申請および審査の⽅法としている。
◇建築確認におけるBIM 図面審査ガイドライン(素案)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/001758234.pdf
「入出力基準・設計者チェックリスト(素案)」の「入出力基準」については、「BIM図面審査で用いる、BIMデータの作成に関する基準であり」「入出力基準では、BIM データから出力された図書の「形状」、「表記」又は「計算」に関して、図書の記載事項の整合性が確保されるための入出力の基準を定めている」としている。
「設計者チェックリスト」については、「BIM図面審査で用いる、入出力基準に従いBIM データの作成を行ったこと等について、設計者が申告を行う書類である」としており、使用方法については、「申請者(設計者)は、「入出力基準に従い作成することで、図書の整合が担保される事項」ごとに「入出力基準に従って作成し、整合性確認の省略を求める図書」について、〇:該当する図書、-:該当しない図書の印を付す。」と詳細にわたり概説している。
◇入出力基準・設計者チェックリスト(素案)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/001758246.pdf