施工図作成のプロが多彩なBIMツールを駆使。BIMスペシャリストとして多彩なBIM現場を支援
東京都に本社を置くアイテックは、施工図や実施設計図、仮設計画図、そしてBIMに至る多様な建築図面作成に特化したプロ集団。90名余の技術者を擁し、2021年に創業30周年を迎えるなど、斯界屈指の実績と技術力、組織力を誇っている。それだけに新技術の導入にも熱心で、2013年にはいち早くBIM運用を開始。ニーズに応じCADメーカー各社の代表的BIMツールを使い分け、各種BIMモデルの作成からBIMモデルを活かした多様な図面作り、顧客のBIM推進室の立上げ支援まで、BIMに関わる多様な業務を展開している。GLOOBEとJ-BIM施工図CADのヘビーユーザーでもある同社に、代表取締役の木村雄一氏と生産設計部のプロジェクトリーダー 佐々司郎氏をお訪ねし、同社のBIMに関わる取り組みの詳細について伺ってみた。
施工図作成に特化したプロ集団
「2021年に創立30周年を迎える当社では、その設立当初から施工図、仮設計画図、実施設計などの作成を主業としてきました。現在の社員数はおよそ90名ほど。うち半分ほどはお客様であるゼネコン各社の工事現場へ出向して施工図制作を担当し、残り半分のスタッフは本社内で、2D図面やBIMモデルを制作しております」。同社を率いる木村雄一社長はそう語る。「いわゆるBIM元年とされている2009年頃から、私は“BIMってなんだろう?”という強い興味を感じ、少しずつ情報収集を始めていました。それを4~5年続けた頃、ある長年のお客様であるゼネコンからのお誘いもあって、GLOOBEとJ-BIM施工図CADの導入を決めたのです」。そうして、木村氏はさらに言葉を続けていく。
「弊社が請け負う仕事は、基本的にゼネコンや設計事務所からご依頼いただくものが全てです。プロとしてお受けする以上、それがどんな内容であっても、後追いで“できる・できない”を議論していては間に合いません。だから業界の“次に来るモノ”については、お客様に先んじてトライし、確かめておく必要があるわけです。どうなるか分からないけれども、体制だけは整えておこうと考えておりました」。もちろん、BIMツールに関しても同様で、市場にある各社のBIM製品は、ひと通り全て試しておかなければならなかった。そこで、GLOOBE、J-BIM施工図CADとほぼ同時期に他社製品も複数を導入し、それぞれの研究を進めていったのである。──せっかくの機会なので、それら他社製品と福井コンピュータアーキテクト製品の違いについても伺ってみよう。
日本の図面表現を意識して作られたソフト
「私たちにとってGLOOBEの一番の特徴は、カスタマイズ性が凄く高いことですね。たとえば日本の建具の枠形状など、細かい所の表現がとてもしやすいんです。国産だけに日本の図面表現を意識して開発されたソフトだ、と感じます」。そんな木村氏の言葉に、同社でBIM関連業務を担当している佐々氏も頷く。
「実際、多くのお客様がBIM運用を本格化しており、“BIMを何に使うか”ある程度方向づけし、その業務に特化したテンプレートを自作するケースが増えています。そうなるとカスタマイズしやすいGLOOBEがやはり便利なのです」。
たとえば建具納まりや軒先の断面形状など、日本の建築ならではのディティールをGLOOBEは自由かつ高精度で作成できる。そして、そのディティールは3Dでも図面でも正確に表現されるのである。「また、ホテルやタワーマンションなど基準階があってそこから同じ平面が上に続く建物の場合、GLOOBEは階複写機能を使えば何でも自動でどんどんやってくれるんですね。しかも、わざわざ別にアドインソフト等を用意しなくても、導入したままの状態ですぐにそういう機能が使える。そこがすごく良いと思います」。
こうして始まったアイテックのBIMチャレンジは、2014年に初のBIMプロジェクトへの参加を決め、本格的な運用が開始された。とはいえ、これもまたゼネコンや設計事務所のBIMとは大いに異なるアイテック独特の取り組みとなった。
「スタートはある大学施設の新築案件でした。受注したゼネコンがGLOOBEとJ-BIM施工図CADで進めるということで、当社に施工図作成の声がかかりました」。
BIMチャレンジ第一弾の初仕事で、いきなり施工図モデルを作り図面を描くなど、他では聞いたこともないケースである。だが、何といってもアイテックは施工図制作が本業の会社であり、木村氏らは特段の疑問も抱かずにこのミッションに取り組んだ。そして、実務では初めて使うGLOOBEとJ-BIM施工図CADを駆使してBIMモデルを作成。平面詳細図などの施工図面を仕上げていった。もちろん初挑戦だけに多少の試行錯誤はあったが、最終的にこれをクリアして、同社は確実にBIM導入への第一歩を踏み出したのである。
BIMに関わる何にでも対応していきたい
「現在では企画設計段階から基本設計、実施設計、施工まで、ご要望に応じてプロジェクト各段階のBIMモデルを作成し、さまざまな図面を作るようになっています。一番割合が多いのは、施工検討用モデルの作成になります」と木村氏は言う。つまり、施工に取りかかる際、施工図作成の前段階で3Dモデルを作成し、これを用いて納まりの不具合や意匠・構造・設備三者の不整合をチェックしていくわけだ。アイテックでは世間一般のBIMオペレーター等とは異なり、施工図や仮設計画図のプロフェッショナルがBIMソフトを扱っている。たとえば各種納まりの検討など、お客様の現場業務に一歩も二歩も踏み込んだ「深い」支援サービスを提供できるのである。
「言わばフロントローディング的な3Dモデル制作と言えるでしょうか。実際、最近はBIMソフトで施工図を作成していく一方で、お客様が行っている干渉確認会議に関わる実務作業の支援等の仕事も増えましたし、時にはお客様が新たにBIM推進室的な部署を創設するのにあたって、さまざまなお手伝いも行うようになりました」。前述の通りパース用のモデルから施工図用モデルまで、あらゆるBIMモデル制作を一手に引き受け、GLOOBE、J-BIM施工図CADを始め、多くのBIMソフトに柔軟に対応できる同社は、いまやオールマイティのBIM活用現場スペシャリストと見なされつつある。
「設計事務所、ゼネコンなどのお客様から、様々なBIMのご依頼を頂くたび、新たなチャレンジとして取り組み、お客様と共に成長したいと考えております」と佐々氏は言う。そうやって得た各社のさまざまなBIMノウハウを、アイテックは日々確実に蓄積し続けている。そうしていくことにより、「広く・浅く」ではあるけれど、同社独自のBIMナレッジ体系を築こうとしているのだ。
「先日、ある会社を初めてお訪ねしたのですが、そこで先方から“BIMで何をやっているの?”と訊かれ、“言われれば何でもやります”とお答えしました。もちろん大手ゼネコンの取り組みには及びませんが、私たちにできる限りのことは何でもやりたいし、やれるようになりたい。いまはそんな風に考えています」。
そう語る木村氏は、BIMに関わる新技術を活かした「BIM戦略の次の一手」についても、すでに構想し始めているようだ。──それは、FM分野や3Dレーザースキャンへ向けての展開だと言う。
BIMから派生した新規事業の開拓へ
「少子高齢化へ向かっている日本においては、やはり新築ばかりでなく、既存の建物をいかに活用していくかが1つの重要な命題と考えております。そこで、注目しているのが、FM分野におけるBIMの活用なのです」。そう語る木村氏自身の元にも、最近は実際に建築物の維持管理フェーズに関わるBIM関連業務の依頼が到来し始めている。
また、既存の建物を3Dレーザースキャンで点群撮影し、そこから3Dモデルを起こして改修設計や維持管理に活かしていく流れとなる。施工図作成業務の性質上、同社ではどうしてもターゲットが新築主体になりがちだが、それだけに既築物件を対象とするこの分野への期待は非常に大きい。
「これまでは情報収集を中心に動いてきましたが、いよいよお客様から点群データをいただきモデル作成の実作業も開始しております。業務の幅を広げるための新たなチャレンジですね」(木村氏)。
これからBIMへ取り組む人たちへ
最後にこれからBIMに挑戦しようという人たちへ向けて、一言ずつアドバイスをいただいた。
「ゼネコンが新たにBIMを導入する上で、まずやってほしいのが現場へのビューワの普及・浸透です。2D図面で苦労して建物形状を読み解こうとするくらいなら、ビューワで3Dモデルをくるくる回して見た方が断然早く、容易に分かるはずです。監督と職人さんでそれをやれば共通理解も進むし、職人ならではの気付きもあるはず。BIMのメリットを素直に感じられて、きっと普及もどんどん進みますよ」(佐々氏)。
「BIMの話を聞いていると、何でもできそうな気がすると思います。結果、初挑戦なのについ、フルBIMでモデルから図面から全部やろう!なんて思ってしまいがちですが、これはあまりお勧めできません。BIMにできることと自社の仕事の流れを考え、上手くBIMを活かして効果を出せそうな所から始めると良いのではないでしょうか。たとえば基本設計段階なら、平・立・断の図面作成やパース、動画、さらにはVRなど、多様なビジュアライゼーションを活かしたプレゼンテーションなど。また、施工段階であれば、足場、揚重計画やデジタルモックアップ、BIM総合図、干渉確認などが有効ではないかと考えております」(木村氏)。
取材:2020年12月