フルBIMの大目標から身近な業務でのBIM活用へ。小さな積み重ねで少しずつ着実にBIM化を推進
大阪市に本社を置くコーナン建設は、関西圏と首都圏をベースに全国へ展開する総合建設会社である。1948年創業当初は公共工事主体に展開していたが、徐々に民間工事へもフィールドを拡大。時代のトレンドを読み、公共/民間のバランスを取りながら着実な成長を続け、現在は特に医療福祉関連から製薬工場などの建築工事に注力している。また早くから自社設計施工体制を確立し、コーナン建設の設計施工一貫システム:ONE-DIRECT-Packageにより、企画提案から設計、施工、アフターケア、そしてリニューアルまでトータルサービスを提供。近年はこの特徴を生かして、BIMの導入にも積極的な取り組みを推進している。ここでは、同社のBIM普及活動の中心となっている、設計本部長の吉原鋭二氏とBIM推進室次長の富樫誠氏にBIM普及活動の詳細についてお話を伺った。
フルBIMを目指す「大きな話」から方向転換
「もちろんそれまでも社員が個別に研究を進めていましたが、会社がBIMの導入に関して本格的に動き始めたのは、今から5年前──2015年のことでした」。コーナン建設のBIM戦略を主導している、設計本部 BIM推進室の富樫誠氏はそう語る。富樫氏によれば、それはトップの号令により設けられた、BIM推進室の活動から始まった。まず社内各設計部や工務企画部、積算部等の関連部署から担当部員が集められ、全社横断的なBIM推進会議的な集まりとして議論を進めたのである。そこでは“BIMとはどんなものなのか?”、そして、各部門それぞれ“BIMを活用して何ができるのか?”といったテーマで協議を重ね、さらに勉強会を積極的に開催するなどしながらBIMへの理解を深めていった。
「こうした議論をベースに、私たちはBIMを導入し活用していくための5カ年計画を立てました。当時のことで仕方がなかったのですが、これがどうにもBIM万能との期待が大きすぎた内容でした」。そう語るのは、当時からBIM導入活動を牽引してきた設計本部長の吉原鋭二氏である。吉原氏によると、その5カ年計画の内容は、BIMにより企画、設計、施工からFMまで一貫したデータで実現しようというもの。当時、業界でよく目にしたフルBIMの流れを、そのまま実現しようという計画だったのである。「当初はCADベンダーや業界ニュースが情報源だったこともあり、会議メンバーの多くが“BIMさえ入れればなんでもできる!”風の非常に大きな期待を持っていたのです」(富樫氏)。だが、実際の導入活動を進めるうち、BIMは有効だが万能ではないことに誰もが気付き始める。そして、最終的には実現できるとしても、フルBIMの実現はひと筋縄では行かない、と痛感したのである。
「目標を大きく掲げて数年間も頑張りましたが、その困難さに気付いて、ここ数年は徐々に軌道修正を図り始めたところです」。そう言って富樫氏は苦笑いを浮かべた。BIM推進室では、あらためてBIMの活用に関し、実務のどのようなシーンでどんな風に使えば本当に効果的なのか、問い直したのだと言う。「つまり、トータルに繋げるフルBIMという“大きな話”ではなく、身近で日常的な業務でのBIM活用という“小さな話”から具体化を進め、まずはその分野に注力すべく自社の設計施工案件で少しずつ活用する。小さな成功事例を積み重ねることでBIMを少しずつ浸透させ、“大きな話”を視野に入れながら広げていく、という方向に収斂していきました」(富樫氏)。このような大胆な発想の転換にもかかわらず、同社ではBIM業務に使うメインツールについては当初から一貫して同じ製品を使い続けている。GLOOBEとJ-BIM施工図CADである。
馴染みやすく使いやすいBIMソフト
「BIMソフトについては、BIM推進室の活動開始とほぼ同時期に製品選定を行い、特に設計についてはその年のうちにGLOOBEの導入を決めました。私は製品選定そのものには関わっていませんが、GLOOBEに触り始めた人間が“わりと扱いやすい”と語っていたのは覚えています」。そんな風に語る富樫氏自身は、当時初めて使い始めたGLOOBEについて、同様な感想を感じたという。「他社の競合製品も画面等は見ましたが、海外製ということもあり、どうしても敷居が高く感じてしまうんですね。それに比べGLOOBEは、見た目通り直感的に使いやすいな、という印象があったのです」。そんな富樫氏の言葉に吉原氏も頷く。「GLOOBEのコマンドは日本語だし、建築基準法など法規的な面も日本のそれに準拠している。こうしたことから馴染みやすく・使いやすいCADになっているのです。コストの問題も含め、手っ取り早く始めやすかったんだと思います」(吉原氏)。
そうして導入したGLOOBE普及のため、BIM推進室では、福井コンピュータアーキテクトが提供するセミナー等を利用し、まず設計部の若手社員を対象に操作教育を開始した。並行して派遣会社を通じGLOOBE担当のオペレータを招聘するなど、BIM推進室自身でBIMモデルを作成していくための体制づくりを推進。施工中の設計施工案件の2D図面を3D化する練習も積極的に行っていった。そして2016年、いよいよ実案件におけるBIM運用への挑戦が開始された。
「とはいえ、いきなり大規模物件というのはハードルが高いので、手頃な物件を探してチャレンジすることにしました。たしか鉄骨造2階建てのオフィスビルでした」(富樫氏)。この最初のBIM案件はコンペティションだったため、富樫氏らのBIMチャレンジは3Dモデルとそのモデルから作る動画等のプレゼンテーション資料の制作が中心となった。「派遣のオペレーターを中心に制作したのですが、この動画によるプレゼンが非常に好評で、上手くコンペに勝つことができました。当時はまだ競合各社が動画まで手を出していなかったんですね。施主に非常に強い印象を与えられたのです」(吉原氏)。ところが、この成功をきっかけにまたしても同社のBIM戦略に大きな課題が立ちはだかる。
プレゼン資料作成で上げた大きな成果
「この時のコンペ勝利が契機となって、BIMで制作した動画などのプレゼン資料が“非常に効果的だった”と全社的な評判になりました。そして、社内のいろんな部署から“ちょっと動画を作ってよ”と盛んに声がかかるようになったのです」。そう語る吉原氏によれば、この時、動画とともに非常に効果的かつ好評だったのが、高品質でリアルなウォークスルーが行える「ARCHITREND リアルウォーカー」を用いた提案だった。特にウォークスルーで室内を歩いていてドアを開けると、“ガチャッ!”とリアルな音が聞こえることに驚いたお客様が、ウォークスルーを操作しながら夢中で発する「凄いなぁ!」という感嘆の声を耳にすることもしばしばだったと言う。
「そんな調子で2016年はプレゼン主体に2~3件のBIM案件を処理しましたが、制作には時間がかかってしまい、なかなか多くの依頼に応えきれない状況でした」(吉原氏)。それでも、そうして各部門のニーズに応えていくうちに、社内では徐々に「BIMは設計が使って効果的なプレゼン資料を作るもの」という、偏ったイメージが広まってしまったのである。プレゼン資料の制作に大きく時間を奪われたばかりでなく、結果として他部門や施工現場へのBIM普及の流れが停まってしまったことは、富樫氏らBIM推進室にとっても大きな計算違いだった。「結局、評判が良かったために“BIMは設計部に任せておけば良い”という風潮が広がり、しかも、BIMは動画作りのためのものというイメージばかりが前面に出てしまったのです」(吉原氏)。
この誤ったイメージを打ち破り、全社にBIMの本質を定着させていくには大変な手間がかかった。吉原氏、富樫氏らは、各部門の会合など事あるごとに足を運び、「BIMのなんたるか」を説いて回ったのである。むろんその間も従来通り各部署の依頼に応えてBIMモデルを作り、動画やウォークスルーを制作しながらの取り組みとなる。「最近ようやくBIMの本質への理解も進んできましたが、まだまだ完全とはいえません。啓蒙活動は続けていく必要があるし、プレゼン資料の制作も継続していきます。次の課題は数量積算との連携ですね」。──そして、もう一つの課題は施工BIMの展開だ、と富樫氏は言葉を続ける。J-BIM施工図CADを核に、施工部門でのBIMの本格的な運用を押し進めていこうというのである。
J-BIM施工図CADの操作教育を推進
「J-BIM施工図CADはきわめて強力なツールで、我々としてもこのソフトの現場への普及を強く押し進めています。2年前からですが、施工部門の、特に入社5年目くらいまでの若手を対象とするJ-BIM施工図CADの操作教育に力を入れています」。そう語る富樫氏によれば、教育を開始した初年度は、現場の技術者全員を集めてJ-BIM施工図CADの紹介と活用法について説明するやり方だったが、2年目からは、月に1度のペースで「今月は入社○年目の技術者」という形で対象を少人数に絞り、簡単なモデル作りから始まる実践的な操作教育を行っている。さらに3年目となる今年は、練習用モデルではなく当社の実案件を取り上げ、これをBIMモデル化し躯体図の体裁に仕上げる所まで実践させている。少しずつだが、着実にレベルアップしてもらうことを目指しているのである。
「受講した若手技術者の多くは、施工BIMにかなり強い関心を持ってくれていると感じます。J-BIM施工図CADについても“とても便利だ”と言っていますね」。たとえば……と富樫氏は言葉を続ける。J-BIM施工図CADの機能により、コンクリート数量をきわめて容易に算出することができるが、若い現場技術者の多くがこのコンクリート数量の算出に苦労しているため、その機能を知ると、それだけで大きな感銘を受けるのだという。「それまで2次元CADしか触ったことがなかった者も多く、J-BIM施工図CADでの3Dモデル作りで苦労する者も少なくありません。しかし、BIMでこんなに簡単にさまざまなシミュレーションができると知れば、“現場が始まったらぜひ使いたい!”“難しくても身に付けたい!”という思いで積極的にチャレンジするようになるんですよ」
(富樫氏)。
「痒い所」に手が届く GLOOBE Construction
このように幾つか回り道をしながらも、いまやコーナン建設は着実に全社におけるBIM活用を本格化させつつある。同社のBIM導入現場はすでに関西圏関東圏を含めて20現場以上に達し、今年からは自社設計施工全案件において何らかの形でBIM活用することを決めた。「昨今、建設業界で“働き方改革”が話題となっていますが、当社も同様で、特にBIMの活用を核とする働き方改革を推進しています。当初はBIMと働き方の結びつきを伝えるのに手間取りましたが、トップの積極的な支援もあり、現在は順調に進んでいます。その意味で当社の本格的な現場でのBIM活用は、これからなんですよ」(吉原氏)。
最後に、間もなくリリースされるGLOOBEの最新版 GLOOBE2021のデモを富樫氏にご覧いただいた。そして、特に新ラインナップとして登場したGLOOBE Constructionについて伺ってみた。従来のGLOOBEが意匠設計用の設計支援を中心とするGLOOBE Architect に改称・進化したのに対し、Constructionは仮設・土工計画を支援し安全と効率をBIMモデルで徹底追及する、施工現場向けのGLOOBEとなる。
「仮設・土工計画に関わる機能が搭載されたGLOOBE Constructionの方向性は、まさに私たちが待ち望んでいたものと言えます。少しだけ触らせてもらいましたが、掘削土量の算出も非常に楽ですね。モデルを作れば、いちいち操作するまでもなく即座に切土・盛土の土量数値が出る。まさに“現場の痒い所に手が届く”製品だと感じましたね。当社のBIMの流れにもはまってくれそうですし、大いに期待したいです」。
取材:2020年12月