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建築と土木の2本柱で成長中の地域ゼネコンがBIM/CIMの2本立てで3D化にチャレンジ開始

香川県坂出市に本社を置くサカケン株式会社は、2021年に創業100周年を迎える総合建設会社である。創業当初は地域密着型の土木工事会社として、道路・河川等の公共工事を中心に地域のインフラ整備を担ってきたが、その後、建築分野へもフィールドを拡大。民間事業を主体にさまざまな建築を手がけ、現在では建築・土木の2本柱を擁する総合建設会社として地域の発展を支援し続けている。そんな同社は技術面でも地域の建設土木業界をリードする存在であり、2019年より、生産性向上を目指す新たな取り組みの一つとしてBIM(建築分野)/CIM(土木分野)双方の本格的な導入と活用を開始した。ここでは特にGLOOBEとJ-BIM施工図CADを中心に進めるBIM(建築分野)の取り組みについて、社長の綾 崇平氏と土木部部長の合田史郎氏にお話を伺った。

生産性向上を目指す全社的取り組み

 「当社が生産性向上を目指す全社的な取り組みを開始したのは、2020年1月のことです。そのためのさまざまな取り組みの一環として、まず、3D推進室を立上げ、BIM/CIMのためのソフトやパソコンの導入検討を開始しました」。企業トップとしてサカケンを率いる綾 崇平氏はそう語る。綾氏によれば、この取り組みのきっかけは土木部の部長を務める合田史郎氏との会話だった。「前年(2019年)の暮れに2人で生産性向上のための施策について相談し、“取り組みの一つとして3D化を進めよう”と決めました。私自身、国や同業他社との意見交換、またCADベンダーのイベント等を通じ、3D化へ向かう現場の流れを強く感じていました。その思いは、土木の現場経験が長く国交省の現場を知る合田部長も同じだったのです」。綾社長の言葉に合田部長もうなずく。
 「国交省の現場を進めていると、たびたび3DやICTに触れることになります。実際、発注者から“ICTをしないか?”と聞かれることが増え、気になっていました」。しかし、この地域の現場は施工規模が小さく、ICTを使う機会は少なかった。「ICTを使いたくても使えない、モヤモヤする気持ちが溜まっていました。だから、社長から3D化への取り組みを伺い、すぐに賛成しました」(合田氏)。
 この生産性向上の全社的取り組みが始まった背景の一つとして、綾氏が上げたのが、2019年4月に関連法案が施行された「働き方改革」の流れである。
 「働き方改革を国が本格的に押し進めるよう生産性向上を目指す全社的取り組みになると、民間工事の現場も生産性の低下が避けられません」と綾氏は懸念する。完全週休2日を実現すれば単純計算で2割程度は生産が落ちることになるから、そのぶん会社全体の生産性を向上させる必要があると言うのだ。「では、どうやって生産性の向上を図れば良いのでしょうか? 手がかりを求めて、さまざまな新技術を調べたり、実際に触れてみたりしていたのです」。
そして、前述の通り国交省の現場経験を通じICTの実現を模索していた合田部長と意見が一致したのである。
 「同業の取り組み状況など詳しく調べていませんが、BIMもCIMもこの地域をリードしながら進めていくつもりです。それが一つの目標でしたし、こうした全社的取り組みで社内が一致団結し社員間のコミュニケーションも向上するはずです。さらに3D化により若い技術者の理解が深まれば、より楽しくモノ作りができるでしょう。無論リスクもありますが、この場合メリットの方が大きいと私は考えました」(綾氏)。

あくまで現場で使えるBIMツールを

 「生産性向上を目指すBIM/CIMのアクションは、前述の通り3D推進室の立上げから始めました。建築土木同時に進める取り組みなのでメンバーも建築・土木双方から招集し、ヘッドに合田部長に就いてもらったのです」(綾氏)。具体的には建築系から2名、設計部門から1名、そして土木系から1名の計4名をメンバーとした。ゼネコン等でBIM推進室的な部署を設ける場合、社員スタッフとは別にBIMソフトへの入力を担当するオペレーターを配置する企業も多いが、合田氏によれば「会社としての地力を上げたい」との狙いから、全て社員技術者で行ったのである。
 「3D推進室メンバー4人の内の3人は女性で、あえて現場経験の浅い若手に担当してもらいました。当初は2Dでも施工図を描ききれないレベルでしたが、いっそ白紙の状態で一から育ってもらおう、と考えたのです」。当然、若い3人はBIM/CIMへの取り組みと共に、現場のことや施工図の書き方について先輩に度々質問することになる。「結果、質問された先輩たちに3Dへ興味をもってもらうことも狙いの一つでした」(合田氏)。
 こうして集められた4人によって、BIM/CIMツールの選定が開始された。特にBIMソフトに関しては、この分野を代表する3社の製品を比較・検討していったと言う。
「大阪までデモを見に行ったり実際に各製品に触れてみたり、さまざまな観点から検証していきました。特に施工図作成に関する汎用性や運用しやすさについて、かなり厳しく検討しましたね。結局のところ、BIMソフトに関してはGLOOBEとJ-BIM施工図CADに落ちつきました」。そう語る合田氏に福井コンピュータアーキテクト製品を選んだ理由を聞くと、いかにも同社らしい言葉が返ってきた。
 「社長と私、そして3D推進室のメンバーが一致して求めていたのは、あくまで現場で活用できるBIMツールでした。パースやムービーも大切ですが、それ以上に後々仮設計画や施工図作成に使えるもの、将来的に土木系のソフトとも併用できるものを求めていました。となれば選択肢は絞られます」。実際、この時サカケンは、GLOOBE、J-BIM施工図CADと共に、グループ会社である福井コンピュータの土木系ソフト、TREND-COREとTREND-POINTも導入している。
 「施工図が3Dで描けるといっても、正直どこまでどんな形で描けるのか分からなかったし、平面詳細図をどんな風に3Dで描くのか不安もありました。でも、お客様に見せるためだけの3Dでは意味がありません。とにかく現場で若手がこれを使って施工図等を描くことで、初めて目的である生産性向上に繋がると考えたのです」(綾氏)。

3D推進室

2D/3Dを並行して実案件を進行

 こうして初めて扱うBIMツールを、それも複数一気に導入した3D推進室だったが、さすがにいきなりそれらを実案件で運用するわけにはいかない。まずは3D推進室メンバー自身が、それらBIMツールの操作に習熟する必要があったのである。そこで最初は練習期間として、同社がこれまでやってきた過去物件をGLOOBEとJ-BIM施工図CADで3Dモデル化してみよう、という話になった。すぐに建築系+設計系のメンバー3人は、サカケンの過去物件から適当なものを選び、BIMモデル化に取り掛かったのである。
 「ところが、作業を開始して3カ月ほど経ち、操作にも慣れてきた頃、メンバーの間から意外な声が出てきました。“せっかく3Dモデル化するのに、実際には使えない過去物件ばかりじゃもったいない”と。まあ、その通りなので(笑)、進行中の過去物件と並行して新規物件も進めることにしたのです」(合田氏)。もちろん急な話であり、仮にここでBIMモデルを作りあげても、それをストレートに現場に反映できるとも言いきれない。「それでも3D推進室のスキル向上には大いに役立つだろう」と合田氏らは判断したのである。──こうして、予想外の早さで同社初の実案件のBIMプロジェクトが動き始めることになった。GLOOBE・J-BIM施工図CADの導入から数えて3カ月目のことである。
 「最初にGLOOBEで作った新規案件のプロジェクトは、坂出市内の工場施設案件でした。工場の建屋と事務所ですね。念のため、現場では通常どおり2D CADで設計を進めさせ、並行してGLOOBEとJ-BIM施工図CADで3Dモデルの制作を進めていきました」。つまり、現場では使い慣れたJw_cadによる図面ベースの進行とし、同時に3D推進室で同案件の3Dモデルを作っていったのである。そして、現場とは途中で何度も意見交換しながら「こんなモノができました」「良かったら使ってみて下さい」と、3Dモデルを提供していった。「いきなり3Dモデルを渡されても上手く活用するのは難しかったようですが、これを機に私たちは新規物件を次々3Dモデル化していくようになったのです」(合田氏)。

某公共施設 外観イメージ及び平面詳細

某事務所 内観イメージ

新規物件はまずBIMで進めるよう検討

 最初のBIM案件から現在まで、約半年間で、3D推進室が3Dモデル化を実施したBIM案件は累計6件に達している。現在では、新規物件を受注した場合は、基本的にまずBIMで行っていく方向で検討・選定していくようになった。もちろん3D推進室のスタッフたちも、GLOOBEやJ-BIM施工図CADの操作に徐々に習熟し、さまざまに活用しながら生産性向上の取り組みを進めている。各スタッフに現時点での両ソフトに対する感想を語ってもらおう。
 「実は私は異業界からの転職者で、CADは使っていたものの建築が全く分からないまま配属され、最初とても大変でした。特にBIM導入前は上司に何度説明されても状況が分らず、なかなか図面作成に進めませんでした。ところがGLOOBEを使うと3Dで一目瞭然というか、建築の仕組みがすごく分りやすくて……。今ようやくスタート地点に立てた感じです」(建築部 Aさん)。
 「GLOOBEもJ-BIM施工図CADもとにかく機能が豊富なので、いろいろな使い方ができると感じますね。たとえば最近、変換ソフトで上手くいかなかった2D図面の変換がGLOOBEでスムーズにでき、非常に助かりました。もっとも現場での本格的な3Dデータ活用はこれからです。もっと現場の人たちがメリットを感じられるような使い方を考えたいですね」(建築部 Bさん)。
 「正直、まだまだGLOOBEとJ-BIM施工図CADの操作性の違いに戸惑うことも多く、十分使いこなせていない状況です。それでも、たとえばJ-BIM施工図CADは、基本プランさえ固まれば、施工図を描く上ですごく便利になるという印象があります。現状ではやはり2D/3Dの併用が現実的かもしれませんが、どんどん使い込んで早く習熟していきたいです」(設計部 Cさん)。

3D推進室

3D総合仮設図でキックオフミーティングを

 「もちろん3D推進室に配属される人員は限られていますし、全ての案件をBIM化することはできません。でも、私としては手強い物件こそどんどんBIMモデル化にチャレンジしていってほしいなと思っています」。若いスタッフたちの言葉を聞いていた綾社長は、そう言って笑顔になった。BIMを運用開始して約半年しか経っていないサカケンにとって、現在はまだまだ試行錯誤真っ最中のチャレンジ期間にほかならない──というのが綾氏の考えなのである。だからこそ、いまは特に具体的な目標など決めずにさまざまな方向へ積極的な挑戦を積み重ね、「BIMでどこまでできるのか」早くその限界値を探り当て、目標である生産性向上に結びつけていきたいのだという。
 「漠然としたBIM運用の理想を言えば、新規案件を受注したら3D推進室の方でどんどん3Dモデルを作って各現場へ供給し、後は現場の方で施工図の修正等も含めて細かい部分を直し仕上げていく──という流れになるでしょう」。行く行くはこうしたBIMの取り組みに協力業者も巻き込んで進めていきたい、と綾氏は言う。 
「たとえば、今まで現場が始まる前に2D図面を用いて社内だけで行っていたキックオフミーティングを近い将来には協力業者の人たちを交えて3D総合仮設図を用い、その場で3Dを使って仮設計画を“こういう風にしたら” “ああいう風にしたら”と皆で見直しながら、プロジェクトに係わる全員の合意形成を得るために、3Dを用いた「可視化」でのキックオフミーティングにしたいと思っています。その後に現場をスタートすれば、フロントローディングが実現され、生産性向上に繋がっていくでしょう。そうなれば、その後の工事もずいぶんスムーズに進められるのではないでしょうか。まだまだ先は長いのですが、このBIM/CIMの取り組みを、確実に生産性向上へ結び付けていきたいですね!」。

某公共施設 仮設計画

某公共施設 仮設計画

取材:2020年12月

綾 崇平サカケン株式会社
代表取締役社長

合田史郎サカケン株式会社
土木部
部長

サカケン株式会社

■代表者/代表取締役 綾 崇平
■本社所在地/香川県坂出市
■創業/ 1921 年1 月
■設立/ 1944 年5 月
■事業内容/土木建築工事請負、家屋賃貸、土地開発・宅地造成並びに不動産売買ほか

■使用ツール/GLOOBE・J-BIM施工図CAD・TREND-CORE・TREND-POINT
■BIM使用開始時期/2020年

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