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【対談:耐震性能見える化協会 × シーデクセマ評議会】

wallstat&CEDXM連携で可能性を拡大!
目で見て伝わる耐震性能の高さを新たな武器に

木造軸組構法住宅の耐震性を目に見える形で解析・表示する耐震性能シミュレーションソフト「wallstat(ウォールスタット)」と、建築意匠CAD/プレカット生産CAMの相互データ連携用標準ファイルフォーマット「CEDXM(シーデクセマ)」の連携が進んでいます。これと共にwallstatの普及も急拡大しつつあり、これまで見過ごされがちだった木造住宅の耐震性能に対する業界内外の関心も高まっています。耐震性能見える化協会の代表理事 中川貴文氏とシーデクセマ評議会の理事長である藤澤好一氏をお招きし、wallstat-CEDXM連携の背景と今後の展開について、両団体で広報担当を務める福井コンピュータアーキテクトの栄裕一が伺います。

wallstatとCEDXMの開発背景

栄 ● 耐震性能見える化協会(以下 見える化協会)設立が2019年1月でしたから、そろそろ1年経ちます。あらためて設立目的を伺えますか?

中川氏 ● そうですね、出発点は2010年12月でした。この年、私は木造住宅の地震時の損傷状況や倒壊過程をビジュアルにシミュレートできる数値解析プログラムwallstatを開発しました。当初は研究教育用ソフトとして公開していましたが、徐々に住宅業界の関心も高まり、2019年までのダウンロード数は約3万件を超えています。しかし、一方で間違った使われ方も増えつつあるため、より適切な使い方を伝え、さらなる普及を進めていくため、この見える化協会を設立しました。

一般社団法人 耐震性能見える化協会 代表理事
京都大学 生存圏研究所 准教授  中川貴文 氏

栄 ● すると活動はユーザー教育や活用支援が中心となりますね。

中川氏 ● ええ、wallstatに関する講習会や使い方に関するユーザーサポート、これらに関わる情報発信のためのウェブサイト運営等を行っています。こうした活動を通じてwallstatユーザーを増やしていくことにより、木造住宅における地震被害を軽減させるのが最終的な目標です。もっとも今年2年目を迎えたばかりの協会なので、20年余の歴史をお持ちのシーデクセマ評議会に比べれば、まだまだ若い駆け出しの組織です(笑)。

藤澤氏 ● いやいや(笑)。確かにCEDXMが生まれたのは2000年のことでしたね。ふり返ればこの年、林野庁補助事業として、意匠CADとプレカット生産CAMの相互データ連携のための標準ファイルフォーマット開発が始まりました。成果は3年ほどで現れ、これを共通化していこうと取組んだのがシーデクセマ評議会の起点だったんです。これも当初は任意団体でしたが、2008年に特定非営利活動法人となり、現在では中大規模木造建築物、CLTへの対応も可能となり、BIM連携も視野に入れ、時代に応じたCEDXM開発を進めています。

栄 ● せっかくですからCEDXM開発の背景についても伺えますか?

藤澤氏 ● そうですね。近年、木造住宅建築の多くがプレカット加工された木材が使われていますが、このプレカット加工の基となるCAMデータは、建築CADで描いた設計図を基に作られます。しかし、この入力には手間がかかりしばしばミスも発生します。CADデータをそのままCAMデータに変換できれば良いのですが、建築CADの種類は多く、全てに対応するのは容易ではありません。そこでCADデータを共通フォーマットで一本化し、プレカット工場に負担のかからない環境を作ろうと開発したのが、標準化フォーマットCEDXMだったわけです。

wallstat-CEDXM連携の背景と経緯

栄 ● 同じ木造住宅業界とはいえ、両者の開発背景は少々異なります。wallstat-CEDXM連携が生まれた背景と経緯についてご紹介ください。

中川氏 ● 当初、wallstatは「GUI(グラフィカルユーザインターフェース)」を持っていませんでしたが、広く普及を進めるにはやはりできるだけ多くのCADとの連携が必要です。そこで5年ほど前、この分野に詳しい東京大学生産技術研究所の腰原幹雄先生に相談し、推薦されたのがCEDXMとの連携でした。実際、wallstatがCEDXMと連携すればCEDXM連携を実現した多くのCADのデータをwallstatで利用できるようになるわけで。たとえばプレカットCADによる構造設計データも、CEDXMフォーマットに変換すればwallstatで使えるため、wallstatの課題だった入力作業も非常に楽になるのです。ですからもう、すぐにコラボレーションをお願いしました(笑)。

藤澤氏 ● そうでしたね。実は当時、我々もCEDXMのさらなる普及を進めるための方策を探しており、非常に良いタイミングで中川先生に声をかけていただいたと思っています。そして、CEDXM連携を活かして建築CADのデータを上手く使うことでwallstatの入力作業が非常に容易になる……と伺い、我々も、より使いやすくなったwallstatの普及が進めば、CEDXMの普及にも繋がるだろうと考えたわけです。

特定非営利活動法人 シーデクセマ評議会 理事長
芝浦工業大学 名誉教授  藤澤好一 氏

栄 ● 実際の連携作業はどのように進んでいったのですか?

中川氏 ● 実作業はシーデクセマ評議会の開発担当の方と密接にやりとりしながら進めています。もちろん瞬時に連携が実現できたわけではなくて、wallstatとCEDXMが徐々に歩み寄るような形で進んでいきました。互いにバージョンアップを重ねながら、徐々に連携での情報密度を高めていったんですね。また、シーデクセマ評議会にはさまざまなCADメーカーの開発者もおられるので、そちらとも情報連携しwallstatのインターフェイス開発も進めています。……こうした進行はCEDXMも同じですよね。

藤澤氏 ● そうですね。wallstatとの連携が上手く機能する形へCEDXMのフォーマットを変えながら、バージョンアップを重ねています。

wallstat-CEDXM連携イメージ

中川氏 ● 実際、この5年でどんどん連携の情報密度が高まって、今ではかなり細かい所まで再現できるようになっています。全体の80%ほどまで再現できていると思いますが、100%連携はまだまだ。開発途上なのは変わりません。各社CADが吐き出すデータも異なっているので、さらに細かい調整が必要ですね。やはり、今後も福井コンピュータアーキテクトはじめ、CADベンダーとの協力がますます重要になるでしょう……そのベンダー側の思いについては、栄さんの話も聞きたいですね。

栄 ● 私自身はもともとシーデクセマ評議会の広報担当としてCEDXM普及に取り組んでいましたが、3~4年前にwallstatを知って非常に強い興味を持ち、これをきっかけに見える化協会でも広報を担当するようになりました。未だに伏図が描けないような工務店さんも少なくありませんが、wallstatはとにかくインターフェイスが簡単なので、誰にでも使えるんじゃないかと考えたのです。そこでこれをなんとかして広めたい、と全国各地を提案して歩くようになりました。現在では、これはシーデクセマ評議会や見える化協会の活動というだけでなく、私たち福井コンピュータアーキテクトとして取組むべき活動でもあると思うようになっています。

wallstatの画面

CADベンダーへの大きな期待

中川氏 ● 福井コンピュータアーキーテクトとして取組むべきこと、というのは?

栄 ● 前述のようにwallstat普及のため全国各地を回る中で一番感じたのは、各地の工務店や設計者の耐震性への関心の低さです。本来、住宅性能はまず耐震性能ありきで、家づくりのベースとなるものであるはずなのに「新耐震基準でいいです」という所が少なくありません。一方でビルダー選びにおける耐震性能について施主に聞くと「倒れないのが当然でしょ」と。つまり耐震は大前提なんですね。で、地場の工務店はどうか聞くと「ちょっと危ない気がする」なんて言われてしまう。地場工務店もwallstatを使えば、大手ビルダーと五分に戦えるのですが……。とにかく、工務店の耐震への関心の低さをどうにかしていきたいですね。

中川氏 ● そのため、栄さんにはずいぶん全国を回っていただきました。

栄 ● はい、セミナーもいろいろやりましたが、普及促進の観点からいうと、wallstatとCEDXM合同の、それも建材業者さんと連携したセミナーが最も効果的だと感じます。wallstatの実力を発揮させるには、やはりその建材メーカーや金物メーカー、制震メーカー等の製品の性能を正しく把握することが重要なので、耐震系メーカーに協力してもらって定期的に開催しています。まだまだ数が少ないので来期はそこを重点的に動きたいと考えています。

福井コンピュータアーキテクト株式会社 栄 裕一

中川氏 ● 周知の不足もあって、メーカーにはまだまだ十分理解されてない状況ですね。どこかトップランナーの建材メーカー等が選んでくれれば一番理想的なのですが……。とにかく耐震関連製品の開発成果をきちんと評価できるのがwallstatの一番のメリット。「良いモノを開発すれば、それだけ耐震性能が向上する」ということをダイレクトに見せられる強みを伝えたいですね。それと、実は普及に関して、私は福井コンピュータアーキテクトはじめCADベンダーにも大いに期待しているんです。CADベンダーはwallstatがターゲットとするユーザー層の最も近くにいるわけですから、たとえば、自社製品の紹介にwallstatの活用メリットなどを盛り込んでもらえれば、それだけですごく効果が出るはずだと思っています。藤澤先生もCADベンダーへの期待がおありなのでは?

藤澤氏 ● そうですね。やはり意匠CADとwallstatをどう繋げるか――継ぎ所に関する課題と、プレカットCADとどう連携するかという課題について、いっそう検討を進めていって欲しいと思っています。もう少しwallstatの具体的な活用場面をいろいろと想定してもらって……。たとえば基本計画段階でのチェックとか、プレカットの加工契約段階で使うとか。さらに先に行けば確認申請を出す前に使うのもありでしょう。自己点検みたいな形でね。活用場面は他にもいろいろあると思うので、それぞれの活用への上手いきっかけが生まれるように、それらの繋がりがもっと見えてくれば、より多くの人に使ってもらえるのではないでしょうか。とにかく、まだまだこれからですよ。

※役職等は取材時(2020年1月)のものです。

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【対談:耐震性能見える化協会 × シーデクセマ評議会】

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■一般社団法人 耐震性能見える化協会

代表者
代表理事 中川貴文
設立
2019年
目的
耐震性能シミュレーションソフト「wallstat」を、よりいっそう安全な家づくりに資するソフトとするため普及促進及び開発強化
ホームページ
https://wallstat.jp/

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■特定非営利活動法人 シーデクセマ評議会

代表者
理事長 藤澤好一
設立
2003年
目的
建築意匠CADとプレカット生産CAMの相互データ連携のための標準ファイルフォーマット「CEDXM」の維持管理と更新、普及にむけた開発とサポート活動
ホームページ
http://cedxm.com/

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