長年にわたるデジタル運用の知見を基にBIMを導入
(株)宮本設計は、兵庫県宝塚市に本拠を置き、2020年に創立75 周年を迎えた長い歴史をもつ建築士事務所だ。
現在、在籍所員は50名を数える。「半世紀ほど前のオリベッティ社の構造計算用コンピュータ導入に始まり随分と授業料を払った」(宮本博司氏:(株)宮本工務設計事務所HD代表取締役)と語るように、他社に先駆け2 次元CAD を導入し3次元CADの運用にも挑戦してきた。それら設計のデジタル化の知見と経験を基にBIMの本格導入に踏み切った。
BIMによる見える化は合意形成に多大な効果を発揮
福井コンピュータアーキテクト主宰のJ-BIM研究会で発表した実際の設計案件へのBIMソフト「GLOOBE」の援用事例を報告する。対象建物は、延面積1,640.96㎡・鉄骨造5階建ての商業施設(銀行・事務所)で、「BIMソフトを用いて計画から実施設計まで建築意匠課の設計者3 名で共同設計した」(加古豊氏: 建築意匠課)ものである。
計画段階においては、BIMソフトによる3次元パースが威力を発揮し、設計者間でイメージをより具体的に共有できた。特にテクスチャを変更した複数のバリエーションを作成できるなど、3次元パースによる情報の見える化は、建築の専門家同士においても図面でのすり合わせを遥かに超えて設計意図の共有が可能となり、さらに建築の素人である「クライアントとの合意形成にも多大な効果を発揮した」。(加古氏)
情報の見える化は設計行為そのものの確度向上、効率化にも貢献した。合意形成の前倒しが可能になるため、変更、訂正作業の減少による工期短縮が実現する。変更は全て3次元建物モデル上で行うため、平面・立面・断面図間の不整合を回避でき、変更に対しても速やかに対応できる。
計画段階での3次元パースはイメージの共有だけでなく、特に開口部の位置決定、サイズ検討に威力を発揮した。
2次元図面に関しては、BIM ソフトによる3次元建物モデルから基本図レベルだけでなく、平面詳細図から断面詳細図レベルまで作成、出力が可能となった。
それらは全て、計画から実施設計まで設計者間で同一ファイルを共有することにより可能となる。可用性、流通性に優れるデジタル情報ならではのメリットだ。
【会誌「日事連」2020年11月号より転載】