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株式会社 鴻池組

実務への対応こそが普及のカギ!
BIM戦略を加速させる日本製BIMの実力

鴻池組は、BIMへの先進的な取組みでも知られる大手在阪ゼネコンです。同社では早くから海外製BIMツールを導入し、BIMの研究に取組んできましたが、2013年4月「GLOOBE」を導入し、全社へのBIM普及を推進しています。その背景と狙いについて、同社設計課の奥村朋孝氏とBIM推進課の内田公平氏に伺います。

外国製3次元ソフトで触れたBIMの世界

BIMへの取組みはいつ頃からですか

内田

出発点は1996年頃に始めたCG活用ですね。この取組みを続けていく中で外国製の3次元ソフトを紹介され、BIMの概念を知りました。使ってみると確かに今までの3次元ツールとは違う。これをきっかけに興味を持って研究を開始したんです。

当初はその外国製品をご使用でしたね

内田

ええ。その外国製BIMソフトで日本にBIMを普及させようという活動が始まり、私も協力しました。すでにBIMはCG制作だけでなく設計者が使って図面化まですべきだ、と分かっていたし、そのデータを積算や施工に流して幅広く活用していこうというビジョンも見えていました。しかし、そのソフトでこれを実現しようとすると上手くいかず、当社も2010年にソフトを導入し、本格的に研究に取組みましたが、結局難しいという結論でした。

何が問題になったのでしょうか

内田

形を作りビジュアル化し、施主にプレゼンして「よく分かるよね」という所まではすぐできるんです。しかしその先、図面化してデータを積算へ流し、施工へ繋ごうとすると、これが難しい。海外製品ということが多くの不具合を起すのです。建築向けなのに汎用性が高いのも、設計者にとって高い壁となった感じです。

具体的にはどんな点が問題に?

内田

用語からして私たちが耳慣れない言葉が頻出し、しかもソフトとしての設計施工の捉え方が要所で日本の建築と異なるので、建築法規に合わないとか仕様に合わない点が随所に現われたのです。設計者目線じゃないんですね。結局、設計担当者たちに「一般図レベルでも、ちょっと難しいよね」と言われてしまいました(笑)。

奥村

私たち設計者の仕事は3Dモデルを渡して完了ではなく、やはり図面にしないと完結しないのです。それも詳細設計まで行きますから、それらがちゃんと描けるコマンドなりが揃ってないと話になりません。その海外製ソフトは「ふかし」や「取り合い」のような細部が全然使えなくて……時間をかければできるかもしれませんが、現実には詳細図は不可能で、一般図用としても使いやすいとは言えませんでした。

設計者たちが選んだGLOOBE

それでBIMソフトの見直しを?

内田

ええ。そのソフトだけではBIMが進まないという事で、新たに検討を進め、2013年春にGLOOBE導入を決めました。今回は設計担当者たちに実際にGLOOBEに触ってもらい講習会にも参加してもらって意見を聞いたんです。そして「これならいけるよ」という言葉で導入を決めました。やはり設計者みずから使えるという感覚が重要ですから。もちろん海外製BIMソフトも、強みを生かして別の部署で活用しています。

奥村

私自身は企画・計画中心で詳細図ほど細かく掘り下げませんが、GLOOBEの作図レベルは設計者として十分許せるもの。まだ実施図まで100%問題なしとは行きませんが、BIMソフトで1番可能性があるのは確かです。今は実施図レベルへ向けて使っていきたいと期待を込め、皆に「やろうやろう」と呼びかけています(笑)。

BIM戦略もステップアップしましたね

内田

そうですね。前述のような経緯でGLOOBEが導入され、実務で十分使えるということで、同年10月にはBIM推進課が設置されました。設計本部の組織ですが、メンバーは設計だけではなく積算や技術部門も参加して、全社へのBIM普及を推進します。

具体的な取組みはどのような?

内田

以前からの課題が軸ですね。意匠がGLOOBEで作った3Dモデルを、積算へ持っていった時どんな不具合が出るか。技術で施工図がどこまで書けるか等を検証していきます。GLOOBEの教育は、まず体験会を開いた上で、福井コンピュータさんの協力も得て5種のマニュアルを作成して操作研修を実施中。推進役としてBIMマネージャーを20名育成し、彼らを中心に進めていく計画です。

設計品質向上と効率化を実感

実物件でのBIM活用は進んでいますか

内田

現状進行中のBIM案件は8案件あります。既に完了した案件もあり、デザイン検討にだけ使ったものまで含めるとその数は数十件に上ります。

実務でGLOOBEを使ったご感想は?

奥村

設計者が自分で入力すると、いろんなことが見えてきますね。自分の設計なのに思いがけない発見が多々ある。「この納まりは難しくなる」とか「この取合いは微妙な隙間しか開かない」とか「ここは注意」とか…すごく参考になりますよ。

レンダリングによるデザイン検証

クリエイティブに影響がありますか?

奥村

ええ、デザインのアプローチ方法が変わりますね。昔は仕上りを想像しながら図面を描きましたが、パースにすると何だか違う、ということが多々ありました。しかし3Dモデルをくるくる回しながら検討し、デザインを詰めていくとそれがない。イメージも膨らむし、品質向上に繋がるはずです。また、GLOOBEになってからはプレゼン資料の作成でも何でもぐっと速くなり、全体的に効率化が進みました。図面化も概算資料等なら即行ける。思った以上でしたね。

どれくらいのスピードアップでしょう

奥村

たとえば簡単な提案資料でも、パースをたくさん載せると以前は制作に2週間以上かかりましたが、今では5日。 モノにもよりますが、 2週間のプロジェクトが最近はその半分に短縮されています。プレゼン用のムービーも同じで、2週間近くかけて作っていたムービーが、3Dモデルをリアルウォーカーで動かしてムービー編集すれば正味3日で完成します。これからもこういった手法をどんどん取り入れていくつもりですし、デザイン確認やモデル確認にも非常に有効です。

内田

速さという点では、GLOOBEのユーザサポートは非常に速く的確ですね。ここを直してほしいと要望をあげると、早い時は翌月のアップデートで直ってくる。世界の要望に応えなければならない海外メーカーとは、そこが全く違いますね。

今後の課題は?

内田

まずは20名のBIMマネージャーをしっかり育てること。そして設計から積算、施工という流れを確実に使えるものとしていくことですね。またもう一つ期待したいのが、J-BIM施工図CADとの連携強化です。施工部門への連携強化は、やはりゼネコンにとって大きな課題ですから。

奥村

まずは20名のBIMマネージャーをしっかり育てること。そして設計から積算、施工という流れを確実に使えるものとしていくことですね。またもう一つ期待したいのが、J-BIM施工図CADとの連携強化です。施工部門BIMの普及については、企画・計画業務ではGLOOBEをかなり使うようになってきたので、次はいかに実施設計に活用していくかですね。もちろん積算から施工までの建設プロセス全体を視野に入れて進めていきますよ。当面は、とにかくGLOOBEを足がかりに、誰もがBIMに触れ、使うようになってくれることを目指しています。への連携強化は、やはりゼネコンにとって大きな課題ですから。

※2015年7月発行のJ-BIM WORLD 事例集 Vol.1で掲載したものです

奥村 朋孝本社設計本部
建築設計第1部 設計課
課 長

内田 公平本社設計本部
設計管理部 BIM推進課
課長代理

株式会社 鴻池組

所在地大阪市

代表者
代表取締役 蔦田守弘
設 立
1918年6月
事業内容
建設工事の企画・測量・設計・監理・請負およびコンサルティングほか

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