脱汎用CAD&GLOOBEフル稼働で
BIMの完全運用体制を実現する
BIM導入へ、いよいよ機は熟した
大阪市のコンパス建築工房は、建築家・西濱浩次氏が主宰する一級建築士事務所です。アトリエ系設計事務所としては珍しく、住宅に店舗、ビルや病院、寺院、リノベーションまで幅広い建築を手がけています。そうやって自然体で業界の流れを先取りし、常に時代の半歩先を進んでいくのが特徴の一つです。そんな同社が、いま一番力を注いでいるのがGLOOBEによるBIMの実現です。
「BIMという言葉は近年のものですが、概念自体は昔からあります。実は私も10年ほど前から、"いずれ必要になる"と考え、導入しようとしましたが、当時はツールが未成熟で実現できませんでした。ところが近年、これが急速な進化を遂げ、いよいよ機は熟したと感じられるようになったのです」。そう考えた西濱氏はすぐにアクションを起こしました。建築系BIMツールを提供している海外ベンダー2社を招いて、BIMのデモンストレーションを受けたのです。
「当時、BIMソフトは海外製品だけだと思い込んでて、この2本のどちらかを選ぶしかないと考えていました。だからその後GLOOBEを紹介された時も、正直全くその気はなかったんですよ」。ところが実際にGLOOBEのデモを見て、機能に触れるうち、西濱氏の考えは180度逆転してしまったのです。
「触れてみると、良いんですよ、これが。BIMとしての基本機能はもちろん、国産ということが大きな強みになっているんですね。たとえばGLOOBEは日本の法規にきちんと準拠している。海外製品はそうはいきませんよね。デベロッパーの仕事も多い当社にとって、これは非常に大きな違いでした」。マンションなど事業性の高さが要求される建築では、日影や天空率など様々な規制を、早い段階で、しかも素早くクリアしなければなりません。GLOOBEで作った建物なら、日影も天空率も設計の流れの中でいつでも素早くチェックできる。業務にスピードが求められる今、それは非常に大きなメリットだったのです。
BIMとしては後発だし、物足りない部分もあります。でも国産のGLOOBEなら直接私たちの意見をぶつけられるのです。そうやって、"私たちにとって使いやすい製品"に育てていけるんですよ」。こうして2010年暮、西濱氏はGLOOBE導入を決めたのです。
CADからGLOOBEへ完全移行しBIM化を推進
こうして導入したGLOOBEを、西濱氏は4人の社員全員に1本ずつ支給し、汎用CADとCGソフト併用体制からの脱却を宣言しました。最初は慣れない操作に戸惑うスタッフもいましたが、同氏は後戻りを許しませんでした。BIMのメリットをフルに引き出すには、全てをGLOOBEで作り、情報を一本化すべきだと考えたのです。
「設計者にとって、BIMのメリットとは、まず何より膨大な図面の整合性が容易に・確実に取れることです。当社では私がデザインした建物をスタッフが図面化しますが、その複数の図面間の整合性を取るのは難しく、チェックと修正に膨大な時間がかかっていました。それでもミスが残り現場でトラブルになることも多々あったんです。しかし1つの建築モデルから全ての図面を切り出すBIMなら問題は容易に解決されます」。だからこそ西濱氏は全てGLOOBEに統一し、データを常に一つの建築モデルに統合することにこだわったのです。
もちろん最初から全作業をGLOOBEで完結するのは困難でしたが、この春以降、同社では各種ビル建築から木造軸組の住宅まで、全物件をGLOOBEで企画、設計しています。むろんまだ導入効果を云々する時期ではありませんが、それでも既に設計現場には明らかな変化が見て取れる、と西濱氏は語ります。
「大きく変わったのはプレゼン。設計意図を施主へ分かりやすく伝えるのは重要な課題で、私もスケッチや模型を工夫してきましたが、GLOOBEがそれを一変させたんです。モニタに建築モデルを映して好きなアングルで見せ、その場で変更も行うんです。結果、施主の意思決定を大きくスピードアップできました。早く理解されれば早く決まり、早くスタートできる。非常に効果的なんですね。時間はトータルで従来の半分に効率化されました」。これを一つの弾みに、同社では本年度中にBIMの完全実施を目指しています。図面精度を高め、企画、プレゼンから図面、見積りまで完全にBIM化しようと言うのです。
「時代がスピードを要求するなか、建築家ももはや1人では仕事を進められません。良い仕事をするにはどうしてもスタッフの協力が必要で……それなら効率良く、精度の高いコラボレーション環境を目指すべきでしょう。私にとってはそれがBIMなのです」。
※役職などは2011年、取材当時のものです。